神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

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「好きをかたちにする手仕事の喜び」



<第1部>

自分のブラウスの衿にしたレゼーデージーステッチ
それが刺しゅうデビュー

私が刺しゅうを始めたのは小学校5年生くらいのころなんです。「糸で絵を描いたらどういうふうになるかしら」というのが発端でした。小学校のころ、たまたま学校の近くに、お菓子とか文房具とかを売っていた駄菓子屋さんがあって、そこで怪しげな糸の束を買って、自分のブラウスの衿にレゼーデージーステッチで花を刺しゅうしたのが最初です。母が洗濯をしたら、色が流れてしまって悲しかった、というのが、いちばん最初の鮮烈な思い出ですね。
そのあとに、おこづかいを貯めて、糸を買ったり、本を買ったり……、積極的に刺しゅうを始めました。そのころに買った1冊の本だけが情報源で、毎日毎日その本を見ては「こういうステッチってこういうふうにするのね」と……。その本の中の何ページには何があるっていうのも完全に覚えちゃうくらいでした。もしかしたら、いまみたいにたくさんの情報がある世の中よりも情報が少ないところで、ぐっと深く自分の知識を身につけていくっていうことができたんじゃないかなと思います。
そのときにいろいろなステッチとか、刺しゅうの知識を得たんですけど、ちょっと疑問も出てきたんですよね。いまでもすごく覚えているんですけど、色の生地にこれもまた色の糸で貝殻かなんかのデザインがしてあって、それは小学生の私が見ても、「このデザインってよくないなあ。どうしてこうなっているんだろう。」と思ったんですね。そういう疑問がベースとなって、いまの本をつくるときに、下手でもいいから、なるべく自分で文章を書いて、私はどういう思いでこれを作ったのか……とか、そういう刺しゅうの周辺をお伝えするようにしています。刺しゅうを見て、色が好きとか形が好きとか、そういう方ももちろんいらっしゃるんですけれど、多分実際に刺しゅうされる方に、「こういう庭からこういうモチーフを取ってこうなりました」ってことがわかると、より刺しゅうが楽しくなるんじゃないかなぁと思います。最近は取材も増えて、刺しゅうのあるライフスタイルっていうものを取り上げられることが多いんですけれど、私自身はそのライフスタイルを全面に押し出すっていうよりも、やはり刺しゅうの周辺を知ってほしいという意図があります。

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というのも、刺しゅう自体は特別な人間とか特別な環境から生まれるわけではなくて、普通の暮らしのなかで、毎日の小さなトキメキとかワクワクする気持ちから生まれるものだと思うんですよ。物事って“感じ方”かなって思うんですよね。例えば、天気のいい日にハチがブーンと飛んでる、で、それを聞いて自分でしあわせだなぁって思えるか、庭を歩くとトカゲがあたふたと目の前を走ってる、それを見て楽しいなぁって思えるかどうか……。そして、その楽しさを私は刺しゅうを通して伝えたいなあって思います。私には刺しゅうという表現があって、多分作家の方は文章で、絵描きさんは絵を描いて……、人それぞれいろいろな表現方法を持っているんじゃないかなあと思います。
刺しゅうというと、古典的なイメージで、ゴージャスな花とか伝統的な模様を浮かべる方が多いと思うんですけれど、刺しゅうは表現方法のひとつ。油絵とか水彩画と同じように古典的なものからモダンなもの、そして前衛的なものまで、いろいろな表現ができると思うんですね。私の刺しゅうは「フリー刺しゅう」とか「ミクストメディア」っていうふうに紹介されています。「ミクストメディア」というのはメディアをミックスするという意味なんですけど、私は少し狭い意味に使っていて、テキスタイルの中のミクストメディア。ですから、織りとか染めとかプリント、ペインティング、アップリケなんかも含めていろいろなテクニックを使って、ひとつの刺しゅうを仕上げる……、そういう作品を作っています。

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第1次北欧ブームにスウェーデンへ。
技術以外にも多くを学んだ1年間でした。

なぜこういう刺しゅうをするようになったかっていうのは、多分スウェーデンで、いろいろな人と出会ったり、デザインを見たり、ものとの出会いがあったからだと思います。
それで、これからスウェーデンに行った経過をお話します。
絵を描くのも好きだったし、デザインの仕事だったら自分に向いてるかなと思い、美大に入り、そのあと、日本カラーデザイン研究所というところに勤務しました。そこでは色に関する業務をするプランナーとして仕事をしました。仕事を始めてみて、初めてわかったんですけど、デザイナーっていうのは、デザインするだけじゃなくて、人前で上手に説明したりとか話したりとか、クライアントを説得しなくちゃいけないっていう、それがいちばん大きいなっていうのを考えて……。これは自分に向いていないなと思って、3年半で挫折しました。
それで、もう一度テキスタイルの勉強をして、クラフト関係だったら向いてるかなと思って、それでスウェーデンの学校に行くことにしました。いま、第2次北欧ブームと言われ、イルムス(イームズ)を中心に北欧のデザインがいろいろ紹介されていますが、私がスウェーデンに行った70年代は、第1次北欧ブーム。ちょうどABBAが流行ってたころですね。スウェーデンに大変詳しい人が身近にいて、その方の影響もあり、一度“織り”を学んでみたいなあと思ったのがきっかけでした。

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スウェーデンで通った学校は、ストックホルムから列車で4時間ほどのボロースという町にある「ボローステキスタイルインスティテューデッド」という町営の学校。いまはカレッジになっていて、入るのはちょっとむずかしいみたいですが、そのころは割合と幅広く受け入れてくれていました。ボロースという町はスウェーデンの中でもテキスタイルの工場とかオフィスが集まっているちょっと特殊な町。そこで本当にゆっくりと1年間、勉強しました。デザインのクラスには生徒が16人。その中には私のようなスペシャルスチューデントと呼ばれる生徒が、日本人3人、アメリカ人ふたり、アイスランド人がひとり、オランダ人がひとり、それにスウェーデン人がひとりいました。いろいろな経歴、年齢の人がいてテキスタイルデザインっていうことだけで結ばれたクラスメイトでした。
デザインのクラスに入ったので“織り”ばかりではなくて、プリントとか糸紡ぎとかニット……、そしてトリコという、私がいま着ているようなボーダーのデザインを自分で描いて、それを機械で織るっていう実技の授業もありました。トリコの機械って丸いんですね、それに自分で糸をセットして10mくらい織るっていうのが、すごく新鮮でした。自分で機械で、そういう工業製品みたいなものを作ることができるおもしろさを学びました。
そこで、毎日、いろいろな素材に触れたり、デザインをしていくうちに、デザインというのは、決まった方法はないんだということがわかってきました。本当に自分の中から出てくるもので、出会いみたいなものがあって、そこで自分でいいなと思ったもの、私は“心と体のアンテナにひっかかる”と言ってるんですが、そういうものを基準にものを作っていくというのがあって、だから毎日、朝から晩まで勉強していても飽きることがなくて、こどもに戻ったみたいなそういう感受性を取り戻した感じでした。
そしてその日々接する人たちとの多様性とその生き方っていうのも受け取りました。例えば、離婚してこどもを育てながらバリバリ勉強している人とか、ゲイのクラスメイトとか。また、クラフト系のデザイナーたちは田舎に住んでいる人が多いんですよね。田舎に住んでいて鳥を飼っていたりとか。そういう生活をしながら、モダンデザインを次から次へと生み出している。私が考えていたクラフト系デザイナーのイメージは、いまふうな生活をして都会をさっそうと歩いているというイメージ。だから、私にはすごい遠い人って感じだったんですけれど、スウェーデンのデザイナーたちの生き方を見ていると、「ああ、デザイナーも普通の人でいいんだなあ」っていうふうに感じ、すごく解放された気持ちになりました。

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でも、まあ、それにしてもスウェーデンの手づくり派の主婦っていうのはすごいんですよ。隣に“織り”のクラスがあって、そこにはスウェーデンじゅうから“織り”の資格を取るために集まっている女性がたくさんいるんです。その女性たちは、ウイークデーは寮で過ごし、週末になると2~3時間かけて自分の家まで帰って、そしてまた月曜日から学校へ出てくるという……。それだけでも「すごいなあ」って思ったんですけど、その女性たちの中に、いつも大きなボストンバッグを持っている主婦の方がいたんですね。その人、よく編み物をしてるんですけど、そのボストンバッグが謎で、「いったい中に何が入っているんですか?」って聞いたらなんと「カーテン」って言うんですよ。かぎ針でおうちのカーテンを編んでるって言うんですよね。最初は小さくてよかったんだけれど、終わりの方になるとカーテンだからどんどん大きくなって……。で、それを全部ボストンバッグに入れて編んでるって言うんです。食事の前の待ち時間とか、ほんとちょこっとした時間にこちょこちょ編んでいて……。なんか、恐るべしスウェーデン人主婦っていう感じ。体力とか気力がちょっと日本人とは違うなあって思いました。

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スウェーデン主婦のようにマイペースに
それが好きなことを続ける秘訣でしょうか。

そして私がスウェーデンから帰ってきて、結婚して、子育てをしながら少しずつ少しずつ刺しゅうの仕事を続けました。その刺しゅうをなぜ続けられたかっていうと、そのスウェーデン時代のマイペースでマイペースでっていう気持ちが持てていたからじゃないかなあと思います。
あと、こどもを育てていらっしゃるお母さんたちはわかると思うんですけど、“○○ちゃんのお母さん”になっちゃうのは自分自身ちょっとつらいなあっていうのがあったんですね。刺しゅうをしているときだけは、自分に戻れるんじゃないかなと思い、がんばることができました。
特に、手仕事に集中していると非常に自分の内側に目が向けられて、脳からα波っていうのが出ているらしいんですよね。脳自体はすごくリラックスしてるんですけれど、すごく活性化してて……。私の場合はそういう、ぐっと集中しているときにいろいろな発想が湧いてくることが多かったんです。ですから、多分女性が昔から手仕事が好きと思われる理由のひとつに、まあ、自分の時間を持てるっていうことと同時に、何かそういうリラックスっていうのもね、非常に関係してるんじゃないかなあと思います。

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私が仕事を始めたのは、実は38歳のときなんですね。手芸家としては遅い出発じゃないかなあと思います。いちばん最初に作ったのはプリントごっこの本でした。実際に刺しゅうの仕事がスタートしたのは1997年「おしゃれ工房」の表紙からです。そのあと、刺しゅうの本を出したりとか、キットのデザインをしたり、広告の作品を頼まれたりとかして、5年間は本当にたくさんの刺しゅうをすることになりました。
仕事の時間っていうのは増えたんですけど、生活自体はそれほど変わっていません。10年前に家を建て替えたときに始めたガーデニングなんですけど、バラづくりを始めてからますますガーデニングにのめり込んでしまい、いまでは庭仕事なしでは生きていけない感じになってしまって……。もうできることならば、ポケットに庭をいれて持ち歩きたいって思えるくらい庭が好き。今日みたいに庭がない状態の私っていうのは、なんか切り花になったみたいな……、ちょっとしゅんとした気持ちなんです。このごろは、庭仕事の合間に刺しゅうをするっていう感じになっています(笑)。
あとで、庭の写真も見ていただきたいと思います。その庭のなかに私のデザインの秘密っていうのが入っているかもしれないので、楽しみにしていてください。では、ちょっと早いんですけど、スライドを見ていただきます。

(スライド上映)

<ブラウスの写真>
これはエッチングではなく刺しゅうです。いまはわりと花が身近な状態なんですけれど、何年も前、私にとっていちばん身近な存在はこどもでした。これは娘が2歳半のころに着ていたブラウス。こどもっていうのは、どんどん大きくなりますよね。こんなちっちゃなブラウスを着ていた娘の存在を残しておきたくて、ブラウスに刺しゅうしました。白い布の上に黒いバックをくり抜いてのせて、リバースアップリケというテクニックです。シャドウの部分はチュールレース、細かい部分は手刺しゅうです。

<チェックのシャツ>
これは私のチェックのシャツです。これのポイントはこのチェック。実は全部手刺しゅうしています。いまとちょっと作ふうが違うんですけど……。でも昔からやっぱりこれを刺しゅうでやったらおもしろいんじゃないかなっていう、そういう発想で作っていました。

<ソックス>
靴下です。グリーンとブルーはアップリケ。赤いバラとバックのドットは全部刺しゅう。これを均一に入れるため、メッシュをかけて目を拾いながらドットを刺しゅうしました。すっごく大変でした(笑)。

<手紙>
これは“スウェーデンからの手紙”。スウェーデン時代の先生から手紙が来て「がんばってやってますか?」みたいなことが書かれています。あまり格言とか好きじゃないんですけど、この手紙の文面を座右の銘にしようと思って刺しゅうにしてアトリエに飾っています。

<秋の刺しゅう>
シーズンエンブロイダリーでもなんですけど、秋をテーマに刺しゅうをしてみました。左の黄色いチケットはプリントごっこでプリントしました。スウェーデンのリンネの家に行ったことがあるんです。リンネっていうのは植物学の大家で、いまの植物の分類を確立した人なんですね。このチケットは、この人の生家に行ったときのチケット。私にとって大変貴重なものです。

<クリスマスの準備>
クリスマスの準備ということで刺しゅうしたもの。北欧のクリスマスというテーマで作っているので友だちから来たクリスマスのシールとかあと友だちにもらったジンジャークッキーのレシピをそのまま刺しゅうしたり……。小さいスプーンやフォークなんかを一緒に刺しゅうしたりしています。

(略)

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<Hの庭>
縦1m、横2m、私の中でもかなり大きな作品です。家族でファンだったムーミンの物語のヘムレンさんが庭を作ったらこんな感じかしら…… という思いで作りました。それは私自身の夢の庭でもあるんですけど、そのころなかなか育てられなかったデルフィニウムだとか、マルレーンとかが育ったらいいなあという思いで作りました。これは織物でベースを織ってから刺しゅうしています。

<クロワッサン銅賞作品>
これは同じタイプの織物に刺しゅうをしたものです。バックのラベンダーの畑の方は、最初から織り込んでいます。もしかしたら、ご覧になった方がいるかもしれないんですけど、15回目のクロワッサンの『黄金の針』で銅賞をいただきました。

<花のデザインノート>
デザインをかっちり固める前のいろいろな物を書き出した状態っていうのが、私はフリーでいいなと思ったので、スケッチブックの上にいろいろな素材をのっけたところをポッと刺しゅうにしてみました。

<イエローフラワー>
これはイエローフラワーをいろいろ集めて、刺しゅうしました。

こういう作品が生み出される源は、私の庭なんです。刺しゅうに関係ないかもしれないんですけど、庭の写真も少し見ていただければと思います。

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多くの刺しゅう作品のモチーフの
ベースとなっているのは
青木さんの美しい花園

<庭の写真の映像>
きれいな所ばかりを見ていただいたので、いつもいつもこんなにきれいに咲いているわけではないんですけど。花が終われば掃除もしなくちゃいけないし、暑くなれば毎日水もやらなくちゃいけないし、日に焼けるし、シミは増えるし、シワだって増えるし……。でもやっぱり楽しいんですね。それはなぜかなあと思うと、きっとそれは好きなことをしてるからじゃないかなあと思うんですよね。好きなことを思いっきりやっていると想像力と好奇心がどんどん湧いてきます。特に私にとって庭仕事というのとぼんやり庭を眺めているっていうのが、インスピレーションの素なんですよね。

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だから、私は、庭仕事のできる暮らしをすごく大事にしていきたいと思っています。なぜそれをわざわざ言うかっていうと、ちょうど私が忙しくなり始めたとき、ある方に「青木さんも早く事務所を持ってスタッフをいっぱい抱えてどんどん大きくなるといいですね」って言われたんです。私としてはそれはとんでもない話で、事務所を構えたり、スタッフをいっぱい抱えたら忙しくなっちゃって、庭の仕事もできないし、第一、家にいられなくなっちゃいますよね。私は、家にいるのがすごく好きなので、とにかく家にいて、刺しゅうができて庭仕事ができるのがいちばんいいんじゃないかなあと思っています。
花のシーズンにはアトリエに行くときって、ものすごく時間がかかるんです。歩いて行けば10歩くらいの距離なのに、必ず花を眺めたりするので、ときにはアトリエに辿り着けないこともあるんです(笑)。でも、まあそういう生活がいちばんいいのかなあって思っています。

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マイペースにシンプルに……
目指すのは“普通の暮らし”

そして私が目指しているのは、“普通の暮らし”っていうのかな。本当にこどものころ、憧れていた刺しゅうをする人になったいまも、特別な暮らしはしていなくて、かえって普通よりシンプルな暮らしをしてるんじゃないかなと思うんですよね。早寝早起きっていうのはガーデナーの鉄則。きちんとごはんを食べて、おやつも食べ、家事と庭仕事をしたら10時からは必ずアトリエに入る…… と。で、5時か6時くらいまでは仕事をしたら、家に戻って晩ごはんをつくる…… と。「なあんだ」と思われるでしょ。でも、昼間は本当元気で頭の中が活性化しているの。夜遅くまで仕事をしていて、昼間の時間をスポイルするっていうのがいちばん嫌なんですよね。
そして、自分の好きなことをする、特に自分のときめくことをする……。「それってどうすればいいの?」ってことになるかもしれないんですけど、それは自分自身のことをよく知って、自分は何が好きなのかということを自分で知るってことなのかなあ。いつも言うんですけど、答えというのは誰かが与えてくれるものじゃないんですよね。もう自分の中にしかない……、私はそう思います。そしてなんていうのかな、これも感じ方なんだと思うんですけれど、例えば「新しい花が咲いてうれしい!」って思える自分をずっとキープしていきたいと思っています。
マイペースでシンプルで、それで、なるべく他の人に迷惑をかけないように生きるっていうのが、私のライフスタイルだと思います。

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<ピンクッションの実習>
この日はお客さまと、ミツバチとクローバーの図案のピンクッションをつくりました。青木さんにアドバイスをいただきながら、おひとりおひとりご自身の作品に愛着もひとしおのご様子でした。

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<第2部>

お客さまとのQ&A

お客さま:
先生はいろいろな素材を使ってらっしゃると思いますが、素材へのこだわりはありますか? 例えば、スウェーデンの糸とか布などにこだわりがあったりしますか?

青木 和子さん:
スウェーデン製じゃないといけないってことはないですけれども、私自身、麻っていう素材がすごく好きで、日本だと麻の刺しゅう糸はなかなか見つからないので、糸屋さんで細めの麻糸を買って自分で染めて使っていました。あと、麻の織り糸なんかも使ったりしています。そうですね、25番だけじゃなく、たとえば5番糸を使ったりとか、自分で工夫していろいろな糸を使うといいんじゃないでしょうか。 素材はたいてい東急ハンズの素材コーナーとかクラフトコーナーに出かけて、なんかおもしろそうだなっていうもので、ミシンで縫えそうなものをピックアップしています。ですから、こういう仕事をするとアトリエがぐちゃぐちゃになるのはもう当然って感じ。だんだん物が増えるばかりで、なかなか減らないのね。それでもやっぱり新しいものを見つけるとつい買ってしまいます。こういう仕事をするにも物欲って必要かもしれないなあ。おもしろいものを見つけたら、「使うかどうかわからないからいいわ」って買わないんじゃなく、「買ってみよう」というふうに一歩出るところっていうのが必要かもしれないですね。

お客さま:
アトリエでお仕事をされるとき、BGMは?

青木さん:
わりとジャズピアノが好きなので、ジャック・ルーシェのプレイバッハとかプレイサティとか。軽いジャズのクラシックと、あとミシェル・ペトルチアーニというジャズピアニストの曲とか……。最近久しぶりにCDを買ったんですけど、キャロル・キングのベリーベスト盤を買いました。元気を出したいときに聴いています。

お客さま:
先生の夢についてお聞かせいただけますか?

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青木さん:
もう1回勉強したいなっていうのがあるんです。いまも、いろいろな刺しゅうをしてますが、興味を持っているのがマシーンエンブロイダリーという、ミシンで刺しゅうをするジャンル。特にイギリスでは産業革命も起こったくらいミシンの歴史も古いし、そしてマシーンエンブロイダリーもいろいろな層の人がやっています。ぜひもう1回、向こうの学校に入って刺しゅうを習ってみたいなあと思います。

お客さま:
庭の花を刺しゅうに仕上げる過程を教えていただけますか? 実際の花はスケッチするのですか? 写真に撮るのですか?

青木さん:
そうですね。実際に自分でスケッチしたものをそのまま刺しゅうで使う場合もあるし、あとまあ、私の場合、写真は半分趣味で、お花ってきれいに咲いてもどんどん枯れてしまうし……。だから、まあその記録のために写真を撮っています。実際に庭の花がそのままの形で作品になるかというと、私は、どちらかというとその花から受けたインスピレーションを基にして構成していくっていうことが多いんです。例えば、ワイルドフラワーを植えたとすると、ワイルドフラワーのシンプルさと可憐さ……、それをまず軸にしてデザインを考えて、そしてもう1回庭に咲いている花のコレとコレとコレを組み合わせてひとつの作品にしようかなっていうふうにします。花って結構複雑なんですよね。それを刺しゅうにしようとすると、とても大変なので、それをもっともっとシンプルに書き直して、で、ポイントだけを刺しゅうのなかに生かしていきます。そのまま直にってことはないですね。ただ、身の回りに花があるっていうことは、非常に刺しゅうしやすい環境であるということは間違いないです。

フェリシモ:
最後に神戸学校事務局からの質問です。2002年の神戸学校では生活デザイン学校というのをコンセプトにしていますが、私たちが自分らしく生活をデザインするには何が大切だと思われますか?

青木さん:
自分らしさを表現するということは、自分を知ることだと思うんですよね。で、自分は何が好きなのか、たとえば自分はどういう色が好きで、どういう暮らしをしたいのか……、意外と外側に目を向けがちなんですけれど、自分の内側に目を向けてください。私はこういう性格だし、こういうものが好きだし、こういうものが嫌いっていうふうに、きちんと自分自身を知ることができる人が、初めて自分らしい生き方ができるんじゃないかなあと思います。

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Profile

青木 和子(あおき かずこ)さん<刺しゅう作家>

青木 和子(あおき かずこ)さん
<刺しゅう作家>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
1953年生まれ。武蔵野美術大学工芸・工業デザイン専攻。3年間デザイン事務所に勤務後、スウェーデンのテキスタイルデザインに魅せられて留学。帰国後は子育てに追われる日々の傍ら、少しずつ作品製作を続ける。ひとつの画面のなかにさまざまなテクニックを使うミクスト・メディアは試行錯誤を経てそのころ生み出された。糸と布と針を持ったらどんなものでも作ってしまう表現力は、丸4年制作したNHK「おしゃれ工房」のテキスト表紙で、大きな反響を呼んだ。企業の広告や本の装丁も手掛けるなど活躍の場も広がっている。趣味で始めたガーデニングは今や生活の一部となり「ガーデナー」として、テレビ・雑誌の取材を受けることも。著書に『リボン刺しゅう』『愛しの丹羽をスケッチして』(オンドリ社)『青木和子の不思議地なニードルワーク』(NHK出版)など多数。

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