神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

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「新しい社会とのかかわり方~ホームレスとともに創る社会的企業の経営」



<第1部>

ホームレスがビジネスパートナー
『ビッグイシュー』とはどんな雑誌?

こんにちは。ビッグイシューの日本代表をしております佐野と申します。まず最初に、ビッグイシューの現場は一体どんなものなのか、ビデオで見ていただきたいと思います。日本にはホームレスと呼ばれる人が、去年1月の厚生労働省の統計でだいたい1万9000人います。平均年齢が56.9歳、定年間近な人です。野宿生活をしている期間が平均5年くらいです。この冬の時期、一晩でも「外で寝てみろ」って言われても、僕なんて絶対嫌だから、だからビッグイシューをつくって、「1日でも早く畳の上に上がってね」っていう仕事をするようになったんです。ビッグイシューは2003年9月に創刊号をつくりましたから、(今年の)2月いっぱいで5年半になります。去年8月で丸5年。5年間でどれくらいの人が販売者として登録したのか計算してみたら800人でした。ビッグイシューは新しい仕事の斡旋はしていません。いま働いて現金収入を得ていただくという仕事の提供の仕方をしています。お金を与えるのではなく、お金の稼ぎ方のチャンスを提供する、そういう仕事をしています。ビッグイシューで稼いでいただいて、次のステップに行っていただくということなんですが、次のステップがなかなか……。自力で仕事に就いている人は1割くらいです。5年間で274万冊。1冊300円で、うち160円が彼らの収入になります。ざっと調べてみますと、これまで3億2200万円くらいがホームレスの方々の収入になっています。
ホームレスの平均年齢が60歳近くと言いましたが、最近の特徴は、若いホームレスが増えていること。30代、40歳未満の人が増えています。昨年末に派遣切りなどがニュースになっていましたが、雇い止めとか解雇になった方々が仕事を失うだけでなく家も失ってホームレス化するということで、すごく深刻な問題になっています。ビッグイシューの販売者にも、一昨年の3月くらいから若いホームレスがじりじり増えてきて全体の1割から1.5割になっていて、2割になるのは時間の問題です。ビデオのなかにも30代のホームレスの方が登場します。そういう変化も併せてご覧ください。

(ビデオ上映)

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今年のテーマ「生活起業家」がございます。生活のなかで気づいたことを行動にし、その行動を通して社会をよくしていけたらということが生活起業家の考え方というふうに聞いているんです。そもそも僕がビッグイシューの仕事をどうしてするようになったか、そのプロセスをお話します。
いちばん最初にこういう活動をやっていこうと思ったのは暮らしのなかの問題がきっかけでした。私の連れ合いも働いております。結婚しておりますと、子どももできます。共働きで「子育てはどうするんだ」と、夫婦で議論になり、僕が保育の担当になったんです。「保育所をつくるという役割を僕が担うよ」とある日言ってしまったんです。1970年代はまだまだ保育所が整備されていなくて、それがきっかけになり、預けるところがないから諦めるというのではなく、共同保育、団地の一室を借りて、一緒に保母さんを雇い、それが公立の保育所をつくる活動の拠点になったというふうなことを始めました。そういうことをやっているとPRをしないといけない。それで団地にビラを巻いたりしました。ビラは面倒だということで、「こんにちは! 新聞」というミニコミ誌にして配るようになりました。それは1990年の後半まで30年続きました。私の子どもは大きくなって卒業したんですが、そのあとも続きました。そうしますと、「なぜ保育園がないのか?」「なぜこの団地は不便なのか」など、当然、市の政治の問題が出てきます。それでいろんな問題を市の議員に伝える役目を担い、市政をよくする活動をしていました。
(略)
それから神戸、奈良、生野など街づくりのお手伝いをさせていただきながら、経験を積ませていただきました。1990年代にはそういう市民活動を社会の制度のしくみにしていく、そういうことがないといけないということでいろんな調査をしていきました。NPO法人をこの1990年代につくるんですけど、それに繋がる活動をしていました。そんなとき阪神淡路大震災が起こり、ここでは3つくらい応援の組織をつくりました。
(略)

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ホームレス問題のことを企業でやるのはなかなか大変。
でも、なんとかしなくちゃいけない……。

今度は、ホームレス問題のような重くて暗くて誰もが嫌がることをビジネスの手法でチャレンジできないかというふうに考え、ビッグイシューを日本でもやろう! と始めました。そういう形でホームレス問題に取り組むことになるんですが、2002年7月に「ホームレス自治支援に関する特別措置法」という法律ができまして、そこには「ホームレス問題の解決は国および行政の責務、責任である」と書いてあるんですね。ホームレスがどうして生まれるかというと、企業がリストラをして生まれる、だから企業の責任です。企業の責任とは別に市民の方が支援活動をされる3つ(国・企業・市民)の担い手がありましたから、今でこそ僕自身はビッグイシューとビッグイシュー基金でどっぷり浸かっていますが、ホームレス問題はそのころは全然考えてなかった。だって3つもがんばっていらっしゃるところがあるわけです。そこを差し置いて、自分がホームレス問題をやるというのも失礼、おこがましいと思ってやろうと思わなかったんです。だけど、僕は阪神タイガースとちょっと汚い大阪の街を愛しているアホなおっさんなんです。

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実は大阪が全国でもホームレスの数がいちばん多いんですね。4333人います。朝、堺の自宅から大阪の市内に通勤する途中、ホームレスを見ない日はないんですね。そのことが気になり出したのが1980年代半ばくらいでしょうか。まだ高度成長期、バブルに入っていった時期、だから日本には怖いものがないくらい成長していった時期なんです。こんな元気な社会だから、たった3万、4万人のホームレス問題なんて、いつか誰かが解決してくれるだろう。解決できないわけがないというふうに思っていたんですけども、なかなか減らないんです。
1990年3月末に北海道拓殖銀行が倒産する、三洋証券が倒産する、山一証券が廃業するといった日本型の金融企業がつぶれていったんです。そのときにホームレスががーっと増えたんです。公園にブルーシートが増え、ホームレスがわがもの顔で歩くようになったんです。これは少し考えてみないといけないと思って……。誰に頼まれたわけでもないんですが、たまたまリサーチとかプランニングの仕事をしていたので、「僕にどういう提案ができるだろうか」と考えました。

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ホームレスを都市問題を捉えて……
佐野さんの試みは
勉強会で出会ったイギリスの雑誌『ビックイシュー』

ホームレスの問題は福祉問題なんですね、それから日本の場合は失業問題、そういう見方も全然間違ってない。間違ってないけれど、問題の見方を少し変えた方がいいと思い、自分の仕事に引きよせて、都市問題、あるいは地域問題として捉え直してみました。
(略)
例えば、大阪の町には放置自転車が10数万台あるんです。これをホームレスの人にあげたら仕事ができるんじゃないかと思いました。修理の仕事、塗装の仕事、乗り捨てのレンタサイクルを管理する仕事、販売する仕事などが発生する。少なくとも3桁の人が働ける、そういう提案をしたんです。そのときの行政の反応がどうだったかというと「佐野さん、堪忍してくれ。そんなことしたら我々また叱られる。佐野さんのプランはいいプランだけれど、そういうことを言うとまた財界から、行政が『全国でホームレスを誘致する気か!』と叱られる。また『こわもての公園のホームレスを早く退去させろ』と市民からも叱られる」と。僕はそういう行政の言い分にびっくりしたんですけど、と同時に「あ、これはもう、僕がやるしかない」と思いました。
で、勉強会をやりました。アメリカやイギリス、ヨーロッパの例を勉強するなかで出会ったのが、ビッグイシューなんです。というふうな経緯がありました。そういうところでのホームレス問題は行政も企業に文句言っても始まらないということが分かりました。そのとき思ったのが、「人はなんでホームレスに陥ってしまうんだろう? 誰でもそういう状況になっちゃうんだろうか?」ということ。

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日本のホームレスの場合、仕事を失って収入がなくなる、家賃が払えないから家を失う、この2つになると思うんですが、この2つだけじゃなく、3つめの条件があるんです。何かっていうと、この2つを失ったときに頼れる人がいない。身近な人との絆がないとホームレスになってしまう。そういう条件が揃ったときに初めてホームレスになっています。ビッグイシューに登録した人は800人います。800人いたら800通りのホームレスのなり方があるんですね。自立も800通りあるんです。ひとりぼっちになった人がどうなるかというと、だいたいアルコールに走る、それから一発逆転のギャンブルに走るんです。追い詰められてますからね、たしなみとか趣味ですまないんです。依存症になっちゃうんです。
『ビッグイシュー』は、いまのところ販売員ひとりあたり1日平均20~25冊売っています。1冊160円ですから、3200~4000円、真ん中をとって3600円くらい稼いでいます。少ないなあと思いますけれど、これだけあれば、ドヤの1泊600円くらい、ネットカフェのナイトパック7時間1000円くらいが使えるんです。平均的に売ると、脱路上というか屋根のあるところに寝れるということです。たった3600円でもアルコール依存症の方は、稼いだ瞬間が危ないわけです。それを持ってスタンドに行って飲んじゃったりしますから。一所懸命売ってた人がある日出てこない、というようなことが起こるわけです。その原因はだいたいアルコールですね。そんな問題が絶えずあります。
自立のステップをどう考えているかというと、まず第1ステップは平均的に売ってもらって脱路上。10冊オンしますと1600円プラス。ですから4800円から5800円になる。僕らは「1日1000円貯金しようよ」って言うんです。そうすると月2~3万円貯金できますから、それを7ヵ月くらい続けますとアパートの敷金、頭金ができて、借りることができるとう状況ですね。言い換えますと、住所を持つということ。これが第2ステップ。第3ステップは言うまでもなく、住所をもってその次。自分で就職活動をして、「ここの住所にご連絡ください」と言える。この3つのステップで自立をしてもらおうというふうにしています。

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ビッグイシューの起業と経営

ビッグイシューは従来とは違った支援活動をしています。ビッグイシューが実現しようとしたアイデアというのは、ホームレスを哀れみ、救済の対象として見るのではなく、ビジネスの対等なパートナーとして考えるということなんです。社会的企業というのは、アイデアがないと成功しない。例えば、みなさんが生活起業を考えて行動を生みだして、社会に影響を与えていこうとするときに、素晴らしいアイデアだと、放っていても人が寄ってくるんですね。僕らのアイデアはホームレスをビジネスパートナーにすること。このアイデアで人々の協力を募っていくことになるわけですが、雑誌をつくる人、マスコミの方など専門家であればあるほどみなさん口を揃えて、「佐野さん、やめとき。100%失敗する。オレが保証したる」と。「否定材料を言ってくれ」と言うと「トラックいっぱい用意したる」と……。その100%失敗する理由が何かって言いますと、四重苦です。
1番目は、「佐野さん、もう若い人は雑誌なんか読まへん。活字離れがはなはだしい」、2番目は「路上で雑誌を売り買いする文化がない、風習がない」、3番目「情報は無料の時代や。200円、300円わざわざ出しておまけに路上では買わない」、4番目は「3Kのあるホームレスから、誰が雑誌を買うんや」と……。3Kというのは、「汚い」・「怖い」・「臭い」ですね。

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「だから100%失敗する」と。こういう理由なんですね。
改めてこういうふうに言われると、なるほど、と思うでしょ。正しいと思うでしょ。その人たちは意地悪で言ったわけじゃなく、僕のためを思って言ってくれたんですね。理由を挙げてくれたんです。僕もいまでも、この理由は正しいと思います。だけど、そこで「正しい」と思っちゃったら、ビッグイシューは生まれなかったわけなんです。みなさん、これから生活起業を考えていくとき、ここのところがポイントなんです。
正しいからやめるというのもひとつの判断、でも僕らは撤退できなかった。2003年春から秋にかけての状況でした、確かに日本では早いかも知れない、でも、こういうのが社会的に必要になるんや、というふうに思いこんでました。だから、なんとしてもやりたかった。だから、僕らはご指摘いただいた四重苦を受け止めて反論しました。どういう反論かというと……。
1番目に対して、「若者の活字離れと言いましたが、いまみんなメールしてますよね。メールは活字を使っているじゃないですか。僕らはいまほど、若い人が活字を使っている時代はないと思います」と。そして2番目に対して、「路上で販売する風習がない。確かにございません。が、大阪の場合でしたら、旭屋とか紀伊国屋とか、そういう書店の雑誌コーナーに置いたらほかの雑誌のなかに埋もれるだけでしょ。我々がこの雑誌をつくれば、大阪とか東京の繁華街に3桁の書店が生まれるんですよ。その書店は、『ビッグイシュー』しか扱わない書店なんです。おまけに『ビッグイシュー1冊いかがですか』と声をあげる生きた書店。これが優勢じゃなくてなんなんですか?」と反論しました。

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情報が無料だということについては、「マスコミの方、本当は書きたいのに書けないこといっぱいあるでしょう? デスクにつぶされるとかスポンサーの都合で……。だけど『ビッグイシュー』はタブーのない雑誌をこれからつくるんです。きっとみなさん方は、『ビッグイシュー』をご覧になって記事を書くと思います。高いか安いかは読者の判断でしょう」と申しました。4番目は「わざわざホームレスからは買わない」ということなんですけれども、「ホームレスは足腰が弱ければ、ホームレスをやってられないんです。例えば、東京でしたら朝起きて上野で炊き出しを食べて、歩いて新宿まで移動して昼の炊き出しを食べ、また歩いて渋谷で夜の炊き出しを食べる。そうやってまわってるんですね。ということは、彼らは日々、命をかけて生きているんです。『ビッグイシュー』の販売員になってくださるということは、命をかけてこの仕事を選んでくれているんだと思います。ところで、みなさんのなかに命がけでいまの仕事を選んだ人いますか? いたら手をあげてください」というふうにアグレッシブにやるんですね。そうすると何が伝わるかというと、我々の精一杯の反論の中身を、内容の正しさよりも前に本気が伝わるんです。そうすると、新聞がこぞって書いてくれます。映像メディアも、ビッグイシューを通してホームレスの問題に接近できるということで、こぞって取り上げてもらいました。そういうふうに非常に順調に滑り出しました。

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経営の7つの壁。続けることのむずかしさ。

さきほどのは、起業の話でしたが、次、続けるということがこれまた大変なんです。それは、「経営の7つの壁」です。立ち上げたけれど、どう続けるか、持続するか、これが経営です。
まず、ひとつめは、「雑誌は売れる時代ではない」ということ。総合雑誌がどんどんつぶれていっていますね。雑誌がつぶれることが、社会の話題になるような時代。だけど、『ビッグイシュー』は違います。幸か不幸か、ホームレスは残念ながら増える状況にあるんです。販売するホームレスが増えると自動的に部数が増えるんです。「100%失敗する」って言ってた人が「よう続いてるなあ。続いてる秘訣教えてよ」と言うんです。内心むかっとするんですが、「それは、ホームレスをビジネスパートナーにしたからや」と。これは掛け値なしにそうなんです。既存の書店のルートとは違うルートで、流通をつくったわけですから。2番目、「ホームレスは働かない」とありますが、実はホームレスは働いています。大阪の場合、空き缶集めやっています。深夜とか朝早くにやっています。だから昼間は公園で寝てるんです。それを見てサラリーマンが「ああ、ホームレスってええ身分やな。オレもああいう身分になってみたいわ」と差別するということなんです。「前例のない事業に金は貸せない」という資金の壁があります。これは、立ち上げのときには2000万円くらいのお金を用意しました。それから、「プロでも売れる雑誌はつくれない」という技術、商品開発の壁があるということ。『ビッグイシュー』は見ていただいたら分かるんですけど、若い人の立場から見る社会問題を取り上げています。雑誌をつくる前にいろいろ調べたら、若い人の立場から社会問題を取り上げる雑誌がなかったんです。ないものをつくらないと買ってもらえないでしょ。ということで、若者のオピニオン誌というか社会問題を取り上げる雑誌をつくりました。次、「ホームレスからは雑誌を買わない」という販売の壁ですね。いま、だいたい6~7割が若い女性のお客さんです。若い女性に『ビッグイシュー』は支えられています。ただ、20代、30代の男性がなかなか買ってくださらない。そういう壁がまだ残っています。それから「路上販売は不可能である」という販売の壁。規制の壁というのは、行政とか警察がいろいろ規制をしている。いちばん最後に「社会的企業の経営は困難である」という経営の壁。普通本や雑誌をつくりますと、書店に置きますね。書店に置いた場合、書店への支払いはだいたい3割なんです。ですから7掛けで卸すんです。『ビッグイシュー』の場合は半分以上の金額がホームレスに渡っています。

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ホームレスの方は生きた書店ですから、風邪もひくし、路上でトラブルも起こすし……。そうすると販売のサポートスタッフがかけつけないといけない。東京と大阪で男女2人ずつがいます。そういう人の人件費も含めると7割を超えるでしょう。だから、普通の雑誌社とか、本屋さんとは、経費が逆転しちゃうんです。それでやらなければならないという苦しさを持っているというところがあるわけです。
専門家ほど、「佐野さん、冗談を言っちゃだめ、こんなんでできるわけがない」と言います。いま2万7000~8000冊と実売がでましたけれど、200円の時代に4万冊売れればなんとかなるというふうに思っていたんですが、東京でなかなか売れませんで、200円を300円にといういきなり5割アップという非常識なことをやったんですけど、とてもありがたいことに読者のみなさんは、販売者の取り分が50円増えることになるから「値上がりになってよかったね」って言ってくださるんですよ。ご自分が負担することになるのにね。だから、読者が減らないどころか秋から正月にかけて増えるという形になりました。
ビッグイシューを始めて、これまで決算を6回やりました。5回目までは大赤字なんですが、6回目(去年の3月末)は、値上げによって収支が劇的に改善されました。なんとか、続けていける手がかりを得たというふうに思っています。

(中略)

フェリシモ:
ありがとうございました。今日、「インタラクティブセッション」ということで、来ていただいたお客さまに最初にお配りした「あなたが現在社会で、問題であると思っていることはなんですか?」「それを解決するためのアイデアを3つ教えてくだい」と書かれた用紙をお渡ししています。佐野さんに、みなさんと一緒に考えていただきたいと思います。

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(佐野さんが会場をまわり、回答用紙に記入していただいたお客さまの回答を読みながら、セッションを行いました。そして、みなさんの回答をまとめたものをお帰りの際、お持ち帰りいただきました。*この講演録の最後をご覧ください。

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<第2部>

お客さまとのQ&A

(第2部は、佐野さんとともに、神戸学校で『ビッグイシュー』を販売してくださった販売員である吉川さん・Sさん・Yさん3名にも、壇上に上がっていただきました。)

フェリシモ:
まず販売員さんに自己紹介などをしていただけたらと思うのですがよろしいでしょうか?

吉川さん:
淀屋橋で販売しております、吉川と申します。よろしくお願いします。

Sさん:
みなさん、こんにちは。僕はまだ3日目。来週から阪神の西宮で立たせてもらうことになっています。Sと申します。よろしくお願いします。

Yさん:
阪急の西宮で売っているYです。よろしくお願いします。

(会場:拍手)

フェリシモ:
今日は、販売者さんにもたくさん質問をいただいております。質問ではないんですが、「購入させていただくとき、話しかけられないですが一緒にがんばっていきましょうというふうに心で唱えています」とか、「どんなふうに声をかければいいでしょうか?」というメッセージもたくさんいただいています。ですが、ちょっと厳しい質問もいただいています。あえて、今日はその質問をさせていただきます。

佐野さん:
そうですね。今日はストレートにいきましょう。覚悟はいいですか?

フェリシモ:
いまのような生活になるまで貯金などはされていなかったのですか? 働いていているときにも、もしものことを考えて普通3ヵ月くらいは暮らせる貯金をしておこうと考えると思うのですが、会社に甘えて社会のせいにして自分の考えが甘かったと思うところはないですか?

Yさん:
そのとおりというか……。二十歳くらいから自由気ままに生きてきたんでこの歳になってこういうことになるのははじめから分かっていたんで……。貯金をするとかいうこともいっさい頭になかったし、家はなかったし、芝居とかをやっていたから連れのとこに泊まったり公園で寝たりして……。
で、歳を取ってきて「はい、あんたはホームレスだから」と世間から言われて、俺のなかでは二十歳からずっとホームレスだったのかなという感覚があったから、いま突然「はい。君はいまからホームレスだから路上で寝なさい」という問題じゃなく、何十年という年月を路上ではないけれど過ごしてきているんです。でも、寝るときはアウトドアのあったかいフリース、テントも何万円もするものを使ってきたから、そういう貯金とか言われてもピンとこないし……。だから、現実的にいま、160円もらって貯金していけばいいんだけど、正直な話、ちょっと体壊して漫画喫茶とかビデオ屋さんとか行くと2000円、3000円飛んでしまうから……。
(中略)
後悔はしてないんですけど、貯金とかに関しては、全然頭になかった。だから、こんなふうになったと思うから……。立っててよく言われるんですけど、「あんた、そんな若いのに何してんねん? 」「何してんねん? ってホームレスしてんねん」みたいに言うわけにはいかないんだけど……。もう割り切るしかないんで……。

佐野さん:
いままでは貯金のことは頭になかった。でもこれからは、いかがですか?

Yさん:
この仕事を長く続ける気はないし、まず俺よりもっともっと、年配のホームレスの方もいるから、その人たちのために働く場所を譲ってあげないといけないし……。西宮北口は、その気になれば30冊、40冊は出るから、ただ時間的にずっと働いたことがなかったから、6時間って決めて6時間売っている状態。それでも20冊になってる。貯金は何回か挑戦はしたんだけど、結局失敗しています。

佐野さん:
(貯金に挑戦したことがあると聞いて)ちょっと安心しました。

Sさん:
正直、いま後悔しています。前、福祉関係の仕事をしていて社員として働かせてもらってたんですが、そこの人間関係が原因で辞めてしまったんです。そのまま着の身着のまま家を飛び出して、それでいまに至っています。いま思えば、なんであのとき我慢できなかったんだろうと思います。辞めたときは、ほんまやけくそやったんで、まわりのことを考えられなかったんですけど、ときが経つにつれて……、お金がなくなるにつれて「俺、何してんねんやろ? こんなことしててええんか?」と……。気がついたら住所もなくなっていて、親元に戻りたくても戻れない状態になってしまったんです。ただ、縁あってここに来させてもらったんですけど、いろんな相談にも乗ってもらいながら、僕自身はもう一度福祉の仕事に戻って、これから福祉は絶対必要な分野だと思うし、お年寄りも増えてくるので、その人たちのために自分ができることを精一杯尽くしていきたいというのがあります。その夢は捨てていません。ただ、貯金もしてたんですけど、アホみたいに使ってしまったんで……、もう30歳過ぎてこんなことしててどないすんねやろ?って、正直そう思っています。
さきほどの質問は、確かに痛かったです。厳しい意見だと言われましたけど、全然厳しいと思っていません。それが、当たり前のことだと思います。みなさんだって働かれて、将来のことを考えて、いつどうなるか分からへん、そんな時代やと思うんです。不景気やし、いつ失業するかも分からない……、こんな言い方をしたら怒られるかも知れませんが、もしかしたら、みなさんも僕らと同じ立場になるかもしれない。そんなことを考えて、それでも失業したときのことを考えて貯金されていると思います。それが当たり前やと思います。僕にその考えがなかったというか、馬鹿みたいに使ってしまって、いまこんなふうになってるんで、自業自得だと思っています。ただ、必ず介護福祉の資格を取って、できることならそれで頑張っていきたいです。それを励みに頑張っています。こんな言い方したら失礼なのですが、ビッグイシューさんを利用できるだけ利用して、とことんやろうと思っています。

吉川さん:
僕の場合は親と喧嘩して二十歳のころ、家を飛び出して、それから日本全国あちこち歩きまわって、もう年齢が年齢だから落ち着かなければならないなあと思ってるけど、まだちょっと情緒不安定かなと自分では思っています。それで、落ち着いたらそこにずっと何年でもいようかと思っています。いまの仕事もずっと10年でも20年でもできればやりたいと思っています。

佐野さん:
いまの仕事ってビッグイシューのこと?

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吉川さん:
はい。病気や怪我をしないようにして、ビッグイシューの仕事を長く続けたいと思います。

佐野さん:
貯金は?

吉川さん:
いまのところ、貯金はございません。

佐野さん:
がんばりましょうね。ありがとう。

お客さま:
佐野さんが「夢は、将来はビッグイシューがなくなることです」と何かに書かれていたんですが、もし本当に、ビッグイシューが目的を果たし、必要なくなったと……。そのあと、もし考えてらっしゃることとかやりたいことがあれば教えてください。

佐野さん:
そうなんです。ホームレスをなくすために我々はやっているわけで、ホームレスがなくなると事業がなくなるということなんですね。自己否定の事業だと思っています。ビッグイシューがつぶれるということは社会的に望ましいことなんですが、そのあと何をするの? ということまで聞かれるとは思っていませんでした。予想外の質問でした。僕はね、そんなに真面目に考えたことはないんですけど……。やっぱり、やりたいと思うのは、地域社会をもっともっと豊かにするような仕事をしたい。元気な限り続けたいというふうに思います。

フェリシモ:
最後に神戸学校からの質問です。本年度の神戸学校のテーマは“生活起業家”というテーマで開催しております。そこで私たちのような一生活者が気づきを行動に移したいと思ったとき、最初に社会に対して働きかけるために必要な「アントレプランナーマインド」とは、なんでしょうか?

佐野さん:
シンプルに答えますと、「こういうことやりたいな」「こういうことやるべきじゃないかな」ともう一歩踏み出すときに、僕は意識が大事だと思います。その意識は何か。その問題が自分の問題だと思えるかどうか、だと思います。他人事じゃない自分の問題。もちろん、他人事として発生しているんだけれど、とても他人事とは思えません、という意味で自分の事と思えるかどうか……。もう少し理屈っぽく言いますと、自分のこととして思えるかどうかってことはですね、自分のことになったら、問題の当事者になるんですよね。 そういうふうに思えば、一歩踏み出せます。ですから、僕は、どんな問題であっても、特に社会の問題を他人事じゃなく、当事者意識を持っていただければと思います。そうすると自然に体が動くんじゃないかと思います。

インタラクティブセッション回答集

神戸学校にお越しの皆さまからいただきました回答を、ともに共有し認識していくためにまとめました。

質問1.あなたが現在社会で「問題である」と思っていることは何ですか?
質問2.それを解決するためのアイデアを3つ教えてください。
・歩きタバコ問題 
  →①喫煙スペースを増やす
    ②注意をする
   ③禁止する条例を制定
・使用者に循環する資本主義の弊害 
  →①農業・職人触れる機会をつくる
    ②パートタイムを正社員と同等に扱う
・命を軽く捉えている(自殺・殺人等の問題) 
  →①社会や家庭でのコミュニケーション 
    ②「ありがとう」という感謝の言葉を伝え自身の存在を実感
     できるようにする。
・心身ともに健康で無い人が多い
  →①心のワークショップをひらく
    ②心を取扱う媒体・メディアを増やす
    ③生活習慣が変わるような啓蒙
・環境問題 
  →①都会の子どもを田舎で遊ばせる
    ②徹底的に環境が悪化した世界の景色を再現して映像化し
     子供や大人に見せる。
・近代化による人とのつながりの希薄化
  →①低俗なTV、雑誌等をなくす
    ②残業をなくし、家族での団欒をする
    ③日本全国年に1回、電気を使わない生活をする。
・若者たちの精神と行動の問題 
  →①新聞を読む(活字に触れる)
    ②人との交流を多くする
・格差社会 
  →①すべての人が底辺で生きている人の生活を知ること
    ②教育・医療費をある年齢まで無料にすること
    ③官公庁の情報開示を開放し、国民の知る権利を大事にする
・食品の安全問題について 
  →①企業利益至上主義の排除、安全な経営のための内部告発
    ②消費者が安全性を手軽に確認できる機械(製品)の開発
・人の生き方に歪みがある
  →①本当に必要なものについて考える機会をもうける
    ②どういう状態が普遍的な幸せかを考える
・働いている人にも「プチ鬱」が多いらしい。
  →①企業や会社に長所を見やすくして褒められやすい
     システムを作る。
・教育を受ける機会が失われつつあること。
  →①「おかしい」と声を出して話し合うこと。
    ②地元が協力して図書費を稼ぐ。
    ③寄付を評価する
・弱者が生きにくい社会であると思います。
  →①仕事を求める側と求人側の情報がわかりやすくなるような
     仕組みを作る。
・流行にとらわれた社会になっている。服装や考え方も同一化している。
  →①もっと自分の意見や考えを持つこと
・少子高齢化や地域活性化
  →①地域の活性化を促す
・クレーマーやモンスターペアレンツの増加
  →①相手の痛みが理解できるようになること
・日本の少子化
  →①移民の受け入れ(問題は多いが……)
    ②子どもと、たくさん遊んで学ぶ
・日本の心の行方
  →①ひとりひとりが社会参加できるステージを作る。
・若者の精神状態
  →①家庭の躾や正しい宗教、倫理観を子供につける。
  →②人に対して思いやりややさしさを持てる社会にする。
・日本に元気がない
  →①日本のTOPを変える。
    ②東京発信がNO.1ではないようにする。
    ③メディアは明るいニュースを取り上げる。
・地域のコミュニティー
  →①海外のNPOのように「隣人祭り」を始める。
    ②ミクシィに「○○○マンション」用のサイトを作る
    ③「屋上ガーデニング委員会」「ビアガーデン実行委員会」を作る。
・子供たちに夢がない
  →①幸せの尺度が経済に傾きすぎていることを改める。
    ②大人が夢を捨てない            
    ③世界の広さを教えてあげる。日本の常識が世界の常識とは限らない。

ご協力いただきましたみなさま、ありがとうございました。

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神戸学校の舞台裏 2009年2月

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2月の神戸学校では『ビッグイシュー』の販売を会場にて販売員3名の方とフェリシモスタッフといたしました。販売のノウハウはさすがプロ。スタッフも大いに助けられました。ホームレスの方と言うと、街中ではなんとなく話しかけづらいこともありましたが、実際にみなさんとお話してみるととても気さくな方ばかり。今後は街中で「『ビッグイシュー』を買おう!」と思いました。



Profile

佐野 章二(さの しょうじ)さん<ビッグイシュー日本代表・CEO>

佐野 章二(さの しょうじ)さん
<ビッグイシュー日本代表・CEO>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
1941年大阪生まれ。都市・地域の調査、計画の仕事を経て2003年5月より現職。NPO法制定に関する基礎調査をはじめ、仙台、神戸、広島等のNPO活動支援センターや、阪神淡路大震災時には三つの応援組織立ち上げを支援。2003年9月ホームレス支援雑誌『ビッグイシュー日本版』を創刊。現在月2回、110号まで発行。 最近は、『ビッグイシュー』販売者であるホームレスの人たちが、雑誌を購入する若者たちから寄せられた悩みへ回答し、その悩みを癒す料理のレシピが掲載されたユニークな一冊『世界一あたたかい人生相談――幸せの人生レシピ』(をプロデュース。12月と1月の2ヵ月間、販売者による路上での独占先行販売が行われた。

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その他のゲスト

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