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神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

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「心美人のメンタル・エステティック ~現代的ストレス解消とリラクセーションを考える~」



<第1部>

天候のよくない中、たくさんいらしてくださいまして、ありがとうございます。
私は、精神科の医者をしていまして、いわゆる精神病院というところで仕事をしているのですが、この仕事をしだして10年になります。
10年で世の中が変わったというのか、私が精神科医になったころの精神科というのは、医学部の中でもマイナ-な科でありました。ご存じの方も多いと思いますが、医学部というのは学生の間は選考がなく、6年間みんな同じ勉強をして、国家試験を受けて、その後に希望する内科とか外科とかを選ぶんです。

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「精神科を選ぶ」と母に言った時に「医学部を出て『どんなお仕事ですか』と人に聞かれた時に答えられないじゃないの、やめてちょうだい」と反対されるぐらい変わった職業と特殊な目で見られていたんですが、10年経って、昼の日中から大勢の人の前で心の話ができるようになったということは、いいことだと思う反面、逆に今「心が健康だ」と思っている人にも求められるぐらい「何か心か不安定になるかもしれない」という漠然とした予感というか直感というものを、多くの人が感じ始めているのではないかと思います。

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今年のできごとの中から

年末が近づいてきましたが、今年を振り返ってみるといろいろなできごとがありました。
最近では、経済が混乱して、安全だと思われていた銀行とか証券会社が倒産したりして人の心を不安定にさせています。前半には、神戸の少年が起こした凶悪な犯罪で、こどもの持つ心の問題がクロ-ズアップされた年だと言えますし、また、女性の生き方を考えさせる事件が数多くあった年だと言えます。

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フェリシモという若い女性が求めている素敵なものやことを販売する会社のイメ-ジとして、若い女性が多いと思っていましたので、現代の若い女性たちに関係した話をして、それにつなげて、現代人が抱える心の問題についてお話していこうと思います。
しあわせなことではなくて、不幸なことに自分の人生をダブらせるということが、今年のこれらの事件から浮かび上がってきます。

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心がイガイガするのは……

昔は「美貌・富・名声・地位」があれば、それがしあわせであるとみんなが思っていたし、本人もそう感じていました。しかし、いまになって、そういう豊かさのある人たちがすべてしあわせであるとは言えない、何か物足りないと感じています。女性は今そういう立場に立っていると言えるんです。上はプリンセスから一般のOLというか私たちまで、世界中の女性が同じ問題を心に抱えている。
では「何を手に入れたら、何があればしあわせになれるのか? どうしたら充実した豊かな気持ちでいられるのか」私たちが突きつけられている問題に答えはありません。
しかし、私みたいな仕事をしていると、心にトゲトゲを抱えた人たちが相談に来ると「しあわせ」を邪魔しようとしている心の周りにあるイガイガが、何となくわかってきます。
そのトゲトゲを取り除けば後に「しあわせ」が残るんじゃないか? と思っています。
では、昔からの病気ではなく、現代の特徴的な病気などを紹介していきたいと思います。

1.バラバラである
心とからだがバラバラの人が多いんです。自分のからだに実感がない、自分のからだは目に見えるんだけれど、TVや映画で見ているような気がして、自分というものをロボットのように感じる。これを「離人症」と言うんですが、等身大のからだの感覚とか人間の速度を失いつつある現代特有の最近目立つ問題と言えます。
私は今日、新幹線で来たんですが、朝、東京でご飯を食べたのに、お昼に神戸でこうしてお話をしていることを当たり前のように思っていて、その間のとてつもない距離というものをいちいち実感しないで生きています。コンピュ-タ-のインタ-ネットで電子メ-ルを送ったりすると、遠い外国の人とリアルタイムで返事が来ると、隣の人とFAXのやりとりをするのと同じような感覚なので、実際の距離を感覚で受け止めて考えないという癖をつけてしまっています。そうしているうちに、自分のからだというイメ-ジがつかめなくなっていくのです。それを考えると援助交際をしている女の子などは、心とからだがバラバラ現象で自分は遠くでリモコンを持っていて、からだがトコトコ出かけていくという訴えをする子がいるんです。

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2.心身症
心に原因があるのに症状は体に出る。失恋して食欲がなくなるというようなことはよくあることなんですが、心とからだというのはくっついていると言えるんです。 本人に自覚がないのに突然胃が痛くなって食欲がなくなり、おなかが痛くなった。ストレスとかショックがあったはずなのに本人にはわからない。お医者さんに行って薬をもらって飲んでも治らない。他の病院へ行っても治らなくて診療内科にやって来る。実はストレスとか人間関係とか心に問題があるのに、自分がストレスを受けていて心が傷ついているということを見ないようにしているんです。
心身症になる人の特徴というのは、本人ががんばり屋とか几帳面であるということが挙げられます。だから「あなたは、心にストレスがかかっている」とこちらが説明しても「そんなことありません。仕事は楽しいし、毎日充実している」と、ストレスの状況に心が気がつかないので、からだがSOSを出すんです。
こんな人にはストレスを知って自覚してもらいます。「私は本当に疲れているんですね。」と本人がわかると7割方成功した、治ったと言えるんです。
ふだんから「ストレスが多くて困っちゃって……」と必要以上に言う方がいるんですが、そんな人の方が心身症にはなりにくいといえるんです。SOSのサインを心がキャッチできないという方が増えているんです。

3.ボディーイメ-ジが歪んでいる人が多い
自分のからだは自分のものなのですが、その知り方を間違っているんです。本当はそんなに太っていないのにブクブクに太っていると思ってしまう。普通の顔をしているのに自分は醜いと思い込む。太りすぎというのは今の女性には浸透していて、去年の厚生省の調査デ-タによると、過去40年間に男性はどの年代も平均して増えているんですが、女性の場合は40代50代は少しずつ増えており、20代は過去40年間減り続けているんです。40年前の方が体重が多かった。食糧事情のことを考えれば、体重が減っているということはダイエットに取り組んできたことの表れだといえます。90年以降の20代の平均体重は標準を割り込んで「やせ気味」になっている。もう少しで「やせすぎ」のエリアに入っていくところにあるんです。栄養学的に言えば糖尿病とか成人病にはなりにくいんだけれど、骨そしょう症とか出産低下とか妊娠困難になるんです。そして、スマ-トを通り越してガリガリになってもダイエットをやめることができないという人が拒食症になるんです。
そういう人に「自分の体の絵を描いてください」というと、二の腕をやたら太く描いたり、足のももをブヨンと描いたりするんです。そういう考えに取りつかれると目までおかしく なってイメージの歪みが生じて、実際の自分が見えなくなってしまうのです。
リフティング化粧品のメ-カ-の人と話すことがあったんですが、作る側としては40代~50代のために開発したんだけれど、いちばん買う年代は20代前半。ピチピチした肌の人たちが鏡を見てシミとかシワを見つけると、強烈なショックを受けてリフティング化粧品を買いに走る。メ-カ-側は、考えていた年齢のニ-ズとあまりに差があるのでびっくりしたと話していました。
顔を小さくする化粧品というのも、小顔でかわいいという人はいますが「この人顔が大きくてカワイソウ!」という人なんてめったにいないのに、いったん思い込むと肥大して大きく見えてしまうのです。
また、自分の顔が左右対称でなくズレてると思い込み、美容整形をする。普通の顔をしているのに、本人には耐えられなく醜く見えてしまう「あばたもえくぼ」とは見ないで、からだだけが離れてしまうんです。

4.しがみつき
携帯電話とかポケベルとか人と連絡するための道具が増えたのはいいんだけれど、いつも誰かと連絡をとっていないと不安になってしまう人が増えています。また、スケジュ-ル手帳が空いていると不安になってしまったりもします。
あるいは、パソコンのインタ-ネットの電子メ-ルに「あなた宛のメッセ-ジはありません」というのを見た時「世の中で私に用のある人はいないんじゃないか」と不安になる。
他人と連絡するツ-ルをひとつ手に入れると「これでいつでも連絡が取れる」と安心するんじゃなくて、常に連絡を取っていないと不安になる。コミュニケ-ションの道具が増えれば増えるほど不安が増えて、誰かにしがみつく。これは心理学の用語で「見捨てられ不安」といって人間が陥りやすい不安のパタ-ンなんです。
親しい友人ができたり、恋人ができたりすると、安心感が増すより「見捨てられたらどうしよう。恋人に嫌われたらどうしよう。」と不安になるのです。不安が強くなりすぎて、その人と落ち着いてすごすことができなくなる。「○○ちゃんの方がいいんでしょ?」と聞き、少しでも連絡がないと不安ですがりつきます。たまたまこの日はスケジュ-ルが空いているだけなのに、拡大解釈して裏の意味まで読んでしまうんです。

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5.飛び降り
ピンチになったら、やけっぱちになって極端な解決をとる。たまたまミスをしたとか友だち関係で嫌なことがあったとか、誰でもが毎日よくある「嫌なこと」が続いたときに、ひとつひとつ解決してクリアしていけばいいのに「これはもう会社を辞めるしかない」とか「もう死ぬしかない」と一気に解決したがるのです。
「飛び降り状態」の別のパタ-ンに「買い物依存症」というのがあります。対人関係や人間関係を解決しようとしないで突飛な行動をしてしまうことで片付けようとする。うさばらしとかストレス解消するためにバ-ゲンで買う、ケ-キを食べまくる。それを続けていると、どんな時でも別の行動でしかものごとの解決ができなくなるんです。

6.すり減り(燃えつきる)
いまの若い女性と言うのは基本的にはがんばり屋さんなんです。しあわせになりたい、いい女性になりたいとがんばるんです。昔は仕事をしている女性というのは男まさりということで、きれいにしなくてもよかったんですね。
私の小学校の先生で、365日同じジャ-ジを着ていた先生がいたんですが「女を捨てた人」と周りも思っていたんですが、いまは違うんです。仕事もして、女性らしく素敵にしているんです。周りも女性に対して要求するものが多くて、カタブツはだめ、お酒もカラオケもできてジョ-クも言える。休日は美術館にも行って、海外旅行をしているのも当たり前だと要求してくる。 主婦でも家事だけでなく趣味も持っていて、社会ともかかわっていないと手を抜いていると言われてしまうのです。度を超した努力に対しての報酬はあまりにも少ない。「何で私はこんなにがんばっているんだろう? 損をしているのでは?」と思いだす。でも「じゃあ、努力するのをやめてのんびりしてみるか!」とはならなくて、がんばることをやめないのです。
そのうちに疲れて「すり減った状態」になる。「休みなさい」と言っても、休むことに対する不安、恐怖感、罪の意識があって「とんでもない、ここで休んだら二度と取り返しがつかない」と感じて休めない。すり減った状態だと能率が下がって、いい結果が出ないので焦って休日まで出勤して追いつこうとして、ますます疲れてすり減っていくという悪循環ができてしまうのです。
そういう時こそ休まなければいけないのに、休みを取ることに対する不安・罪悪感は女性だけでなくて、多くの男性にも言えることなんです。
今まで話してきた「バラバラ」「心身症イメ-ジの歪み」「飛び降り」「しがみつき」、がんばりたい、しあわせになりたい、いいものを手に入れたいという中で「すり減った人」……。そういう人たちが診療内科を訪れてくるんです。
こういう話を聞いて別世界のできごとと思える人は「しあわせ」だと言えるんですが、だいたいの人は私にもあること、誰にでもあること、身近な人の中や家族の中にあることだと思えると思います。
心の問題は、一部の人や特殊な病気の人の問題ではなくなっています。普通の人から輝いている人たちまで、みんなに共通して平等にばらまかれて「みんなが同じように少しずつ悩みを抱えてしまっている」というのがいまの世の中だといえるんです。

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しあわせに暮らすために

では、どうすれば少しでも心のイガイガを取り除いてしあわせに暮らすことができるかというと、イガイガに取りつかれないようにするということなんですが まず「自分をありのままに受け止める」ということが大切なんです。
必要以上に自分を歪んで見ない、ありのままを認めるということが何よりも大切なことなんです。
「自分は素敵な人間だ」と思っている人は少ないんです。人は長所も短所もあり、ラッキ-もアンラッキ-もあるものです。いいところばかり見ると、心とからだがバラバラになってしまいます。いろいろな面があって、その全体が自分であるんだと受け入れていくことが大切になってきます。

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生活の中で体の能力とかサイズを考えずに移動したり、テクノロジ-の中で仕事をしたりしているということを忘れて、等身大のからだの感覚がどんなものかを味わうということを思い出すために、単純な遊びとか、スポ-ツとかをすることはよいことです。2時間走ってもこれぐらいしか走れないんだ、というようなからだの能力や感覚を確かめるようなことを時々してみたり、マッサ-ジをしてリラックスしたりするのもいいです。
また、空白の時間を楽しむようにすることも必要です。
私は、新しい道具が好きでコンピュ-タ-の電源を入れていないと不安になるんですが、それらのスイッチを全部オフにしてぼんやり楽しめるようになりたいなと思います。
空白の時間を楽しめるようになると、家族などと違う関係を確かめられるようになり、心が安定してくるんです。
ちょっとした目標を立ててその目的が達成されたなら充分に喜び、欲しいものが手に入ったならうれしがることも大切なことです。
私たちは、もっとやらなければいけないと、自らをすり減らしてしまっています。目的が達成された事の喜びを確認せずにすぐに次へ行こうとして、そのうちに何に向かって走 っているのかわからなくなってしまっているのです。
「私も、何かやればできるじゃん!」と自分で味わう時間を持つことが大切なんです。

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心の自然治癒力

人間、悩んだり傷ついたり失敗したりいろいろありますが、心にはちゃんと自分で治す力、自然治癒能力というのが備わっているんです。何か悩んでカウンセリングを受けに来た人に対して、カウンセラ-は特別なアドバイスをしたり指導をしたりはしないんです。ひたすらその人が持っている自然治癒力がうまく働くように手助けをするだけなんです。
心は自分で乗り越える力を持っていて、その傷のいやし方を知っているんです。心が病んだ状態では心の傷をいやすための本当の力が出てこないんです。いつもゆとりを持って、等身大の心を保てるようにしておけば問題があっても治せるんです。それには条件があって、すぐに治るということはなくて、時間がかかるんですね。
例えば失恋をした時とか愛情の対象を失ったという時、心が傷つくんですが、すぐに次の対象を求めてもだめなんです。「喪の作業」というプロセスを経て治っていくんです。 失恋した時、まず、愛情の相手がいなくなったことを「否定」するんです。「私は失恋なんかしていない」と、心が傷ついたことを否定します。
次に「絶望」する時期が来るんです。「私は、本当に失恋してしまったんだ……」と。
その次に「怒り」の時期が来ます。「なんで私が失恋するの!? 」と、急にいなくなった相手を責めるんです。
その後に本当の悲しみを「受け入れる」。心から悲しむのです。
そのプロセスを経てから、がんばっていこうと「希望・立ち直り」の時期が来るんです。
この「喪の作業」は誰の心にも備わっているんですが、時間がかかる作業なんです。心が「喪の作業」ができる時間を設けてあげて、心静かに「希望の時期」が来ることを信じて待つことです。これは言うのは簡単なんですがとても苦しい作業です。いくら回復すると言われても「苦しみを受け止める」というのは大変なことなんです。
お話することでその作業のつらさが少し軽くなるということがあります。傷ついた時は、身近な誰かに話すということが大切なんです。回りにそんな人がいない時には、カウンセラ-に手伝ってもらうということも大切なことなんです。
精神科とか神経科とかには行きにくいという方もいると思うんですが、必要な時に依存性とか中毒性のない薬もたくさんありますので、安全な薬の助けを借りながら、心を健康にしていくということが大切なんです。病気か健康かわからないとか、神経科とか精神科に行けばいいのかどうかわからない時は、わからないまま行けばいいんです。そこで、あなたの病気は内科に行く方がいいとか精神科の方がいいとか振り分けしていくんです。本当は街角にインフォメ-ション・センタ-みたいなものがあって、何科に行けばいいかを相談できるようになればいいなと私は思います。患者さんが何科で治療を受ければいいのかという道案内もしていますので、恐れたり怖がらずに相談に来てください。

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1998年、世紀末がやって来て、不安が目に見えない形で迫ってきたところに、さまざまな情報が氾濫して、たとえ自分が電源をオフにしても、いたる形でニュ-スが目や耳に入ってきてしまいます。その中で、落ち着いた気持ちで暮らすということはしにくくなってきていています。いたずらに時代のム-ドとか情報に自分の人生が躍らされてしまうということがないように、自分自身のあり方を受け入れていけば、他人のことも受け入れられるようになるし、自分を受け入れているという姿は、他人からも受け入れてもらえるようになっていくんです。何十億人という人がいても、私という人間はこの世の中でたったひとりしかいないんだし、自分ひとりの人生なんだから、自分にしかない足あとを残せるように生きるということが大切だと思います。そして、つまずいた時のお手伝いを私たち精神科医ができたらしあわせだと思います。

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Profile

香山 リカ(かやま リカ)さん<精神科医・作家>

香山 リカ(かやま リカ)さん
<精神科医・作家>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
1960年北海道生まれ。東京医科大学を卒業後、精神科医となる学生時代よりリカちゃん人形の本名をペンネ-ムにして、マスコミ等で活躍。診療と執筆、両方の活動を通して心の病について考える。また人間を取り巻く、社会、文化、メディアの様々な現象を分析する。
著書に『リカちゃんのサイコのお部屋』、『自転車旅行主義-真夜中の精神医学』、『眠れぬ森の美女たち』他多数。

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