神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

  • 谷川 俊太郎さん(詩人)
  • 谷川 俊太郎さん(詩人)

プロフィールを読む

現在表示しているページ
フェリシモ
> 神戸学校
> 谷川 俊太郎さん(詩人)レポート

「大切なことを大切にしよう」



<第1部>

谷川さんの最近のお仕事は?
谷川さんの詩の言葉の力の賜物を身近に感じる
CMや本や写真集や……。

園田さん:
こんにちは。私も、こどものころから『鉄腕アトム』の歌を歌い、『マザーグース』やスヌーピーの『ピーナッツ』を読んで育ってきました。谷川 俊太郎さんは、作詞など幅広いお仕事をされており、日本を代表する大詩人でいらっしゃいます。私はずっとずっと後輩なんですが、後輩の端くれとしていろいろ教えていただききたいと思っています。
最近、CMとか『あさ/朝』という絵本詩集とか『夜のミッキー・マウス』というこれが最新の詩集になります。
今日は最近のお仕事のことからいろいろ伺っていきたいと思います。
いかがでしょう、CMのお話とか……。

谷川さん:
CMで使用した『朝のリレー』っていう詩はもう20年前に書いたもので中学校の教科書にも載っていたそうなんですね。それである広告代理店の人が来て「あの詩を使いたい」と。
どうしてそんなことになったかというと、アメリカ系の広告代理店に新卒で入社した男性と女性の2人の社員が新しいキャンペーンに「自分たちが中学時代に読んだ詩ですごいいいのがある」と言って持って来たのが『朝のリレー』なんですって。だからその新人社員のアイデアであのCMができたようなもんなんです。
僕はいま、息子の谷川 賢作と一緒にステージで詩を読んだりピアノ演奏したりしていて、その彼のオリジナル曲がこの『朝のリレー』にとてもぴったり合ったんです。

園田さん:
ステキでしたね。

谷川さん:
ふたつバージョンがあって、ひとつは「あさ」バージョンで、これはもう本当に朝焼けの素顔を伝えるだけ。そのシンプルな映像が少しずつ移り変わりながら60秒続くというのはすごくいい感じなんですね。みんな「今時のCMにしては、ハチハチしていなくていい」と言ってくれました。ふたつ目のバージョンは寝顔ばかり撮ってるんですよ。朝の目覚める前の寝顔。で、それを撮ってくれたのが『誰も知らない』の是枝監督なんです。こどもの寝顔がわりと多かったんですけれども、青年の寝顔とかすごく簡単に撮れているんです。北海道まで夜行列車で往復して夜行列車で寝ている人の寝顔を撮るとか、スタッフが全部午前2時ごろに起きて朝の3時半に目当てのお宅へ伺って撮るとか……。あれ、演技じゃないんです。すごくリアルでいいですね。

園田さん:
素晴らしいですね。私は会うたびに谷川さんの詩の言葉の力の賜物であると言っているんですが。
ああいうところで広まるととてもいいのではないか、あれで、もっと谷川さんのすごさがわかって……。
ほかのCMとは言葉の力が違うなと……。

PHOTO

谷川さん:
僕は詩のつもりで書いているのですからね。いま、生命保険会社のCMが流れているのですが、それのコピーも僕が30年くらい前に書いたのが流れているんですよ。こっちは詩として書いたのではなくて、ちゃんと生命保険会社のコピーとして書いたんですよ。ほとんど区別ないですよ。

園田さん:
コピーライターという職業がある以前は、詩人たちがそういう広告のコピーをやっていたと聞いたことがあるのですが。

谷川さん:
そうですね。コピーライターの方が書くコピーの最盛時のコピーは現代詩よりもはるかに進んでいたというのが僕の印象。時代の感覚のとらえ方、参ったなという感じでした。

園田さん:
ほかにはどういうふうなお仕事を?

谷川さん:
僕はだいたい来た仕事を請けるって形で仕事をしているから、主体性がないんです。ある日ある編集者がきのこの写真をいっぱい持って来たんですよ。アマチュアの写真家なんですが、そのきのこの写真、とてもきれいなんですよ。で、編集者が「この写真で1冊作りたい」と言うんですよ。きのこの詩ばっかりを20何点も書くってきついでしょ(笑)。

園田さん:
きのこ、いっぱい種類はありますけれど。

谷川さん:
詩ばっかり書けないから、きのこについていろいろな文章とか詩とか引用して写真をつけていけばしゃれた本になるんじゃないかなと思って。いろいろな本を調べてきのこに関する文章とか詩や歌を集めてそれを自分で繋ぐっていう形にしました。『きのこ 森の妖精』というタイトルで秋に出ます。

園田さん:
どんな詩を書かれているのか楽しみですね。いろいろな依頼が来ますね。

ページのトップへ

僕の詩は、声に出した場合どうなるかって
考えて書いていることが多いです。

谷川さん:
この間なんか「ネルソン マンデラさんと対談してください」と言われまして……。

園田さん:
すごいじゃないですか!

谷川さん:
あまり南アフリカの独立の歴史とか知らないので話題に困るじゃない。だいたい偉い人って苦手なんですよ。

園田さん:
私はフランスの詩の朗読者に呼ばれて行ったことがあるのですが、アフリカの詩人の方は結構土着的な踊り方に楽器を使って朗読される方が多いですね。

谷川さん:
強いでしょ。アフリカは、どこでも詩が体と結びついていて、ほんとに声の芸術になっているんですよね。オランダとか日本とか頭でっかちの現代詩は、みんなうつむいてボソボソ読んでいるのだけど、アフリカの人は踊りまくるからね。

園田さん:
私のときも、木の棒のようなものをただダンっと打ちながら読むんですけれど、その木の棒に詩のようなものがいっぱい書いてあるんですよね。それでリズムがもう大地のリズムというか、ものすごく気持ちいいんです。ゆったりとした、それでもう引き込まれていって……。その次が私だったので、もうどうしようかと思って(苦笑)。日本語とフランス語で読んだんですが日本語の方が受けがよくてさらにどうしようかと……。

PHOTO

谷川さん:
国際ステージではその意味がわからなくてもいろいろな国の言葉を聞くのがおもしろいもんね。

園田さん:
何か意味で理解するのではなくてリズムっていうか響きで聞いてくれているんですね。

谷川さん:
僕はそこで「河童、かっぱらった」って読むんですよ。全然意味わからなくてもうけますね。

園田さん:
谷川さんは、いろいろな詩をお書きになるんですけれども、結構アメリカとかの朗読文化になじみやすい詩が多いですよね。

谷川さん:
それは考えています。僕、割合、声に出した場合どうなるかって考えて書いている詩もあるんですよね。ほとんどは、黙読されることを無意識で前提にしていることが多いのですが、例えばひらがなばかりで書く場合はどうしても音ってすごく問題になるから印刷媒体だけでなく、声の媒体で発表したいって気にもなります。

園田さん:
最後の方にパンっと落とし込むような詩があるじゃないですか。

谷川さん:
単なるオチっていう人もいますけれどね。

ページのトップへ

“LOVE”って、最初はオランダの宣教師が
“お大切”って日本語にしたんですって。
“お大切”って、僕“愛”より
いいんじゃないかと思うんです。

谷川さん:
さっきから全然テーマの話をしてないんですけど。どう思います!? 詩の話しかしてませんよ。「大切なことを大切にしよう」って全然言ってないんですけど……。

(会場:笑)

谷川さん:
「大切なことを大切にしよう」というテーマで話すと、普通大切なことはみんな大切にしているはずでしょ。それをわざわざ大切にしようってことは、大切だってことを忘れてる。大切なこと、それとも自分にとって大切ではないけど本当は人類全体にとって、地球にとって大切なのかなと思っていたんだけどね。

園田さん:
谷川さんの詩には、大切なことというのは絶対出てる感じがします。

谷川さん:
じゃあ、みんな何となく普段意識してないけれど「ああ、これが大切なんだな」と思うことを大切にしようということ?

園田さん:
谷川さんの詩を読むと大切なことがわかる。

谷川さん:
うーん、自分でもあまりよくわかっていませんけれど……。何が大切ですか?

園田さん:
言葉、大切じゃないですか? 対話がきちんとできれば戦争だって起こらないかもしれないし……。

谷川さん:
でも言葉、大切にするって一体どういうふうなんでしょうね。僕なんか言葉を何かこうサディスティックにひっぱたいたりなぐったりしている面があるような気がするんです。そんな撫ぜてばかりいない……。

園田さん:
私は元々詩を書き始めたのは漢字からなんです。
こどものころ、納戸に入って祖父と漢籍なんかを見て、意味はわからないけど漢字ってかっこいいなと思ったんですよね。

谷川さん:
すごい! おじいさんって学者?

園田さん:
弁護士だったんです。

谷川さん:
普通、しゃべり言葉からひらがなとかに行くのに漢字がおもしろいって……。要するに黙読ですよね。音よりも形から入っていってる。その入り方すごくおもしろいですよ。

園田さん:
いろいろな仕事を経験して、いま、言葉って大切だなと思ってるんです。もっと語彙を増やしていかないと、どんどん落差が広がっていく気がするんですよ。

PHOTO

谷川さん:
語彙を増やすの?

園田さん:
二極分化していると思うんですよ。ちゃんと本を読んでる人と、まったく読まないで言葉好き、文章好きだよ、メール打つし、という人。私の詩集は結構漢字が多いんですけど「読みましたよ。でも漢字多いですよね」とか言われて。「漢字全部抜かして読みました」なんて言われて焦ったんです(笑)。それじゃ、わからないだろうと思って。それで、全部読み仮名をつけたんですがそれでもやっぱり意味がわからないと……。

谷川さん:
いまの若い人は、辞書ひくなんてことしないよね。

園田さん:
辞書ひかないですよね。

谷川さん:
でも、僕は、語彙を減らそうとしている人間なんですよ。

園田さん:
そうなんですか。

谷川さん:
そう。よく詩を書いてる人は「私は語彙が少ないから、いい詩が書けません」なんて言うんだけどそれは僕は間違いだと思ってるんです。少ない語彙をどういうふうに組み合わせるかというところにやっぱり詩の問題があるのであって、人が知らない言葉を使っても通じないわけでしょ。だから語彙が多ければいいっていうふうには少なくとも詩の世界では思わないんですよね。

園田さん:
その考えは、一貫してデビューした18歳のころからそうなんですか?

谷川さん:
あのころは、ただ適当に自然に書いてるわけ。で、書いているうちにだんだん日本語の問題に気がついてくるわけです。その中でいちばん大きいのは、いま我々が使っている漢字。漢語ってのはいまだに外国語だってこと。“愛する”という言葉なんて、このごろは慣れてきたけれど、我々世代はちょっと使いにくかったですよね。我々世代は“惚れた”とか言う方が体ぐるみってのか……。
“愛する”、“LOVE”ってのは、最初はオランダの宣教師が“お大切”って日本語にしたんですって。“お大切”って、僕“愛”よりいいんじゃないかと思うんです。“大切”ってのは大和言葉系じゃないですか。“愛”は漢字、漢語ですよね。だから“愛”の方が身についてないっていう感じ。

園田さん:
確かに、言いにくい言葉ですよね。

谷川さん:
こういう漢字感を使って詩を書いているというのが、現代詩でひとつの問題だと思うんですよ。うまく意味が通じないってとこに。そういうとこから、ひらがなだけで表記した詩を試みるようになりましたね。

園田さん:
新聞とかで書こうとしたときに、載らないんだそうですね。それで全部現代表記、現代仮名使いに変えられるので、新聞社の人とケンカして、結局載せるの自体もお止めになったりして……。

谷川さん:
そういう人たちの立場はよくわかるけれど、僕は詩は文字でもあるけど、声でもあると思っているから。声になったときは旧仮名だろうが、旧字だろうが関係ないわけ。音になっちゃうわけだから、あまりこだわらない。でも、旧仮名にこだわったらそういう問題、あるかもしれないですね。

ページのトップへ

園田さん
「分かりやすく書くというところでは
お父さまの影響があったんですか?」
谷川さん
「あるんじゃないですかと思います。
父の文章、好きでしたから」。

谷川さん:
僕は17、8歳で友だちに誘われて詩を書き始めて、それまで詩にまったく興味なかったんですよね。友だちが文学青年で、しかもうちの父親は大学の先生だったんだけど、文芸時評をしていたから、本棚に中原 中也の詩集もあるんです。友だちの文学青年たちがうちに来ては、読んでるわけ。そのうち「ガリバンで雑誌作るからお前も書け」って言われて、それで書き始めたのが始まりなんですよね。だからいい詩人になろうとか有名になりたいとか文学の道に進むんだっていうのが一切なくて、ただのお楽しみで書き始めたんですよ。ところが学校嫌いで大学へ行かなかったもんだから、父親が業を煮やしてね「お前、将来どうする気なんだ」って問い詰められたとき、ほかに見せるものがなかったのでうすっぺらい大学ノートに書きためた詩を見せたんですよね。それを三好 達治さんという当時、有名な大詩人のところに持って行ってくれて、三好さんが『文学界』という雑誌に紹介してくれたっていう、例外的に幸運なスタートを切れたわけです。

園田さん:
それが『20億光年の孤独』ですね。お父さまの谷川 徹三さんは有名な哲学者で、詩についてもたくさんの本をお出しになっていたんですよね。

谷川さん:
宮沢 賢治さんの初期の研究家です。

園田さん:
それをわかりやすい言葉で……。

谷川さん:
父親は西田 幾多郎の弟子なんですけれど、普通の言葉で書いてましたね。

園田さん:
わかりやすく書くというところではお父さまの影響があったんですか?

PHOTO

谷川さん:
あるんじゃないですかと思います。父の文章、好きでしたから。

園田さん:
『母の恋文』っていうお父さまとお母さまの多喜子さんの書簡集、すごくいいですよね。

谷川さん:
まあ、あれ全部ラブレターですよね。書簡というより昔の人ってね、本当に手まめに小さな字でこんな薄っぺらいレターペーパーに何枚も何枚も書き込んだもんだね。

園田さん:
ほとんど1日おきとか2日おきとかに交わされているんですよね。

谷川さん:
なかの1通は、母の家に父が遊びに来てるんですよ。その2階で書いてるんです。1階に本人がいるのに(笑)。もう呆れてしまうっていうか……。

園田さん:
確かお父さまが読書に熱中されて、お母さまが退屈されてって内容でしたね。やりとりがあの当時の人とは思えないくらいおきゃんな感じの文章で……。

谷川さん:
そうなんです。うちの母はモダンガールで家庭も自由だったんですよ。同志社大学に通ってたんですけど、チャペルにある祭壇の裏にミサのために使うワインなんて隠してあると、それ盗み飲みしていたっていう、大正時代の女性としては、相当進んでますよね。でもね、あれは僕に言わせれば最後の母の何十年後かの手紙がないとあの本は成り立たない。あれは若々しい大正時代の恋愛が長い結婚生活を経てどういうふうに変貌したかっていうオチついているんですよね。

園田さん:
あとがきに書いた文もステキでした。

谷川さん:
また何か“大切”ということに全然関係ないかって思うんですけど……(笑)。

ページのトップへ

最も大切なことは人には言えませんって(笑)。
そういうとこあるでしょ。

フェリシモ:
大切なものっていうのは精神的なものと物質的なものがありますが、谷川さんと園田さんは、精神的なものと物質的なもので、これは生活の中で欠かせないなというものはありますか?

谷川さん:
精神的な大切なもの? それは言いにくいですよね。やっぱり自分がよりよい人間になりたいと思ってる気持ちって大切だと思うんですよね。その気持ち、大切にしていてもよりよい人間になれるわけじゃないから。僕は、ジョニー デップのファンなんですけど、彼の出ている映画『ギルバートグレイプ』がとても好きなんです。その中で、知的障がいのディカプリオにジョニー デップが「どういう人間になりたいか?」って問われて「私はいい人間になりたい」って答えるんです。僕、すごく感動したんですよね。普通「金持ちになりたい」とか「絵描きになりたい」とか職業を言うでしょ。だけど「いい人間になりたい」って。すごくいい答えだと思ったんですよね。だから僕もいい人間になりたいです。いい人間になりたい、という気持ちを大切にするためにはいい人間を行動しなければなりませんよね。恵子さんの精神的なものは?

園田さん:
精神的ですか?

谷川さん:
愛でしょ、やっぱり。

園田さん:
愛ですか? 愛がないですからね。

PHOTO

(会場:笑)

園田さん:
いまは猫と暮らしているんですけど、そういう命を大切にするとかちゃんと世話をしてやるとか……。

谷川さん:
今日「谷川さんにとって何が大切ですか」と聞かれたら、こう答えようと思っていた答えはひとつあるんです。

園田さん:
それは何でしょう?

谷川さん:
最も大切なことは人には言えませんって(笑)。そういうとこあるでしょ。本当に自分にとって大切なものはそう簡単に人には言いたくないって気はありますよね。じゃあ物質的に大切なものね、それはお金じゃないですか? 

園田さん:
私は、本ですかね。

谷川さん:
やっぱり納戸の中で漢字が好きだった少女の面影を……。

園田さん:
あんまりブッキッシュになるのも嫌なんですが、いろいろな詩人の初版物とか、そういった物は思い出と一緒なんですよ。その当時読んだ初めてその詩集を開いたときの衝撃というのをやっぱり開くたびに思い出されますから。やっぱり本というのは大切ですね。校歌も作詞。もう130校くらいの作詞を手掛けています。

谷川さんは、校歌もたくさんお書きになってるんですよね。幼稚園から大学、企業の社歌までおつくりになって……。

PHOTO

谷川さん:
130校くらいかな。老人ホームは、むずかしかったです。僕より年上の方がいらっしゃるわけ。普段書いてる歌を書いても歌ってもらえないだろうから、和讃とか勉強して……。

園田さん:
地蔵和讃とかですか? 和讃って「ひとつ積むは親のため」っていう?

谷川さん:
そういうものの現代版を書きたかったんだけど、現代詩の発想では少しむずかしく、そうはいきませんでした。でも「命の元はひとつなり」とか何かさ。

園田さん:
新鮮。聞いてみたいですよね。昔からの西條八十さんとか文語調でとてもいい歌詞があると思いますけど、谷川さんの歌を歌って育ったこどもたちは……。

谷川さん:
作曲家ともだいたい同世代。だから戦前まである校歌とは違うもの書きたいってことはっきり意識持ってましたね。「校歌ってこんなもんであっていいはずがない」って。昔の校歌ってさ、何か富士山が見えるとか神戸の港が見えるとか何か山水を歌ってたでしょ。

園田さん:
自然を歌ってましたよね。

谷川さん:
ところが戦後、新しい学校が東京の郊外に建って新しい校歌を頼まれるんですよ。で、うっかり「蒼を見る富士の根は」と書くと、翌年そこにマンションが建っちゃうんですよ。それで富士山が見えなくなっちゃうんですよ(笑)。そういう経験もあって周りの山水ではなくて、先生と生徒、人間関係とかそこの学校がどういう教育目標を持っているとか、生徒たちの友情とかそういう人間臭い校歌を書いた方がいいと思うようになって、だいたいその線で書いてきました。そうすると昔の校歌とは違う新鮮さを持てますね。

ページのトップへ

お客さまと一緒に
詩の書き方をお勉強

フェリシモ:
今日は谷川さんと園田さんに詩の書き方を教えていただきたいと思います。

PHOTO

谷川さん:
簡単なアクロスティックという方法をご紹介します。書ける人は書いてみて。アクロスティックというのはイギリスの英詩の形式のひとつです。今日は、園田 恵子さんに対するラブレターを書いていただきます。横書きで「けいこ」って書いて「け」で始まる行を1行書きます。そして「い」で始まる行を1行書いて、「こ」で始まる行を1行書きます。横に読むと「けいこ」という字が隠れてますね。これ、どういう行を書くかが、みなさんの才能とアイデア。つまり、ここに恵子さんの悪口を書いてもいいし、恵子さんは素晴らしいということを書いてもいいんです。とにかくこの3行が何かの形でちょっと有機的に繋がっていないと、1行1行バラバラではつまらないですけどね。それと、ここに「すき」という字をつけましょう。そうするとラブレターになりやすいんじゃないですか? それでは書いてもらいましょう。

ページのトップへ

<第2部>

フェリシモ:
では、おふたりにラブレターから朗読いただきます。

谷川さん:
こんなに集まるなんて思わなかったね。すごい単純なんですがこんなのもらったらうれしいと思いますが……。
「けれど いつの間にか 恋に落ちた」

園田さん:
いいですね。すごくストレートに届きますね。

谷川さん:
これもいいなと思うんですけど。
「恵子好き いわしも好きで こんにゃくも好き 好きはいっぱいあるけど 君の事がいちばん好き」

園田さん:
最後の1行で、なんか谷川詩の影響が……。

谷川さん:
食べ物が入るとユーモラスでいいんですよ。
「ケーキより いもより 米より すいかより 君が好き」
ってのもあるんですよ。

園田さん:
具体的ですね。

谷川さん:
米より好きなんて言われたら、毎日毎日食べられたら……。
これ、お母さんと娘さんの共作でとてもかわいい。お母さんがようこさんで娘さんがゆりかさん。で、ようこさん(お母さん)が「ゆりかすき」で書いているんですが、ゆりかさんも「ようこすき」で書いています。お母さんの作品は、
「ゆっくり2人でいるのが好き リラックスしているのが好き かわいいいあなたが好き すごくすごく好き きらきら輝いて大好き」
これが娘に対するラブレターね。で、娘の方がお母さんに対するのは、
「喜びをわかってくれる うれしさをわかってくれる この世界でいちばん好き ステキなお母さん きっと生まれ変わっても一緒」

(会場:拍手)

谷川さん:
泣けるよね。ほんと親子でこんなの書けたら、素晴らしいと思う。じゃあもうひとつ。
「けったいな イベントに呼ばれて 困っている ステージ上の きれいな恵子さん」

PHOTO

(会場:笑)

園田さん:
おもしろいですね。さすが関西ですね。

(中略)

谷川さん:
こういうのもありますよ。
「毛が黒い 色が白い 声がきれい 好きなのはそういう人じゃなくて きみ」

園田さん:
うまいですね。これも谷川さんの詩の影響じゃないですか。

(会場:拍手)

谷川さん:
このアクロスティックで人の名前を書くときにひとつポイントっていうのは、例えば「けいこすき」って書くときに中身は全部悪口にするってことがありますね。それでもう全然悪口を言ってるんですが実際は「けいこすき」って隠れているっていうコントラストをつけると詩というのはおもしろくなりますね。

園田さん:
悪口で油断させておいて、ぐっと……。

谷川さん:
そう、悪口言いたいくらい好きだっていう感情のちょっとした複雑さが出てくるっていう……。

園田さん:
とってもかわいいい詩なんです。
「けん玉あげる いすにピンクのリボンをつけるね 小鳥の木彫りあげる スキップも一緒にしよう 希望が君の所に届きますように」
っていう詩です。

谷川さん:
みんなうまいですね。
「決して人には見せないの 色とりどりの薄いカーテンが 心の表覆っている するりするりと剥いていけば きっと最後に君の顔」
これなんて。もうサロメみたいね。ではもうひとつ。
「今朝の目覚めは 色っぽく 恋人はどうしているかしら すすきのはらで迷っていても きっときっと会いにきて」
っていうの、もらっちゃったら会いに行きますよね。

フェリシモ:
みなさま、たくさんの詩をありがとうございました。たった5文字の日本語からこんなにもすばらしい世界が広がることに、詩の可能性の深さに驚かされるばかりです。

谷川さん:
確かに。本当に素敵だから、みんな詩の好きな人が来てくれてるって感じだよね。

ページのトップへ

お客さまとのQ&A

お客さま:
夢と目標を言葉にできないことでよく悩みます。言葉にするのは大切だと思いますが、できないときはどうすればよいのでしょうか?

谷川さん:
どうでしょうか。僕は、言葉ってものすごく不完全なものと思っているのです。例えば自分の気持ちにしろ、現実にしろ、言葉にできるのは本当にその一部でなければすごく矛盾している。現実とかは、矛盾している自分の心の中のあるひとつの面だと最初から思っているのね。だから言葉にするってことに初めから諦めがあるから「こんな気持ち言葉にできない」ってもんもんとするってないですね。言葉にできないというのはそれだけ思いが深いってことですから、言葉にできないという思いはずっと言葉にしないで、我慢して抱いておいといた方がいい。それはやがて言葉になってくるだろうし、一生言葉にならなくても、そういうある確かな思いって感情を抱いている方が言葉にするときよりか大事だと思います。

フェリシモ:
第1部の「大切なことを大切にしよう」というテーマについてのお話の中、谷川さんが「精神的な大切なもの」のところで「愛」と答えてくださいましたが、谷川さんが「愛」だと感じることについてもう少しお聞かせください。

谷川さん:
それはプライバシーに触れます(笑)。

PHOTO

フェリシモ:
許容範囲でお願いします。

谷川さん:
男ってね、女より愛に自信がないと思うんですよ。僕、友だちと話していてよくそういう話になるんだけど、よく男って「俺は本当にあの人を愛してるんだろうか」って疑問にとらわれること、よくあるんです。女の人は何かもう少し自信があるらしいんですが、どうでしょうか?

園田さん:
男の人って、やっぱり種の保存ということでそのためにかなり自信があると思うのですが、女性ってわりと現実をはっきり見るじゃないですか。エステに通ったり、いろいろなことを気にしたりとかすると思うんですけどね。

谷川さん:
男女関係ないと思うんですが、あえて一種の感情って男にとってときどきわからなくなることがあって、何か曖昧になるものだから、あえて行動に示さないといけないと僕なんか思いがちなんです。でも、行動で示せばいいのかといえばそうも言えなくて、どんなに行動してもそれは虚栄心からの行動であったりすることもあるわけ。本当にそれは生まれてくる愛からの行動じゃないこともあるから、そういうふうに疑い出すときりがなく……。
もっとそんな疑惑なんて抱く余裕なんてないくらいに湧き上がってきて抑えられない愛っていうのにはすごいあこがれています。こどもとか犬とか見てると、もう疑いようのない愛の表現ってあるじゃないですか。つまり幼児がお母さんに駆け寄って抱きついたり、犬がちぎれるくらいにしっぽ振ってくっついて飛びついたりしたら、これは本当に愛だなと思いますね。だからあまり理屈こねないでそういう衝動的な愛っていうものを失いたくないって思います。

お客さま:
自分と違う人と繋がるのはむずかしいと思いますか?簡単ですか?

谷川さん:
繋がり方の深さもありますね。浅く繋がるのなら繋がりやすいですよね。自分と違う人間だからおもしろいと思ったり、違う仕事してたりなんかしたらなんかいろいろ話聞きたくなったりとか、でも深く繋がるっていうことは本当にむずかしいことだし、もしかしたら不可能なことだったりと思うんですけどね。

園田さん:
結局人間は1人だと、孤独なものなのだというふうに?

谷川さん:
孤独っていう必要はないかと思うんだけど。だって死ぬときはひとりなんだし、生まれるときは、まあお母さんから生まれるけど、生まれた瞬間、基本的にひとりになるわけだけだから、結局人間はひとりと思いますけどね。けど、ひとりっていうのは何か言葉であって実際にはひとりだっていうには言えないような繋がり方が人間と息していけるような世界、大宇宙との間に関係あると僕は思っているんですよ。だから人間的にはすごく孤独な生活をしてても、それこそ木とか空とかさ、雨とかそういうものと人間って繋がっているはずと思っているのよね。それを感情に入れないから寂しく思うのであって、物を感情に入れられる感受性があれば本当の孤独ってのはないって思うんです。死ぬときも同じで、確かに自分が愛するもの、愛されるものから離れてひとりで旅立つわけだけど、それももしかすると未知の世界への出発であって、そういう意味では何か宇宙とは絶対切り離せないのかといまは思ってます。

フェリシモ:
自分と他人が繋がる役割を果たしてくれるのが、言葉ではないのかと考えていたのですが……。

谷川さん:
言葉は一部ですよね。言葉のおかげでけんかしちゃうこともあるわけじゃないですか。「あんなことを言っちゃったけど、ほんとの気持ちは違うんだって」とかってよくあるでしょ。だから言葉だけで繋がるのは無理だと思うんですよ。それはだからバーチャルな、いわゆるメールとか、そういうものの世界に実際に面と向かって話すことの違いとは思うんだけど文字にやられたものは言葉のほんの一部って、人間のほんの一部ってことだから本来は面と向かって会って言葉だけでなく表情とかさ、何か態度とか全体的に受け止めるのがコミュニケーションなんだから、できるだけ言葉だけだって考えない方がいいと思う。僕、老人ホームにときどき行くんですけど、老人ホームでいちばん大事なのはスキンシップなんです。もうボケてしまうと、言葉は通じないわけじゃないですか。何か言っても、変な答えが返ってくるわけで、だから言葉で繋がろうっても無理なんですよね。そういうときはやっぱりスキンシップなんですよね。

ページのトップへ

おふたりの詩の朗読

フェリシモ:
今日は詩のプレゼントがおふたりからございます。

園田さん:
谷川さんと違って朗読は上手くありませんが、読ませていただきます。

<誕生>
 ひっそりと音が降りて来る 空に循環する 命の波動が楕円のなかで 無休の時を刻み
 明滅する星の記憶を伝えてくる 千の音 億の音をたどってまたここへ来た
 私たちの私の約束ごとを再び続けるために 繰り返し巡っているから振り仰ぎ見る月は懐かしい
 そしてまた初めてのようにあなたと出会い 限りなく同じ形で いつらくのときに深入りする
 カタリ とフォークを置いて私は微笑んだ 慎み深く微笑むことだけで愛を示した
 椅子に身をゆだねる 午後の時間 物憂い時間 ここはいま染み入るような静寂にある
 満たされる夜に向かうためだけに 用意された豪奢な時間だ
 千の花に囲まれて 私は少し奢っている
 賑やかな夜の画廊 沈黙を守るレストランの鍵 壁に掛けられたタペストリー 
 風を吸っていないものにも物語はある 熱い心音は思いもつかない方角に 秘められているから
 時計が鳴り響く 1つの区切りが鳴り響く時 私たちの旅は始まる 日ごとに 私たちの腕のなかで
 神話の鼓動を刻むもの あなたとここで出会ったのも 物語の1つだから 再び物語は始まる
 共にこの旅を続けよう 私たちが存在するその理由を確かめるために

園田さん:
これはカルティエに時のイメージと言われたので書いた詩です。

ほか<歩行は複合の命の基準である><新月>を朗読。

谷川さん:
今日はみなさんにラブレターを書いていただいたので、恋の詩を読みたいと思います。

PHOTO

<あの人が来て>
 あのひとが来て
 長くて短い夢のような一日が始まった
 あのひとの手に触れて 
 あの人の頬に触れて 
 あの人の目をのぞきこんで 
 あの人の胸に手を置いた

 そのあとのことは覚えていない 
 外は雨で一本の木が濡れそぼって立っていた 
 あの木は私たちより長生きする 
 そう思ったら突然いま自分がどんなに幸せか分かった

 あの人はいつかいなくなる 
 私も私の大切な友人たちもいつかいなくなる
 でもあの木はいなくならない 
 木の下の石ころも土もいなくならない

 夜になって雨が上がり星が瞬き始めた 
 時間は永遠の娘 喜びは悲しみの息子
 あのひとのかたわらでいつまでも終わらない音楽を聞いた

谷川さん:
もうひとつ、トラック6で行きましょう!
(ピアノ演奏が始まり、谷川さん歌う)

 まっさらみたいに思えても 
 今日には昨日のしみがある
 すんだことさの一言を
 漂白剤には使えない 
 涙をシャワーで流すだけ
 涙のシャワーで流すだけ

 からだの傷さえ消えぬのに
 心の傷ならなお疼く
 ごめんなさいの一言を
 鎮痛剤には使えない 
 痛みをお酒で癒すだけ
 痛みをお酒で癒すだけ

 思い出したくなくっても
 忘れられない日々がある
 明日があるよの一言を
 ビタミン剤には使えない 
 希望は自分で探すだけ
 希望は自分で探すだけ

谷川さん:
武満 徹作曲、『昨日のしみ』でした。ありがとう。

(会場:拍手)

ページのトップへ

Profile

谷川 俊太郎(たにかわ しゅんたろう)さん<詩人>

谷川 俊太郎(たにかわ しゅんたろう)さん
<詩人>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
1931年12月15日、東京に生まれる。18歳ごろから詩を書き始める。父から詩人の三好達治を紹介され『文学界』で『ネロ他五篇』を発表し、一躍、戦後詩の輝かしい詩人として迎えられた。1952年、処女詩集『二十億光年の孤独』で注目される。翌年『六十二のソネット』を刊行。詩集『櫂』に参加。詩作を中心にラジオドラマの執筆、戯曲、映画脚本、写真、ビデオ等、幅広く、活動を続け、数々の文学賞に輝く。「スヌーピー」シリーズ、「マザーグース」シリーズの翻訳でも有名。デビュー以来、鋭い感性で独自の詩の世界をつくりあげてきた。


園田 恵子(そのだ けいこ)さん
<詩人>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
京都市出身。日本文学と西洋美術史を専攻。6歳より詩作を重ね、大学在学中に文芸誌からデビューし、詩集『娘十八習いごと』が刊行される。現在は文芸活動に専念。日本の伝統芸能に親しみ、歌舞伎や能などの要素を、新鮮な視点で、大胆に詩の中に取り入れた詩法は、若い世代の詩人の中でも異彩を放っている。

ページのトップへ

その他のゲスト

ページのトップへ