神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

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「動物からのメッセージ~その一瞬をとらえる~」



<第1部>

岩合 光昭さんが五感にからだ全体を預けて
シャッターを切った作品90枚をご紹介します。

こんにちは。つい先日も事務所にお客さまが来られて、ネコ以外のファイルをご覧になって「岩合さんって野生動物の写真も撮るんですね」って言われました。逆に野生動物の写真を事務所に借りにこられたお客さまが、ネコ、イヌがメインのカレンダーなんかを置いていると「ネコもイヌもやっておられるんですね」って言って、何かネコ、イヌも撮るというと野生動物の方が、まるで神聖な、高貴なものように感じられているような……。僕としては、イヌもネコも野生動物も、まったく区別なく撮っています。と言うか、写真が好きですから、そういう区別なしに写真として撮っています。
僕がいちばん最初に撮ったのも、実はネコなんです。中学生か高校生か中学生の時かな。写真家の父の本棚においてあったイーラという女性の写真家が撮った写真集に、黒いネコが見開いた目でクローズアップで写ってたんです。その写真が非常に気に入ってて「自分もそういう写真を撮ってみたいなあ」と思って、自宅にいるネコを撮ってみたんですけど、そういうふうに写らないんですね。何でしょうかね、カメラが違ったのかもしれませんし。いまだったら、彼女と同じような写真が僕にも撮れるという自信があるんですけど。それを人は経験というのかもしれません。
僕が動物の写真を撮りながら心がけているのは「この動物は、こういう所でこうやって楽しく暮らしているんだとか生きているんだ」ということを見ていただきたいと思って写真を撮ってるし、ビデオも回しているんだと思うんです。だから道を横切るネコがメスかオスかっていうのでずいぶん違ってきますね。いまのオスはオスらしいとかメスらしいとか、いろいろなその見方があると思うんですよ。
今日スライドを見ていただいて、みなさんの動物に対する考え方が変わってきたら、それは僕の思うツボ。そういうふうに写真を見ていただきたく思っています。

(スライド)
柴犬と桜の花と富士山です。これは「ニッポンの犬」という本の表紙にしました。山梨県の河口湖の湖畔で撮りました。そこが富士山と桜の花を合わせて写真が撮れる、いちばんいいところなんです。僕の小淵沢の家をまだ暗い午前4時ごろ出発して5時過ぎごろに河口湖に着きました。そこで柴犬の持ち主の方と待ち合わせして、桜の木を探します。桜の木があると、なんと桜の木の根元、幹のところに、もう人が2~3人立ってるんです。その人たちはアマチュアカメラマンで、桜の木と富士山を合わせて写真を撮ろうという目的で、もう夜明け前から待っているんですね。そこに犬を連れて行ったもんですから、それはもう、ひんしゅくをかう以外の何ものでもないんです。それで、湖をくるくるまわって桜の木を探したんですけど、桜の木ごとにアマチュアのカメラマンくっついていまして、その数1000人以上いるんですよ。しかもその富士山の撮影するのは、夜明け前から2時間がいちばんいい光なんです。山の雪のところに陰影がつくんですね。それが8時半を過ぎると陰がなくなってしまうんです。僕たちも柴犬の写真も富士山らしく撮りたいですから、その2時間以内に撮らなきゃいけない。見つけた場所は、これ、坂の斜面に白くポツンと見えるのはガードレールなんです。そのガードレールの道の脇の急斜面のところだけが空いていたんで、柴犬に来てもらって撮影しました。相当急斜面だったんで前足がしっかりと前へ踏ん張っています。

(スライド)
大阪の公園で撮りました。鼻ちょうちんの写真ってむずかしいんです。タイミングがあって、そのふくらんだ頂点で撮らなきゃいけない。フィルム2本ぐらい使って、やっと撮れた写真です。僕としてはネコだけを見てるっていうんじゃなく、背景の色や光が僕にとっては写真の中で重要な要素。この時もモノトーンにしたかったので、木の影の暗い部分を背景にしました。

(スライド)
ビバリーヒルズで里親を求めるボランティア団体の方が犬を連れてきて、里親を探してるという状態。「私は誰がもらってくれるの?」っていう表情をしてました。

(スライド)
イタリアのベネツィアで撮りました。この写真を気に入っている理由は、ネコの目の力が強いところ。最初は少し遠目から望遠レンズで撮っていたんですけど、この写真は60mmの標準レンズで撮りました。すごく目に目の力を感じて、思わず何枚もシャッターを切っていたんですけど、このネコがこのすぐ後、こちらへふり向いたんです。驚いたのは右目がないんですね。おそらく小さい時にカラスか何かに突っつかれたんだと思うんですけど。そのために左目が異様に力強さを放っていたんじゃないかなと思うんです。

(スライド)
ガラパゴス諸島。生まれて初めての海外旅行がガラパゴス諸島でした。太平洋に南米本土から1000Kmぐらい離れたところに、大きな島でも13ありまして、小さな島を入れたら相当な数です。ときどき火山が爆発して、溶岩が海に流れ込んでますから、水蒸気爆発を起こしてます。こうやって海岸線を新しい海岸線に地図を塗り替えてるんですね。こういう溶岩が流れてるところでも、たくましく生きている動物たちがいます。船の上から夜明け前に撮ったんで溶岩が赤く見えたんだと思います。

(スライド)
海イグアナ。つい僕がたくましく生きてるって言ってしまいましたけど、動物たちにとってはたくましくも何もないんでしょうね。そこに生きるということなんです。彼らが、こうやってごつごつとした溶岩にいてもまったく違和感なく、むしろ溶け込んでいます。

(スライド)
オカイグアナ。85cmぐらいの大きさのランドイグアナです。新しくできた溶岩の上を歩いていました。180mmの望遠レンズで撮りました。

(スライド)
僕は動物の写真を撮る姿勢としては、目の高さを非常に大切にしています。これはカメの目の高さですね。だからホフク前進をするようになってしまうんですけど。

(スライド)
ガラパゴス諸島でも雨は結構少ないですね。だから雨で緑が芽ばえると、とにかく食べなければならないんです。ゾウガメもその辺に芽ばえる緑を食べて食べて食べまくりますね。これもわりと瞬間的な写真。結構口を開くスピードが速いんです。

(スライド)
二十歳の時にガラパゴス諸島に生まれて初めて行き、それから6~7年いろいろな世界に行って写真を撮りました。この写真は20代の最後の方の写真です。廃刊になった『アサヒグラフ』(朝日新聞社)に3年半連載をしたことがあります。「海からの手紙」というタイトルで世界の7つの海を120回ぐらい連載をしました。連載のきっかけは、1冊の本なんです。アメリカの女流海洋学者レイチェル カーソンの著書『我らをめぐる海』を読んだ時に、海の不思議さとかダイナミックな感じが描かれていて、それを写真にしてみたいと思ったんですね。で『アサヒグラフ』の編集長に「この本を写真にしてみたいんですけど、どうですか?」って聞いたら「おもしろいねぇ、やってみな」って言われたんです。でも「取材費は出ない」って言われて、目の前が真っ暗になったのを覚えてますけど……(苦笑)。で、銀行でお金を借りて、それで取材を始めました。

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これはグリーンランド。犬ぞりの旅をしました。1週間目ぐらいにブリザードに遭いまして、ブリナンドエスキモーの住む村に閉じ込められて、5日間村から出られなくなりました。ちょうど雪嵐が去った次の日で、ドラマチックな空です。

(スライド)
オーストラリアのイルカの写真です。オーストラリアの西海岸。シャークベイという湾で撮りました。1年のうちでもシャークベイで風のない9月、いちばん波のないって言われた時期を選んで行きました。

(スライド)
南極のブリザードの写真。アデリーペンギンです。こういう寒そうな写真を見ると大変だなあと思われる方が多いんですけど、そういう人の言葉なんかペンギンたちは気にしていないわけです。もっと動物たちの見方、自然からの言葉ってあるような気がします。常に人っていうのは言葉の中でしか考えられない、南極へ行った時につくづく感じました。

(スライド)
「海からの手紙」というのを『アサヒグラフ』で連載中に、話題になった写真。イカが飛んでいる、トビイカの写真です。

(スライド)
自分の20歳代はすべて旅行だったんですね。旅をするというのは、やっぱり限界があって、垣間見を越えないような気がしたんです。垣間見じゃなくて、あるところにとどまって定点観測っていうんでしょうか、それをすることによって何かが見えてくるんじゃないかなと思い、それで選んだ所が東アフリカのタンザニアにあるセレンゲチ国立公園でした。
なぜそこを選んだかというと、この写真にもあるヌウという動物が季節移動するんですね。地球上、いま人が住む環境が増えてますから、季節移動を動物達ができない状態が世界各地であるんですね。おそらくいま残ってるのは、このヌウと南アフリカのボツアナでシマウマとトナカイ。そのくらいしか、大規模な大スペクタクルで草食動物の移動が見られるっていうのは、世界ではないかもしれません。昔は、アフリカゾウなんかも移動してたんですけど、いま人が住んでる村だとか町によって寸断されてしまって、彼らの移動コースがもうなくなってしまいました。本当はスリランカやインドにもあったんですけど……。その季節移動を通して、その土地とか季節すべてがヌウを通して見えてくるんじゃないかと思ったんです。当時僕がテーマとしてたのは植物連鎖です。雨が降って草が芽ばえて草食動物が草を求めてやってきて、肉食動物が草食動物を倒して、また、みんな死んで土に帰るというようなことが自分の目で見られるような所を探したんです。で、ここに行きあたったんです。

ヌウの季節移動の大スペクタクルを撮るのはケニアのところの国境にマラガーという川がありまして、その川を彼らが越えようとしています。僕この写真が、600mmの望遠レンズで順光線というか、太陽を自分の背中において写真を撮ったんですけど、何か彼らのボリューム、からだの重さを感じなかったんです。で、慌てて300mぐらい、600mmの望遠レンズをかついで走って、逆光線側にまわって、それで、この誇りの中に彼らの姿をとらえました。シルエットの方が彼らの重量感というかボリュームが出たように感じます。

(スライド)
ヌウの季節移動です。これは満月の夜。どうしてヌウの目が光ってるかといいますとストロボです。僕はあまり人工光を使わない主義なんですけど、この場合は月の光だけではヌウが写らないので人工光を使いました。

(スライド)
これも季節移動。本当はヌウとヌウとの間には距離があるんですが、望遠レンズだと肩と肩が触れ合うように写真が撮れてしまうんです。写真のマジックのひとつだと思います。

(スライド)
僕は逆光が好きなのかな? 逆光の方が、何か距離感とか動物のボリュームだとか出やすいんですよ。これは朝です。朝と夕方のどっちの写真が多いかというと、決定的に僕は朝の方が多いです。夕方よりも空気がクリアです。夕方の光というのは、日中のいろいろな活動があるから空気中に遮へい物が増えるわけです。朝はそれがないんです。夜明け前の10分ぐらいから陽が昇ってから1時間半ぐらいがベストな写真が撮れる時間です。写真っていうのは光と影、それがクリアに写る方が好きですね。

(スライド)
ヌウの出産です。季節移動をして南のセレンゲティ平原っていう所にたどり着いて雨で芽ばえた緑を2ヵ月間、メスもオスも食べまくるんです。メスの場合は体力がついたところで、ちょうどこどもが生まれるようになっています。アフリカは暑いっていうふうに思われるかもしれませんが、これは外気温が摂氏5度ぐらい。だから生まれたこどもは、お母さんのおなかの体温がそのまま残ってますから非常に暖かく湯気が立ってます。

(スライド)
雑誌『ナショナル・ジオグラフィック』の表紙になった写真。『ナショナル・ジオグラフィック』は、日本語版ができる前でも世界中で1000万部を超える雑誌だから、写真家もその雑誌に出してもらうことが競争が激しく、特に自然部門は競争率が激しいんです。僕の友だちにその『ナショナル・ジオグラフィック』の編集者になった男がいます。南極旅行で一緒になって、それ以来の友だち、彼は写真家だったんですが、ある日彼から「写真家を辞めてジオグラフィックの編集者になった」という手紙が届きました。チャンスだと思いました。僕は「これからアフリカに2年弱行くから、僕の写真をぜひ使え」と手紙を書きました。そしたらまた彼から「例え友だちの君でも、友だちだからといって載せるわけにはいかない」と断りの手紙が来たんです。僕は性格的にも「負けるものか!」というのがあって、アフリカに行き、まず写真集『センゲティ』(朝日新聞社)を出版しました。そしてその写真集をワシントンの彼に送ったんです。そしたら彼から電報が来て「いますぐ写真を全部持ってワシントンへ来い」って言うんです。だから「人の写真を見たいんだったらお前が来い」って、僕は電報を打ち返したんです。そしたら「家の玄関を出たところからコーヒー1杯に至るまでジオグラフィックが払います」と電報が……。しかも飛行機はビジネスクラス、ワシントンでは超一流ホテルで……。そこへ、僕は写真を3000枚持って行き、彼と3日間かけて300枚に厳選しました。彼と選んだ写真を持って編集長の部屋に行き、編集長が300枚の写真を数分で、パパパパーッと全部見てしまったんです。僕は「あー。これはもうダメだ。やっぱり無理かな」と思って部屋に戻りました。そうしたら友だちが「コングラッチュレーション! 編集長が『Good』と言ったのは、いままで一度も聞いたことがない」って彼が言うんです。実際『ジオグラフィック』では48ページで紹介してくれましたし、表紙にも使っていただきました。

(スライド)
ライオンを見てると筋肉を感じます。もう筋肉の塊のような動物だなあ。特にメスはそうですね、そのからだの動き方、筋肉の躍動の仕方、波打つからだに、目が吸い寄せられます。それぐらい魅力的な動きがあります。動物というぐらいですから動く物、その動きひとつひとつに僕は魅せられているような気がします。

(スライド)
ヌウをメスライオンが2頭で捕らえています。メスはだいたい180kgぐらいの体重なんですけど、その2頭で全身の重みで、ツメの力で、ツメで引っ掛けて背中のところを抱えて引き倒そうとしています。1頭はもうすでにヌウの鼻と口を口でふさいでますよね。これは引き裂いてかみ殺すっていうのがライオンといえどもできないんです。だから窒息死をさせてます。それがライオンの殺しのテクニック。おそらくヌウを殺すのにいちばん早い方法なんでしょうか。

(スライド)
ライオンというとメスが狩りをして、オスが強いからオスが最初に食べて、次にメスが食べて、次にこどもが食べるなんてことを本に書いてある場合がありますが、それはみなさん忘れられた方がいいと思います。人がひとりひとり違うようにライオンも1頭1頭違います。僕は野生動物の呼び方としてはライオンたちとかチーターたちとか、複数形で呼ぶのがいちばんいいんじゃないかと思ってるんですね。やっぱり複数形で呼ぶことによって、ひとつひとつ、1頭1頭のことを認めてあげるわけですよね。そういう呼び方が気に入ってます。
これはオスライオンの力を示している写真。実はこのヌウを倒したのはハイエナなんです。ハイエナ2頭が夜明け前に、このヌウに襲いかかって倒したんです。ハイエナたちがおいしく食事をしようかなあと思ってた時に、このオスライオンが飛び出してきまして「どけ、どけ、オレの肉だ」って。結果的にはこのオスライオンがこのヌウを殺したことになるんですけど。でも、それがライオンの狩りじゃないかと思いました。野生動物の生き方としては、エネルギーをいかに消耗しなくて食べ物を確保できるかっていうのは、ライオンは素晴らしい。自分で狩りをしないでハイエナにやらせといて、それを奪うというのは、これぞライオンの狩りだと思います。
これはうっすらと日が差してるんです。午前6時ごろです。アフリカって赤道直下に近いから、セレンゲティ国立公園も南緯でいくと6度か7度。ほとんど赤道に近いですから午前6時に陽が昇って午後6時に陽が沈む、単純に言えばそうですね。

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だいたい観光客の方が豪華な朝食を食べてやって来るのが8時半から9時ごろ。その時には、このオスライオンが「むしゃむしゃ」うまそうに生肉を食べていて、70mぐらい離れた所で、ハイエナ2頭が前足にアゴをのせてうらめしそうに見てるんですね。そうすると観光客が最初に言うのは、「ほら、死肉あさりよ。ハイエナが待ってるじゃない」って言うんだけど、実はハイエナが倒したのは見てないわけです。

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動物のメスとオスに、なぜこだわるかと言うと、野生動物のメスは子育てを中心にして生きている場合が多いんです。だから自分の身近な距離でものを判断するんですけどオスはふらふらするんです。で、ライオンはネコ科にしては珍しく数頭で、社会生活を営んでるんです。プライドと言われるんですけど。オスはそのプライドをひとつかふたつ抱えるんで、プライド間を移動しながら自分の力を誇示して、自分のプライドを抱えようとするんですけど。その中でオス同士が闘うんです。これは闘いのひとつなんですが、普通のケンカというか、僕はそれまでに見たことのあるケンカというのは、どちらか一方が退散します。力が及ばないと思って逃げてしまうんです。

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この場合は殺してしまいました。写真を撮ってる時、鋭い音で頭がい骨が割れる音がしました。もう少し短い望遠レンズに切り替えたかったんで近寄ってみました。すると、ライオンが、車に向かって走って来て、前足をバンパーに乗せまして車を揺すりました。その後1時間ぐらい経ってから自分のからだが震えました。

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気に入ってるのはお腹のしま。ライオンは、社会生活を営んでるネコ科なんで、メスライオンが妊娠をして出産する時に群れの中にいると、出産したこどもが事故に遭うことがあるんです。仲間に遊ばれているのかもしれませんけど殺されてしまうので、お母さんライオンは1頭だけで子育てを1ヵ月間します。それで仲間たちから離れたところで、隠れて見えないところで子育てをします。
多くはこうやって乾いた川床の倒木の下とか、岩場の岩の陰とかにこどもを隠すんです。で、この場合も当然ライオンの目から隠れていますから人の目からも隠れてるわけですね。それを見つけなきゃいけないんで車を降りて、いつもお母さんが消えていくなあっていう所に目星をつけておいて、ナップサックにカメラを入れて車から降りて、その川床に下りていって乾季の川床を歩いていくんです。すると、子ライオンがいきなり目の前に出てきたんで僕は喜んでシャッターを切ってました。これは400mmの望遠レンズで撮ってたんですけど、望遠レンズが400mmから200mmになって135mmになって。で、最後は28mmという広角レンズで、しかも子ライオンの顔が青空にバックになるように、ひっくり返って撮ってたんですけど、それでも子ライオンはそこから動かないで結構そばにいてくれました。
その時、子ライオンたちの目が川岸を見上げるんで、僕も見上げたらお母さんライオンが帰ってきてたんです。その時はちょっと困りましたね。で、子ライオンの顔とお母さんライオンの顔を交互に見ながらあとずさりをして車まで戻りました。やっぱりこの時も車に戻ったら、ちょっと冷や汗をかいてました。

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お母さんが下りてきて木のない所まで出てくるとこどもたちがお母さんを追いかけていって甘えています。

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サイの親子。動物的な感覚を撮る側も身につけていると、例えこどもがいなくても、メス、オスの区別がわかってくるような気がします。
これは日没間際。サイたちは当然林に帰って寝ます。アマサギやウシツツキがサイが林に帰る前に、サイに集まります。サイが歩くたびに、サイの体は重いですから歩いた後から虫たちが飛ぶんです。その虫をアマサギやウシツツキが食べるんです。これは学者の先生が共生だという言い方をするんですけど、サイにとっては大迷惑で、というのはこのウシツツキは、サイの体に傷があったりするとその肉まで食べてしまうんです。僕は共生じゃないだろうと思うんです。動物の立場になって人が見てたら、もっと素晴らしい言葉が出てくるんじゃないかなあと思います。

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アフリカに2年弱暮していた時に、断続的に、このチーターの親子を見ることができました。こどもたちはお母さんの前足と後ろ足の間に、4頭ともすっぽり入ってしまうような生後約1ヵ月ぐらいの時からお母さんと同じぐらいの体の大きさになるまで、見ることができました。で、僕は最終的には車から降りて目の高さで写真を撮ることができました。あまりいいことじゃないかもしれませんけれど、撮影をしてる時にこどものチーターが遊びに来るんですね。で、最後は僕のひざに座ってしまったんですけど、でもそれは自然の中ではルール違反だったんで、僕は彼らを触ろうとしませんでした。野生動物に絶対にエサを与えてはならないなって日ごろから思ってるし、かわいらしいからと触れると彼らの暮らし生活を変えてしまうんです。彼らの生き方を大切にするんだったら距離を大切にしていきたいといまでも思っています。

(スライド)
これは非常にいけない距離です。この動物は、生後2歳ですね。人間でいうと高校生ぐらいかな? 非常にいたずら盛りで何でも興味を持って、僕が怒ったもんですから、この後右の前のタイヤをパンクさせられました。ライオンがいるからパンク修理をするわけにいかなくて、しばらくじっとしていると日が差し始めました。東アフリカは標高が高いんです。標高が高いもんですから直射日光は強烈。日中の気温は30℃ぐらいになるんで結構暑いんですね。で、何とライオンがパンクしてる車の車体の下に入って昼寝をするんです。そこが唯一の影なわけです。窓から見下ろすと、しっぽが6本ぐらい出てるんです。一家で昼寝をしてる、いびきも聞こえるんです。ライオンのいびきなんて滅多に聞けないから録音しようと思って、小さなマイクロホンを持ってたんでスルスルッと降ろしたら、ライオンの「グォグオー」と声がして、引き上げたら先がなくなってました。

(スライド)
アフリカの旅が終わり、アフリカの本を何冊か出して、日本で暮らしていると、また何かうずうずしてきて、今度はオーストラリアに行きました。これはエアーズロックの夕日。これは直射で夕日が当たってるんじゃないんです。実は太陽はもう地平線の下に沈んでしまってるんです。なぜ赤いかっていうと、沈んだ太陽が雲に反射して岩に当たってるんです。この時の方が赤さがより赤いです。

(スライド)
コアラというのはぬいぐるみではかわいいんですけど、僕は正直言って、コアラがかわいいと思ったことがありません。ただ自然の中にこうやってユーカリの森にいると、コアラらしいんです。自然の中にいるとコアラが見つからないんですよ。最初その森の中に、ユーカリの森というのは本当に緑が多くて、太陽の光は林を通さないし、歩いていてもどこにコアラがいるのかわからない。僕はこの時、くたびれて倒木に腰かけてみたんです。で、しばらくじっと見上げていたら「あっ、あそこにいるじゃないか」って、1頭が見つかったんです。そうすると不思議、2頭も3頭も見つかるんです。何かまるでかくれんぼをしてるような感じ。カメラを向けるとスーと幹の後ろに隠れてしまうコアラもいました。非常に興味深い動物だと思いました。

(スライド)
有袋動物ですから、コアラのメスの袋のあり方というのはカンガルーのように上を向かず下を向いてるんです。だからこどもは下から頭を出してくるんです。

(スライド)
夜のコアラ。ユーカリの葉を食べてるところを撮りたかったんで夜になってしまいました。コアラっていうのは夜行性だという言う人がいるんですが、コアラは昼も夜も動きます。

(スライド)
年老いたコアラ。実はこの2日後に彼は絶命してしまったんです。からだが弱ってくると幹にしがみついていることができないんです。で、木の下に下りてくるんですけれど、最初に見つけた時には、毛がふさふさとしていて、丸くてかわいいなあと思ってました。次の日見ると、もうからだの毛がバサバサになってたんです。よく見るとダニなんですね。すでに皮膚が食い荒らされているんです。それは地面からわいてくるダニなんですけど、やっぱりからだが動かなくなると、当然地面にしかいられない、しかもからだが動かないとダニがやってくる。動けなくなったら、そこで命が果てるということです。

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(スライド)
赤カンガルーのシルエット。有袋動物の中でいちばん大きなのが赤カンガルーという種類、オスは立ち上がると2m以上にもなります。これはメスとこどもです。毎年オーストラリアでは赤カンガルーとグレーカンガルーをだいたい100万~200万頭殺しまして食肉用とかペットフード用とか、コアラのぬいぐるみだとか、いろいろな用途で使われています。当のカンガルーたちは殺されたくないから逃げるんです。国立公園の中で安全なはずなんですが逃げます。中には近づくことを許してくれるカンガルーもいるので、車を進める時はじょじょに近寄っていきます。だいたい写真の射程距離っていうのは70mぐらい。800mmの望遠レンズを使うのに、70mぐらいの距離から撮れるというような感じ。100mだとちょっと遠いですね。

(スライド)
カンガルーの親子でも結構珍しい写真。おそらく世界でもこれしかないんじゃないかなと思います。オーストラリア大陸は内陸が夏は摂氏50度ぐらいになり、すごく暑いです。その中で、いまは牧場があって貯水源があってカンガルーも水を飲むところがあるんですけれど、水がないところだと、母カンガルーはこどもに自分のだ液を飲ませるんです。その場面です。これも800mの望遠レンズ、距離は70mぐらいです。

(スライド)
カンガルーが跳ねています。これはどうやって撮ったかって言いますとヘリコプターなんです。非常にカンガルーが跳ねるときに速いですし、車は地面がデコボコしてますからフォローするのがむずかしいんです。

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これ、見てすぐにオスだとわかりますよね。日曜日のお父さんそっくりだわって言った人がいました。背中をかいてますね。

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あごがかゆいんですね。このカンガルーは20mぐらいまで近寄れました。近づけるのはオスの方が距離は詰められます、野生動物の場合。

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前肢というか前足の付け根なんかは筋肉がすごいです。

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カンガルーが水を飲んでるところ。牧場の貯水池です。昔と比べたらカンガルーの数が増えてる、だから殺してるんだっていう国立公園側の発表があるんです。水があるところは生物が生まれますし、増えます。

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ソーニーデビル。悪魔のようなトカゲ……。でも大きさは手のひらに乗っかるぐらいのです。主食はアリ、黒大アリを食べるんですけど、アリの大列の前に立ちはだかりまして、ぺろぺろと1匹1匹なめとるんです。数えてみたんですけど1時間で370匹食べました。

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オーストラリアはカラフルな鳥が多い。

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ソルトウォタークロコダイル。非常に噛み合わせがいい、噛まれたくないなあと思いました。大きいので8mぐらいあります。

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オーストラリア南海岸です。牧場になっています。羊1頭牛1頭見えなくても、そこは牧場化されているんです。海は元気です。おそらくヨーロッパから移住して来られた方は海に感心がなかったんですね。羊を育てるところを一所懸命探したらしくて。僕もこの近くのカンガルー島という島に9ヵ月間、そこで暮らしました。

(スライド)
グレートバリアリーフ北東部に2000Kmに渡って点々とついてるサンゴ礁の島々があり、そこのひとつの島です。AからEランクまで5段階に区別されていて、Aランクは科学者研究者しか入れない島、Eクラスはボートもジェットスッキーも何でもOK。南の方のヘロン島はEクラスの島ですが、そういうクラスの島々も必要なんでしょうね。人というのは自然を守れって言ってもなかなか守れないですけど、自分が実際にそこに行って、海ガメの産卵風景を見ると「あーやっぱり、この海ガメを守っていかなきゃいけない」って感じるらしいんです。その意味では、エコロジカルとツーリズムを合わせたエコーツーリズムも大切になってくるかと思います。

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水中写真。ここでも逆光線を使おうと思ってストロボをもうひとりのダイバーに持ってもらって同時にストロボを発光させています。

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アシカの親子。母と子が手前にいて、後ろに振り返って見てるのが若いオス。若いオスですから母親のメスには相手にされないんです。「フン」っていうような顔されてます。

(スライド)
9ヵ月間いたカンガルー島でのアシカの出産。ライフサイクルに近い誕生からの暮らしぶりを全部撮りたかったんです。出産場面も逃がしてはならない。これは波打ち際で出産したんですが、潮が満ちてきますから赤ちゃんを濡らしてはならないと思って、もっと高いところへ上がっているところです。

(スライド)
生まれた当日の写真。ミルクをいっぱいこぼしてます。まだ赤ちゃんはおっぱいの飲み方がわからないんです。でも2日目になると1滴もこぼしません。お乳も人の飲む牛乳の10倍ぐらいの脂肪分が含まれているので1ヵ月2ヵ月経つとまるまるとして、目に見えて大きくなっていくのがよくわかります。

(スライド)
僕は世界中いろいろなところへ行きますけど、気になるのはいつも風です。風によって全てが決定されると言っていいと思います。その土地柄といい、その植物のなり方といい、動物の動き方の含めて人の動き方もそうです。これはカンガルー島の夏。北風が吹いていて、暖かいんです。南半球に行くと北風が暖かいんです。北風が吹くとオフショアーの風になって、サーファーが喜びます。アシカたちもサーファー気取りで波間でよく遊びます。

(スライド)
アシカの暮らしぶりを撮りたかった中、オスとメスの関係もあります。オスは体重300kgを超えます。メスは100kgちょっと。これは交尾を促してるオスです。

(スライド)
この写真を発表した時、出版社の方に「どうやって海草のっけたの?」って言われました。僕がのっけようとしたら、僕の手はなくなってますね。アシカっていうのはやさしく見えても、当然野生動物ですから、他の種類には近づいてほしくないわけです。いまではアシカとの距離を制限してるらしいんですけど、僕がいた時は無制限でかなり近寄れました。

(スライド)
クジラの写真。オーストラリアの取材の時に、すでにNHKのディレクターから「いつ帰ってくるんだ。帰ってきたらクジラやろうよ」って電話があって、クジラは20歳代の時に見てたんですけど、まとめて取材したことがなかったんで、これもいい機会かなあと思って、ハワイのマウイ島沖でクジラの取材を始めました。
これはヒゲクジラの仲間のザトウクジラ。体長が15mぐらいで体重が大きいものになると40トンぐらいです。

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これはアラスカの海。下あごのアコーディオン状にうねがついてふくらんでますよね。この中には魚と水がたっぷりと下あごのなかに入ってるんで、いま風船のようにふくらみあがってます。

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(スライド)
英語ではブリッジって言います。跳び上がるんですね、クジラは。15m40トンもの体を水面上に躍り上がらせます。なぜそういうことをするかはわかりません。

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マウイ島沖でヘリコプターで撮りました。海面から1000フィート以下には降りてはならないというルールがあります。親子クジラです。ザトウクジラっていうのは回遊するんですけど、ハワイにやってくるのは子こどもを生み育てるためなんです。暖かい海ですからこどもを育てやすい、しかもハワイの島の近くは浅い海ですから安全を確保しやすいんですね。

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親子。動物ですから呼吸をしなきゃならない。で、こどもの方は水面に、だいたい2~3分おきに息を吸いに上がって来ます。こどもですから「フッ」と軽い音がします。お母さんクジラは8分~10分潜っています。上がってくると「ブワーッ」すごい音がします。

(スライド)
子クジラはなぜか人に近づいてくることがあります。僕はちょっといたずらをして、子クジラがやってきた時、10mぐらい垂直ダイブをします。するとちゃんと垂直に子クジラがついてくるんです。

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オスのクジラ。歌を歌うっていいますが、だいたい20分ぐらいの間隔である程度の旋律を繰り返します。一緒に水中にいるとオスの鳴いてる声が「ウ~ン、ヴ~ン」と僕のつま先から頭のところまで響き渡ってきます。それはメスを呼ぶためのラブソングだというふうに言われています。

(スライド)
これもオス。メスが1頭、オスが数頭いました。その群れと遭遇した時です。

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ハワイの海の色は美しいクリアなブルーです。だからクジラが食べるものがないんです。で、どこに行くかというと北の海なんです。これはアラスカの海、海の色が緑に濁ってます。これは決して汚れて濁ってるんじゃなくて、それだけ生物が豊富なんです。夏は特に対流によって海底近くのプランクトンが海面近くに押し上げられてくるんです。それによって小魚も大きな魚もやってくる。トド、アザラシ、シャチもやって来ます。それでザトウクジラが魚の群れを見つけると、それに向かって泳いでいきます。

(スライド)
そのうちの1頭が泳ぎながら風気孔、人でいう鼻ですね。鼻から息を出します。それを人は潮ふき穴だと言いますけど、クジラは潮は吹かないですね。息です。息は空気と泡となって水面に浮上してくるんです。その浮上してきた泡が円筒形になるんです。海底でクジラが円を描くように泳いでますから、小魚の群れを閉じ込めるわけです。その小魚の群れをめがけて、海底付近からクジラは口を開けて魚を飲み込みながら浮上します。

(スライド)
一気に浮上してきたところ。魚と一緒に海水を飲み込んでいます。それをヒゲによってこして魚だけを飲み込みます。ヒゲは非常に硬いです。

(スライド)
ボートの上から撮ってます。非常に大きなクジラですから、下あごだけでも5mぐらいあるんですね。それでピンクに見えるのは、上あごについてる骨で、そこから左右にクジラヒゲが伸びています。

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イワシを少し逃がしてます。イワシは「あ~よかった」という顔してます。

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アラスカの夏はほんとに日が長い。この写真を撮った時でも、午後10時半をまわってました。それで群れによっては1日中3分おきぐらいに食べまくる群れもあります。群れによってもクジラによっても食べる時間帯、サイクルが違ってます。この時は45日間ぐらいずっと取材したんですけど、クジラの食べる、狩りという行為に魅せられました。

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クジラは、人間の指紋のように、1頭1頭尾びれの模様によって識別します。それを撮って戸籍名簿をつくっています。生きてるクジラを研究し始めて、まだ20年ぐらい。だから生きてるクジラについて、ほとんどまだわかってないと言っていいと思います。

(スライド)
なぜ跳び上がるかというと、やっぱり僕は海が荒れ始めて波があると、よく跳ぶような気がします。

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それをかわきりにテレビの仕事を始め10年になります。最初の10年で9本ぐらいの1時間番組をつくりました。クジラをやってる時に「日本の野生動物も取材しないか、なぜ取材をしないんだ」と海外の人に言われまして「そうか、やっぱり日本の野生動物もやらなきゃいけないな」と思い、自分が若い時から親しんできたのは日本ザルだったんで「日本ザルをやろうかな」と思いました。
これは長野県の地獄谷というところのサルなんですけど、日中は人がエサをあげてます。朝、山から下りて来て、夕方帰るというサルたちなんですけど。山で出合うと谷間でエサをもらってるサルの顔と違うんですね。これはすごく不思議。
サルが動くことによっておきる波が、一瞬ない時があるんです。その時を狙って撮りました。

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この1枚で温泉に浸ってるっていうのは、日本の方はわかるかもしれないけど、なかなか1枚だけでは説得力がない写真じゃないかなあと思います。

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こういうチャンスないんです。12月と2月の終わりぐらいの空気がよく湿ってる時にボタン雪が見れますね。1ヵ月のうち1日あるかないかですね。

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ある秋に子ザルが木の実を食べようとスルスルッと幹を上って枝先へ行って実を採ろうと思ったんですけど、枝が細かったので子ザルがそこから落ちてしまったんです。ピントが甘かったと思ったんで400mmの望遠レンズをもう1度同じ所、同じ木の実に構えて待っていたんですけど、子ザルは登ってきませんでした。落ちた所から動いた様子もないんで、見に行ったら、そこで草を食べてました。

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中でも子ザルの動きそのものに魅せられました。さきほどの木の実をとろうと思って自分のからだを長くしている時とか、こうやってオスのこども同士が激しく遊びあってる。メスの子ザルたちはお母さんのそばでままごとをするんです。オスとメス、はっきり違います。すごくおもしろいことです。

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サルって、こう丸まってる写真が多いんですけど、長い動きの写真が好き。これは春、山桜ですね。なぜサルが桜の木に興味があるかっていうと、花を食べるためなんです。僕も食べてみました。花芯のところが少し甘いです。満開になった花は甘くないんです。サルはよく知ってます。

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動きに魅せられた子ザルです。一瞬たりとも同じ瞬間がない。そういうところが魅力。

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『ナショナル・ジオグラフィック』の表紙になりました。

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最近も家畜の写真を、ペットも含めて撮るようにしました。これはナイル川、ヌビア族の少年に飼われてたネコです。

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今年はエジプトから始まってモロッコ、オーストラリア、ベトナムと、世界中の家畜を取材しました。強烈に覚えてるのは、オーストラリアの牧場で70歳を超える牧場のマネージャーに案内していただいたんですけど、彼に「僕は60年間羊を見てきたけど、今日1日君を案内して考え方が変わった」と言われました。「どうして?」言ったら「僕は60年間羊って、塊でしか見ていなかった。君は羊1頭1頭の顔が全部違うってことを、初めてわからせてくれたんだよ」と言ってくれました。

(スライド)
タンザニアのマサイ。マサイは、400年ぐらい前に海岸地方から内陸に住み広げていった人たち。彼らはヤギだとかウシを飼ってるわけですけど、イヌも一緒にいました。決して引き綱で首を縛られることもない。ひょっとしたらイヌの本来の姿は、こういうところに残っているのかなと思います。

スライドはこれで終わりです。
野生動物を見ていていちばん大切にしたいのは、彼らが生きていく姿を見るという行為を続けて生きたいと思ってるんですけど、やっぱり暮らし方も違うし、それを人の言葉で、人の理解の中で押し込めてしまって、その範ちゅうに収めようとするのが、いつもどうかな?っていう疑問符ばかり浮いてくるんですね。僕自身もちろん人ですし、人の物指し、既成概念って持ってるんですけど、それを脱ぎ捨てることによって相手の立場をわかってくるんじゃないかと思うんです。人同士でも、人の立場になるっていうのはむずかしいですから相当な努力が必要だと思うんですけど、もしそれが行われれば人と自然との関係がもう少し近くなって接近できるんじゃないかと思うんです。人の歩み寄りというか立場を変えるってことをどうやってやるか、それがこれからの課題だと思っています。

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<第2部>

お客さまとのQ&A

お客さま:
野生動物を岩合さんが撮られる時に、その動物に対して「いまから写真撮るよ」「写真撮らして」というような何かサインみたいなものは出されるんでしょうか?

岩合さん:
申し上げたように野生動物って、やっぱり1頭1頭1匹1匹違いますから……。ひたすらこちら側が見る努力だと思うんですね。それはおそらく情熱だと思うんです。その情熱が動物に、自然に対して傾けることによって集中していくんですよ。パッションがあると集中できると思うんです。おそらくサインってのが情熱以外の何ものでもないと思いますね。

お客さま:
いま絶滅していってる野生動物がたくさんいることのに直面されていると思うんですけど、岩合さんが野生動物の絶滅していってる動物たちに対して思っていらっしゃることをお聞かせください。

岩合さん:
滅びゆくっていうふうに言われ方をするんですけど「滅びゆく動物」だけど「滅ぼしてる動物」だって言ってもいいと思います。やっぱり人の生活、暮らしが、非常に自然を少なくしてますし、動物達を少なくしてるのは確かです。

PHOTO

WWFという世界自然保護基金というのがあり、会報誌に僕は毎月ボランティアで写真を提供しています。その表紙にキタシロサイの写真を使ってもらった時に、WWFの人から「もう、このサイもいなくなってしまったんですよ」って言われて、僕は何も言葉が出てこなかったです。自分の撮った動物が1頭もいないっていうのは……。
さきほども言いましたが、見ることによってずいぶん人は違います。本とか、テレビだけじゃなく、実際にそこに行って触れるということができる人は少ないかもしれませんが、いま、そういうツアーも増えてるし1回行っただけで人というのは見る刺激というか、自然の中の人が考えつかないような刺激を受けます。その刺激が僕たちがいちばん欠けているものだと思うんですよ。
アフリカでなくてもハワイの海でなくて、自宅の裏の1輪の花からでも自然は見ることができるます。例えばクモが何かをハンティングしているところがあると、やっぱりドキドキします。そういうことが自分の裏庭でも起きてるんですね。いきなり滅びゆく動物がどうのこうのって話題にもっていくよりも、自分のからだのそばで、身近なところで、みなさんが考えていただくと違ってくるんじゃないかと思うんです。

お客さま:
世界で自然のもっとも美しかった場所はどこですか? 自然と人間がうまく共存している国、場所はありますか?

岩合さん:
共存はむずかしいでしょうね。同じレベルで人は考えてるし、人の世界で理解をしなければ、それは排除するという方向に人はいってますから。
自然のいちばん美しいところ? そういう質問受けたときに僕が答えるのは、人がいないところっていうふうに答えます。やっぱり人がいなければいないほど美しいですね。地球のリズムというか、動き方が見えるというか、スキや鍬が加わってない土地とか、そういう所はエネルギーを感じます。

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Profile

岩合 光昭(いわごう みつあき)さん<ネイチャーフォトグラファー>

岩合 光昭(いわごう みつあき)さん
<ネイチャーフォトグラファー>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
1950年東京生まれ。19歳の時に訪れたガラパゴス諸島の自然の驚異に圧倒され、写真家としての道を歩み始める。以来、地球上のほとんどの地域をフィールドに、1年の大半を大自然の中に身を置き、動物たちからの確かなメッセージを送り届けている。「ナショナルジオグラフィック」誌の表紙を飾るなど、全世界で高く評価されている。主な写真集として「海からの手紙」(木村伊兵衛賞)、「セレンゲティ」(日本写真協会年度賞)、「クジラの海」など。身近な動物にも注目し、「ニッポンの猫」「風がいい島」などの写真集もある。

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