神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

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「モノの見方をSWITCHする」



<第1部>

おもしろいことは、近くにだってある!
ニュートラルな目線、鋭いアンテナで
ユニークなネタを集める。

今日は、僕がやってきたことや、いまやっていることを写真で見てもらいながら話したいと思います。僕、別にカメラマンじゃなく、もともとは編集者だったのね。学生時代に出版社の編集部でアルバイトしたのが、そのまま原稿を書くようになって、いつの間にか時給が原稿料1枚いくらっていう原稿料制になって現在に至る、という感じ。
そういうフリー生活をダラダラ30年。編集者として雑誌をやっているときはすごく忙しくて、30歳くらいのとき、一段落しようと思って仕事を辞めて暇になったときがあったのね。自分より10歳くらい下の友だちがたくさんできて、そいつらと遊び始めたの。当時、どっか遊びに行こうとか飲みに行こうって言っても高いレストランとか行けないから、その辺の居酒屋行った後、「うちで飲みましょうか」って、若い子の家に行くんだけど、だいたい目を覆いたくなるような狭くて汚い部屋なわけよ。「こんな所に人が住めるんだ」みたいな感じ。だけど、そういう部屋って、何か居心地がいいんだよね。僕は、それまで『ブルータス』とかの雑誌の編集をしていたので、オシャレな部屋はいくらでも撮影や取材をしてきたんだけど、「自分は住みたくないけど、こういう部屋もいいかも。おもしろいな」と思ったんです。こういう部屋を100軒くらいやったら、1冊の本になるかもと思って、自信満々でいろんな出版社に企画を出したら、全部断られたんだよね。断られてカチンときたわけ。でも、やっぱり「この企画おもしろそう。本になったらどんなふうになるんだろう」と頭に浮かんで夜も眠れないんだよね。それが3日くらい続いて、「ダメだ」と思ってカメラ屋に走り、「素人でも使える大型カメラセットください」って言って、買って……。自分で撮って、原稿を書いて、3年くらいたって、それまで付き合いのあった出版社に強引に出してもらったのが『東京スタイル』。こんなの売れなくて当然と思われていたのが、売れちゃったんですけど、売れたとはいえ出版社は潰れちゃったので印税も一銭も入ってないんですが……(笑)。

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『東京スタイル』をやっているうちに、東京の普通の人は本当はこういう所に住んでいるんだと……。僕たちが本で見る部屋、例えば安藤 忠雄さんのインテリアとかがあるけど、自分の家を安藤さんに設計してもらえる人は、多分いないと思うんだよね。だけど、家賃7~8万円のワンルームに住んでいる人はたくさんいると思うわけ。「スタイル」っていうのは日本語では「様式」。様式っていうのは、まず第一にたくさんなきゃ様式って言わないわけ。ちょっとしかないのは様式じゃなくて例外なのね。だからかっこいい東京のインテリア写真集とかもいいけど、これは「例外的東京」って言ってくれないと困るわけ。スタイルって言うからには、たくさんなきゃいけないだろうって言うんで『東京スタイル』を作りました。
これをもうちょっと広げてみると日本の田舎っていうのはどうなっているのかと。例えば京都、神戸、大阪だのいろんな人気都市はあるけれど、そういう所は日本の1%なわけよ。あとの99%は、ショッピングエリアもなければ温泉、名物料理もない、どうにもならない田舎。テレビの旅行番組ってとにかく、風呂と飯しか話がないわけ。テレビや雑誌にはそういうふうに、嘘の田舎のイメージがはびこってる。旅雑誌に出てくるのは、桜が見える露天風呂、秋は紅葉が見える露天風呂……、それしかないのかって感じ。そうじゃなくて99%は普通のどうでもいい田舎なんだけど、じゃあそこに住んでる人は劣等感を持って住んでいるのかっていうと、そんなことないわけ。グローバルな視点はないでしょうが、それなりにのんびり楽しんで暮らしてる人たちはたくさんいる。行ってみればおもしろいことだってたくさんあると思うんだよね。

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友だちの雑誌編集長と飲み屋で「田舎っておもしろいよね、変なものがたくさんあるよね」って話してて、「じゃあ3ヵ月くらい連載やってみるか」って。僕なら、自分で撮影して自分で原稿書けるから、経費も少なくて済むだろうって。やってみたらものすごくおもしろくて7~8年続いちゃったんだよ。
僕は東京生まれ東京育ちだったので、日本の田舎は言葉の通じる外国みたいな感じで、すごい発見がありました。知らないことって、普通遠くにあって、お金を払って時間を使って苦労していくと、見たことのないよいものが発見できると思っていたんだけど、そうじゃなかったんです。近くにもよいものがたくさんあって、それを見落としてることって、すごく多いんじゃないかな。そういうところから、僕の仕事はスタートして現在に至るわけです。

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例えば5万円のゾウの絵と3億円のデ クーニング
どっちも、おなじレベルでおもしろい。
こういうことが、何かを教えてくれてるんじゃないかなって
僕には思えるわけです。

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最近好きな絵でこういうのがあります。抽象表現主義っていう感じの力強いストロークって筆触みたいな感じの絵です。これを描いているのが誰かっていうと、ゾウのルコップ君。一応、アユタヤ? チェンマイ? の古い建物を見てこの絵を描くっていうところがすごいと思います。タイではゾウがたくさんいて、結構労働とかに使われている、丸太運んだりとかね。それで、ゾウにもいろいろやらせてみるわけ。例えば、ゾウサイズの楽器を作ってオーケストラを作って、CDにしたり。めちゃくちゃかっこいいんですよ。ほかにも、絵を描かせたり。だいたい、1枚500ドル、5万円くらいで買えるのかな。

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これは、ゾウが描いたようにも見えますが、ウィリアム デ クーニングっていう抽象表現主義の大家が描いたもの。いま買うと3億円くらいするデ クーニングの有名な作品のひとつです。「けどさあ、ねー」っていう感じになるわけじゃない。「これ(ゾウが描いた作品)が500ドルよ、それでこれ(デ クーニングの作品)が3億円みたいなっていうのはなぜよ」って話になるわけ。別にこの3億円がいけないんじゃなく、こっちもいいだろう、どっちもいいだろうって見ることができたら、すごく楽しくなると思うんだよね。

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ニューヨークのクライスラービル。これは、現代美術作家で日本人の杉本 博司さんの写真。確かサンフランシスコの近代美術館のコミッション作品で、世界の杉本さんが気に入った世界の現代建築を杉本さん流に撮影するプロジェクトの作品のひとつです。
ボーっとなってますけど、それは杉本さんなりの考えがあってやってる技法。「何でこうなってるんですか?」って聞いたら、杉本さんが思うには建築でいちばんいいのはどういうときかっていうと、例えば建築家がご飯食べながらピッと思いついたりしてナプキンにささっと書いたりするじゃない、ああいうラフスケッチのときがいちばんおもしろいって言うんだよね。完成しちゃったら、もうおもしろくないみたいな。それは一理ある。そのラフスケッチの段階をどうやったら写真で表わせるかって考えたとき、ボーっとしたイメージで撮ったら、もしかしたらそれに近づくかもしれないと思ったそうなんだよね。
それはすごくおもしろい考え方、アイデアだと思うんだけども、そうやって撮ったシリーズがあるわけ。それからこれはなくなっちゃったワールドトレードセンター。これが2、3年くらい前にオークションで現代写真としては史上最高値の5万ドルくらいの値をつけたっていうすごい作品なんですよ。

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似たような作品。これはモスクワの赤の広場を撮った作品。ただこれを撮ったのは杉本さんじゃなくってこいつ、チンパンジーのミッキー君です。一応カメラはエイトバイテンのすごいカメラを使ってます。これはミッキー君、さっきのはモノクロにしてみると杉本さんの作品にそっくりみたいな……(笑)。これを杉本さんに見せたら喜んで、「おれのよりピンが甘いな」みたいなこと言ってました。けど、ミッキー君はこれを自主的に撮っているんだよね。まず、ミッキー君を前にして人間がポラロイドを撮ってみるんだって、そうするとポラロイドってすぐ出てくるじゃない。そうするとこっち側にカメラってものを向けてこうやってシャッターを押すとこの絵が出るんだなっていうのをチンパンジーが理解するらしいんだよね。ピントまでは合わせられないかもしれないけれども、それからは自主的に撮るっていうわけ。自主的はいいんですけども多分ギャラ安いっていうかねえ、バナナ2本みたいな感じだと思うんだけど(笑)。だけど杉本さんが5万ドル、こっちはバナナっていう、これどういうことよって話なわけよ。
杉本さんの作品はチンパンジーくらいひどいのか、チンパンジーが杉本さんくらいすごいのか……、どっちでもないと思うんだよね。どっちも楽しいし、おなじレベルでおもしろいなって思う。すごいおもしろいんじゃないかなっていう感じが何かを教えてくれてるんじゃないかなって僕には思えるわけです。

そういうのをいろいろ考えるきっかけになったのが、日本の田舎をうろちょろして、まとめた『珍日本紀行』(筑摩書房)です。これは、日本の狂った田舎のシーンを世界遺産のようにきれいに撮影しています(笑)。当然ハイビジョン、レールは敷くは、ミニクレーンは使うわ、大変な苦労をして、時間をかけてくだらないものを撮るっていうプロジェクトです(笑)。
(画像)

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例えばこれは三重県。三重県にある大観音寺、ここはね、すごいの。山の中に榊原温泉があるんだけど、畦道みたいな細い道を行くと、いきなり10メートルのミロのビーナスと自由の女神とかでっかいのがバンバンと建っているんだよね。その向こうに、ルーブルそっくりのガラスピラミッドがあって、「なんじゃこりゃ」みたいな感じなわけ。ここはルーブルの傑作彫刻1300点のコピーを飾ってるっていう、ルーブルのお墨付きなの。それは、世界で唯一のルーブルの分館ともいえるんです。一応オープニングにはルーブルの館長とか来てるんだよね。ミロのビーナスをパリのルーブルで触ったら、即逮捕だけど、ここは触ろうが撫でようが写真撮ろうがオッケーっていう……。
その後ろに、カエルがいるわけ。このカエル、大きいんだよ1匹1メートルぐらいあって全部ブロンズ製。しかもフルオーケストラ2セットね。百何十体いるんです。
(略)

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出合っていちばんびっくりしたのが秘宝館。これが、いちばんウケたのが1970年代から1980年代の初め。当時は日本に30くらいあったんじゃないかと思うんだけど、いまもう7つか8つしか残っていないんだよね。
最初にできたのは伊勢の元祖国際秘宝館。この伊勢もすごいんだけど、もう閉館した鳥羽の国際秘宝館、SF未来館っていうのもすごい。未来のシーンはSFお色気大河ドラマみたいになって、展開してたんです。1980年にできて2000年に閉じたんですが、中身はどういうのかっていうと、2階がSF部門、3階が江戸部門、過去から未来までを見れるわけです。一応ストーリーがあって、世界が第三次世界大戦で滅亡の危機に瀕するわけ。当時、宇宙探索に出かけて行ったヒトリー将軍が帰って来て、新しい新人類を作るプロジェクトを始めるっていう話。これは、新人類をつくるには活きのいい優秀なメスをゲットしないといけないということで女体狩りっていうシーン。女体狩りの後は優秀なオスをゲットして、これは精液強制搾取っていうプロセス。それからできたこどもを特殊イーストを与えることにより3年で成人……、みたいな。これ、みんな実物大。館には、暗くて変なスペースミュージックが掛かってるんだけど、それも20年間1回もテープを代えてないからダヨンダヨンになってて、それがまたいい感じのスペーシーな音楽になってるの。
ここに行ったとき、僕はショックだったね。それまでアメリカの美術館だ、ヨーロッパの美術館だって行ってましたけど、「鳥羽にこんなのあんじゃん」って。第三次世界大戦の地球滅亡の危機っていう設定が一応1999年だったので無事生き延びましたので、2000年に閉館しました。実際は経営難により閉館したんだけどね(笑)。

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エロってすごいな。
ラブホはラブホの業界があって
ラブホのカリスマ建築家とかもいるわけ。

こういうのを見ながら、エロってすごいなって思い始めたんだよね。でも、そういう分野って馬鹿にされてるじゃない。それをもっと追究してみようと思ったひとつがラブホテルなんです。『サテライト オブ ラブ』(アスペクト)を何年か前につくりました。
2年くらい、嫌がるアシスタントを連れまわし、関西エリアと東京エリアのラブホをまわったんです。すごいんだよ。ラブホはラブホの業界がちゃんとあって、ラブホテル建築のカリスマ建築家とかもいるわけ。安藤 忠雄さん建築の家に住めるって人は少ないかもしれないけどラブホに1回も行ったことないって人も少ないと思うんだよね。だからどっちがメジャーかっていうとこっちなわけよ。

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普通のシティホテルっぽいホテルっていうのはたくさんあるんだけど、ラブホテルらしいラブホテルのデザインっていうのは、加速度的になくなってんだよね。僕は本当は建築の人にやってもらいたいんだけど、やってくれないから自分が絶滅危惧動物を撮影しているような気持ちで、まわってるわけです。
(中略)
『ストリートデザインファイル』っていう、美術館の外で何が起こっているのか、本当の町で何が起こっているのかっていうのを見てみようっていうシリーズの本をつくったんですが、ラブホテルもそのひとつです。

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アートっていうのはおもしろいと思うんだけど、
意識して意図してできるもんじゃないかもしれない。

(画像) 写真の選考委員もやっていて、いろんな人の写真を見ます。おもしろいのはやっぱり、アマチュアの写真。99%はつまんないんですよ。99%は富士山、それから高山植物、祭り、犬猫、こども、この辺で終わっちゃうんです。パターンが似通っちゃってつまんないんだけど、その中に、ときどきすごく光るものがあるわけ。それを探すのが地味な作業なんだけどね(笑)。
僕がよく考えるのは、アートとクラフトの違い。クラフト職人芸っていうのはどういうものかっていうと……。例えばここに水があると、この水がいちばんおいしいように見えるコップを作れる、お茶だったらお茶がいちばんおいしく見えるような器を作れるのが職人芸、最高のクラフトマン、職人なんだよね。だけど、例えばコップのこの辺に穴が開いてて、水が漏れる、使い物になんないんだけど置いとくとすごい存在感あるっていうような、使い物にはならないんだけど何かすごいっていうのがアート。そういうアートっていうのはおもしろいと思うんだけど、意識して意図してできるもんじゃないかもしれない。これがおもしろいわけ、職人芸っていうのは努力すればするほどできるわけ。だけどアーティストっていうのは、「どうしたらいいんですか?」ってよく聞かれるんだけど、いくら努力してもセンスがなけりゃダメだっていう場合がどうしてもあるわけ。
こういうのもその世界なんだよね。ある人はただ汽車と乙女を撮ってるだけなわけよ。だけどそれが見る側から見ると異様に変っていう……。いくら僕が褒めても彼は全然ピンときてないわけ。話し合っても埒あかないわけよね、もう自分の世界で行ってくださいっていう感じ。それでいいんです。彼がアートを意識したらおしまいだから、そういうところがおもしろいんだよね。

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(略)
いま、『サイゾー』っていうサブカル雑誌で、毎月1回日本各地の変わった老人を訪ね歩くっていう企画をやっています。これもまた大変。全然インタビューになんない、インタビューというより3時間ほど黙って話を聞くっていう感じ。そこでそういう人たちの写真を撮ってお話を聞いてっていうのをやってんのね。でもね、僕にとっては、そういうのがおもしろいんだよね。30年くらい同じ仕事をやってると、何か楽しようかなって思うこととかあるわけ。でも、そういうときに、50年間かかって自分の家に城をつくってみんなから「バカ」って言われてる親父でも目は澄んでるみたいな、そういう人と会うと「遊んでる場合じゃない」と思わされるわけ。
例えば、美大に行って卒業を迎えて、で、アーティストで食えるやつなんてなかなかいないわけじゃん。で、「いつまでも絵やってるんじゃないわよ」とか、「いい加減にしなさい」って言われるんだけども、そうじゃない。そういうときに、変わった老人のことを考えると、「このまま行こうか」って思うんだよね。

ここで、毎回レクチャーの最後に見ていただいてるビデオをご覧ください。
(ひとりの男性が東尋坊の崖から何度も飛び込む映像)

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これは、男のロマンなわけよ。すごいなあって思うんだよね、この人はね、どうしてもインタビューしたいんだけど、最近姿を見せないらしくて心配です。東尋坊って観光地だし、あと自殺の名所だし、行く人はたくさんいる。行って怖いなあみたいな感じでこう覗いて早くホテル帰って甘エビ食べようとか、カニ食べようとかお風呂入ろうみたいな話になるわけ。行く人はたくさんいるけどそこまで。飛び込む人はこの人ひとりなわけ。言わしていただければ、人生そのものじゃないかと思うわけよね。学校時代は好きなこととかやるわけよ。それで「いつまでもバカやってるんじゃありません。趣味でやればいいでしょ」みたいな感じで、「そっか」みたいになって。仕事してお金稼いで好きなときに好きなことをやればいいって……。その通りなんだけど、東尋坊を覗きこんで帰って風呂入って甘エビ食う人生もありだけど、飛び込んじゃう人生もありだと思うんだよね。そういうときに、まわりのみんなは「危ないから早くこっち来なさい」って言うだろうし、それはとっても正しいことなんだけど、でも「飛び込んだらおもしろそうだなあ」って思ったときに、このこの人の「ドリャア」のかけ声を思い出していただけると、いいことが待ってるかもしれないっていうのが、今日のものの見方のスイッチを変えるっていう、そういうお話でした。

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<第2部>

お客さまとのQ&A

お客さま:
いつも『サイゾー』の連載見ています。本当にああいう人がいるってのが信じられないくらい変わってる人ばかりだと思うんですけど、鯨のおじさんとかはどうやって見つけていますか?

都築さん:
大阪で展覧会をしたとき、中之島のそばにある鯨料理屋に行ったんです。そこに、白衣を着た変なおっさんがいたんだよね。「これは鯨の何ていうところか知っていますか?」みたいなウンチク系のことを言うわけ。ふと見たら白衣のポケットに変なものが入ってて「それ何?」って聞いたら、それが引き金になっちゃって、「ちょっと見てもらいましょう」みたいな……。「これは鯨の髭で……」って言い出して、「ほかにもいろいろあるけど見ます?」とか言われて、「見る見る」って言ったら、そしたら、鯨型のウルトラリーゼントカツラをかぶって出て来たんだよね。「美術家の森村さんって知っていますか? その人につくってもらったんだ」って……。そんな鯨のウンチクを2時間たれる人がいるんだけど、そういう人を毎月探してるんだよ。
やり始めたものの、心配したのはいつまで続けられるか。変わった人同士って、横のつながりないしさ、紹介してもらうっていかないわけよ。だから偶然の出会いを待つしかない。もちろん、いろんな人に聞くんだけど、始めてみたらいるわいるわ、いまや半年先まで埋まってます。
「どうやって探すんですか?」っていう質問よく受けます。僕は自分の仕事でひとつ課してるのは、絶対にリサーチャーをつけないってこと。自分で探すっていうふうにしてるんですよ。車でずーっと走って探すことにしてんのね。3日くらい走っても何もないってときがある。「どうしよう」と思うと5キロ先「純金大仏あり」という看板があったりしてるわけ。つまり僕が探してるんじゃなくて探されてるんだよ。変な話だけど、呼ばれてる感じ。だから苦労してないです。もう死ぬまでにどれぐらいできるか、勝負ですね。

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お客さま:
学生のころとか仕事を始められる前は自分の将来についてはどのようにお考えだったのでしょうか?

都築さん:
僕、編集者として全然成功してないんです。出版社は潰れるし……。実は、木村伊兵衛賞もとったんです。とったら、仕事がどんどん来ると思ったんだよね。インタビューは100件くらいきたけど、新しい仕事は1個もなし。
編集者になろうって思ったこともなかった。学校が英文科だったんですけど、大学1年生の夏休みくらいから、雑誌の編集部でバイト始めたのね。最初は、お茶くみとかコピー取りで、それから英文科ってことで外国の雑誌の翻訳のバイトをしていました。アメリカ文学専攻だったので、本当は大学院に行こうと思ってたの。でも、学生時代から、例えばアメリカのおもしろい街に取材とかで行くと、いまみんながおもしろがってる本、小説家とかわかるじゃない。おもしろいなあと思って、その作家について論文書こうとか思うと、大学の先生たちはその作家を知らないわけ。もしかしたら、大学の先生たちって古いことは知っているけど新しいことは知らないのかもって思ってしまったんだよね。だから、「大学院で古いことやってどうするんだ、それより街に出て新しいみんなが本当に読んでいるものを探した方が絶対おもしろいだろう」って。それで、もう学校はどうでもよくなって編集者になっちゃったわけよね。

お客さま:
やさしい雰囲気を持つ人でびっくりしました。今日は日本人もやるなあって感じました。日本人と外国人が並ぶとどうしても日本人は劣等感を感じると思いますが、なぜでしょう?

都築さん:
最近の『週刊朝日』でバブルの時代を楽しく振り返るっていう連載をしています。やっぱり、バブルを境に日本人は変わったって思うんだよね。バブルって、ちょうど15年くらい前。それまでは明らかに欧米重視だったんだよね。バブルは、すごくよかったって思う。アメリカでもヨーロッパでも、金で買えるじゃんっていうのがわかったんだよね。それで度胸がついたってことはあると思う。バブルが悪者になってるけど、あれってもしかしたら神さまが日本人にくれた2年間ぐらいのお遊び期間だったの。だって何でも買えたんだからね、おもしろかったわけよ。
っていうふうな話を毎週やってるんです。今度やるのが千 昌夫さんのインタビュー。
千 昌夫さんって、一時資産3000億って言われてましたからね。あの人は「日本人がいちばんだけど、奥さんは金髪がええね」って言ってましたけど、そういう知的劣等感とか劣等感を感じているのは意外と都会のおしゃれな人たちなんですよ。田舎に行くと、劣等感はないですよ。フィリピンパブとかロシアバーでブイブイいわしてる親父に、グローバルな劣等感があるかっていうと、とんでもない。「俺さまがいちばん偉い」と思ってますからね。だから劣等感持つっていうのは、中途半端な都会人の悪い考え。田舎のフィリピンパブで騒いでる親父を見習えと言いたい。全然答えになってないですね(笑)。

フェリシモ:
都築さんのじっくりと時間をかけて、自分の興味、対象に熱意を持って取り組まれている姿は、やはり報道や編集の人なんだなと感じました。都築さんの旺盛な好奇心が尽きない原動力になっているのはどういうところでしょうか。

都築さん:
やっぱり体力ですよね。好奇心の元っていうのは、ひとつは体力。いくらおもしろいなと思っても、そこに突っ込んでいく気力がないとダメなんだよね。
例えば、『珍日本紀行』の話をしましたけれど、ネタはどうやって見つけるかというと、田舎道を車で走っていると、突然、「天才画伯の個展あり」みたいな看板があって、「ふーん」と走り過ぎるわけよ。5分くらい運転しながら「もしかしたら、おもしろいかも」って、でも「早くホテルに帰ってお風呂入りたいな」みたいな……。わざわざUターンして行っても、90%は失敗。でも、10%はおもしろいのに出合えるわけ。その戻る体力があるかどうかってのはすごいポイント。やっぱり、身体は鍛えた方がいいです。
もうひとつは、人の言うこと聞かないってこと。「アーティストで食ってくなんて大変だよ」とか言われて、「それはわかってるよ」と。でも、「じゃ、来世でアーティストにしてくれるの」っていうと、そうはいかない。だからある程度まで来たら、あとは、人の言うことを聞かないでどれぐらい突っ走れるかっていう力だよね。
人の言うこと聞かないってことは、当然金は得られない。それから友だちも減る。お金がなくて、友だちがいなくても、好きなことに突っ走れるだけの体力と耳をふさぐ力っていうのがあればおもしろいことができます。だから、人の言うことを聞かないで行こうっていうのが今日の結論でしょうか。

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Profile

都築 響一(つづき きょういち)さん<編集者/評論家>

都築 響一(つづき きょういち)さん
<編集者/評論家>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
1956年東京生まれ。76年から86年までポパイ、ブルータス誌で現代美術、建築、デザイン、都市生活の記事を担当する。89年から92年に、80年代の世界の現代美術の動向を網羅した全102巻の美術全集『アート・ランダム』を刊行。以来、現代美術、建築、写真、デザインなどの分野での執筆活動、書籍編集を続ける。93年、東京人のリアルな暮らしを捉えた『TOKYO STYLE』刊行(99年、アメリカ・クロニクル社より英語版刊行)。「週刊SPA!」で5年連載された『珍日本紀行』の総集編『ROADSIDE JAPAN』を96年発売。(第23回・木村伊兵衛賞受賞、2000年東日本編、西日本編を刊行)97年秋からプロフェッショナルではない人々によるデザインに注目したシリーズ『ストリート・デザイン・ファイル』を刊行開始、2001年春、全20巻完結。同年インテリア取材集大成『賃貸宇宙』刊(筑摩書房)。現在も日本および世界のロードサイドを巡る取材を続行中。

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