神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

  • 永井 一史さん(株式会社HAKUHODO DESIGN代表取締役社長・クリエイティブディレクター)
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「デザインは何を伝えるのか?~コミュニケーションの公共性」



<第1部>

hakuhodo+designというプロジェクトについて

フェリシモ:
ソーシャルデザインについてうかがいたいと思います。永井さんがソーシャルイシューに関心を持たれるきっかけになったのが、「WWF」のグラフィック広告とうかがいましたが……。

永井さん:
そうですね。はじめは、「WWF」っていうNGO、みなさんも動物保護とかでご存じだと思うんですが、そこの団体の雑誌広告を作っていました。

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WWF

これは、海に落ちているものが寿司のネタなんです。ガラス瓶が波で少し丸くなったものとか、100円ライターとかコンビニのビニール袋とか……、こういうモノが大量に捨てられてそれを魚が食べてしまう。それも水質汚染の大きな問題なんですね。その課題を、結局人間にかえってくる寿司をモチーフにして、作ったものです。

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WWF

これは、クロコダイル。実際ハイヒールのかかとのところが動物の足になっています。人のファッションや欲望のためだけで動物を殺してませんかと問いかけるものです。

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WWF

これは「WWF」のパンダマークをつかったものです。ちょっと見えづらいんですけど、WWFのロゴのところに点線が入っていて、切って持っていけるようになっているんですよ。そこにURLが入っていて、それを切り取ってURLにアクセスして、具体的にアクションしてくださいってことを伝えるものです。狙われている動物に対して、問題意識があったら切ってくださいっていう雑誌広告ですね。

フェリシモ:
見る人が実際に参加する感じですね。

永井さん:
こういうことを、やってたんですが、このときはまだ「自分の作品が作りたい」っていう気持ちが前面にあって、まだ本当に、ソーシャルな課題に対して取り組むという感じではなかったんです。でも、あるとき「『広告批評』で、エコクリエイティブの特集があるので、見開き2ページで作品を作ってください」と頼まれて。そのときに、ただエコをテーマに表現してもまったく意味はないんじゃないか、具体的なアクションにつながることじゃないと、引き受けるべきじゃないって思ったんです。そこで「クリエイティブ・ボランティアやります。」という広告を作った。環境系NPOのみなさんで、活動の内容がうまく伝わらないとか、マークを作る必要があるとか、そんな問題があれば我々がボランティアでやりますよというふうに募って……。

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「クリエイティブ・ボランティアやります」

フェリシモ:
どれくらいの件数が集まったのですか?

永井さん:
これで200件くらいきちゃったらね、仕事ができなくなっちゃうなあっていうふうに思ったり。広告批評の中に事務局をつくってもらってしっかり準備して、ドキドキして待ってたんですけど、4件しか来なかったんです。ふふ。

(会場:笑)

ちょっとがっかり。ちょっとほっとしたみたいな感じなんですけど……。

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エコジャパンカップ

こちらは、「エコジャパンカップ」っていう、年を追うごとに関心も高まって盛り上がっているものです。新しいエコビジネスみたいなことに対して、支援しているコンテストです。これを始めたNPOの方が相談に来られて、いくつかのお手伝いをしました。最初のネーミングは全然違うものだったんですけど、やっぱりもっと大きな見えかたの方がいいんじゃないかってことで、「エコジャパンカップ」っていうネーミングをつけたり、マークを作ったり。あと、ポスターでは「エコロジーで金儲けをする人がいないと環境問題なんて解決しない」ということで、理念でのエコを議論することも大事ですが、やっぱりそこがビジネス化されないと、結局世の中に浸透していかないってことあるじゃないですか。そこをメッセージしようってことでつくりました。

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アジアパシフィックウォーターサミット マーク

永井さん:
これは、ボランティアとして手伝ったものです。「アジアパシフィックウォーターサミット」という場が2007年に別府であって、そのときにロゴマークを依頼されて、作ったものです。これは、アジア各国から首脳の人たちが集まってくるので、何か水滴が中心に向かって集まってくるイメージができないかなと。あと、NPOやNGOが、やっていることはすばらしいのですが、それをチャーミングな形で一般の人々に伝えることにはあまり熱心じゃないんです。そこを少し変えたいなと思いました。こんなに真剣な大事なことだけど、だからこそアスタリスクみたいにちょっとポップでチャーミングなことにしたいなと思って作りました。あとポイントとしては、日本で開かれるという意味を込めて「水」という漢字になっているというのがミソです。

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G8サミット NGOフォーラム マーク

永井さん:
これもボランティアでやったものです。G8サミットが北海道の洞爺湖でありましたよね。そのときに、日本中のNGOやNPOが集まって、NGOサミットっていう大きな活動体が生まれたんです。NGOって、貧困、環境、人権など、それぞれバラバラに活動しているんですけど、このときは結集してサミットに向けて何かアクションを起こそうという方向でまとまったんですね。その活動体のマークやコミュニケーションを担当しました。
このケースがとてもユニークなのは、僕の親会社は博報堂なんですけど、ライバルに電通という会社があるんですけど、普段はコンペで戦っているにもかかわらず、このときにはコラボレーションというカタチで共同作業しました。このような活動の大先輩ですが、電通の白土謙二さんが書いた「世界は、きっと、変えられる」というコピーに、僕はマークを作りました。
七夕の時期にサミットがあって、世の中を良くしていくために、それぞれの人の思いをNGOが代表して政府側に政策提言するっていうことが、活動の中心なので。つまりは、人々の願いだと思ってですね……。

フェリシモ:
これは七夕の短冊ですか?

永井さん:
短冊なんです。「この短冊にそれぞれの願いが埋まったときに、このマークは完成します」って提案しました。

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新聞広告

永井さん:
これが実際にいろいろな人の意見を集めて作った新聞広告です。

フェリシモ:
これで募集をかけられて、どれくらい集まりましたか?

永井さん:
意識の高い、海外の方からの参加が多かったそうですが、最終的には70万集ったそうです。

そういうことの経験とリンクしているのか、していないのかは自分の中ではわからないのですが……。もともとhakuhodo+designというのを作ったのは、デザインということが僕自身好きですし、突き詰めていきたい。そのデザインっていう方法論をいろいろ広げられないかなって、考えたのがきっかけでした。社内のなかにはいろんなセクションがあるんですけど、生活総研というシンクタンクのメンバーだったりとか、マーケティングのメンバーだとか、制作のデザイナーに声をかけて、立ち上げたのがhakuhodo+desginです。

「デザインの力でヒトや社会をよりよくしたい」
hakuhodo+designは
大きな時代の変化の中で“デザインの力”に注目し、
ソーシャルイシュー(社会的課題)をデザインを
通して解決していくことで
日本に「美しい暮らし」をもたらすこと。

ちょっと大袈裟なことを書いていますが、究極的なテーマは、「美しい暮らし」です。その、「美しい暮らし」には、きれいなものに囲まれている豊かさもあるんだけど、これだけいま、さまざまな課題があるなかで、きれいなものだけあってもうれしくないじゃないですか。だから、もう一方で正しい暮らしっていうのも大事だと思うんです。つまり個人だけではなく、コミュニティーのことや、地域のこと、社会のこと、地球のことまで拡げて暮らしを考えてみる。そんなことをテーマに活動をはじめました。

デザインで考える。
デザインで行動する。

永井さん:
これがひとつ目のプロジェクトです。

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震災+design

永井さん:
まず、「震災+design」。ドイツの保険会社が、世界でも最もリスクの大きい都市は東京だと言っています。それは、具体的に震災が起こる可能性が極めて高いっていうことなんですね。あれだけ集中して何千万の人が住んでいるっていうことを含めて、日本にとって重要な課題のひとつが震災なんじゃないかなっていうことで課題に設定しました。この活動がユニークなのは、僕たち自体が、具体的にプランニングするっていうだけではなくて、国内の各大学の学生を集めてワークショップという形で、つくっていったものです。

学生たちが、課題をきちんと掴みながら、深めていったおもしろいアイデアです。少しご覧ください。

(画像)

フェリシモ:
これは実際に震災が起こったと想定して考えたものですか?

永井さん:
阪神淡路大震災のときも大きな問題だったと思うんですが、実際に地震が起こったあと、体育館などを想定した300人規模の避難生活を想定してデザインに何ができるか、ということをシミュレーションしてやったものです。
(略)

フェリシモ:
ユニークですね。心のコミュニケーションというか、目に見える形になるので、殺伐としそうな体育館の中も温かい感じになりますね。

(映像)
水問題+design
清潔で安全な飲み水が手に入れられない人たちが、
世界には10億人以上もいる。
15秒に一人のペースで、毎日4000人近い子供が、
水に関連する病気で命を落としている。

こういうことに少しでも気がついてもらえないかっていうことで、始めたプロジェクトです。これはもともとニューヨークで始まったプロジェクトの「TAP」という仕組みなんです。3月23日がワールド・ウォーター・デーなんですが、その前後にレストランへ行くと、まあ、お水って普通ただで出ていたりするじゃないですか。それを飲んだときに、ちょっと水の問題に思いを馳せて1ドルだけドネーションしてくださいっていうものです。それを日本でも是非にと始めたのが「TAP TOKYO(タップトーキョー)」です。

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TAP TOKYOのマーク
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TAP TOKYOのカード

これが実物の表裏の写真なんです。はがきをちょっと縦長にした大きさのカードがレストランに置いてあって、裏を向けると「きれいな水を世界の子供に」って主旨とともに書いてあって、そこに賛同していただける方には100円、もしくはそれ以上の寄付をお願いしますっていうことです。下のところにちょっと窪みがあるんですね、そこに100円をおいていただいて、お店で集めてもらいます。今回僕たちは、日本ユニセフ協会の方にどこの国にドネーションをまわせばいいかを検討してもらって、マダガスカルに決定しました。
日本で、どうレストランの方に協力を仰ごうかと考えていたのですが、日本では、テレビや雑誌の中でもレストランのシェフは良く取り上げられていて、著名な方も多いじゃないですか。そういう方にまずお話してそこから拡げて最終的には313のレストランの方に協力をしていただきました。メディアに関しては、有償の広告ではなく全て無償で取り上げていただきました。
(略)
驚くほど、みなさん協力的で、結果的にかなり取り上げられもしたので、この活動を多くの方に知っていただけたと思います。

フェリシモ:
プロジェクトにみなさん共感してくださったんですね。

永井さん:
そうですね。やっぱりこういうことって、人を巻き込む力があるんだなっていう感じがあらためて実感しました。ドネーションしてくれる人もそうだし、シェフの方やメディア側の方も、共感してくれ、すいすい話が進んで、とても順調にすすみました。横浜の方たちが、この活動を知って「ぜひやりたい」ということで、横浜で今やっています。来年はもう少し拡げていきたいと思ってます。

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リニューアルした『広告』について

永井さん:
『広告』っていう、40年くらい続いている博報堂で出している雑誌です。広報誌なので、その企業のことが書いてあるのが普通なんですけど、とても自由度の高い内容が伝統的に続いていて、今年の4月に僕が編集長を受け継ぎました。

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『広告』リニューアル号 表紙

こちらが、リニューアルの第1号です。そもそもどんな雑誌にしようかというときに、ひとことで言うと、情報のための雑誌ではなく発想のための雑誌にしたいというのがベースになりました。書店売りもしているので、一般読者の人もいるのですが、広くはクリエイティブだとかコミュニケーションの業界の人が中心なので、やっぱり発想のための雑誌が必要なんじゃないかっていうふうに思ったんですね。
雑誌のコンセプト自体はすぐに決めたんですが、じゃあ、どういうテーマでリニューアルしようかなって思ったときに、やっぱりモノを発想するときに、受け手がどう思うのかっていうことが僕の発想のベースだと話しましたけど、それと一緒で、結局誰に向かってっていうふうにすると、当然いわゆる生活者じゃないですか。しかも生活者が、何を豊かだとか何がしあわせだとかということが、商品でもサービスでも求めることの本質だと思うんですね。だから、買うし、楽しかったり、しあわせだったり、豊かだったり、形容詞はいろいろあると思うんですけど、その人にとってメリットがあるから、何かを受けたり購入したりするので、それがもしかしたら、いまこれだけ課題山積で、閉そく感があるじゃないですか、経済とかも含めて。そのときに、人はどういうことを求めているのかっていうことを知ることが発想の原点じゃないかなって思いました。問題があったときに、本当にいましあわせっていうことを、みんないちばん求めているんじゃないかってことで、これをテーマにして、リニューアル号を作りました。

フェリシモ:
「幸せの価値観が変わろうとしている」っていう題がついていますが、そういった思いでつけられた?

永井さん:
そうですね。今までの価値観が大きな地殻変動を起こしているんじゃないか。その新しいしあわせの尺度として、いくつかのキーワード。例えば「つながる」だとか「とりもどす」だとか「育てなおす」「居場所をつくる」「物語をさがす」などのテーマで考えていきました。

フェリシモ:
これがコンテンツですよね。私が気になったのが上から2番目の「幸せにつながる三種の神器」というページでした。永井さんにとっての幸せにつながる三種の神器って何ですか?

永井さん:
うーん。すごい下世話なんですが……。こないだ炊飯器が壊れて、新しい炊飯器を買い直したんですよ。それで炊いたらごはんがすっごくおいしくなったんですよ! ふだんの暮らしの中で、食卓のごはんがおいしいっていうときに、本当にしあわせを感じた。意外とそういうところに、本当の喜びがあるんだっていう気がします。いまそういうことって見直されているじゃないですか。オーガニックだったり玄米だったりお取り寄せだったりとか、普段の生活のなかにあるちょっと上質なものによりしあわせって実感できる時代じゃないかと思いました。

フェリシモ:
日常の些細な生活のなかでも本当に質がいいものに触れると、しあわせが満たされるということでしょうか?

永井さん:
そうですね。どうしても、いままでだと、大きな買い物したり、特別なことをすることが満足感につながってたんですけど、なんか一通りやってみると、それだけは何か、あんまりうれしくないなっていうのもあったと思うんですね。そうしたとき日常を見直して、もしかしたら人との関係もあると思うんですが、そこの質を上げるっていうことが、しあわせにつながるポイントのひとつなのかなって気はします。

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フェリシモ:
2号はどのような内容ですか?

永井さん:
2号は、新しい発想に向けて出発するときに、どこにスタートポイントを見つけるといいのかなって考えたときに、「日本」だなって思ったんです。それは、グローバリズムっていうことも含め、何か自分たちの拠り所がゆらいだりとか、自信をなくしたりしていると思うんですが、もう一度足元の日本に立ち戻ってスタートするのがいいのではないかと考えたんです。グローバルで通用するものも、ローカルの文化を突き詰めることの強さってあるんじゃないか。世界と渡り合っていくとしても、自分たちのオリジナリティを持ったうえで、外の文化との摩擦のなかで新しい文化ってうまれるんじゃないかなって思って。日本ならではの発想力ってなんだろうっていうテーマにしました。
巻頭は、「縄文」なんです。それから「江戸」「現代」っていうふうに進んでいく。個人的にはまっている「縄文」なんですが、例えば仕事っていうものを考えた時、何か完成したあとを目指していた人たちじゃないらしいんですよ。石を並べるのでもきれいに並べることはできるんだけど、あえてちょっとガタガタにしたり、途中で終わらせていたり……。それは、実は結果を出すことが目的ではなく、プロセスを楽しんでいる。完成したら終わっちゃうから終わらせたくない、そういう未完の文化っていうのがあるっていう話を、縄文の先生からうかがって……。そういうことが結果ばかり求められるいまの生活にどれくらい取り戻せるのか分からないですが、いろんなことのヒントになることがあるんじゃないかなって思っています。
(略)

フェリシモ:
永井さんはいろいろな表面からコミュニケーションを取られていると思うのですが、今後のデザインはどうあってほしいですか?

永井さん:
結局、デザインって方法論だと思うんですね。いまは、デザインが経済に紐づいているので、デザインという概念がまだ限られた領域のものだと思うんですが、すごく可能性がある方法論なので、こういう社会的な課題に対して、デザインを掛け合わせてみたらどうなるだろうとかいうことをどんどんやって行くと、もっともっとデザイン自体も広がると思うんです。デザインって単に概念だけではなくて、具体的にかたちになることによって人を巻きこんだり心を動かしたりとかができることにおいては、領域が広がることによって、ちょっと気持ちや空気や風景が変わっていく。そんなポテンシャルがあるんじゃないかっていうふうに思います。
もちろん、僕自身今やっているブランドのデザインという仕事も、おもしろいし、もっともっと大切にされていくべきデザインだと思うけれど、さらにデザインが広がっていくようなことが増えていくと、いろんな意味でおもしろくなっていくんじゃないかなって思います。

フェリシモ:
さきほどの震災のデザインもそうですし、アイデアを形作ることが、まさにデザインみたいなふうに受け取ったんですけど。デザイナーだけでなく、いろんな人がアイデアを形にしていくことがデザインに携わるということでしょうか?

永井さん:
はい。+design projectも、学生を巻き込んだ震災プロジェクトも、デザイナーだけの限られた範囲でデザインを捉えないっていくことなんです。どうしてもデザイナーっていうと絵が上手だったりとか、美大を出ましたっていうような特殊な人たちでしかできないって思われてしまう。むしろ言葉と近いと思うんです。言葉もみんな使おうと思えば使えるけれど、やっぱり作家ってなれば、言葉の専門家ですよね。ただ、普段コミュニケーションするための言葉って言うのはごく普通に、みなさん使ってて……。デザインもそういうことに近いんじゃないかなって思います。

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<第2部>

お客さまとのQ&A

お客さま:
広告を作るにあたって、アイデアや発想はどうやって生まれてきますか?

永井さん:
アイデアを出すっていうのも、結構訓練なんですよね。僕も会社に入ったときには、アイデアの数が全然出せなくて2点とか3点だけ提出して「これでどうでか?」って。でも「ダメだよ」って言われて、結構苦労して3年間くらい、とにかくいっぱいアイデアを考えるようにしようって思って、最低でも30案くらいずつ考えるようにしてたんですね。そしたら、「これ、おもしろいね」って言ってもらえるようになってきました。アイデアってどうしてもひらめきだって思っちゃって、ひらめきが降りてくるのを待つみたいなことをしてても、絶対にアイデアは降りてこないんです。やっぱり考えるということなんです。特に最初、考える筋道をどれだけたくさん持てるかってことがすごく大事ですね。人の脳って、自分が考えたすじみちと同じ方向へ行きたがるんですよ。何回考えても同じところへ辿り着いてしまう。それを自分の中で矯正しているうちに、いろんな考え方のバリエーションがつかめるようになって、そうしたときに初めて正しい答えが出せるようになってくるって思っています。

お客さま:
環境問題などの広告において、他人事ではなく自分事として、生活者に認識させるためにどのように工夫されていますか?

永井さん:
さっきの「エコジャパンカップ」で言うと、ひとつにはビジネスとエコロジーっていうことを結びつけたことによる、ひとつの気づきがあるっていうことでしょうか。頭では、サステナビリティだとかエコロジーって大事なことはわかっているんですけれども、やっぱり自分の日々の生活とは縁遠いことだなって思ったりしがちじゃないですか。それをどれだけ近づけることができるかどうかが大切じゃないかなと思います。そのときには、デザインや発想っていうことが、とても大きな役割を果たせるかなと思います。4年くらい前かな、イギリスのアニヤ ハインドマーチっていうブランドが、エコバッグを出したら、買いたい人が行列をつくるほどの人気だったんですけど、あれもファッションとエコロジーをかけ合わせたときに、人が殺到して並ぶほどの魅力を発したってことだと思うんですよね。何か組み替えることによって、いままでにはない発見とかクリエイティビティがあると、いままでエコを捉えている回路と違う回路で、エコと結びつくきっかけをつくれるんじゃないかなって思います。

お客さま:
世代や立場の異なる人とコミュニケーションをとるときに大切にしていることは何ですか?

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永井さん:
僕自身は人の話を聞くのが、すごく好きなんですよ。相手が自分と全然違うことを言ってたら「こういう考え方もあるんだ。じゃあ、やってみよう」みたいな感じで、結構、受け入れるんです。だから、僕は自分自身を主張もするけど、受け入れても考えるっていうのが、答えかな。考え方っていろいろあると思うので、とても相対的なものだし、そういうことにもちゃんと耳を傾けるっていうことが自分にとって大切にしているポイントです。

フェリシモ:
神戸学校からの質問です。デザイナーとは、建築家や工業デザイナーのような特殊な才能を持った方だけを指すのではなく、アイデアであったり、社会にしあわせなムーブメントを起こす力を持った人であるとおっしゃってましたが、私たちがしあわせな社会をデザインするデザイナーのひとりとして、これから大切にしていくべきことは何でしょうか。

永井さん:
デザインって究極的には調和ってことだと思うんですよね。全体が調和していることを理想に思っている人がデザイナーだとすると、そこの調和が崩れていたり、破たんしていることが、気になったり……。例えば、書類がバラバラになっていると気になるから、ちょっとトントンっとまとめてみるみたいな、その破たんしている部分を直したいっていうことはデザイナーのひとつの特質かなというふうに思います。だから、いまこれだけ課題が山積みになっているときに、壊れているところに対して敏感に感じるその感受性っていうのが、デザインの考え方かなって思います。あと、想像力っていうのも大きいですよね。イマジネーション、それは、単に夢想するっていうことではなく、その相手の立場になってみるということです。そして、その想像をしたときに、具体的に何か解決の筋道をつけてみるとか、もちろん自分自身で動くっていうことも含めるのも、デザインなんじゃないかな。だから、何かに気づいて、想像してみて、それに対してアクションをとるっていうことが、広い意味でのデザインだと思います。

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Profile

永井 一史(ながい かずふみ)さん<株式会社HAKUHODO DESIGN代表取締役社長・クリエイティブディレクター>

永井 一史(ながい かずふみ)さん
<株式会社HAKUHODO DESIGN代表取締役社長・クリエイティブディレクター>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
1985年多摩美術大学卒業後、博報堂入社。2003年ブランディングを中心とした会社、㈱HAKUHODO DESIGNを設立。2007年デザインを通じてソーシャルイシューの解決支援に取り組む活動を手がける、Hakuhodo+Designプロジェクトを主宰。2008年11月より、雑誌「広告」編集長。主な仕事に、サントリー「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」、日産自動車「TEANA」、資生堂「企業広告」、日本郵政「民営化」「年賀キャンペーン」など。日経広告賞グランプリ、クリエイター・オブ・ザ・イヤー、ADC賞グランプリ、毎日デザイン賞など受賞多数。

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