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神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

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「12ヵ月がはじまる前に~生活をつくるセンスを見出そう」



<第1部>

これからどうやって生きていこうか?
その答えをイギリスに求めて……

みなさま、悩みごとありますか? 私はこの世から消え去ってしまいたいくらい、落ち込んだことがあります。最愛の父を亡くしたり、友だちに裏切られたり、いろんなことが重ねて起きたんです。1990年バブルが崩壊しそうなころ、私はフリーランスでコマーシャルの仕事をする35歳の独身女でした。「これから、何を頼りにどうやって生きてったらいいんだろう」と、ある日突然、バーンと爆弾が爆発したみたいになってしまったときがあったんです。しっかりとした目標がなかったら何をしてもうまくいかないのはわかっていました。イギリスにいた主人には、前々から「来れば」と言われていたんですが、「仕事がおもしろいから東京を捨てられない」というのもあったんですね。でも、そのとき「ちょっと行ってみようかな」という気持ちがわきました。
(略)

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これからどうやって生きていくのがよいのか、イギリス生活の中に答えを求めてみよう、それくらいの気持ちだったんです。
美術大学で勉強していたときに、環境の変化というものにとても興味がありました。環境という点では、ヨーロッパは素敵ですよね。「なんでこの街がきれいなのか、秘密を暴いてやろう」そういう気持ちになりました。けれど……、言葉もダメ、理解力もない、それから人種差別、そういうところで完全に打ちのめされました。そして、「これから自分の人生をどうやって見つけようか」と思っていたときに、ふと窓辺に飾っている花を見て、「まずはあれをまねしてみよう」というところから入っていきました。

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草花の生命力に魅せられて
ガーデナーの道に……

そして、私は種をまくと、双葉が出て、成長していくという生命の尊さというところにいきなり入ってしまいました。「イギリスの人たちの素敵な暮らしをまねしてみよう」なんて思っていたことを忘れ、家の周りにたくさんの箱を並べ、土を入れ、種をまき、園芸大好きおばさんになってしまったんです。
そんなとき、近所の人に「Your gardening is colorful」とイヤな感じで言われました。要は、私は環境美化をやってなかったんですね。とにかく栽培することがおもしろかったから、植木鉢をたくさん置いて、グチャグチャに花を咲かせていました。園芸は実は装飾しなければならないということ忘れていたんです。それまでは、自分がどうやって生きていったらいいかわからない、仕事も何をしたらいいかわからない、女としてもどういう生き方をしていいか……。そんなときに、種をまいて、花を咲かせて育てるという生命を扱う中で、だんだん自分自身がわかってきました。

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「いまは冬だけど、春は必ず来る、いずれ花は咲くさ、また秋は来る、そして冬も来るんだけれども、また春が来る」そこの核心部分に自分の生命に対する信頼というものを回復することができたんですね。それまでは私は日本人、周囲はイギリス人、すごく距離感があったんです。ところが花をきれいに育てることで、見ず知らずのイギリス人が「あなたの庭、素敵ね」と声をかけてくれるようになったんです。それから私も、知らない人に「この花の名前を教えて?」「きれいな花ですね」と声をかけられるようになって……。そこから、世界が広がり、私の人生は生き返りました。
そういう私が探して見つけていった、いろんなプロセスのものを写真で見ていただこうと思います。
みなさまに考えていただきたいのが、「テーマをつくること」です。要するに、自分の中での目的、目標、結論、そういうものを感覚的につかむ、ということを理解していただけたらと思います。

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イングリッシュガーデンとの出合いで
“春はまたやって来る”ことを体感

イギリスの庭には本当に、冬の庭には花がありません。イギリスの冬は光がまったくないんです。こんな真っ暗な冬が大体9月初旬から3月下旬まで。昔、バイロンという詩人が、「イギリスの冬は7月に終わり8月に始まる」と言ってましたけど、薄暗い時期が続きます。
私がイギリスに行ったのは、1月下旬ごろ。真っ暗です。人間というのは、光がないとウツ病になるそうです。これ(写真)は、クリスタル、シャンデリアのキラキラを枯れた木にぶらさげて、飾っています。こういうものが光るだけでも落ち込んだ気持ちが明るくなるんです。キラキラしているものを見ると気持ちもキラキラする。人類はなぜダイヤモンドに熱中するのか、っていうとやっぱりキラキラにあるのかな。あの小さなダイヤモンドは、太陽の光のような効果があるのではないでしょうか。私は冬の暗いときに、キラキラしたものを眺めたり、自分でつくって自分自身をなぐさめ、元気づけていました。

これ(写真)は私が住んでいたロンドンの家の庭の冬景色。モノトーン。色のない、そんな時期が続きます。
満開の時期のスノードロップの野原(の写真)です。3月下旬です。満開の時期のスノードロップは、かすかにいい匂いがするんです。たまに太陽が出たときに、出かけます。悩み事を抱えていても、「あーキレイだな、あーいい匂いだな」って思うだけで、悩みごとが少し薄められる気がします。
目の中に美しいと思う景色を入れるというのは、「きれいだなー」と思って見るその目が、美しいもの、栄養を吸収してるんですよね。「きれいだなー」という気持ちのあとには、「なんだか人生悪くないような気がするな」っていう感覚があるような気がするんです。
(略)
3月になるとスイセンが一面に咲いてきます。この黄色い花が、とても効果があるんです。黄色はルミナスカラー、反射色。光を反射して、それ自体がまた発光します。そうしたところから、イギリスでは黄色いスイセンを春の小さい太陽というふうに言います。黄色い花を見ると、みんな本当に朗らかになって、落ち込んでいた冬が嘘のように、気持ちがパーッと明るくなります。「私はこの先どうして生きていったらいいんだろう」と思ってるのに、「あー、しあわせだ」っていうところに着地できる。それが自然の四季の移り変わりの偉大さかなという気がします。

私はもともと物をつくるのが大好き。私の根本は、きれいだと思ったものをつくって、自分が「かわいいな、素敵だな」と思うこと。そのあとは、今度は誰かに見せたくてしょうがないんですね。
スイセンの時期は、町の花屋さんでスイセンが24本200円くらいで売ってるんです。それを買って、イースターの飾りをつくりました。季節を祝う気持ちで、その季節にいちばん手に入りやすい材料を使ってものをつくるのは、人間が大地と密接に生きているような気がします。

4月、5月。これ(写真)はブルーベルという植物の森。イギリスの田舎に行くとあちらこちらにこういう場所が残っています。こういうところを散歩して、大きく深呼吸します。私は情緒不安定になったり、落ち込んだりしやすいから、たくさん心理学の本を読んでいます。本当に弱っているときは、本を読んでも自分が受け入れられないんですが、「大きく深呼吸をしてみなさい」って書いてある一節を思い出して……。こういうところで大きく深呼吸をすると、希望にあふれる、そういう気持ちになったものです。そんなところから私は、花や緑を仕事にしていきたいと思うようになりました。

これ(写真)は私の家の隣の桜。桜の視覚的な面積はわが家のもののよう。これが満開になると、本当に浮かれた気分になります。人間というのは、曇っていたり寒かったりすると落ち込むし、晴れたり、空が真っ青だったりすると、陽気になるもんなんですね。

イギリスにはお金を出せば見せてもらえる庭が3300ヵ所以上あります。その代表格のシシングハースト・ガーデンに初めて行ったときに、花の色彩でつくるガーデンの素晴らしさを知りました。例えば、黄色と赤い花だけの庭。こういう黄色と赤の花の色を限定するガーデンというのを初めて知りまして、そのときに、イギリスの庭はデザイン、アートなのではないかと気づきました。

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ここ(写真)はグレート・ディクスター。私はイギリスで200~300は庭をまわったんですが、その中のナンバー3のひとつがここ。この庭は、植物の花の色を絵の具のように、そして、その庭そのものをパレットのようにして色を混ぜ、絵を描くように花を配置するということで知られています。本当に絵のような景色です。こういうのを見て、私はなんかこう感覚的な喜びを感じます。いままで美術館に行ったり、オペラを見たときに感動することがあったわけですけれども、こういう庭で感動することがあることにビックリしました。
さっき深呼吸するって言いましたが、花の香りを嗅ぐのは、ただ「こんな匂いがするな」って思うんじゃなく、その香りが頭を支配する部分があり、その匂いによって、懐かしい何かを思い出したり、スカッと気分が良くなったり…… ってのがあるんですよね。特に花の香りにはたくさんの効能があるそうです。ドクターバックって言うんだけれど、花の治療の先生が「スミレの花はショックを受けたときにいい」とか「ラベンダーは鎮静効果がある」と言われてます。そして目で見て「ああいい感じ」と思うことで自分の感覚が研ぎ澄まされる、そういう部分があります。

私は自分の庭を、最初は庭づくりの方法も知らないので無茶苦茶やっていました。でも、ちょっとおしゃれにしなきゃいけないんだと思い、例えば、1ヵ所で2色以上の花の色を使わないほうが洗練された色になるとか勉強して、淡いピンクだったら、淡いピンク中心にパステルカラーだけにするとか、そういうふうにアレンジするようになっていきました。
水やりをする瞬間、本当に気持ちがいいんです。水をやってるときに草花が「わぁい! うれしい、喉乾いてたんだよ、ありがとう」って言ってるような気がしてならないんですね。喜びを分かち合ってる気がします。イギリス人が、「ガーデニングというのは、お天気のいい日に、現代人が外のおもしろい素敵な環境とかかわるための口実なんだ」と言いました。なるほどなって気がします。

私は貧乏性なんです。 花がただ咲いてそのままサヨナラってのがとってもイヤ。特に自分ひとりがその花を見て「きれいね」で終わってしまうのが我慢できないんです。きれいだなって思ったら、例えばちょっと切って、絵葉書をつくります。この後は押し花にして、それから乾燥させて……、とか、いろんなことができるんです。そうやって写真を撮ったり、2倍3倍、5倍6倍にして楽しまずにはいられないんです。そういうことをしている瞬間はしあわせで楽しいもんです。

私はもともと絵を描くのが大好きだったんです。本物をよく観察して、指で触ったり、なめちゃったりもするんですけど、そうやって感覚で感じながら、その絵を描くというのは、なんとなく思い出して描くのとは全然違うんですよね。絵心のない方も一度試していただきたいんですけど、本物を目の前で見ながら、鉛筆で一筆書きをしてみるとか、そういうことを一度してみると、リアルな臨場感というか、本物感、そういうものが感じられます。そこに何か生きている手応え、達成感があるもんなんですね。

あるとき樹木の木の存在のすばらしさにも気がつきました。これ(写真)は、キングサリーという大木。こういった日本では見たことのないような大木を目にすると、樹木のすばらしさに気づきます。例えばこの木の下に立って、見上げると、花の色彩と空の色しか見えないんです。花の香りもシャワーのように降ってくるような気がします。悩みごとがあろうが、おもしろくないことがあろうが、自分の欠点をさんざんわかってがっかりしても気が晴れます。

そろそろガーデンめぐりの時期が始まります。イギリスの庭の特徴は、まるで本物の野山のようにして構成するところ。そして、最近は無農薬でいかに花を楽しむかっていうことが大切にされています。

これ(写真)はまったくの手つかずの本物の野原。赤いポピーがたくさん咲いてます。ポピーは雑草だから牧草地には向かないということで駆逐されてたんですけど、最近はイギリスの田舎を走っていると、こういう景色によく出くわします。看板もないし、ガードレールもないし、ホントに何もないとこに延々こういう景色が続きます。こういった景色を大切にするイギリス人はホントに偉大な民族だなぁと思います。

自分の庭に戻ります。短い夏だけど、いちばんいい時期に花を楽しむことにおいては、最高の季節。ガーデンはピンク系、薄紫系でまとめています。それまでのウツ病のひどいときは、朝、目が覚めたときに何もしたくないんですよね。体が起きられないっていうか、とにかく何もしたくないんですね。何もしたくないと思う自分がいちばん辛いです。そこから抜け出して、私は花が大好きになって、このころには朝目覚めると、「水やりしなきゃ」とか「あれが咲いたかもしれない」って、パジャマのまま庭に出てたりしてました。昼過ぎても、パジャマだったりして、その上にエプロンして園芸をしてるんです。園芸が、時のたつのも忘れて打ち込める情熱の対象になっていました。
園芸の“園”というのは英語にするとエデン、エデンはユートピアという意味でしょうか。自分の夢の場所、そういった存在にもなり得る、そんな気がしていました。

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庭づくりをすると、人を呼びたくなる。それまで人に会うのもイヤだったんだけれど、だんだん誰かに見せたいというか、そういう気持ちになりました。庭や家の中をきれいにする最良の方法は人を呼ぶことなんですよね。明日誰か来ると思うと、掃除機をかけるのにも力が入りますし、ふだんは散らかっててもいいやと思っていた家も、まず玄関を開けて、ぱっと入ったときに目に入るものを、とにかく他人のつもりになって、これはどけておこう、これはちゃんと始末しておこう、とか気がつくんですね。そういうふうに人を呼ぶっていうことはポイントだと思います。
例えば、テーブルクロスというのはとても効果的。テーブルクロス1枚あるだけで、雰囲気もよくなったり……。私は必ずテーブルクロスとキャンドルを、テーブルセッティングのポイントにしています。
ところで、花を3倍4倍に楽しむ方法として、自分が育てた花がキレイに咲いているのに、お客さまが来る予定がないときには、凍らしておくのがいい方法です。大小のコップを用意して、大きいコップの中に花を入れて、いったん沸騰させた水を入れると、透明感のある氷ができます。で、その中に花が入っています。
ハーブや花のクッキーもつくってみます。青い花はエンダイブ、焼いても意外ときれい、ちゃんと味や香りもあります。そういう中で、しあわせな気分が味わえます。
それから、テーブルそれぞれに庭の花を飾ります。自分の庭では、いまこれが咲いてるのよっていう、メッセージだと思うんです。水あげさえしっかりしておけば、1時間くらいはお水を切った状態でも元気です。水あげのコツは、切ったらすぐに水をいれる、あと、コップのいちばん下のところで、茎を切ると水がよく上がりますね。

自分の庭の写真を撮るのは、とっても重要なことだと思います。なぜかというと「こんなのあったんだよって」人に見せる、そういう楽しみが出てくるからです。私はイギリスのたくさんのガーデンフォトグラファーに、「どういうふうに撮るといいの?」と聞きました。大体の人が夜明け直後がいちばんキレイだと言います。光の加減もそうですね。太陽光線は真上に行くほど直射日光で照らしてしまうので、きれいに映らないんですが、横の光というのは、対象物に当たったことで反射するので、反射光がきれいなんです。その効果を使って、朝早くに庭の撮影をします。この場合は私の家の窓に、ガラスに朝日が当たったのが反射してきれいに見えてるんですけど、そういうときを使って写真を撮っています。

秋になるとこの(写真の)通り。どんなに掃除しても、落ち葉は後から後から……。
秋が来ると、庭には楽しいものがないと決めてかかってたんですね。でも、あるとき、ある庭を拝見して「秋の枯れた茶色だけれど、素敵だな」と思いました。秋ならではの光を浴びながら、ベージュ、オレンジ、茶色とかの色彩で存在する植物にも美しさを感じました。

秋バラが咲く背景にスモークツリーの葉っぱが紅葉しています。花だけでは素敵な景色ってできないんですよね。花と背景の関係性の中でなにかいいなって感じに思われます。私もそれまでは花さえ咲いてればしあわせだったんだけど、だんだん背景のことを考えて植え込みをつくるようになりました。遠近感、例えば白っぽい色は飛び出して見えるし、暗い色はへっこんで見えるんですね。そういう関係性の中、庭をつくるときに手前に明るいもの、白っぽいもの、そして後ろに暗いもの。膨張色、縮小色……、そんなことを意識して庭をつくるようになりました。
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森の中を歩く楽しみがあります。イギリスでは、紅葉ならぬ、黄葉の森です。こういった森を歩くというのは、堆肥っていうか葉っぱがだんだん腐っていくときの香りには、えもいえぬ良さがある気がします。ものを感じるってことは、それイコール栄養だって気がするんです。
例えば、私は今年50歳になります。衰えは感じますけど、心の中はまだまだ育てられてる気がするというか、感覚の喜びをまだまだ感じています。大人になってくると、私たちは大地に生きていて、濃い大地との密接な関係によって、花や緑があって、そして、こういう匂いがいい気持ち、なんか安心するような香りがする、朝ご飯を食べたり、お昼ご飯を食べたりするのも大事なんだけれども、こういう瞬間を人は持たないといけないってすごく思うんですよね。そういうところを散歩する時間というのはすごく重要だと考えてました。

歩いていると、目に入ってくるのがこういう落し物(木の実)なんです。「何拾ってんの?」って東京から来た友だちに言われたことがあるんですけど、「きれいじゃない、かわいいじゃない、これ見過ごして歩いていくのもったいないよ」って。「何に使うのさ?」って言われながら、歩いた日のことを思い出します。拾ってこんなふうに飾るともう大金持ちの気分。実をたくさん集めて、小鳥たちに食べてほしくてつくりました。ところがリスが全部持ってっちゃったんですけどね。冬の間は庭が寂しくなるので、こんなものを飾る楽しみもあります。
(略)

イギリスのクリスマスは25日の11時ごろからクリスマスパーティーを始めるんですけど、クリスマスディナーはお昼に食べるんですね。ターキーを焼いて、12時から夕方の5時くらいまで食べ続けてます。窓の外にはおもしろいものはないけれど、家の中でキラキラしたものを楽しむ長い冬になります。
(略)
こんなふうにして、1年がいろんな思いで過ぎていくわけです。さっきキャンドルがありました。暗い時期に生の火を眺めるのもいいものです。生の火を眺めるというところに、人間として原始の時代から味わってきた感性を戻していく、そういうことを大事に思います。
(略)

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園芸を通じての出会い
人間も自然の中のひとつの存在
庭は自己表現のステージ

私に多大な影響を与えてくれたのは人間。自然以外にいちばん重要なのが人間です。イギリス人が誇る最大の園芸家ベスチャットさんというすごく素敵な方に私はたくさんのことを教わりました。大事なことは、プランツエコロジー。植物の生態環境をいちばん大事にしてやることだそうです。乾いた環境が好きな植物には乾いた環境を与え、湿地帯が好きなのには湿地帯、でも、単にそういうことだけじゃなく、想像することも大事。彼女は「あなたが想像力をちゃんと使って計画し、その通りに植物が元気に育ったのを見たとき、それはあなたを元気にさせる源になるはず。だから、植物を元気いっぱいに育てることがあなたを元気にさせるのよ」と、私に教えてくれました。プランツエコロジーがヒューマンエコロジーにつながるんだな思いました。
悩みごとを抱えていたとしても、大地・緑・花・水がある。自分自身が根が生えた人間っていうのかな、大地に根が張っていれば、何があっても大丈夫だよって気になれる……、植物を育てることはそんな心のフットワークを育てていくのに非常に影響すると思います。私自身も、いろんな植物を育てていく中で、何とか元気になってきたんだって気がします。

人に見せるのも大切なポイント。これ(写真)はイギリスで有名なオープンガーデン。自分の庭を開くというのは、心を開くということ、オープンマインドの気持ちでもあると思います。庭をつくることで自分自身を知る。心理学でもよく自己実現ができれば人間はしあわせだと言いますけれど、庭ってのはまさに自己実現。だから庭を見てもらうのはいいことだと思います。
(略)
(写真は)グレート・ディクスターのヘッドガーデンのギャラットさんです。彼に素敵な庭づくりのコツを聞いたとき「自分の頭の高さにまで咲く宿根草は実際それと同じくらい地面の下を掘って耕しておかないと、立派な花は咲かないんだ」と言っていました。それから彼の庭づくりのコツは、「花だけで庭をいっぱいにするのは際限のない作業の連続。だから、葉っぱで埋めるのがポイントだ」と言っています。葉っぱのものを塊で置き、花はアクセント程度に考えればよいのだそう。
これ(写真)が彼の庭。イングリッシュガーデンの素敵なポイントは、人間ひとりかふたりが入ったら精一杯の狭い通路をつくること。素敵な葉っぱや香りのいい花が目の前に迫ってくると、その分「いい匂いだな、素敵だな」と感じることになります。
ホリホックの花が目の高さより高いところで咲いています。ここのガーデンの道幅は90センチだったかな。そして、ホントに花の色彩が限られています。

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近所のおばあちゃん、シーラさんもオープンガーデンをしています。彼女は足が悪いのですが、体を使わなくても、キレイな庭がつくれるよう工夫しています。狭い庭だし、よく見たらたいした花がない、パンジーが咲いてる程度。よく見ると葉っぱだけなんですね。カラーリーフの葉っぱで空間を埋めていて、そしてほとんど病害虫に縁がない植物ばかり。でも、自分の体との相談で植物を選んでるところがいいと思います。
私も心に決めているのは、50歳になったら、あえて増やしていかないようにしたいなって。実りあるマイナスってのもあっていいんじゃないかって、彼女の庭を見たときに思いました。
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イギリスの建築家クリストファー・ブラッドレーさんがデザインしたガーデンは“オマージュドアンドー”と、安藤デザインの空間にイングリッシュガーデンという発想でデザインがされていました。クリストファーさんは安藤 忠雄さんにあこがれていていました。乾燥に強いオリーブ、ラベンダー、ハーブがメイン、乾燥に強い植物はモダン建築に似合います。

これ(写真)はデレク・ジャーマンという90年代にエイズで亡くなった映画監督のお家。イギリスに最大のセンセーションを巻き起こしたと家と庭です。庭というひとつの表現として90年代に注目されたものです。ダンジョネスという原子力発電所のすぐそばにこの家があります。目の前が海、周辺に拾ってきた流木なんかを組み合わせた造詣が深い庭。デレク・ジャーマンのライフスタイルそのもの、人生そのもの、自然観そのもの、人生観そのもの、そんな気がしてなりません。まさにデレク・ジャーマンというアーティストの自己実現。これを見て私は「庭って自由なんだな」って思いました。
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(写真は)私の家です。手前に花を置いてます。こういうふうに、手前に大きな葉っぱを置くということは、目の安定感もあります。
ベランダはキッチンと至近距離にあります。それが私の夢でした。お米を研いだときに、研ぎ汁を全部植物にやることができたりと、炊事、キッチンというものと、庭仕事が密接にかかわってくる、それをしあわせに感じています。ベランダは葉っぱがメイン、散らかって見える植物を極力使わないようにしています。
ベゴニアを手前に。手前に目を引くものがあると遠くにある景色はどうでもよくなる、っていうふうに人間の目はできています。手前にベンチ、テーブルなんかを置いたりして、遠近感をふだんの生活でも意識して置いています。
(写真は)わが家の前の塀。黄色が黒い背景に映えるから、ここでは黄色いバラを……。あとは黄色い葉っぱやシルバーグレーの植物を使って面をつくります。ベルゲニア、ユキノシタという葉っぱがあります。手前に大きいもの、後ろに小さいものというふうに遠近感を演出しています。
(写真は)北側の部屋で白いバックに対して黒い植木鉢を置く。白黒でコントラストをつけています。
結構暗いので、窓の外を明るくすることを意識しています。サンセブエリアはマイナスイオンがすごく出るんですよ。固い植物ですから、まわりにアジアンタムのようなフワフワの植物をあしらい、固いものにやわらかいものというふうに対照的に構成します。
ブロック塀の古い汚い壁を全部自分で白いペンキを塗りました。白い植物を植えることで窓の外がフワーっと明るく見えるように構成。アメリカアジサイのアナベルが満開のときは、空間がホントに明るく見えるんですよ。色の効果ってのは、その場所を明るくしたり、暗くしたりってことがあると思います。
寝室では、壁の色と花の色の関係がとても大事だと思います。ゲストが泊まるときに、花を飾るんですが、壁の色の一色と同じ色の庭で咲いているクレマチスを一輪でも飾ることで、その場の雰囲気がポッと変わります。

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また、私は香りも楽しみます。私はユリが大好き。球根花っていうのは、開花してきたら家の中でも咲いてくれます。とにかく香りがいい。夕方に香りを嗅ぎながら過ごすのはホントにしあわせです。
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こうやって花が咲く、やがて春は来る、いずれ花は咲くんだ、っていう気持ちが毎年毎年を楽しみにしてくれます。
自分の人生もホントに間違いなく、誰でも1年たてば、1歳年を取り、いま20歳の子も20年後には40歳にっていうように均等。でも心の持ちようはまったく同じじゃない、という気がします。そういう中で、希望を失わない、あるいは来年を楽しみにする、春が来るのを楽しみにする……。私は園芸家となって、自分の死後も、自分が植えた木がどこかで生きてくれるのは、素敵だなっていつも思います。いろいろ悩みごともあるし、自分ではどうにもならないこともたくさんあります。けれど、そういうことは別にしても、やがてしあわせな気分は来る、どんな状況にあっても花は咲く、香りを嗅ぐことはできるんです。そして、そういう時間があるんだと思うだけでしあわせな気分になる、誰にでもそういうチャンスがたくさんあるように感じます。

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<第2部>

お客さまとのQ&A

お客さま:
五感についての学びを深めたいと思っています。植物に触れることは五感を磨くことにつながると思いますが、吉谷さんご自身がお考えになる五感と暮らすとはどういうことでしょうか?

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吉谷さん:
そのように思うことこそ、すばらしい。そういうふうに思ったら五感と暮らし始めているんですよ。私自身、いまから20年前は青山のコンクリートジャングルにいました。土にも触れないし、大自然とまったく縁のない暮らしをしていたとき、なんとなく不安定になっている自分がいました。「このまま根なし草みたいで、いったいどうするんだろう」って思ったときに、やっぱり地面が大事だなと思いました。「イライラしてどうにもならない、このまま年を取ってどうするの?」って思ったときに、友だちが「イライラすることがあったら、手のひらを地面につけて、“アースする”といいよ」って言ってくれたんです。イライラすると手のひらが熱くなってくるんですね。それをひんやりした地面に置くっていう……。「ああ、気持ちいいなあ」って思ったんです。人間の体には、鼻があって、目があって、耳があって、手のひらもある。気持ちいいと感じた気持ちを大事にしていくことが、感性を磨くということなのかなと思います。

お客さま:
神戸はまだまだ阪神淡路大震災から立ち直っていません。私たちは、何から始めたらよいのか教えていただけますか?

吉谷さん:
本当に重大な課題ですね。いい答えは出しにくいのですが、「誰かに“素敵だな”と思ってもらおう」この意識がポイント。私はとにかく誰かに喜んでほしいという気持ちが、まず最初にあるんです。花を育てたら自分だけが楽しむんじゃなくて、その美しい花が咲いているさまを、おすそわけするくらい、あるいは、最初から見てほしいと思ってつくるんでもいいんですけど……、誰か自分以外の人が「いいなー」って思ってくれるに違いないと信じることですね。そういう中から“素敵だな”って思う気持ち、これがやりたい、続けたいって伝染していくことってあると思うんです。
たぶん、そこのところにひとりひとり人間に決められた力、影響力があると思います。
すごくきれいにひとつの花を咲かせたら、絶対近所の人が見ますよね。神戸中の人が見てるかも知れない、そういうチャンスって必ずあると思いますので、何か素敵なものをつくってみようではありませんか。

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Profile

吉谷 桂子(よしや けいこ)さん<園芸研究家>

吉谷 桂子(よしや けいこ)さん
<園芸研究家>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
1956年東京生まれ。日大芸術学部卒業。工業デザイナー、広告美術家を経て、1992年渡英。英国の暮らしを生かしたガーデンライフの楽しみ方を提案。帰国後、園芸生活研究家としてデビュー。ガーデニングブームの第一人者に。著書に「英国ガーデン日記」(東京書籍)「吉谷桂子のガーデニングスタイル」(学研)「キッチンガーデンの楽しみ」(集英社)「吉谷桂子のガーデンライフ」(学研)「イギリス的 優雅な貧乏暮らし」の楽しみ(集英社)がある。
20年後に完成させる予定の自邸における「家と庭」づくりが一生のライフワーク。草花がテーマのドローイングと写真にも人気がある。

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