神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

  • 藤原 和博さん(東京都杉並区立 和田中学校校長)(当時)
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「君は[よのなか]を知っているか!」



<第1部>

「よのなか科」という授業は私が「杉並区立和田中学校」(以下、「和田中」)に来る前に開設し、7年間続けております。それが成熟社会を生き抜く人間、とりわけいまの子供たちに必要な生きる力を育む授業なんですけども、今日はこれをぜひ体感していただきたいと思います。みなさんには生徒になったつもりで久しぶりに楽しんでいただければなと思います。
以前、中学3年の公民・社会科の教科書を見た時、「世の中と自分との関わるイメージが全然つかない。こんなつまらない教科書で教えられたら、世の中嫌いになっちゃうんじゃないの」と思いました。当時私の息子は小学校4年生、こんな教科書で息子が習ったら大変だ、これは書きかえないといけない、とすぐさま思いまして、公民の教科書のアンチテーゼとして書いたのが、『人生の教科書[よのなか]』(筑摩書房)という本です。「世の中」は英文括弧([])で、しかもひらがなで書きました。私が書き下ろしました第一章「ハンバーガー1個から世界が見える」 今日はそれを授業化したものをちょっと体験していただきます。

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1時間目では、みなさんにハンバーガー屋の
店長になっていただきます!

お手元に「よのなか科」のワークシートが届けられています。全30の授業がこのワークシートでできるんです。(略)これは、経済の本質をみなさんにゲットしていただくための授業です。公民の教科書、経済はどこから始めているかというと、下手すると「貨幣とは?」みたいなところから始めるんです。昔の通貨「和同開珎(わどうかいちん)」の写真があったりとかノノ、とにかくつまんないんです。いまだったら、JR東日本であればSuika、またプリペイドカードやクレジットカードの話、あるいはコンビニの話から始めた方が、同じ「貨幣」というものを議論するのでもおもしろいと思うんですね。(略)子供たちにいちばん身近なところから教えていく、そのことで学びを深めていく。しかもゲーム的な要素・シュミレーションやロールプレイングを多用して自分が主人公だということで教えていくのが、「よのなか科」の構造です。 (略)

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いまからみなさんにハンバーガー店の店長になっていただきます。新規出店を任された店長ということで、右の地図でどこに出したら儲かる店になるかを考えて、1ヵ所に星印を付けてください。(略)自分の個別の体験や経験、知識を総動員して考えていただきたいと思います。この授業は、たったひとつの正解がどこかに隠されていて、それを早く見つけ出した方が勝ちというものではありません。そういう授業とは決定的に違います。どこに出店していただいても結構ですが、「なぜそこに出店するのか」という根拠をはっきりさせていただきたいと思います。そのことを正解ではなく「納得解」。「自分が納得し、かつ相手を納得させられる解」という意味で納得解といいます。

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(地図の説明)

駅前、駅中、駅裏は省いてください。(略)学校の授業はほとんどが正解主義で行われますので、「この問題が出たらこういう正解だ」っていうパターン認識力をすごく発達させています。でも、そのパターン認識にはめて授業を聞いている以上は、実は頭は回転していないんです。先ほど「駅前はダメです」と言った瞬間に、「あー」と言われた方々の頭がいま(いちばん)回転していると思います。“駅前→人がいっぱいいる→ここに出せばいい”というのはパターン認識です。それを封じられた瞬間から、「どうするか?」というので頭が回転していきます。(略)次に、班を作っていただいていますが、班のみなさんの脳と脳を繋げて知恵を結集していただいて、班の中でいちばんよさそうなアイデア、あるいはこの人とこの人の意見を重ね合わせるといちばん強いんじゃないかとか、班の最高の案を一つ決定していただきます。これを“ネットワーク脳”といいます。(略)では、班でいちばん強い案を紡ぎ出してください。

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(「どのへんがよさそう?」と会場を聞いてまわる藤原さん)

ではそこまでにしていただきましょうか。(略)
いまみなさんに体験していただいたことが、メネットワーク脳モです。人の知恵と自分の知恵を結びつけて、多分「目からウロコ!」みたいな体験をされた思います。例えば、人の流れだけを見ていたが「車がいいんじゃないの」って言われたり。(ターゲットを)大学生と思ってた人が、「最近は小学生や中学生の方が食べるのよ」って言われたりノノ。そういう知恵が結集したと思います。こういう編集能力が成熟社会でもっとも大事なことです。ひとりで考えるよりはいろんなことを聞ける仲間がいて、そことネットワークを組んでいく方がいいということを体験していただきました。
では、ちょっと聞いてみようかと思います。
自分の考えが人の考えを聞いて変化してもいい。自分の考えを進化する、進化させることはとても大切なこと。「よのなか科」では隣の子の考えをパクっちゃうことを奨励しています。カンニングを奨励! 現実の世界では横にもっといいことをやっている人がいたら、それをパクって更にもっと自分のオリジナリティーを出していく。それが正解なんです。「進化」は「深い」でなくて「進む」なんです。

では、どこにハンバーガーショップを出したか? 答えてください。
・工業大学の周辺
・団地と、中学、高校があるところ
・ガストやセブンイレブンがある住宅地の左上
・住宅地の交差点付近
・大道路の脇

本来の授業では、生徒が発表して、「なぜならば」と論理的に理由を説明させます。
(中略)
・大学の構内ノノ残念ながら倒産です。大学生は朝や夏休みはまばらにしかいないんです。昼間は混むと思いますが、夜も多くないでしょう。店が儲かるためには、稼働率というのが非常に大事で、朝昼晩、違う客層が来なきゃいけない。朝だけ混む、昼間だけ混むっていうのは厳しいんです。
・住宅地ノノこれも同じことが起こる。平日仕事のある人は、仕事のある所に行ってしまってますよね。(略)住宅地で残るのは、小さな子供のいるお母さんとおじいさんおばあさん。昼間はOKなんですが、ただ、朝と夜は厳しいんです。一時期「モスバーガー」がたくさん住宅地に近い所に出店をして失敗したんです。住宅地は朝、晩は家で食事をとる人達が多いです。

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2時間目
駅前に出店した場合の売り上げを考えてみよう。

本来の授業ではこの後、駅前に出店した時は、1日の売上げがいくらくらいになるかをシュミレーションさせます。1日の売上げは、来店数×客単価。客単価はいくらでしょうか? ひとりのお客さんはいくらくらい使うでしょうか?
(ゲスト:400円、500円という声があがる)
例えば500円とします。
あとは、何人お客さんが入るか、ですよね。駅の場合は、駅の「乗降客数」がベースになります。それに加えて、例えば主婦の方が買い物に来たり、学生がその店に来たり、駅を利用しない人たち。それは(乗降客数の)3割くらいで見込みます。ここで本来の授業では子供たちの馴染みの商店街の近くにある駅に電話をさせ、駅の乗降客数を子供に質問させるんです。(略)どんなに子供たちの稚拙な会話であっても、メ乗降客数モという言葉が出ると、駅員さんはぱっと答えてくれます。なぜすぐに答えてくれるのかというと、しょっちゅう聞かれるから。なぜしょっちゅう聞かれるかというと、ありとあらゆる事業主が知りたいデータだからです。
こういう授業をやった時、子供にどういう力がつくのかというと、「情報処理力」と「情報編集力」です。情報の扱いにはこのふたつの力が働きます。このふたつの力をバランス良く育てていくことが生きていくことの実質的な鍵になります。「情報処理力」は頭の中で正解をたくさん溜め込んでおいて、ぱっと質問されたら頭の中にある正解の中から答える正答率。世の中のほとんどのお母さんたちは、この「情報処理力」を「学力」という風に言います。これは塾などに行けば高まる力ですし、受験を経れば高まります。先ほど私がちょっと触れた、パターン認識力ですね。正答率が高まれば「学力」が上がる。ところが先ほどみなさんに取り組んでいただいた課題のように、正解が1つでない課題に答えるには、この力では、まずほとんど立ち往生なんです。そういう時に働くのが「情報編集力」。それは、みなさんの知識、技術、経験の全てを結集して組み合わせて、その状況、状況で、いちばん自分のパワーを引き出せる力。本番に強い人は間違いなくその力が強いんですね。

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もうお分かりだと思いますが、「情報処理力」は、正解を効率的に教えていけば身につくわけですが、「情報編集力」は失敗や試行錯誤を繰り返して、先ほどのように自分の思うことを言ってみる、でも違うアイデアが出てくる。あれ、そうか?という、失敗と試行錯誤を繰り返す中でつく力です。この「情報編集力」があるから、さっきみなさんが「正解」ではなく「納得解」、自分が納得し、かつ相手を納得させる「解」を導くことができたわけです。「情報編集力」というのは、結論から言いますと、「納得解」を導き出す力のことを言うんです。「情報処理力」は「正解」です。

この「情報編集力」の感覚をもうちょっと体感していただくために、次のページを開けてください。

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3時間目 繁盛店の流行る理由を考えよう。

自分の近くの馴染みの商店街に行って、同じ業態のふたつのお店を調べて観察してもらいます。肉屋さんでもファミレスでもいいんです。どちらかが流行っててどちらかが流行っていないはずなんです。それを調べてもらいます。みなさんには、流行っている店を想像してもらって、なぜ流行るのかを考えていただきます。それを付箋に思いつく限り、1枚1項目、理由を書いて貼っていただきます。

(お客さま:各自考えます)

では、そこまでです。では、班の机の真ん中に紙を1枚出していただいて、付箋を貼っていただきます。人の知恵と自分の知恵を結集して、流行る店の条件を発見していただきたいんです。近いものを近くに、遠いものは遠くに、同じものは重ねて貼ってください。最後分類をしてください。最後グループに名前を付けてください。それは何要因というのか。できたら、いちばん大事なのはいったいどこなのか考えてください。
いま、やっていただいて、「情報編集力」を実感していただいたと思います。実際にはいろんな分け方があっていいんですが、プロがどういう風に分けるかというと、こういう分け方をすることが多いです。

繁盛の方程式は、“商品×サービス≧価格”

商品に関わる要因。鮮度がいいとか、品揃えがいいとか、サービスに関わる要因は主に従業員だったり、店の雰囲気だったり。それを掛け合わせたものが価格よりも大なり。価格要因は、ポイントカードだったりセールをよくやることだったりノノ。公式としては、繁盛の方程式は 商品の要因とサービスの要因を掛けたものが、価格よりも大なりであれば、みなさんはその店にもういちど行きます。リピーターになるんです。そうすると流行る店になるんです。これが小なりだったらもう二度と行きません。マック(マクドナルド)などでは、商品の要因は、味とボリューム。サービスは速さと清潔感、これは店によっていろいろ違うと思います。

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ここまでやってきて、もうお気づきだとは思いますが、「情報処理力」というのは教員が正解を渡していく通常の授業でいいわけですが、「情報編集力」というのは、正解が1つではないことをやらなければいけないので、正解を教えることがプロである教員だけに任せておくとなかなか厳しいんです。だから、みなさんのような人たちと教員が一緒にする必要がありますし、そういう人たちが入り乱れているような、そういう場所を学校の中にがんがん作っていきましょう。それが、「よのなか科」を公開授業にする理由です。そうやって斜めの関係を増やせば増やすほど頭が柔らかくなり、多様な価値が入ってきて脳のネットワークという感覚が分かってくるからです。

ぜひ神戸の地域でも、皆さんが起爆剤にになって豊かな斜めの関係を育んでいただいて、子供たちが、正解だけではなく、納得解に強い子になるように努力していただければと思います。(中略)
今日からみなさんは、ハンバーガー食べるたびに今日の授業を思い出しますよ。
(会場:笑)
日常生活をやればやるほど授業を思い出しちゃうから。「よのなか科」という授業は、授業が学習の場所であるのではなく、世の中がすべて教材化するから、「よのなか科」と言うんです。

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テレビとゲームと国語の授業

いま、日本の小中学生で1日に3時間くらいテレビを見ています。ゲームを含める総ディスプレイ視聴時間は4時間を超えているのが普通です。中学生になると、そこに携帯電話が入ります。1年に換算すると1400時間ディスプレイを見ているんです。そのうち、テレビは365日で1000時間。それに対して、学校の授業時間は816時間。そのうち、小学校の場合、英語を除いた数国理社4教科は390時間ですからおおむね400時間。その400時間のうち、国語の授業は100時間。テレビ対国語の授業では、1000時間対100時間。さて、子供たちは、テレビ語と日本語、どちらをしゃべるでしょうか? 当然テレビ語です。これすごい大変なことなんです。いまの子供たちはみなさんが考える、バーチャルとリアルというような考え方はしません。

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例えば人間と人間が触れ合うのがリアルでそっちの方がインパクトがある。画面を置いちゃうと、それはバーチャルでリアルではないからそんなにインパクトがないんだっていう考え方をする大人がいますが、それは嘘です。子供からすれば、テレビ画面を通そうとリアルであろうと身近な方が友達なんですね。もしリビングにテレビがあって、そこでいっつも仲の良いビートたけしさんや、さんまさんが出ていた場合、たまにしか帰らないお父さんの言うことよりそっちの言うことを聞きます。当然です。日本の子供たちは、この20年間、そのように育ったんですよ。だからこうなったんです。身近な方から学ぶんです。それがイヤなら、何としてでもこの時間数をせいぜい授業と同じ400時間くらいに近づけてもらえないですか?と「和田中」ではお願いしています。

テレビが悪いとは絶対に言いません。使いこなせば、素晴らしいメディアだと思います。でもそれを無条件で子供に与えていたら素晴らしく魅力的だからこそ絶対に中毒になってしまいます。中毒になったら頭をやられてしまいます。お酒だって、会話を楽しむにはいいですけれど飲みすぎは体には毒ですよね。同じことなんです。

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Profile

藤原 和博(ふじはら かずひろ)さん<杉並区立和田中学校校長(当時)>

藤原 和博(ふじはら かずひろ)さん
<杉並区立和田中学校校長>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
78年東京大学経済学部卒業後リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任。93年からヨーロッパ駐在、96年から同社フェロー。ビジネスマンのまま小中学校での教育改革に関わり、その授業実践を『人生の教科書[よのなか]』(筑摩書房)や『世界でいちばん受けたい授業』(小学館)に著す。 03年から都内で義務教育初の民間人校長に就任。 [よのなか]科が『ベネッセ賞』、「和田中地域本部」が『博報賞』、和田中の「食育」が『文部科学大臣賞』になり一気に三冠に。近著の『公教育の未来』(ベネッセ)をタイトルとして全国を行脚。和田中での教育改革の実践は『公立校の逆襲 いい学校をつく る!』(朝日新聞社)に詳しい。18年度からは「私立を超えた公立校」を標榜して「45分7コマ授業」や英検協会と提携した「英語週9時間コース」の実践に取り組む。3児の父で3人の出産に立ち会い、末娘を自分でとり上げた貴重な経験を持つ。近著は『「ビミョーな未来」をどう 生きるか』(ちくまプリマー新書)。『校長先生になろう!』(日経BP社)。
「よのなかnet」http://www.yononaka.net

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