神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

  • 北川 一成さん(GRAPH代表(当時)/グラフィックデザイナー)
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「キラリと輝く!「なぜ そんなことをするのか」」



<第1部>

昭和8年創業の印刷会社
平成元年に北川紙器印刷から「GRAPH」に

はじめまして。「GRAPH」の北川です。会社自体は、昭和8年から兵庫県加西市という田舎でやっています。もともとは、主に箱をつくっていた会社です。箱に貼る紙を印刷し始めて、で、デザインをして、いまはデザインだけじゃなく、知的財産の管理・運用などもさせていただいています。デザインと印刷と知的財産の管理の3つが柱になっています。昔の「GRAPH」の写真を見ていただければと思います。業界でいうと、ちょっと老舗かも知れませんが、いつも失敗ばかりしている会社なんですよ。
過去数年間から最近までの仕事をまとめてみましたので、見ていただきたいと思います。

(スライド)

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今日のテーマ「なぜ こんなことをするのか」っていうことですが、僕は「GRAPH」という会社で主にブランディング、CIという企業のイメージを伝えていく仕事をしています。最近携わっている仕事の原点になったのが、「GRAPH」そのもののCIなんです。実は「GRAPH」という会社は平成元年に「北川紙器印刷」から社名変更して「GRAPH」に変わったんですね。
いま、僕は社長という肩書きなのですが、もともとは「GRAPH」に入る予定はなく、ほかのことをしたいと考えていました。当時、あまり良くない状況にあった会社を、社長である父親に、「手伝え!」と言われて……。2年ほどは逃げていたんですけど、結局は手伝うことになりました。で、そのときに、会社そのものの考え方とか方向性をもう一度きちんと見直さないとだめなんじゃないかと提案をしまして、社名変更と合わせて、CIを始めました。「GRAPH」のCI自体をまとめてみましたので見てください。

(スライド)

「GRAPH」の意味というのは、言葉どおりそのままです。会社自身を客観的に評価し、見直していくべきではないかと思いまして……。棒グラフとか折れ線グラフなどは、物事を客観的に示しています。そういう意味を今後会社の目標にしていきたいと思いました。それと、グラフィックデザインという意味もありまして……。社名変更して「GRAPH」にしようと提案したんです。
実はこのころ、業務としてデザインの仕事は全然やってなかったんですね。実際、この当時は映像を見ていただいた感じで、社員のみなさんは結構年寄りで、平均年齢が48歳くらい。定年が50歳だったんで、あと2年したら終わるんですよ。で、なんとか若い人を入れていきたいなあと考えまして、作戦のひとつとしてつくったのがさきほどのポスターです。ブタとかラッコのポスターのテーマは、触感、さわったときの質感をイメージするためにつくったんです。でも、求人とか募集とか、そういうのは全然書きませんでした。
だから、パッと見て求人の広告だっていうのはわからないんですね。と言うか、敢えてわからないようにしているんです。そのいちばんの理由は、当時はあまり高い給料を払えなかったので……(苦笑)。まず「給料はいくら」って書いたら、もう絶対来てもらえないんですよ(笑)。で、さきほどの写真みたいに年齢層も高く、ああいう感じなので、若い人が入ると引くんですよ。「GRAPH」って名前つけてもイメージがわからない人は入ってこないだろうなあと思い、それでポスターをつくって知らせてみようと思いました。

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印刷物っていうのは、ただ目で見るだけじゃなくて、いろんな紙や印刷方法で、本当に立体的な、五感で感じられるものがつくれるんですよ。これに関しては、描いた絵をそのまま再現するようなことをやりました。質感自体も、キャンバスみたいな質感の紙に印刷してますから、すごく存在感があるんですね。動物をさわったらどんな感じかなあとか想像するようにして、ラッコの石の上に、ブタは影に、リスは切り株に「GRAPH」という文字を入れました。こんなポスターをつくって、ゲリラ的にいろんな所に貼るんですよ、そうしたら「ケッタイな会社やな」と思ってくれた若い人がひとり、ふたりと迷い込んできて……。で、それで「やあ、君なかなかええなあ。一緒に働こう」とかってやるんですよ。でも、実際に入ってみたらあんな感じなんで、入るけどやめる、また入ってはやめる……の繰り返しなんですけど、懲りずにずっとやっていましたね(笑)。

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印刷技術はもちろん
“翻訳能力”と“センス”も
ブラッシュアップ!

僕は、印刷というのは3つのことが必要だと思っています。ひとつは“技術”、これはどんな世界も同じで、技術がなかったら全然ダメなんですけど……。あとふたつは“翻訳能力”と“センス”。この3つが必要やと思うんですね。僕は、落ち目になっている「GRAPH」という会社を復活させるには、特にあとのふたつが大事やって思ったんですよ。“翻訳能力”、“センス”をきたえていかないとダメやと思ったんですね。
具体的にいうと、「これからデザインやるぞ」とか「デザイナーの考えたものを印刷させてもらうぞ」となると、“センス”と“翻訳能力”がないとダメなんですよ。デザイナーって抽象的なことを言う人が多いんですよ。「なんとなく、すっきりした感じにして」「やわらかい感じにして」「なんとなくいまっぽくしてほしい」とか「なんかはやりな感じで」とか……(笑)。わけわからないですよね(笑)。それをくみ取る、つまりは翻訳していく力が必要なんです。例えば、最近の破れたりしているデニムを見て、「君、ジーパン破れてるで」と言うのと「しゃれてるなあ」と言うのとでは、もう全然違うんですよ。やっぱり「しゃれてるなあ」と思えないとダメなんです。それが、“センス”であったり、“翻訳能力”であったりするんです。そういう能力をきたえるという意味で、ずっとこういうカレンダーをつくっています。

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例えば、このカレンダーは、この辺の茶色っぽく見えるところにガラスの粉を一緒に入れて印刷しています。そうすると、ざらざらっとした質感になります。ここはグラフのロゴが型抜きになっています。そういう特殊な技法を取り入れながらつくっています。

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これは、Design Tideという展覧会での、Apple公認のトークイベントです。こういう所に出させてもらって、印刷屋の仕事を紹介させてもらったり、いろいろ広報活動をやるようになってきたんですね。それで、だんだん若い子が騙されて入ってくるようになりました(笑)。

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こんな感じで、よく面接に来てくれるようになりました。写真に写っているのは最近の若いスタッフです。

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印刷、デザインをやっているなかで、例えば『ハイデルベルグ』っていう機械が印刷の業界ではいちばんいい機械だと思うんですけど、その機械を持っているからといって仕事ができるとは限らないんですよ。実際、その機械を置いている工場の環境なども大事なんですが、いちばん大事なのは使っている人間の考え方だと僕は思います。
機械というものは、使う人間によっても全然違うと思うんです。実際、Aさんが刷ったらこんな感じ、Bさんが刷ったらこんな感じって、違うことがあるんです。本当は、工業製品でこんな違いがあったらダメなんですけれど、でも実際、微妙なところで、そういうこともあるんですよ。グラフィックデザインと印刷を一緒にやっていると、「何でもできるんじゃないか」と、よく言われます。確かにできるかもしれないのですが、リスクもあって、失敗したらもう全部アウトなんですよ。
自分たちが思ったデザインを印刷物にいかにつくり込んでいくかっていうとき、利益など経済的なこともさることながら、ひとりだけでデザインってできるものじゃないんです。いろんな考え方をきちっと共有できる人がいないとダメなんです。ましてや人はそれぞれ個性、能力が違いますから、それを1本ピシーッと通していかないと難しいんですよ。
ここにちょうど「GRAPH」でデザイン、印刷をした仕事を展示しているので見ていただければと思います。
こういう仕事をするなかで、技術もどんどん進歩していかないとダメなんですね。18年くらい前でしたら、「GRAPH」ではアート紙とコート紙ぐらいしか印刷したことがなかったんですよ。で、これからはデザインの時代やから、デザインするんやったらいろんな紙とかインクとかを使って経験を積んでいかないとあかん、言うてね。で、最初はああいう(ラッコやブタの)ポスターなどをつくって、実際自分たちの経験にしていきました。いまだにそうですけど、毎日失敗の連続(笑)。
紙というのは、実際同じ白い紙でも、赤いインクで印刷したらAの紙とBの紙では乾いたときに色気が違ってくるんですよ。そういうデータをずっとストックしていくことによって、仕事が来ても失敗しないで、成功していけることになるんです。紙自体も何万種類とあるし、毎年新しい紙が出てくるからもう日々そんなことばかりですね。そういうことをやり続けていくと、まあ失敗もするんだけれど、その分成功もあるんですよ。
(略)
最近は、印刷だけではなく紙もつくってしまいました。これがGRAPHセレクションという名前で販売している紙です。見る角度で色が金色みたいになったりとか、何か薄いきれいなブルーになったりとかするんですよ。おもしろいでしょ。印刷物は、グラフィックもおもしろいのをつくらなあかんけど、紙の素材で持っている表現力もすごくあるんです。これは素材を使った箔なんですが、プラスチックに打っている箔なんですね。これを紙に箔押しできるようにしたり…… とかも最近やっています。

こういうメタリックの印刷も結構やります。この『0さいエホン』もデザインしました。

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中身は全部メタリック紙でできているんですね。顔が映るくらいピカピカの紙でできています。

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こういう紙に刷ると、平滑性が高くきれいなんですけど、傷がすごく出るんですね。印刷の機械のなかを通ってくるといろんな所に、擦れて傷ができるんですよ。当然表面に加工してあるから、傷が出て困るとか折ったらパキッと折り目が割れてしまうとか。これ、めちゃくちゃ高い紙なんですよ。こんな、いろんな変わった紙がそのまますんなり使える場合もあるけど、トラブルもあって、そういうのを克服しようと機械をちょっといじったりとか、いろいろやっているうちに何かこう光モンで刷りやすい紙ってないんかなあとか言うて、あんな紙をつくったんですよ。
これからも紙とかインクとか、デザイナーが見て魅力的な素材というものを見つけていく視点も意識して、実際にデザインしていくための素材をつくっていきたいなあと思っています。「GRAPHセレクション」というのは、紙に限った話じゃなく、今後印刷インクとか、印刷機の部品とか、そういうのもどんどん開発していけたらおもしろいなと思っています。デザイン従来のグラフィックデザインの領域をちょっと超えたところになるんですが、そういう活動もやっています。

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模倣もしながら、何度も何度も経験を重ね、
自分のデザインを培っていく
理論や理屈は不要なんです

富久錦さんのCIのお仕事をまとめましたのでご覧ください。

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デザインをするときの話なんですけど、デザインには3つすることがあると思います。ひとつは情報の整理整頓、ふたつ目は戦略、作戦をどういうふうにやっていくかということ。そのふたつを視覚化することが3つ目。それは具体的に、パソコンならこんな形とかこんな色とか、ポスターやったらこんな絵とか、建築やったらこんな素材の建物とか……、こう見えるようにしていくこと。この3つがデザインの仕事だと思っています。
いつも、そんなことを考えながら仕事をするんですけど、考えるときに大事やなあと思うことは、何かを考えて、考えてデザインするんじゃなくて、思いっきり考えて、最後は何も考えないっていうのかな……。その……、考えないことっていうのが、すごく大事やと思うんですよ。どういうことかと言うと、人間がコミュニケーションしているとき、何に反応しているかって考えたら、自分の価値観と違うものを見たときの驚きだと思うんです。「あ、それ知ってる」じゃなくて「あ、見たことない」とか「何かめっちゃおもしろい」とか、ギャグにウケているのも自分では言われへんようなことを言うてるからウケるわけで……。びっくりするっていうのも自分の意識している感覚と違うリアクションが返ってくるからなんです。そういうことを意識して、美術館とかに行くといいと思うんです。
僕、思うんですけど、国宝って、技術の粋を集めてつくったもんやないと思うんです。どこかちょっと失敗してしまいました的な、できたけど首がこうふにゃっと曲がってて、人前には出せないけどちょっと気になるみたいなのとか、何か捨てられないみたいな……。そういうのが何百年、何千年と残っていて、最後、国宝になったんちゃうかなと思います。小学校1年くらいのときに、岡本 太郎の作品を初めて万博で見て感動してね「これじゃ!」と思ったんですよ。絶対にあと何百年かしたら国宝になるやろうと思ってて、あれもただ「爆発じゃー」ってびっくりしているだけじゃなく、ちょっとかわいいとかユーモアがあるという感じですよね。要は、気になる存在なんですよ。完璧ではないというか……、そういうのが、こどものときからずっと好きで、デザインするときも自分の頭のなかでイメージをループして「どんなデザインにしようか」と考えています。
ただ、デザインをずっと考えていると、所詮自分の価値観のなかで思いが巡るだけで、だんだん「ああ、オレ、がんばってるなあ」とか「今日は寝てへんし、なんかできたやつがあるし」と、どんどん自己弁護し妥協していくような気がするんですよ。自分の意識のなかで思いっきり考えまくってるだけで、枕元にでも貼っておいて次の日に見たら、だいたい「しょうもないな」とかって思うんですよ。

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そのときは、しんどかったんやけど寝て、翌日元気いっぱいになると、なんかこうがんばりすぎているというか、くだらんなとか思って。日々そんなんでずっと「自分はどないしたらええんやろう」って悩んだときに、辿り着いたんが「見たことも聞いたこともないもんに感動するのなら、無意識のときに思いついたものがめっちゃええに違いない」と思いました。人間が無意識になっているときがあるとしたら寝ているとき。その寝ているときにこうやって(頬をつねるしぐさ)も起きないでしょ。意識はないけど一応生きていて、で、「そのときに思いつくのんがすごいんや」と思ってそれで、夢見たら何か書いてみたりとか、寝起きにぱっと思いついたものを「これじゃ」とかやったりして、考えないようにするっていう技を編み出そうと10年くらいやっています。自分の意識と違うみたいな感じ。
よくこどもは、あまり意識しないで適当に絵を描いてたりするでしょ。うちの息子も絵を描いていて「これおもしろいやんけ!どうやって描いたん?」って聞いたら「テキトー」って言うんですよ(笑)。だいたい小学校に行く前の3歳児くらいの子ってみんな楽しそうに適当に描いてるんですよ。だんだん歳をとってくるとがんばってしまうんですよ。大人になってグラフィックデザインやイラストレーターや画家を志してしまうと、金儲けのためにしないといけないから、適当にすることができへんのですよ。みんなめっちゃマジで、髪の毛むしりながら「やるぞー」ってやると、だんだん病んでくるんですね。自分で自分に命をかけ始めて……。やっぱり、適当がいいんですよ。一応ちゃんと考えなあかんから、プレゼンするときには「このマークの意味は……」とか説明しますが……。それも、ちょっと言いにくいんですけど、後付けなんですよね(笑)。

(会場:笑)

富久錦さんのマークも「あれは北川さんの代表作ですね」ってよく言われるんですけど、あれはちょうど新幹線に乗っていて「次は岐阜羽島ー」ってアナウンスが流れたときにパッと思いついたマークなんです。で、メモ用紙に書いて「これええなあ、めちゃめちゃええなあ」とかって思うんですけど、「待てよ、これどうやって説明するかなあ」ってなって……。ちょっと、ひげをぴぴっとここに入れたらひらがなの“ふ”に見えるでしょ。で、「富久錦」の“ふ”にしようって(笑)。それから、なんか赤のイメージがパッと浮かんだので赤色にして……。富久錦さんに話を聞いたら、実は富久錦というのは近くに法華一条寺という有名なお寺があって、そこは紅葉狩りの名所で、“富久”は“福=めでたい”という意味、“錦”は“錦繍のもみじ”……、「これじゃ!」とか思って(笑)。それで「コーポレートカラーは赤です」と言ったら「さすが北川さん!」って……(笑)。いまはもう定着しているので時効ですね(苦笑)。
この後付けの話を弁護させてもらうと、例えばイチロー選手はめちゃめちゃ打つのうまいですやん。イチロー選手はバッターボックスに立つまでは「こいつ、きっとこんなふうに投げてくるやろうなあ」とか、めっちゃ考えていると思うんです。でも打ってる瞬間は、何も考えてないと思うんですよ。ただ、もう体が動いているっていうか……。でも、それを、あとで説明できるはずなんです。「あのとき投げてきたのがカーブだったから、バットを寝かせてこうやって振ったんや」とかってね。でも、打っている瞬間はそんなん言うてる暇ありませんから(笑)。それもその人の個性というか能力です。

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デザインにおいても、僕は同じだと思っています。頭のなかでぐるぐる考えてデザインする。考えるためには、例えば講演会や、読んだ本などで頭に情報が入って刺激され、「おもしろいなあ」「くだらんな」とか思ったり……、それがすべて入力の作業で、知識がどんどん貯まっていく。それをどうアウトプットするかなんです。
デザインも考えることは大切だけど、最後はアウトプットの力を信じるというか……。考えすぎたらしょうもないんですよ。考えている間にストライクをとられてしまうんですわ。
よく「デザインで悩んでいるんです」みたいな質問を受けるんですが、「それは君が暇やからや」とか言って、なんかごっつい恨まれてね(苦笑)。でも「お前、トイレ行くとき、考えへんやろ?」みたいな話ですやん。実際、悩むというのは、悩む時間があるときなんですよ。もうめちゃくちゃハードに忙しく、無意識に体が動いていくみたいなところまで突きつめて行ったらわかるんじゃないかなあと思います。
大学時代の話なんですが、僕も「自分らしいデザインってどないしたらできるんやろう」って悩んでいたんですよ。「横尾 忠則さんは、すごく自分らしいなあ。どうやったらああなれんねやろなあ」と、悩むんですけど答えは出ないんです。で、ある日「ええこと思いついた! 1回全部パクッてみたろう」と思って、かたっぱしからコピーしたんですよ。横尾 忠則ふうデザイン、サイトウ マコトふう、葛西 薫ふう、黒田 征太郎ふうとか、もうまねしまくるんですよ。「これでもか!」みたいに。「1日に10個完成品のコピーをつくらないと寝ない!」みたいなことを決めて、やったんですよ。大学のときって暇ですからね。結局そんなふうにやりまくったら、体で覚えるわけです。感覚、色、レイアウト……、それをやり尽くすと、「あれ、これは誰誰ふうちゃうか?」みたいなんができるかもしれへんで、それが俺や!(笑)とか思ってね。もうずっとやりまわったんですわ。
それで現在に至る、いう感じです。一応そういう血のにじむような努力を(笑)、したりなんかしてね。でも、自分らしさというのは、もうそんなの実はほっといても出てくるものなんです。
たいして数をつくっていないころは、1個目と2個目と3個目が全部違って見えたりするわけです。1個目描いて「これは力作や」と思ってたんと、2個目の力作、3個目の力作やったら全部なんかこう表現が違ってたりするんです。で、「自分ってなんやろう」って悩んでたんですよ。自分の場合はむちゃくちゃ数をこなすことで、目をつぶっていろんな方向に石を投げるみたいな感じで、だんだんこう土星の輪っかみたいに広がってきて……。いろいろ変わっているけど、意味づけはわかるようになるわけです。そういうふうなことをやってたら、多分自分らしさが見えてくるんやろうなあと思いました。

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そんなことをやっていたころ、よく、大学の先輩と一緒にコンペに応募して、賞金稼ぎをしていました。コンペ出して、賞取って、酒飲んで、「金がないから賞金で家賃払うぞ」みたいな……。その先輩と同じコンペに出すことになったとき、お互いに同じように1週間ほど寝ずにやるんですね。「先輩の部屋の電気が消えるまでこっちもやるぞ」みたいに。で、搬入のとき、僕は5つ仕上げて、「結構やったなあ」みたい満足感を持っていたら、その先輩が「いっぱい描いたから選んでくれ」って言うんですね。見たら60個くらい考えてつくっているんですよ。それが全部めちゃくちゃ完成度が高いんです。圧倒的にレベルと実力の違いを感じて、「僕は、まだまだやなあ」とか思って……。これは、忘れられない思い出です。僕は小さいとき、やたら図工とかができて、背丈と同じくらい賞状をもらっていたんです。僕の前を誰も走らないみたいな感じで、美大に行ってもずっといちばんだったんですけど、その先輩が京都工芸繊維大学院から筑波大学に編入してきたんですよ。もう全然違うから「あちゃ」とか思ってね。何かもう、まだまだやと思ったんです。
なんか無駄をしないと無理なんやろうね。よく効率よくとか言うけど、効率よくするなんていうのはだいたいろくでもなくて、何か理論も大事だけど、現場ではほんまに何が起こるかわからないから、あまり理屈で考えたり、合理性ばかりを考えるたりせず、考えすぎたらね、実行あるのみというかね、何かできてなんぼじゃみたいに思っています。

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<第2部>

お客さまとのQ&A

お客さま:
北川さんは、インクや紙自体もつくってきていますが、ほかに何か今後つくりたいものはありますか?

北川さん:
デザインに対する好奇心はもちろん、技術に対しても興味があるんです。昔はよく「空気と水以外にやったらなんでも印刷できますよ」みたいな話をしていたんですけど、最近、空気に印刷というか、例えばプロジェクターなんかで、大きな幕に投影しなくても立体映像ができる技術とか、水の表面に文字が印刷できたりとか……。なんかそういうのに興味があります。自分がデザインするなかで、そういう技術が増えるということは、表現の可能性が広がるから、いろいろやってみたいなあと思います。 

お客さま:
「GRAPH」さんのシンボルマークが、「G」に見えたんですが、ほかの人は「10」に見えると聞きました。実際はどのような考えでつくられたのでしょうか?

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北川さん:
マークはこれも、パッと思いついたんです。後付けの意味で、今度「10」も使わせてもらおうかな(笑)。「10」とか「1」と「0」とか言う人もいるんやなあ。一応「G」に見えるというのは、あるんですよ。このマークの後ろ側をこう手で隠すと、「GRAPH」の「G」に見えたりしません? あと、これが紙でこっちがローラーで、印刷機の構造を抽象的に描きました。

フェリシモ:
北川さんは、今回のテーマ「なぜ そんなことをするのか?」という問いかけを日々意識して生活していらっしゃると思うんですが、それはどんなときに何を求めて抱くものなのでしょうか?

北川さん:
むずかしいですね。今回「僕のデザインがなんでお前そういう意味でやったんや?」という話をさせてもらえたらなあと思ったんですよ。例えば、みなさんも「なんでそんなことするの?」とか「なんか怖い」とか「なんか笑える」ことがあったりすると思うんですけど「なぜこの人はこんなことやってんねんやろう」というのに興味があると思うんですね。そのコミュニケーション上で、良かれと思ってやってることがミスコミュニケーションを起こしてしまうとかね。逆も真なりで、なんかこう高倉 健さんみたいに黙ってても伝わるみたいな人とか……、そういうのにすごく興味があるんです。

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Profile

北川 一成(きたがわ いっせい)さん<GRAPH代表/グラフィックデザイナー>

北川 一成(きたがわ いっせい)さん
<GRAPH代表/グラフィックデザイナー>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
1965年兵庫県加西市生まれ。
GRAPH CO.LTD.代表取締役/グラフィックデザイナー/筑波大学非常勤講師/京都府立大学非常勤講師/国際グラフィック連盟(AGI)会員/日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)会員。
GRAPHでは、グラフィックデザイン・ブランディング・印刷・知的財産権管理など、ビジュアルコミュニケーションをトータルにつくりあげ、保守管理を行なっている。地元の主な仕事に富久錦や一里美容室、ヨドプレ、播磨社寺工務店のCI(コーポレイト・アイデンティティ)など、またアバハウスインターナショナルのCIやエルメスの和文フォント制作など。
最近では、フジテレビ番組「ニューデザインパラダイス」への出演や、富山県の立山酒造のCI、一青窈ライブDVDのグラフィックなどを手掛ける。1996年日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)新人賞受賞。

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