神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

  • 宇土 巻子さん(料理研究家/エッセイスト)
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「食卓を楽しく、美しく~毎日の食をもっと楽しみましょう!」



<第1部>

毎日の日課は散歩です。
いま北海道って、春が爆発してるんですよ。

私の日課の中で、いちばん大切なのが散歩。毎日花が咲いて、葉が出て……。その様子を私が散歩しながら毎日記録してるんです。朝早く起きて、敷地内を2時間くらい歩くんですね。あんまり朝早いと、鳥とか虫はいないんです。でも日が照ってくると、虫や鳥が出てくるからうれしくなってまた1時間くらい散歩。1日のかなりの部分は散歩と自然観察で成り立っています。
昨日の朝も、とりわけ長い散歩をしてきました。いま北海道って、春が爆発してるんです。いま北こぶしという白い花が満開です。もう山のあちこちが真っ白。「あんなところにも北こぶしがあったのか」って。ほかのときはほかの木に紛れてわからないけど、このときとばかり「私は北こぶしだよ」って主張するんですね。その隣には山桜。山桜はソメイヨシノよりちょっとピンクっぽいんです。「あんなところに山桜があったのね」っていう感じ。彼女も自己主張。そういうふうに派手に自己主張する木もあるんですけど、春ニレとかヤチダモ、それからカエデ、そういうのってどんな花が咲くかご存知ですか? 最初、全然興味がなかったんですけど、毎日毎日散歩していると「春ニレはこんな花だったのか」って。結構美しかったりするんです。花って「蕾」っていいますよね。葉もやっぱり「蕾」なんですよ。例えば、カエデってみなさん開いた形しか知らないでしょ? いまね、ちょうどカエデの蕾が、割れ始めたんです。割れ始めるときはね、こういう(手の指を集めて蕾の形をつくる)の形をしているんですね。で、それが、ちょうど扇子が閉じた状態みたいなんです。それが、だんだん扇子が開くように、こういう(指をそろえて甲を見せ、指を徐々に開いていく)ふうに、5日間くらいで、もみじのような形になるんですね。すごーく切れ込みの大きいナラの葉っぱ、ありますよね。あれもだんだん開いて、ああいう形になるんです。葉にも「蕾」っていう時期があるんだなって知って、すごくうれしかったです。いま、そういう葉の蕾も開いてるし、花の蕾も開いているとこ。いちばんいい時期なんですね。

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見上げれば木が元気にやっていて、地面を見ると、野の花がいっぱい。いま咲いてるのがかたくり。ピンク色のかたくりの群生が、足の踏み場もないくらいすごいんです。それから菊咲きいちげという、白い菊みたいなかわいいい花が咲いています。それからエゾエンゴサクっていうブルーの花がカーペットになるんです。そして、よく見ると地味な花もいっぱい。水芭蕉とか座禅草とかヤチブキとか、そういうワイルドな花も咲いていて……。いま、正に百花繚乱。今度空間に目をやると昆虫が飛んでます。いまはチョウチョ、エルタテハが飛んでいます。あと、シジミチョウ。それからさまざまなアブ。アブもいろいろな種類がいます。ビロードツリアブとか、ヒラタアブとか。私、花を見るのも好きだけど、この花に何のアブが来てるのかなっていうのを見るのも大好きなんですね。そうやって上見たり、下見たり、散歩もすごく忙しいんです。
見るだけじゃなくて 耳を澄ますと鳥の声。これが大変。春になると何が来るかわかんないんです。南から繁殖のために北に戻ってきて、ここで巣をつくってこどもを産んで、また帰って行くみたいな鳥もいます。いまね、ツグミがいっぱい来ています。トラツグミって知ってます? 夜になるとピーって鳴くの。すごくきれいな鳥。あと、クロツグミ。きれいな声で鳴くので有名な鳥です。それから普通のツグミとお腹の赤いアカハラとか、あとはアオジとかベニマシコとかも来ます。そういう鳥の声が、どんどん聞こえてくるわけです。それを双眼鏡で探すんです。だから、本当に忙しくて……(笑)。で、花を、どんな構造かなってルーペで見るんです。双眼鏡使って、ルーペ使って、自分の目使って、上見て下見て、耳をそばだてて……、そういう散歩がいまの私の日課になっています。
私は自分を引きこもり型散歩愛好家&観察者と呼んでいます。いろいろなところへ行って、いろいろ珍しい草花に出会うのも楽しいけど、自分の敷地の中で、同じ木と毎年毎年毎日毎日つきあっていくってことに、おもしろさを感じています。私は彼女たちと一緒に生きて来たんだなっていう気がしているんです。木って1年の営みがありますよね。私は共有させてもらってる気がして、本当に自然の中で暮らせてよかったなって思っています。

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東京で生まれ、旅でさまざまな経験を重ねて……、
そして北海道にたどり着きました。

私は北海道の赤井川村という辺境で暮しています。すごく小さな村で人口が1300人。その村の端の方で「ありすファーム」という農場をやっています。いま農業者としてブルーベリーを栽培し、それを販売したり、加工販売。それを生業にしています。
実は私は昔から農民だったわけじゃありません。生まれたのは東京、表参道のど真ん中。ずっとそこで育ちました。大学生の途中のころ、インドをはじめ海外を旅して……。いろいろな経験をした中で、田舎にも行って、それで、北海道での生活を始めました。世界中を旅して、最終的に旅のはじめのころに行ったインドにまた行ったんですが、そのときに、「日本に帰るか、このまま旅を続けようか、どうしよう」ってなったんですよ。旅そのものの体験が強烈だったから、そのまま旅を続けるという選択肢もあったんです。でも、旅って緊張を強いられるんですよ。楽しいこともあるけれども、ずっと動き続けるってのは、かなりのエネルギーが必要。それを続けるのはしんどいなって思って……。旅をしないとすれば、定住ということになりますよね。でも、いまさら東京に戻っても……という感じになって「じゃあ、田舎に行ってみようか」っていうことになりました。旅で出会った(主人の)藤門と「じゃあ、田舎に行こう」ということで まず飛騨高山に行きました。ただ田舎に行っても食べられないのはわかってるし、農業やっても素人だからできないのわかってるんで、手に職をつけた方がいいんじゃないかということで、藤門は家具職人を目指して、1年間木工の学校に通って技術を身につけました。私は、シルクロードの辺りってじゅうたんや織物が盛んなんですね。「ああいう仕事いいなー」と思って織物の学校に半年くらい通って技術を身につけました。

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で、私は織物の機1台とリュックサック1個、藤門がジュラルミンのトランク1個、あとふたりで合わせて1万円を持って高山に行きました。古い農家の納屋を借りて、そこで田舎暮らしが始まりました。でも、本当に何にもわかんないんですよね。私は、ごはんも炊けなかったし、どうやって暮らしていくのか、あまりイメージもなかった。でも、やってるうちにおもしろくなりました。若かったからかも知れません。納屋なんて、節穴がいっぱいあって、そこから月の光が差し込んでくるんですよ。キレイなんだけど、冬になったらそこから雪がバンバン入ってくるんですね。朝起きると、布団の周りが雪だらけになってて……(苦笑)。そういう生活を始めたんです。一応自給自足、好奇心の赴くままにいろいろなことやりました。ものすごく貧しかったけれど、楽しかったですね。大根やお米もつくったし、鶏もいたし、猫もいたし、犬も、みんな一緒に暮らして、家も建てて……。75万円の家をつくったんですよ。これは、おもしろかったですね。本当にふたりだけで建てました。都会で生まれて都会で育ったから、すべてが珍しかったんです。田舎のつらさとか農業の苦しさを知ってる人だったら、嫌になっちゃったんじゃないかと思うけれど、都会で生まれて、旅を経験して、それで田舎に行ったから、なんとなく楽しくできたのかも。そんなふうに高山で10年間いろいろなことをやって、それから北海道に移りました。「ありすファーム」のありすというのは、有名の有に、鳥の巣って書きます。カタカナのアリスではなく、有巣部落という地名から名付けました。

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北海道に移ってからの生活を
スライドで見ていただきます!

(スライド:建物)
いま住んでいる家。レンガを1個ずつ15万個積みました。『3匹のこぶた』の1番下の弟がつくったような家です。

(スライド:2、3軒の家)
丘の上から見たところ。手前に2軒あるうちの1軒は藤門の母親が、もう1軒は夏になると庭仕事を手伝ってくれる女性たちが住みます。

(スライド:家具をつくる人たち)
家具の工房。これは、アメリカのシェーカー様式の家具。シェーカーっていうのはシェーカー教徒っていうキリスト教の1団体。彼らは自給自足の生活をしてて、その中で有名なのが家具づくりでした。藤門は家具のことをいろいろ調べていくうちにこのシェーカーに突き当たって、シェーカーのシスターたちの暮らしを本で読んで、たくさん暮らしのヒントをもらいました。

(スライド:いす)
シェーカーの創始者のマザーン リーって女性なんですけど、彼女の言葉の中に「美は有用性に宿る」というのがあります。要するに、一切の装飾を排除した物に本当の美しさがあるんじゃないかと……。そういう教義をまさに形にしたのがこのいすです。これはうちでつくりました。

(スライド:4人掛けのいすとテーブル)
シェーカーの人たちって装飾を全部廃すから、カーペットも敷かないんです。テーブルにもクロスもマットも使わず、そのまま食器がのっています。

(スライド:カエデの木と男の人)
私たちはカエデが好きで、いろいろなカエデを集めて植えています。北海道に移って、ここに一生住むんだっていうのを決めたときに、初めて木を植えました。

(スライド:冬のカエデとこどもたち)
いまの木が大きくなるとこのサトウカエデになります。これは、メープルシロップをつくるのに樹液を採ってるとこです。毎年春になると、こうやってカエデの木に穴を開け、樹液を集めて、それを煮詰めてメープルシロップをつくっています。

(スライド:ハチと人)
ハチも飼っています。ブルーベリー栽培には花粉を媒介するものが必要なので、ミツバチが欠かせないんです。

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(スライド:人とドラム缶)
ハチって蜜を採って来るんですよね。もちろん人間のためじゃなくて自分のために。花の蜜を吸って、胃の中に貯めて、それを巣に戻って吐き出すんですね。自分のためには食べないんですね。それを巣に貯めて、こども育てたり、その中から自分の食糧もらったり……。素晴らしい昆虫です。人間はむごいことに、巣からハチを追い払ってこうやって横取りをしてしまいます。

(中略)

(スライド:レンガの家とたくさんの人)
夏になると講習会をします。ブルーベリーを摘んでみんなで食べて、いろいろ加工したり、草木染めをしたり……。ブルーベリーマフィンを焼いて、おいしいお昼を食べましょうという催しもします。

(スライド:クロスカントリースキー)
冬はクロスカントリースキー大会をします。東京とか都会から100名くらい参加してくれました。先頭歩いているのは椎名誠さん。

(スライド:川でカヌーに乗っている)
ユーコン川です。こどもが10歳になったら、元服式のように親子で荒野を旅しようという提案があって、上の有巣が10歳になったときに、藤門とふたりで過酷な川下りを1ヵ月くらいかけてやりました。下の子もやっぱり10歳のときユーコン川を下りました。

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ぜひみなさん、
キッチンガーデンをつくってみましょう!

みなさんにご提案したいのが「ぜひキッチンガーデンをやってみましょう」ってこと。今年『キッチンガーデン列』っていう本を企画しまして、ちょっと不純なんですけど、その本書くために一所懸命野菜をつくったんですね。その中で見えてきたことがいっぱいあって、いまさらながら反省することもあり、さらに一所懸命やろうと……。
キッチンガーデンって、野菜とかハーブとかそういう口に入る物を栽培する畑。当たり前のことですが、まず安全な物ができます。やっぱり私は、無農薬で有機質肥料を使って野菜栽培したいと思っています。これは口では簡単に言えますが、結構大変なんですよ。
例えば、バジルを植えるでしょ。そうすると、絶対葉虫が来るんです。この葉虫がバジルが好きで、植えたバジルをもうばりばり食べちゃう、とっても憎い虫なんです。植えたその日に葉っぱがなくなっちゃうんですから、これは殺虫剤をまかなきゃいけない。それしかバジルを救える方法はないと思って、農協行ったんですよ。で、殺虫剤を買ってまこうかなと思ってバジルのそばに行ったんです。そのとき、ちょっと横を見たら紫色のかわいい花の咲いているセージが植わっているんですよ。そこにかわいいマルハナバチがいて一所懸命セージの蜜を吸ってるんです。そのマルハナバチを見たときに、殺虫剤をかければ葉虫は死ぬんだけど、マルハナバチまで死んでしまう。ほかに目にしていない小さい虫たちとか、いわゆる生態系をつくっているいろいろな虫も全部殺しちゃうわけですよね。あやうく殺虫剤のハンドルに手がかかったんだけれど、これはダメだと思って止めました。葉虫の横暴さに、つい殺虫剤をかけようと思ったけど、やっぱダメなんだっていうことをマルハナバチを見たときに実感。やっぱり無農薬でやるしかないと思いました。

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でもね、あとでよーく葉虫を観察したんですよ。葉虫はバジルが好きだとずっと思いこんでたんですけど、実そうでもなかった。ちょうど葉虫が発生する時期にバジルを植えるから、食べられていたみたい。ちょっと時期をずらせば、被害の半分は減らせることがわかって、バジルは早く植えようと思いました。もうひとつ、葉虫は柔らかい葉が好きらしいんです。だから、バジルも好きなんだけれど、傍にあるクローバーも食べるんです。ってことは、雑草をいっぱい生やしとけば、それを葉虫が食べてくれる。葉虫はそれで抑えられるってのがわかったんですね。そうやってじっくり観察すると、手立てがあるもんだな、辛抱強く、少しずつ観察してると方法はあるもんだなってのがわかりましたね。

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収穫したばかりのイキイキ野菜を食べられるしあわせ!
それがキッチンガーデンの魅力。

私が鍋を火にかけてから、収穫にしに行く野菜ベスト3は、アスパラガス、トウモロコシ、枝豆です。この3つは採ってすぐと、1時間経ったのと、1日経ったのでは もうまるで違うんです。アスパラとかトウモロコシは、採れたては生でも食べられるんです。まずお湯を沸かして畑へ走って行くんですよ。で、アスパラ採って来て、さっと茹でて食べるともう何とも言えずおいしい(笑)。これを1日置くでしょ、もう全然甘味が違っちゃうんです。ただ甘さが消えるんじゃなく、旨味も消えちゃうんですよ。これは、多分糖分がでんぷんに変わってしまう、つまり収穫された野菜の自己防衛なんですね。だから我々はその味が変わる前に食べてしまう。これは、生産者じゃないと味わえないおいしさ。
あと、サラダもおいしいんですよ。実は私、あんまりリーフサラダのおいしいのって日本で食べたことなかったんです。だから、あまり関心持ってなかったんです。でもあるとき、イタリアから種を取り寄せて、レタスとチコリを10種類ずつつくってみたんです。イタリアの種苗カタログって種類がすごく多いですよ。例えばトマト、本場だから50種類も載っていたんですよ。レタスは実に49種類。チコリも48種類載っていたんですね。それをきっかけにしていろいろな種類のレタスやチコリをつくって、これをサラダにしたんです。「サラダってのはこれなんだ」っていうのがわかりましたね。日本だとレタスサラダって、大抵1種類ですよね。それにおいしいドレッシングをかけて食べましょうって感じ。でも、やっぱりレタスサラダのおいしさって、何種類かの違う葉っぱが合わさって、その微妙に違う食感とかを楽しむことだと思うんです。パリパリしてたり、やわらかかったり……。それとちょっとルッコラの苦味があったりするから、オークリーフの甘さが引き立ったり……。そんな葉っぱのおいしさが口の中でひとつになるんですよ。だから、おいしいレタスサラダを食べたければ、自分でいろいろな種類をつくって、採れたてを食べれば、それが味わえるな……と。

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例えばトマトのおいしさ。リョッケントマトっておいしいって言うけれど、身内びいきかもしれないけど、うちのトマトはもっとおいしいです(笑)。樹上で完熟させて、落ちる寸前のいちばんいい時期に採ってきて食べるから、おいしいのは当然なんです。
それから、インゲン。八百屋さんで売ってるのは、さやいんげんですよね。それも、ストリングレス、筋がない細くてやわdらかいのが主流で、昔ながらのゴツゴツしたインゲンは、なかなかないでしょ。で、私もインゲンつくってるんですよ。まず、細いフレンチタイプのインゲン。それは、若い味がするのでサラダとか 軽いドレッシングで食べるとおいしいんです。それが少し大きくなって豆がふくらんでくるんです。それは、からし和えなんです。そのあとも豆がどんどんふくらんできますよね。私は、豆が大きくなったら、乾燥させて食べるもんだと思ってたんですね。ところが、その間の豆がまだ未熟な状態、要するに枝豆です。これがおいしい。今年キッチンガーデンを一所懸命やって、大発見のひとつはその未熟な豆がおいしいってことでした。そら豆をもっとこうマイルドにしたみたい、本当にフレッシュで、あんな豆食べたことなかったです。誰も教えてくれないから、私は食べられないもんだと思ってたんだけど、絶対あれはやってみるといいですよ。そういうステージがあって、最後に豆が成熟して、それを乾燥して取っとくと、今度チリコンカンとか煮豆とかに使える豆になります。つまり、インゲンを栽培すると4つのステージのインゲンを楽しめるんですね。これは、栽培者じゃなきゃ味わえない楽しさ。
チコリなんかも、春のチコリと霜をかぶったときのチコリって、全然味が違うんですよね。チコリって、だんだん苦くなっていくんですけど、霜にあたるとまた甘さが劇的なほど蘇ってくるんですよ。そういうふうに、各ステージごとに最後までつきあうことで、そのときどきのおいしさが味わえる。これもキッチンガーデンをやっててよかったなと思うこと。

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キッチンガーデンでは
自然の営み、循環、
さまざまなことをたくさん学べるんです!

もうひとついいのが、自然のことがいろいろ学べること。例えばブルーベリー。実がなるとうれしいし、おいしい。でも、ブルーベリーにはひよどりという敵がいるんですね。ひよどりが来て、完熟したおいしい実を1分間に10個くらい食べるんです。10羽も来たら、1分間に100個。一所懸命に育てたのにそれを食べるんですね。私たちはあらゆる手段で、ひよどりを追い払うわけです。でちょっと見方を変えてみましょう。ひよどりが実を食べるとフンをします。そのフンの中には、ブルーベリーの種が入ってるわけなんです。その運のいい種が育ってブルーベリーの木になって、また実をつけるんです。ということは、ブルーベリーから見ればひよどりは敵ではなく、むしろ味方。ただ「おいしいね」って食べている人間の方が敵。「ああ、そうなのか」って、それが自分で育ててると実感度が違うんですね。この小さい種が、教えてくれるんですよ。
種はね、本当に素晴らしい。いろいろなことを教えてくれます。花が咲くでしょ? 花が咲くと昆虫が来ます。そんなの当たり前だなと思うでしょうけど、自分の家にミツバチが来るとすごくうれしいもんなんです。ミツバチは夏に花粉を媒介して、植物の繁殖を助けるわけです。そんな自然の営みを1粒の種が教えてくれるんです。キッチンガーデンって、おいしいとか安全とか、そういうことももちろん大切だけど、同時に自然の営み、自然の循環を、知らず知らずに実感させてくれるところに、おもしろさがあるんです。
プランター1個でわかることなんですよ。バジルを育てると葉虫が来るかもしれないし、ミツバチが来るかもしれない。観察していれば、そのひとつの小さい宇宙がプランターの中に見えてくるはずです。そういう物を育てるっていうことを、ぜひやってほしい。それで、おいしい物を食べられればもっといいじゃないですか。そういうことでキッチンガーデンをぜひ!

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いまの私の食生活をごらんください!

(映像)
これは、ハチを飼ってるところ。蜜を絞ろうとしてるところです。煙かけるとハチはおとなしくなるんですね。ああやってハチを落します。あそこの光っているところに入ってるんですよ。ああやって蜜にロウで蓋をしてるんですね。それを採って、遠心分離機に入れます。そうすると、蜜がバンバン飛び散るんですね。この蜜がすごくおいしいんです。花の香りが強くて、サラッとしていて、本当においしいですよ。花で全然違ってくるんですよね。うちはヒソップをたくさん植えてるんで、ヒソップの蜂蜜が多いですね。3群で6万匹くらい飼っていて、1回に7~8リッターの蜜が採れます。

(映像:ブルーベリー摘み)
朝の5時です。どうして5時かっていうと、5時のブルーベリーがいちばんおいしいんですよ。朝露に濡れてて、冷たくて、もう日中のブルーベリーとは全然違うんですね。。ブルーベリーはやっぱり生がおいしいです。ああやって摘みます。ブルーベリーは1本の木で大体2キロくらい採れます。

(映像:ジャガイモの収穫)
ジャガイモですね。ここがキッチンガーデンです。ジャガイモをいろいろ植えてます。5月ですね。耕して、堆肥入れて、鶏糞入れて、ジャガイモを植えます。5月に植えて大体9月に収穫します。結構できてるでしょ。掘りたてを茹でる。土の香りがすごくするんですよ。ジャガイモって採りたてっていうのも すごくおいしいですよ。これはバターをつくってますね。ジャガイモにはやっぱバターがいいって言うんで、脂肪分の高いジャージーミルクから、おいしいバターをつくります。

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(映像:おいしい報酬)
ブルーベリーの苗を植えてるとこです。いま3000株くらいつくっています。これは、家の向かいにあるブルーベリー園の畑。夏にいらしていただけると、ここのブルーベリーが詰めます。それで、ブルーベリーの植え付けが終わって、今度はアスパラガスを採りに行くという話になってます。近所の農家でグリーンアスパラをたくさんつくいるので、分けてもらっています。このまま食べるとおいしい。これ宿根草なんで、ここのは多分20年くらい経っていると思います。長いのだと、40年経ってるっところのもありますよ。
で、ここに帰って来て炭火で焼きます。いまいちばんおいしいと思うのは、茹でるよりも、炭火。おいしさが閉じ込められています。

(映像:トマト讃歌)
トマトもいろいろな種類つくっています。いつも5~6種類つくりますね。いま料理用トマトに凝っています。料理用トマトってすごく強いんです。これがそうですね。サンマルツヤーノ。うちのトマトほんとにおいしいですよ。これバジルです。バジルはいつも10~20種類つくっています。これはレンガの家の地下にある地下のキッチンですね。トマトはソースにして貯蔵しています。バジルのペーストもつくっています。ペーストはイタリアの味噌ですね。こうやっておくと、1、2年持ちます。トマトとバジルって味の相性もいいけど、隣同士に植えると生育もよくなるんですよ。

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北海道での生活の続き、
スローフードな食生活を
スライドで見てください。

(スライド:ブルーベリーを挿し木してるところ)
ブルーベリーは挿し木で増やすんです。剪定した枝を20センチくらいに切って、ピートモスに挿して苗をつくります。

(スライド:ブルーベリーを植えているところ)
ブルーベリーの苗を植えているとこ。2年くらい経つとこうやって収穫できるようになります。

(スライド:ブルーベリー畑)
ブルーベリーを収穫してるとこですね。大きくなると大体1メーター50センチくらいになります。1本の木から5キロくらいは採れます。だから、うちには3000本あるから、10トンくらい採れるはず。なのに、なぜか2トンくらいしか採れないんです(苦笑)。

(スライド:ブルーベリーの実)
ブルーベリーの実ですね。生は本当においしいです。

(スライド:畑)
紅葉です。ブルーベリーってツツジ科だから、花もきれいだし、秋になるとこうやって真っ赤に紅葉します。

(スライド:雪景色)
冬を雪の中で過ごします。

(スライド:ビニールハウス)
春先ですね。これは、昔のビニールハウス。いまは念願の温室をつくりました。これは、苗を鉢にあげてるところ。全部ひとりでやるんですけど、1000株くらいつくります。

(スライド:夏の農園)
初夏ですね。デルフィニウムがうしろに咲いてて、これがキッチンガーデン。ハーブ、野菜を各100種類くらいつくってます。

(スライド:ルバーブ)
これはルバーブ。手に入りにくい好きな野菜を栽培できるのも、キッチンガーデンのいいところです。

(スライド:パイ)
ルバーブのパイ。おいしいですよね。いまやルバーブのジャムとか、ルバーブのパイを食べなきゃ春が来ないんで、一所懸命栽培してます。

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(スライド:畑)
ジャガイモはこうやって大量に裏の畑で栽培しています。

(スライド:ジャガイモ料理)
ジャガイモを、ローストしたラム肉と一緒に食べます。手前はレッドアンデスというちょっとさつまいもっぽいほくほくしたジャガイモ。すごくおいしいです。

(スライド:レタス)
これは、日本で売ってたガーデンレタスミックスっていう何種類かのレタスがミックスされたものです。

(スライド:チコリ)
チコリ、おいしいですよ、苦くて。

(スライド:花)
これはフラワーミックス。エディフルフラワーですね。さっきのチコリとレタスを合わせてサラダにすると、最高のサラダができます。

(スライド:トマトの実)
サンマルツヤーノっていう加工用のトマト。犬も大好きで、収穫すると、寄って来てかじろうとしています。

(スライド:野菜)
私、ラタトゥユっていう料理の成り立ちが、キッチンガーデンをやって初めてわかりました。最初バジルを採って、それからトマト採って、ズッキーニ採って、ナス採って、インゲン豆採って、ルッコラ採って、戻って来てそれを鍋に入れると自然にラタトゥユができます。

(中略)

(スライド:りんごの木)
りんごの木を植えているのですが、いくら植えてもこんな貧弱なりんごしかできません。というのは、りんごってすごく改良されちゃったために、農薬の助けを借りないとまともな実がならないんです。何回トライしても、まともな実はなりません。まあ別に病気になってても、食べるのに支障はないから、採ってアップルパイ焼いたり、ジャムをつくったりします。

(中略)

結論から言うと、私はスローフードの話をしたかったんです。
例えば、先日土つきのタケノコをもらったんですね。これを食べるまでに、いかにタケノコがスローなものかってのがわかりました。まず大きい鍋を探しに行く。今度はこれを茹でるのに、隣の農家に行って糠をもらって来る。唐辛子はあった。それで、タケノコを茹でて灰汁を取るでしょ? それで、そのまま冷やしたら今度糠臭さを取るために、水にさらします。その間にだしを取っといて、今度はタケノコを煮ますよ。味を染み込ませるために1日置きます。結局、鍋を探しに行って、口に入るまでに、ものすごく手がかかるんですよ。これを私は、次の世代に伝えたいんです。でも、あと10年もすると、もしかしたらタケノコ料理って、料亭の料理になっちゃうんじゃないかと思うんです。だから、タケノコはおいしいもんだってお子さんに伝えてください(笑)。スローフードって、やっぱそういうところに原点があるんじゃないでしょうか。魚は切り身じゃないんだよ、おろして食べるもんだよと伝えたい。昔ごく当たり前のことだったのが、いまはそうじゃなくなっていますよね。それを意識的にこどもたちに伝えていかないといけないと思います。ずっと過渡期だって言われてて、どこかに着地するのかなと思ってたんだけど、着地しないですね。漂い続けてると思うんです。だから、いいところに着地させるのが、スローフード運動の目的になるんじゃないかと思います。必要なのは、いまのこどもたちがあと50年したら、どうやって生きていくんだろうっていう想像力。いまそれを想像する、しないで、かなり変わると思います。自分の行動の規範とか、倫理感をそこに置かなくてはいけないなと思っています。
食べることを通じて、豊かな社会をつくりたい。食べることはおいしい物を食べることがいちばんだけれど、食べることは自然とも近づくことができること。だからキッチンガーデンをつくりましょう! こどもたちにいままでのいい食文化を伝えていきましょう。こどもたちが50年後も楽しく健康に生きられるように、私たちができることはないか考えましょう。

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<第2部>

お客さまとのQ&A

お客さま:
時間短縮、便利さを求めてファストフードに変わってきた現代の食文化をスローフードに戻すところに意義があるのでしょうか。そして、次世代に何を伝えていきたいですか?

宇土さん:
日本ってずっと大豆の文化だったんです。日本では大豆と米さえつくっていれば、食生活って成り立つんですよね。でも、その大豆がいま輸入品に押されて、いま95パーセントが輸入なんです。
大豆って素晴らしいんですよ。大豆は豆科の植物で、地面に根を下ろしますよね。根に根粒菌っていう菌がつくんですね。その菌が窒素を空中から持って来て、それを地面に固定しちゃうんです。要するに地面に窒素を取り込むんです。窒素は、植物の肥料になるんですね。だから大豆は、自分のための肥料を自給自足してるんです。素晴らしいでしょう!そして豆を取り出したあとの豆殻は、羊や牛が大好きなんです。豆殻をやると我先に食べるんです。豆はおいしいし、地面は肥えるし、殻も利用できる。そして、醤油、味噌、豆腐などいろいろな加工品にもなります。大豆ってすごく素晴らしいんだけれど、その文化を続かせていくには、大豆を生産しないことにはだめだと思うんです、ある日輸入が止まってしまうと、日本の大豆文化はすごく危機に瀕するわけです。
だから、いま大豆トラスト運動みたいなことをやってます。大豆を栽培してる国内の農家を応援しましょうねと……。そういう動きって大切だと思うんです。みなさんも大豆にぜひ目を向けてください。そういうことがファストフードからスローフードへっていうかけ声だけじゃなく「大豆ってのは、こうやって使うんだよ」ってのを、こどもたちに伝えましょう。給食でもどんどん使えばいいんですよね。そういうことが第1歩じゃないかなと思ってます。

フェリシモ:
いまの日本人の間違った食生活、例えば過剰なダイエットなどについてはどう思われますか?

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宇土さん:
日本でダイエットって言うと、とにかく痩せるっていうことですよね。本当は痩せる食生活じゃなく、正しい食生活が大切。ものすごく厳格な玄米を主体とした食事とか、なんか偏っていて、自然な形で「おいしいな」と思って、体にいい食生活が確立できないんですよね。それやるには、意識して勉強した方がいいと思います。その中で、自分なりの食スタイルをつくり出していくといいと思います。
例えばミューズリー。私はそれも自分でつくっちゃうんですけど、オート麦を煎って、ほかのライ麦とか、ナッツとか、ドライフルーツを混ぜたやつで、それをつくるのは昔ながらのやり方のスローフードなんだけれど、それにヨーグルトをかければ朝食になるから、とてもファストフードなんです。朝はそのミューズリー&ヨーグルトとニンジンのジュースとハーブティー、もうこれ10年来全然変えてないんですね。朝はそれで、昼はおいしいパンとチーズとコーヒー。それから、夜は畑から採って来たものをなるべくおいしく食べてあげよう、それが、野菜に対する私のお礼の気持ちじゃないかと思って、夜は手がかかってもたくさん野菜料理をつくります。そういう食生活を自分なりの食のスタイルをつくってから、とても食生活が楽になりましたね。
だから、すごく忙しい人が、デパ地下でお惣菜を買ってくるのは、それでいいと思うんです。それが自分のスタイルなんだから。忙しい忙しいって言いながら料理をつくるよりも、「たまにはお惣菜もいいじゃない」って買って来てもいいと思うんです。
そのスタイルが健康にいいかどうか検証できるのは、食に対する知識だと思うんですよね。その知識を得て、自分の食生活を確立するとすごく生活が楽になります。

お客さま:
農民として、作物をブルーベリーにされたのは、なぜですか?

宇土さん:
いろいろ考えたんです。じゃがいもがいちばんつくりやすいんですよね。あとりんごとか、いろいろトライしたんですけれど、つくってくうちにブルーベリーという植物が大変好きになったんです。ブルーベリー栽培って完全に無農薬栽培ができるんですよ。あと、野生種のブルーベリーと栽培種のブルーベリーは大きさが変わらないんですよ。つまり改良されてないってことなんですね。それから木の寿命が長いんですね。100年くらい持つんです。だから財産としてもいいんじゃないかと……。野生に近いから、肥料をばんばんあげなくても無事に育つんです。しかもおいしい。そういう点からブルーベリーを選びました。これは、なかなか当たりじゃないかと思っています。

フェリシモ:
最後に神戸学校事務局からの質問です。私たちが自分らしく生活をデザインするには、何が大切だと思われますか?

宇土さん:
私自身で言えば、あらゆる物にアンテナを張りながら、好奇心を持ち続けましょうよということでしょうか。自然に対してもそうだし、世の中に対してもそうだし。好奇心だけは失わないでいたいと。それがある限り、生活は楽しくなるだろうと思います。好奇心を失って行く、それが歳を取っていくことだとしたら、意識して好奇心だけは失わないようにしたい。とにかく生活の隅々まで好奇心にあふれていたい、そう思います。

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Profile

宇土 巻子(うど まきこ)さん<料理研究家/エッセイスト>

宇土 巻子(うど まきこ)さん
<料理研究家/エッセイスト>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
1950年東京生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒業。1973年岐阜県飛騨にアリスファームを設立。10年後の1983年に北海道に本拠地を移し、農業、食品加工の専門家グループとして活動を続けている。著書は「田園の食卓」(山と渓谷社)『闘う園芸』(平凡社)ほか多数。新刊に「農的生活12ヶ月」(世界文化社)「緑色生活」(北海道新聞社)「キッチンガーデン熱」(文化出版局)がある。

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