神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

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「コミュニケーションの模索~人との違いを楽しむこと~」



<第1部>

八谷 和彦さんのアイデアは
コミュニケーション下手だから生まれた!?

コンピューターとかカメラとか電子機器などを使ってつくられた作品をメディアアートって呼ぶんですけど、僕はそういうのをつくっています。ご存知なのは「ポストペット」というメールソフトだと思います。今年はあまり展覧会には出ず、ずっと「ポストペット」をつくってまして、今日は来月出るものも、お見せしたいと思います。作品としては、コミュニケーションに関するものをつくっています。とはいえ、別に僕がコミュニケーションの達人っていうわけではなく、基本的にコミュニケーションが下手だから、物をつくり、それを人に使っていただいて実験している感じ。今日は「こんな考えでこんなものをつくっている人がいるんだー」と楽しんでいただけたらと思います。

いくつか作品をお見せします。

(スライド)
「視聴覚交換マシーン」という作品があります。この作品が実質僕のデビュー作で、いまもずっといろいろところでやっているんですけれど、これはふたりの人の見えているものを入れ替えてしまうという作品。

(スライド)
これはNHKで放送です。ふたりでするものです。ゴーグルみたいなものをつけ、背中に羽が生えたリュックみたいなものを背負います。そうするとAさんにはBさんの視界でものが見え、逆にBさんはAさんの視点でものが見える。だからどっちかがぐるぐる回ると相手の目が回ったりする……という作品です。

PHOTO

(スライド)
東京都現代美術館でやったときのもの。僕の作品には、体験型のものが多いのでお客さまに実際に身につけてもらうということをよくやっています。

(スライド)
こどもがやっているところです。この作品は、基本的にやる人を選ばないです。外国でやっていたりもします。例えば中国、フランス、ハンガリー、ポルトガル、オーストリア……。それぞれの国で人々の反応が違うので、楽しいです。

(スライド)
この作品は、1999年につくりました。なるべく小さく、リアルに相手の視点になっていると思うように改良続けています。何のためにつくったかというと、男の人と女の人のからだと心が入れ替わっちゃう映画とか小説って昔からよくあったりとか、あとは、こういうのを思いついたときに、これをつけてキスするとどうなるんだろうかとか、そういう発想からつくった作品です。

勇気あるお客さまがやってくださるということで、準備しますね。
(お客さまが体験)
最初は人の視線になっちゃうということで動けないんです。動きと視界が一致しないので。
(会場:笑)
ちなみに声も常に転送されているので、相手の声もいつも耳元で聞こえる状態になっています。みなさん笑われていますけど、実際やるとすごくむずかしくて不思議な感じのするものなんです。

野生のイルカと泳ぐドルフィンスイムをやっていた時期があって、小笠原に泳ぎに行ったりしたんです。そのときにイルカの生態をずっと調べていて……。人間はだいたい目で見てものを知覚します。例えば見ただけで、パソコンがあるな、時計があるなとわかる。イルカは視界がきかない海の中にいるので音波でものを見ているわけですね。そういう音でものを見るっていう世界だったら、ひょっとしたら人の出した音波の反響をほかのイルカがとって聞こえているっていう可能性もある。それはどういうことなんだろうと考えたら、人間に例えると人の視界で物が見えているっていうことなのかもしれないなーと思ったんです。それを実現するような装置ってつくれるんじゃないかなーと思ってつくったのが「視聴覚交換マシーン」だったんですね。

自分のやりたいことのひとつに、いま人が普通に暮らしていてやることと、ちょっと違う感じの体験を機械でつくってみるみたいなことがあります。例えば僕スケーターだった時期もあるので、スケートボードをするのにランプっていわれるスケートボードとかインラインスケートとか滑るための台があるんですけど、それを彫刻としてつくったりとか……。

(スライド)
これは韓国でやったときのもの。日本からプロのスケーターを連れて行ってやりました。対馬海峡の映像が下に流れています。対馬海峡って福岡と釜山の間の海峡です。個人的には好きな作品なんですけど、大きな欠点があるっていうのに後で気づきました。これスケートボードできる人じゃないとおもしろくないんですね。当たり前なんですけど(笑)。
そういうことに気づいて、誰でも乗れるもので怖くておもしろいものがつくりたいなと思って「オーバーザレインボー」っていうでっかいブランコの作品をつくりしました。高さ5メートルくらいのおとな用のブランコって感じです。

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(スライド)
ブランコをこぐとこいだ角度によって色が変わって7人が全員別のところにいると虹の色になるっていうのをやりたかったんですけど、虹の色になるっていうのはコンピューター技術がおっつかなくて、完全にはできませんでした。自分も当然乗るわけなんですけど5メートルくらいのブランコって普通は乗ったことがないから、こんなに気持ちよいのかって思わないくらい気持ちよかったんですけど、酔っ払って公園に行ったりしてブランコに乗ったりすると、こどものときにブランコに乗った感じと全然違うのに結構びっくりしたりするんですね。こどものころはブランコってもっとゆっくり揺れていた気がするんですけど、おとなになって乗るとキコキコしているだけに思えるっていう……。それは多分こどものときの時間感覚と、おとなになったいまの時間感覚、同じ1秒でも感じる長さがきっと違うんですね。だから昔乗ったみたいに楽しくない。だったら振幅を大きくするために大きなブランコをつくればいい。こどものときの3倍の身長になっているなら、ブランコも3倍にすれば、こどものときに乗ったくらいのブランコになるんじゃないかなと思ってつくったものです。
非常に気持ちのいい感じのものができました。

(スライド)
「視聴覚交換マシーン」が自分の中では結構おもしろくできたんで、味をしめていくつか違う系統の作品のバリエーションをつくりました。実は「視聴覚交換マシーン」「ワールドシステム」の血を引いているのがポストペットだったりします。これは「ワールドシステム」という作品です。(中略)

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形あるものだけでなく、
インターネットという形での
作品もつくられています。

お金があんまりかかりすぎる作品をがんがんつくるのもどうかと思い、同時期に全くお金がかからないものをつくりたいなと思っていたんです。それが「メガ日記」というプロジェクト。なぜ「メガ日記」をやろうと思ったかというと、実は阪神淡路大震災とも関係しています。「ワールドシステム」とか「メガ日記」をつくったのは1995年なんです。この年って、オウムの地下鉄サリン事件とか、阪神淡路大震災などいろいろことがあった年。震災があったとき、僕は会社員だったんですけど、会社に出社したら「神戸ですごいことがあったらしい」ってテレビで中継しているんです。ヘリコプターからの映像だったんですけど、テレビ画面の左上に数字が出ていて、その数字がちょっとずつ増えていくんです。数字は亡くなった人の数。そのとき、怖いと思ったのは「いまこの瞬間にたくさんの人が亡くなっているという現実があるのに、リアリティーを持てない」ということ。東京から見ている、しかも空撮映像で俯瞰で見ているから、大変なことが起きているんだけど大変さが実感できないっていうことに怖さを感じて「どうしたもんかな」と思って家に帰りました。当時パソコン通信をしていたんですけど、そこで、震災に遭った人たちの日記とか、その日あったできごとがレポートみたいな形で流れていたんですね。それを見て初めてリアルに大変なことが起きたんだとか、本当にたくさんの人がいま起きていることに対してどういうふうに向かっているのかわかったというのがあって……。テレビみたいにパブリックなものとして高いところから俯瞰するんじゃなく、もっと人間の目の高さでその日に起こっていることを知りたいっていう願望が生まれました。

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例えば3000人亡くなったっていうことより、1家5人が惨殺っていうのにはすごく感情移入しやすいっていうか、本当に大変だって思えるんです。戦争とかもそうですけど、原爆で亡くなった方が10万人とか20万人っていう数字がもうなんかよくわからないっていうか、その重さを知覚できないのを、せめて100人の日常生活を理解するところからだったらなんかわかるんじゃないかと思ったんです。要するに1cmがないと100cmがわからないみたいな感じ。で、100人の日常生活を集めて100日間みんなで一緒に日記をつけていくっていうプロジェクトをやったんです。
それが「メガ日記」っていうプロジェクト。100日間日程を決めてその日程で100人が同じ場所で日記を書いていきます。いま2000年12月12日なんですけど、この日にいろいろ人が書いた日記があがっているんですね。台風が来ると、台風に対してみんなどんなことをしているかとか、あと風邪がはやっていると風邪ひいている人が何人かいたりとか。書いている人たちは全くの他人なので、最初は感情移入できないですけど、でもだんだんその人がどんな人なのかわかっていくとちょっとずつ同じ村の住人みたいな気持ちになっていったり、その中でつきあう人が出てきたりとか、そういうのがすごくおもしろいなと思って、やったプロジェクトです。
これは、誰でも参加できるし、いつでも抜けていいっていうものなんですけど、自分の中ではこの「メガ日記」とか、それを使った「見ることは信じること」に対してすごく思い入れがあって、アーティストが内面を表明することもそれはそれでいいと思うんだけど、普段生きている人たちの日々の営みを切り取るとか、あるいはそこの人たちの生き方そのもの、生きている事実そのものが本当は素晴らしいものなんだからそれがわかるんだったら、それを展覧会の会場で見せなくてもいいし、webでやってもいいんじゃないかみたいな気持ちがありました。それが「ポストペット」に繋がっていくんですけど。これは「見ることは信じること」という作品です。

(スライド)
チカチカしているようにしか見えないんだけど、その箱を通して見ると、実は日記であることがわかって、その箱を通さないと単にライトがまたたいているようにしか見えないっていう作品です。たくさんの人の日常生活っていうのが本当はあるんだけど、目に見えないわけですよね。で、目に見えないと僕らは普段ないものとして思いがちなんだけど、そうではなくて、単に見えないだけなんだっていうのをインスタレーションでわかりやすく提示したいと思ってつくったものです。

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八谷さんの夢の中から生まれた
「ポストペット」

僕はもともとサラリーマンをやっていました。コンサルティングの会社に勤めていて、CIデザイン、会社のロゴを設計したり、それに伴って新商品を開発したりしていました。商品開発をしていて、会社や工場の都合でものをつくっていくのは、ちょっと正しくないんじゃないかとか思いはじめて……。もちろんみんなの日常生活に役立つものをつくるのもいいんだけど、もうちょっとプライベートな動機「これがほしい」とか「これがつくりたい」とか、そういう動機でものをつくるっていうのもちょっとやってみたいと思って……。実は、サラリーマン時代から「視聴覚交換マシーン」みたいなものをつくったりしてたんですけど、賞をいただいたりして、2足のわらじをやっていけなくなって「ワールドシステム」をつくったころに7年間勤めていた会社を辞めました。
辞めたはいいんだけど、食っていかなきゃいけない。でも、せっかく辞めたんだから仕事的なことをやるよりは自分のつくったものを売って生活したいと思って……。

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そのころ僕はインターネットのメールを使ってたんですけど、インターネットのメールを使っているのは男の友だちばかり、女の子にメール出せないんだったらメールの意味ないじゃんみたいに思っていたんですね。ある日夢を見て、その夢の中で女の子の友だちからメールが来ました。メールの中にはなぜかテディベアが住んでいてテディベアがメールを運んでくるっていう夢だったんですね。で、そんな夢を見たって話をパソコン通信の仲間に話したら「おもしろいね」って。これを正夢にするのもおもしろいんじゃないかと思って、僕の大学の同級生で、セガエンタープライズっていうゲームの会社でゲームのキャラクターデザインをやっているマナベさんと、コウキ君っていうプログラマーと僕の3人で始めたのが「ポストペット」なんです。
3人で企画を最初はソニーミュージックエンターテイメントという会社に持ち込んだんですけど「うちはパソコンのソフトはつくってないんで。ソネットを紹介するよ」って言われて、ソネットの方にプレゼンテーションしたら、担当者の方が気に入ってくださって「やりましょう」ということになって、1年くらいかけてつくったのが「ポストペット」の始まりです。そのころはそんなヒットするとか全然思ってなくて、自分のまわり3000人くらいが使ってくれたらいいやとか、あとその、メールを使っていない友だちとかが使ってくれればいいやとか、そのくらいの気持ちで始めたものでした。

(スライド)
これは、ペットがメールを運んでくれるメールソフト。でもそれだけじゃなくて、ペットが勝手にメールを書くんですね。飼い主にちょこちょこメールくれるんですけど、たまに飼い主の友だち、この場合「ポストペット」を使っている友だちになりますけど、その人に勝手にメールを出すことがあるというソフトなんです。いまでこそみんな普通に受け入れてもらっていますけど、すごくよく似た行動をするものがあって、それはコンピューターウィルスなんですね。コンピューターウィルスと同じことを実はポストペットはやっているんだけれど、ウィルスのいやなところは勝手にメールを出すんだけれど、そういうことがやりたいんじゃなくて、さっきの「視聴覚交換マシーン」にも共通するんですけど、勝手に何かをする存在というのがいて、それがポストペットの場合は特別な誰かにしか出さないんですけど本当にメールのやりとりを何通もしている友だちにしか出さないようにできていて、そういうシステムが入っていることによって、コミュニケーションが豊かになるきっかけっていうのがあるんじゃないかと思うんですね。例えば「視聴覚交換マシーン」は視覚が入れ替わっちゃってるんで会話がないと歩けなくなってしまうから必然的に会話をせざるを得ない。その時に男の人と女の人がやって、背の高さが違うと「いつもこんな背の高さから私を見ているんだ」というのがあったりします。

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さっきの「メガ日記」にしてもテキストしかないんですけど、文字しかないことによってかえって全く知らないその人がすごく身近に感じられることがあったりとか、普通に考えると障がいに思えることが本当は僕らのコミュニケーションを豊かにしているんじゃないかという気持ちがあって「ポストペット」も、かわいいメーラーがつくりたかったんじゃなくて、そういうふうにおせっかいなことをメールソフトがすることによって人と人が仲よくなったりする、そういうものをつくりたかったんですね。
「ポストペットがヒットしてよかったですね」って言われるんですけど、何本売れたとか何人が使っているかっていうのはそんなにうれしくはなくて「ポストペットで結婚しました」っていう、そういう話を聞くとうれしくなったりとか、その人たちにこどもが生まれたらそれは間接的に俺のこどもみたいだな、と勝手に思ったりとか、そういう不思議なものをつくって世の中を楽しくしたいっていうのが僕の考えです。

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「ありがとう」の気持ちを伝えるための
作品「サンクステイル」とは……

(スライド)
「ポストペット」と同じ系統のシリーズで「サンクステイル」と「リンクリング」で3部作。その1個が「サンクステイル」です。

(スライド)
このようなものがあったら、みんな道路でイライラしなくてすむんじゃないかなって。これは僕自身がたまに運転してて「車線間違えたー」ってときに入れてもらうとすごくうれしいんだけど、その「ありがとう」という気持ちを後ろの車に表示する装置が車にないっていうことに「それでいいのか、車よ!」みたいな気持ちがすごくあって……。
車って、いまから120~130年前につくられているんですけど、より速くとか、燃費がよくとか、ナビとかそういう機能はあるんですけど、それよりも先に「ありがとう」って言えるようになろうよっていう気持ちがあるんですね。
1年間に日本全体で1万人くらいの人が、自動車事故で死亡しているんです。自動車と歩行者もあるし、自動車同士もあります。そして、死亡者数。実は少しずつ減少しているんですけど、それは事故が減っているということじゃなく、医療技術の発達も多分関係していると思います。死亡者数というのは、その日に死亡した、即死した人じゃないと自動車事故による死亡者にカウントされないんですよね。だから事故数は実は増えてたり……、事故数、確か年間100万件です。100人にひとりは自動車事故に合う可能性があるみたいな、そういうむちゃくちゃ高い確率。
それをちょっと考えて、事故って防止できるんじゃないかと思っていて……。道路でイライラしないっていうのも事故防止になるんじゃないかと思ったんです。要するに車には「気をつけろ」っていうクラクションとかパッシングとかいろいろあるんだけど「ありがとう」を伝える機能を車に持たせることによって、道路をジェントルな場所にして、事故を減らすっていうのもありなんじゃないかなっていうのが僕の考えです。(中略)
では、絶対買えないやつをひとつ。「エアボード」というジェットエンジンのスケートボードの一種です。『バックトゥーザフューチャー』って映画に出てくるオーバーボードがつくりたいなと思ってつくりました。

(スライド)
(中略)せっかくジェットエンジンの技術がある程度身についたから、今度は乗り物のシリーズをやりたいなと思っていて、そのうちのひとつは『風の谷のナウシカ』っていう映画に出てくるメーヴェっていうナウシカが乗る飛行機があるんです。ひとり乗りのパーソナルグライダーとか、パーソナルジェットグライダーですね。で、将来それをつくりたいなと思っています。

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(スライド)
「セントリフュージ」。これはイスタンブールビエンナーレに出した作品です。これは教会の中で行われた展覧会。白い四角い箱があって、その中に作品が全部入っています。風車がついていて、それを口でまわすとこういうふうに視界がぐるぐるまわるという作品です。ペアで体験する作品になっていて、お互い向き合って吹くんですけど、こっちから吹くのとそっちから吹くんで違う方向に回るんですね。構造的にカメラがたくさん入っていてそれが風車のまわる向きと回る速度に応じてスイッチされるという作品です。自分を真下から見ることってなかったりするので、これも鏡の変形っていうか、全く新しい鏡をつくりたいという気持ちでつくったものです。

(スライド)
これもちょっと系統は違うんですけど、美術館でジェンダーに関する展覧会があったんです。これは観客を裸にしたいなーと思って、比喩で言っているんではなくて、全裸になるって言わないと作品見せてやんないというそういう謎の作品です。嫌がらせをしたかったんじゃなくて、混浴の温泉みたいな状況を美術館の中につくりたかったんですね。で、裸になるって約束をした人に、この手袋型のカメラを貸します、これからこのふたりは部屋の中に入るんです。実際は部屋の中は真っ暗なんですね。で、赤外線のライトが実は中に仕込んであって、お互いの裸の影っていうのが真ん中のスクリーンに移ります。で、肉眼では赤外線が見えないので、本当に真っ暗な中にいるとしか思えないんですけど、ただその手袋型のカメラには赤外線のカメラが入っていて、真ん中のスクリーンには自分たちの裸の影が映っているっていう……。(中略)

という感じです。別に今日これを見たからといって、コミュニケーションの達人になったりはしないと思います。ただ、うまいのがえらいわけじゃないっていうか、稚拙でも本当に大切なのは何かを伝えようとする意思とか、仲よくなりたいと思う心だったりとかだと思うんですけど、例えばコミュニケーションを豊かにするっていう、楽しいっていうのがすごくいいなと思っていたりします。

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<第2部>

お客さまとのQ&A

お客さま:
映像を見てずっとわくわくしていました。プロジェクトに参加できますか。

八谷さん:
もちろんできます。東京でやるときは東京の人に手伝ってもらっているんですけど、もし姫路とか、あるいはその近辺、神戸とかで何かやるときにはぜひ参加していただけたらと思います。ただ、ノーギャラになってしまいます。その代わり、例えばさっきスタッフが乗っていたエアーボードに優先的に乗れる、そういうのはあると思います。

お客さま:
ご自分でお使いのポストペットにはどんなアクセサリーをつけますか。

八谷さん:
初代からネコのマチゾウっていうのを飼っているんですけど、マチゾウには眼鏡をかけさせています。まじめを演出しています。

お客さま:
『風の谷のナウシカ』に出てくるメーヴェをつくりたいとおっしゃっていましたが、完成したらいくらくらいで販売できそうですか。

八谷さん:
これは、売れないです。まず、安全じゃないっていう大きな問題があります。一応ジャンルとしてはウルトラライトプレーンみたいなジャンルが飛行機の中にあるんですけど、法律上はジェットエンジンを使っちゃいけないことになっているんですね。だから、日本の法律上は飛ばしてはいけない飛行機になってしまうんです。ただオフィシャルに飛ばしてはいけないことで、つくっちゃいけないことじゃないと思うので、つくるつもりはもちろんあるんですけど、販売はとてもできないって感じです。
ただ、そういうのが飛んでいるところはみんな見たいと思っていると僕は思っているので、つくる気満々です。航空法が変ったりしたら本当に売ることはできるかも知れないんだけど、やっぱりあまり簡単に飛行機でみんな空を飛んでいいのか微妙な気がする。本気でやれば1年くらいでできるんじゃないかな。

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お客さま:
日記コミュニティなどで他人の日記を読むことが容易になりましたがある女性向けポータルでアクセスを稼ぐため、嘘の日記を書く人がいたのを見たことがあるんですが、メガ日記はそういった人はいなかったのでしょうか。

八谷さん:
日記は主観的なもの。どっちにしろ1日にあったことをまるまる書くことはできないし、脳の中で本当だったら本当にしていいんじゃないかみたいなそういう考えで僕はいます。ただアクセスを稼ぐためみたいな感じで露骨にやってもあんまりその別にメリットはないというか、結構そういうふうに嘘つくと100日続けられなかったりするんですね。そういう日記はゼロではなかったんだけど、書いた人は続かなかった感じ。

お客さま:
コミュニケーションにおける匿名についてどうお考えですか。発信する側が匿名というのは卑怯なんでしょうか。八谷さんは身近な人たちにどんな方だと思われていますか。

八谷さん:
身近な人たちにどう思われているかはわからないですね。ただ、好かれても嫌われてもそれは自分のせいだって思うようには心がけていますけど。
匿名については、卑怯とは思わないですし、匿名じゃないとできない告発とかもあると思うんですよ。例えば電力会社で原発の告発とか、あれも匿名から出たことであったりとかするし、全部が全部なまえを名乗ってなきゃ発言できないっていうのはそれこそいやな社会だと思います。ただ、匿名の意見は匿名なりにしか扱われないっていうのは事実としてはあると思いますけどね。誰が言ったかわからないからそれ以上はコミュニケーションできないですね。

お客さま:
新しくて楽しい発想を生み出すために毎日していることや心がけていることはありますか。またどんな毎日を過ごされているのですか。

八谷さん:
毎日していることは結構つまんないことです。毎日会社に行ってメールをチェックして、実際業務としてはメールに対して返事を書いているって感じ。もちろんその中でクリエイティブなこともあるんですけど……。
最近犬を飼いはじめたんですね。パピヨンを。犬に振りまわされて半分育児ノイローゼ、なんかシングルファーザーに突然なった気持ちなんですけど、結構それが楽しい。会社までいままではスタスタ歩いてただけなんだけど、犬を連れてることによって家に帰るまで時間かかっちゃったりして、いままで気づかなかったことに気づいたりとか。あと、犬の目線になる部分がちょっとあって、毎回においをかぐポイントがあるんですよ。毎回おしっこする、マーキングしている場所があるんですけど、そのマーキング見てるとあれは縄張りじゃないんだなって、むしろあれは掲示板なんだなっていう感じなんですね。ログを残すというか「ちょっと前に来たよ」って「書き込みしとくか」みたいな感じなんだなっていうのがわかって……。犬同士が会って「クンクンクン、あー、あのときのあの発言はあんたか」みたいな感じなんですよね(笑)。インターネットって掲示板みたいなのが出て、人間はなぜあんな犬が躍起になってマーキングするかがわかったんじゃないでしょうか。

お客さま:
いま学校教育のあり方が問題になっていますが八谷さんはゆとり教育についてどう思われますか。また学校で学んだことはいまどれくらい役立っていますか。どんな少年時代を過ごされてきたのでしょうか。

八谷さん:
正しく扱われればいいと思うんですけど、正しく運営するのはむずかしいかもと思います。どういうことかと言うと、基礎でやんなきゃいけない部分の時間も減っちゃうわけで、その分、でも本当に社会に出て役に立つようなことをちゃんと学べればいいんですけど、学校だけでそういうことをやるのは無理があるんじゃないかな。
だから例えば、親とかで教えることができる人が、学校の教科とは関係がないけれど、ポピュラーミュージックを教えるとか。演奏できなくてもCD持ってきて、この人たちはこういう具合にデビューしてとかうんちくをたれるのも、結構いい教育になると思うんです。
自分なりに教育みたいなことには興味があって、今年1月にNHKの「ようこそ先輩」という番組に出たんです。自分の母校に行くんですけど、小学校で馬を2頭飼ったんですね。それは自分の勉強もあって馬の世話を勉強したいっていう気持ちがあって、現役で働いている馬を2頭長崎から借りて、運動会のときに使うテントの下で2頭飼って、その馬の世話をこどもたちがするというのをやったんです。コンピューターをこどもに教えるとかには全然興味がなくて、むしろ自分よりもでかい動物とのつきあい方とか、馬の世話をするっていうことを通して、自分がちゃんと仕事をしないとこの馬が困った目にあっちゃうとか、そういう責任を持たされるシチュエーションをつくりたいなと思ってやったんです。自分自身もすごく楽しかったですね。
学校で学んだことは、あまり役に立ってないかもしれないけど、無駄だとは思ってないです。特に基礎教育にあたる部分って、プログラムに関係する数学、物理とか結構あったりするし、プログラマーと話すときもそういうことがわかっていないとまともに話ができなかったりとかするから。少年時代は、やっぱりものをつくるのが好きだったのでリモコンで歩く虫の形をしたロボットとかつくってましたね。

お客さま:
最近悔しいと思ったもの、人、できごとなどありますか。

八谷さん:
すごくいい作品を見たりとか、これは自分がやるべきだったって思うことはたまにあります。ただ人がつくったものでも素直に楽しむ方なんで、そんなに悔しいとは思いません。(中略)本当に自分が知らなかったりとかするところに、すごい楽しげな世界とかがあったりすると、仲間に入れてほしいとか思ったりはします(笑)。

お客さま:
「ポストペット」のほかに夢がきっかけでできたものはありますか。

八谷さん:
夢ネタは結構多くて「ワールドシステム」もそうだし「メガ日記」も実は夢の中で日記の博物館にいて、ずっと前の100年くらい前の人の日記を読んで感動したみたいな夢を見て、それがきっかけだったりとかするので、結構夢に頼ってものをつくっている部分があります。

お客さま:
自分の思いついた考えを協力してもらう人に伝えるときに心がけていることはなんですか。

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八谷さん:
言葉、情熱……。情熱も必要ですけど無理を言わないことじゃないかなと思っています。あとはわかりやすくっていうことで、情熱だけあっても多分だめなんですけど、その人がやりたいっていう気持ちがどこかで湧くように熱はそれなりに込めて……。
例えば「ポストペット」をつくるときに、プログラムの構造とかは全然書けないけど、一応それなりの勉強をしてなきゃいけないというのはあると思います。それで相手と自分の間に接点が多いとうまくいく可能性が高いと思っています。あとはやっぱりおもしろいと思ってもらえそうな人と一緒に仕事をする。ごく当たり前のことなんですけど、結構それは案外重要。というか楽しいと思ってやる仕事がいちばんいい仕事だと思ってます。ベースにあるのがそれだと思うので、そういう人と会ったらなるべく逃さず。

お客さま:
小さいころから人と人とはわかりあえないものと考えていらっしゃったんですか。

八谷さん:
わりとそうです。それはいまもそうなんですけど、やっぱり100%わかりあうとかはありえないと思っています。
「視聴覚交換マシーン」は視点を入れ替えるだけなんですけど、めちゃくちゃ混乱するわけですよね。例えば目で見た世界っていうのはその人の中にしかないから、世界がそれぞれの人の中にあると思っていて、本質的に100%わかりあうのはやっぱり不可能だと思っています。例えば英語と日本語で通訳しても多分100%ニュアンスは伝えられないことは多分日本語の中でもあって……。
ただ、だから絶望したりはせずに、わかりあえないイコールそれぞれたくさんの人の個性があるわけだから自分の知らない世界を人は持っているわけだからそれをシェアしたりとか、教えてもらったりとか、自分ができないことを人にお願いしたりとかできるわけだから、だからそれに対して絶望はしていません。

フェリシモ:
最後に、しあわせに関してアドバイスをいただけますか。

八谷さん:
すでに持っているかも知れないって思った方がいいかもっていうとこですかね。外部に何かしあわせがあるっていう考え方は何かひょっとすると人を不幸にするかもしれない。あるいは何かを買ったらしあわせになるとか。何かを得たらしあわせになるとか。あるいは自分がどっか行ったらしあわせになるっていうんじゃなくて、ひょっとしたら日々の暮らしの中にしあわせがあるのかも思う気持ちがありますよね。犬飼いだして特にそう思い始めました。何かちょっとしたことでしあわせになることが多くて、例えば育てている花が咲いたとか。心持ちひとつっていうとあまりに安直な気がしますけど、実際はそうだと思っているところです。
あとは、そのしあわせじゃないって思うことは危険だっていうことなんでしょうかね。外部にあるとか、いま自分はしあわせじゃないって思うことが罠の第一歩だという気がする。例えばいまこういう場にいて「すごい緊張」って考えるのもあるし「たくさんの人が俺を見てしあわせ」と思う、どっちもありえるわけだから、どうせなら来た人たちが笑ってたりすると、僕もうれしかったりします。

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Profile

八谷 和彦(はちや かずひこ)さん<メディアアーティスト>

八谷 和彦(はちや かずひこ)さん
<メディアアーティスト>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
佐賀市出身。1966年4月18日(発明の日)生まれ。九州芸術工科大学・画像設計学科卒業。個人TV放送局ユニット「SMTV」や、コンサルティング会社勤務を経て、現在に至る。
「視聴覚交換マシン」や「見ることは信じること」「ポストペット」などの特殊コミュニケーションツールシリーズ、ブランコをインターフェイスにした抽象CG作成マシン「オーヴァーザレインボウ」やジェットエンジン付きスケートボード「エアボード」シリーズなど、発明型装置が多い。メールソフト「ポストペット」の開発者でもあり、ポストペット関連のソフトウェア開発とディレクションを行う会社「ペットワークス」の代表。

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