神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

  • 服部 一成さん(アートディレクター・グラフィックデザイナー)
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「デザインは大変だ!」



服部さんの作品紹介

今日は、デザイナーがどういう気持ちで作っているか、いちデザイナーである僕がどんなつもりで仕事をしているのか、作品を見ていただきながら、自分に引き寄せたところで話をしたいと思います。

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都会にひとりで住んでいる女性のモノローグみたいな広告を作っていこうという意図があったので、いかにもデザイナーがデザインしたようなものではなくて、手書き文字を使ったりとかスナップ写真をポンと置いて、ホントに「偶然できちゃった」みたいなそういうものを作っていこうとやったわけです。レイアウトも、きちんとではなくて、なんかラフに並べて、決まってるんだか決まってないんだかわかんないようなデザインですね。

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そういう、日記みたいな作りにしたかったということもありますが、僕が手書きとか即興的なレイアウトに興味を持っている大きな理由は、手書きの文字っていうのは、結局、ただ一度だけのものっていうこと。もう一度同じものは書けないし、この並べ方にしてもいい加減なようで、もう1回まったく同じように並べるのはなかなかむずかしいものですよね。そういう偶然、ただ一度起こったことっていうようなことを画面に定着したい。なんかそういう気持ちが僕の中にとってもあるのかなと、あるとき、このキューピーハーフのシリーズをやっていて、ある時期に、そういうことに気がつきました。

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インスパイアされた言葉

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これは僕の仕事じゃなくて、僕のいた会社の先輩の、アートディレクターの細谷 巌(ほそや がん)さん、コピーライターの秋山 晶(あきやま しょう)さんの作品です。30年くらい前、キャノンが高校野球の時期にフォトコンテストを毎年やっていて、その新聞広告なんです。なんでこれを持ってきたかというと、「ただ一度のものが僕は好きだ」っていうコピーが入ってますけど、僕がキューピーで手書きの文字とかラフなレイアウトをやってる気持ちっていうのが、「ただ一度のもの」を求めてるようなところがあるなあと思って。キーワードのつもりで持ってきたんです。

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そんなふうなことを僕が考えるきっかけになったポスターでで、さっきのキューピーハーフと同時期の仕事です。
みんなが車で旅行に行っちゃう時代に、列車の魅力ってなんだろうってことをいろいろ考えたわけですけど、僕、今日、新幹線で東京から新神戸まで来たんですけど、ボーっと座ってたり、なんかお弁当を食べたり、本読んだりしながら何となく車窓の風景をぼんやり眺めてますよね、そうすると、車窓から見える風景って、どうってことない風景なのに、なんかよく見えるってことを考えていたわけです。なんかこうボーっと見てると、ぱっと小学校があったりとか、犬を連れてるひとが歩いてたりとか、自転車に乗っているおじいさんが見えたりとか、「あっ」と思うような瞬間ってありますよね。

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「あっ」と思うんだけど、もうそのまま、サーッと流れてしまって二度と見えないっていうか、ほんとに確かに目の前に実際あった風景なんだけど、流れていって、もう二度と見られない、そういうところが逆に車窓の風景をいいものに見せる、なんかいい一瞬がちょっとあったなっていうようなことを、ひとつの静止した画面の中に感じさせるようなものが作れたら、それはすごく、こう、いいパワーを広告としてグラフィックとして見るひとに訴えるんじゃないかなってことを考えたわけです。

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すごくしっかりした写真をプロのカメラマンに頼んで撮ってもらうんじゃなくて、いい加減なように撮ったものの方が逆に一瞬のリアリティが出るかなと。UFOの写真なんかあやしいものが多いですよね。画質がぼやーんとして。あんまりしっかり写ったUFOの写真だと、そんな待ち構えて撮れるわけないだろうという感じがすると思うんですけど、まあ、そういうところもあると思うし、ぼやんとしたポラロイドの写真と「ただ一度」ってことを、1回そのことが確かに起きたっていう、僕がまあ半分無意識なんだけど、追い求めてたイメージとうまく合ったんじゃないかなあと思います。

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コラージュの表現って昔からいろいろあって、ゆるぎない構成を作るコラージュのやり方もあるけど、僕のやっているこのシリーズは、むしろ、ハサミで切って並べてる途中でたまたま机の上を見たら、「あれ、なんか今、面白い感じにできてるな」とか「途中なんだけど、すごくいい」みたいなことって、ときどきあって、むしろ完成しているものじゃなくて、途中なんだけどなんか絶妙な感じ、そんな感じのものを作ろうと、意図的に偶然ぽいものを作ろうとしています。

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新鮮さ、フレッシュさが出るといいかなと。だから、書き慣れた文字のよさとか、そのひとの癖が出てる字のよさというのもあるんだけど、ここではその逆に、文字を初めて書いたひとが書いたような文字になればいいかなあってことを考えながら書いてます。日本語を書くときは、外国人になったつもりで、はじめてその文字を見たと思って書くわけです。

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インスパイアされたひと

李禹煥(リ・ウーファン)ってアーティストの本なんですけど、筆の痕跡の点とか線だけでずっと作品を作ってるひとなんです。この本の表紙も李禹煥の作品なんですけど。文章がまた、とっても刺激的でおもしろい。
で、学生時代に、別の美大に行った友達が「李禹煥の授業がおもしろいよ」って話してくれたんです。学生に線を描かせる。で、学生は線を描くんだけど、「そんなんじゃなくて、純粋な線を描け」と。「純粋な線って言われても、線は線だろ」って描くんだけど……。要するに、自分の手の癖から抜け出した、まったく癖のない状態の線を描いてみなさいと、そういう訓練のようなことをさせられる。そのひとの知らず知らずについている癖から自由になった、ただの線、純粋な線を描く練習をさせられるって話だったと思います。また聞きなので、李禹煥本人の意図からずれてるかも知れませんが、僕の中ではこの話はずっと残っていて。

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もちろん、李禹煥の作品とは全く似ても似つかない、キューピーのだらしない線なんだけど、そういうことを考えながら僕としてはキユーピーの文字の線は描いてるつもりなんですね。なんかそうすることで、手書きっていっても人間性が滲み出た文字のよさっていうようなこととは全然違う手書きのよさ、新鮮さっていうものが出ないかなと考えながら作ってるとこなんです。

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テレビコマーシャルの最初に「ホクリクのフランス人。」って文字が出ます。1本目のときに、タイトル文字を(出演しているフランス人の)彼女たちに書いてもらったんです。僕はキューピーのときに、“まるで自分が外国人になったつもり、その日本語を初めて見たつもりで、日本語書いてみよう”、新鮮な文字が書けるんじゃないかなって思ったって言いましたけど、この場合は彼女たちにお手本を見せて、ロケ先で、筆で紙に書いてもらったんです。

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最近では、キユーピーなんかとは逆に、手書きの情緒性を排除した表現をやろうともしています。コンピュータの線を使ったデザインなんだけれど、そこにも偶然を取りこんでやってみたりもしています。一貫して、「ただ1度」の出来事、ただ一度起きてもう、二度と起きないことっていうようなことを、ひとつの静止した画面に定着する方法はないかなっていうようなことに、興味を持ってやってきています。

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このロゴは「流行通信」って文字を四角いドットで表現してるんですけど、ドットの数が少ないから表現しきれてなくて「流」って字のサンズイと隣の縦棒がくっついちゃってるし、画数が足りてないところを、「通」は市松模様みたいにすることでそれらしく誤魔化して、「信」は一番右側のドットをずらすことで横棒が足りてるように見えるっていうデザインで。文字を正確には表現しきれてないけど、逆にそこの無理したところが、造形的に面白く、なんか印象が強いってふうに思いました。

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辞書を使うときって、使うひとも学問ってことに触れたいような気分があると思います。これはフランス語の辞書なんですけど、例えば、仏文の専門家が本格的にやってるって言うより、大学で第2外国語で授業を履修しているようなひとが使うことが多い辞書だということでした。僕は辞書にありがちな重々しさを変えたいと思ったんですが、かといってあんまりそれがカジュアルになりすぎて雑貨みたいなかわいらしいものになってもちょっと違うかなと思って。その辺のあんばいを考えながら、辞書らしさ、学問の感じみたいなものがありつつも従来の重苦しい雰囲気ではないものを作れないものかとやったつもりです。

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写真家・中平 卓馬(なかひら たくま)さんが3年くらい前に横浜美術館で開催した展覧会「原点復帰-横浜」のポスターとかカタログとか作らせてもらったんです。その時に、中平さんはひとこと、「僕以上でも僕以下でないものにしてもらいたいなあ」と言ったわけです。僕は、「はっ」と思いました。中平さんは不思議なひとなんですけど、すごく鋭いことを言うんですね。

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つまり、デザイナーっていうのは、つい、「以上」にしてしまいがちですよね。見た目をよくしようとする仕事とも言えるわけで、中平さんがそこで言われたことは、デザインっていう仕事のあぶないところ、真理をついてるなって非常に思ったんですけど。中平さんのポスターなんだから、中平さんの展覧会として成功してもらいたいんですけど、もったいぶって中平さん以上によく見せようとしてもおかしいし、逆に中平さん以下にへりくだる必要もないし、それがデザイナーがやるべきことなんだなあって、すごく思いました。

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Q&A

フェリシモ:
デザインはどんなときに思いつきますか?

服部さん:
今日、「デザインは大変だ」ってタイトルだったんですけど、あまり大変そうな話にならなかったんですね。でも、いつもすごく困ってますね。出来上がりをみると、さらさら~っと作ったように見えるのかもしれないけれど、毎回これどうしたらいいのかな?と困り、ギリギリまで考えたり……。でも不思議と締め切りが来ると、何かしらできるっていうか、締め切りをちょっと過ぎた頃にできるという……。もうちょっと前にできるといいんだけどって感じがしますが。けっこうね、やっぱり締め切りが秘訣だと思いますね。切羽詰ったり、火事場のバカ力みたいなもので、締め切りがあることで思いつくってのもあるし、思いきり飛び込む、踏ん切りがつく、そういうところもありますね。
まあ、そんな感じですね。締め切りが発想の秘訣。今決めないと間に合わない、そういう状況になると不思議とアイデアが出てくる。それはもちろん天から降ってくるわけではなくて、なんかいろんなものを見てきたり、経験してきたこととか、そういうのが蓄積していって目の前の仕事とうまく回路がパチッと合ったときに、答えが出てくるみたいな。それはなかなか締切が来ないとならないんですよね。それが自分でも不満ですけど。昔は、経験を積めば、もっとサクサク仕事ができるのかなあって思ってたんですけど、なかなかそうならないですね。ちょっと老後が不安ですね。60歳過ぎても、こんなふうにうんうん、唸ってんのはやだなあって思ったりします(笑)。

フェリシモ:
服部さんの作品は、何かこう、言葉にならないというか、理屈で説明できない空気というか、雰囲気といったものを表現されている印象を受けるんですけど、作品制作を進めていく上で、プレゼンテーションはどういう方法でされていますか?

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服部さん:
それはわりとよく聞かれるんです。「あれ、どうやって通したの?」「どうやってその企画をクライアントにOKもらったの」って。でも実は、なかなか難しくて、通ってないものがいっぱいあるんですよね。今日ここで見てもらったものは、幸運にもプレゼンを通ったものなんだけど。やっぱりこの仕事はプレゼンのうまい、下手ってすごく影響しちゃうと思うんです。こういうことでいうと、僕はプレゼンかなり下手なんじゃないかと。謙遜で言ってるんじゃなくて多分、そうだと思います。

フェリシモ:
最近、テンションがあがったことを教えてください。

服部さん:
テンションっていうのか、わかんないけど、この間すごくすっきりした気持ちになったことがありました。2日くらい前、自民党から選挙に出てほしいと誘われていたサッカー選手の三浦知良さんが、それを断りました。そのときのコメントがすごく良かったんですね。「僕はサッカーが仕事だから、政治は政治に興味のあるひとがやればいいけど、僕は政治のことはわからない」と。自分はサッカーが仕事、政治はわからないって、すっきり言えるっていうのは、すごく気持ちがよくていいなあと思って。
つい勘違いしちゃうひとが多いと思うんです、「あなたの力を日本の未来のために」なんて言われると。カズと政治というのはすごく極端な例だけど、小さなことでこれに似たことっていうのは、じつは身近にもけっこうあると思うんです。さっきデザインは、以上でも以下でもなくっていう話と通じるところもあるんだけど。カズは、サッカーを仕事にしてることにすごく誇りを持っている部分と、自分はサッカーしかできない人間だから……って謙虚な部分と、両方をきちんと持っている感じがしたんですね。
それはすごく素晴らしいなって思うんです。そんなことです。

フェリシモ:
私の彼がグラフィックデザイナーですごく忙しいんです。服部さんは忙しいときに彼女と会う時間はどうやって作っていますか?

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服部さん:
これはね……。しょうがないんですよね。ほんとにしょうがないんです。デザインは大変なんですよ、やっぱり(笑)。時間がかかるしね。工夫のしようもなかったですね。とにかく謝るしかない、そういう感じです。そしてまたすぐに時間がたっちゃうんですね、(仕事)やってると。まあ、そんな感じで。答えようがない。答える資格がないと言っていいですね(苦笑)。

フェリシモ:
最後に、神戸学校に参加をされている皆さんを代表して質問です。
デザインという仕事を服部さんが続けられるいちばんの理由がありましたら教えていただけますか?

服部さん:
自分でもわかんないわけですね。デザインってどういうことなんだろう。全然わかんない。僕は20年近くデザインの仕事をしてても、いまだにデザインってなかなかつかまえられないものだなあって思うんですね。
うまくいったにせよ、うまくいかなかったにせよ、やってる自分は全然楽にならないっていうか、楽にならないんだけど、そこがまたおもしろいところ。おもしろいっていうほど楽観的なことでもないんだけど、そこに惹きつけられますよね。なんかやってみると、あー、何か今回こういうふうにやったら急によくなっちゃった、みたいなことがあったりとか、すごく失敗しちゃったけど、あんときああやっとけばよかったなあみたいなことが、毎回毎回あるんですよね。だからそういうところも、僕にとってはデザインを続けてる理由なのかなって思いますね。でも、なんか、デザインってことを意識したいちばん最初のころに感じた、何かを見て理由もなく「ああいいなあ」っていうことの秘密、デザインの秘密みたいな、魔法みたいなものがあるから、なんか続けてるって気がしますね。

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Profile

服部 一成(はっとり かずなり)さん<アートディレクター、グラフィックデザイナー>

服部 一成(はっとり かずなり)さん
<アートディレクター、グラフィックデザイナー>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
1964年東京生まれ。1988年東京芸術大学美術学部デザイン科卒業、ライトパブリシテイ入社。2001年よりフリーランス。おもな仕事に、キユーピー「キユーピーハーフ」「クリーミィクリーミィ」、JR東日本「TRAING」キャンペーン、ラフォーレ、キリン、ホンダなどの広告のアートディレクション。「流行通信」誌リニューアルのアートディレクション。ユニクロ「HOTELS HOMES by UNIQLO」のアートディレクション、パッケージデザイン。東京国立近代美術館「ドイツ写真の現在」展 、横浜美術館「中平卓馬展」、川村記念美術館「ハンス・アルプ展」などのグラフィックデザイン。大塚製薬「ポカリスエット・地球ボトル」のパッケージデザイン。旺文社「プチ・ロワイヤル仏和辞典」「LEXIS英和辞典」、リトルモア「ホンマタカシ写真集 きわめてよいふうけい」、平凡社「アンリミテッド:コム デ ギャルソン」、林央子「here and there vol.1−6」などのブックデザインほか。ADC賞、第6回亀倉雄策賞、原弘賞、東京TDCグランプリなどを受賞。

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