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「脳の本質から学ぶ『ともにしあわせになるしあわせ』について」



<第1部>

いただいたタイトルが「ともにしあわせになるしあわせ」。みなさんわかります? 神戸はレベルが高いなっていうのが、最初の印象でございます。
最初に、いただいたお題が「どうして人はしあわせになりたいと考える?」のか……、そんなのわかりませんよね? 人間はなぜそういうふうに考えてしまうのでしょうか? その次には「感情と気持ちと考えと心はどう違うのでしょうか?」わかりません。「どうして頭がよくなりたいと自然に考える?」不思議ですよね。「しあわせを願いながらなぜ戦争がなくならない?」非常に不思議なんですね。最後のとどめは「心の基盤となる本能とは…… 何?」我々は心、心と言ってますけど、本能に従って我々はしているわけですから。
これどういうことですか? これを最初にお話しようかなと思っています。この「どうして?」っていうのが、非常に大切なしくみになっています。

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「脳はたくさんの中枢機能の連結によって機能している」

みなさん「脳っていうのは、よくわかんない」って思っていますよね。いろんな脳科学者は「脳ほど未知なるものはない」って訳のわからんことを言ってますよね。あれ、間違いですからね。脳っていうのは、非常にシンプルで簡単です。
(会場:笑)
脳は嘘をつきません。嘘をつくのは自分です。脳って非常にシンプルになってるんです。まず、目からものを見て、前頭葉で判断することになっている。非常に不思議なのは、目から情報が入るんだから、すぐ近くの前頭葉に行けばいいのに、わざわざ後頭部を通って、前頭葉に行くんです。「頭は使えば使うほどよくなる!」ってみなさん聞いてますよね。「頭は使わないとダメなんだ」「勉強しないと頭はよくならないんだ」っていうふうに言ってますけど、あれは嘘ですから。
(会場:笑)
どうしてかって言うと、理由があります。気持ちがのらないときに頭をいくら使ってもダメなんです。いやなものをやらされると、どんな頭のいい人もダメなんです。

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「感情と気持ちと考えと心はどのような手順で生まれるか」

ということを最初にお話します。我々はものを見たときに、後頭部の中枢に行ってそれから前頭葉に行くと思っていたのが、実は脳の深い所へ情報が行ってA10神経群という所を通ると、感情っていうものはひとりでに生まれるものなんです。感情には、「好き」とか「おもしろい」とかの正の感情と、「嫌い」とか「おもしろくない」とかの反対側の負の感情が必ずついています。このうちの、負の情報は前頭葉へ行くと、忘れるしくみになってるんです。どれくらいで忘れるかというと神経細胞は3日目まで機能しています。みなさん4日前の夕食に何を食べたか言えます? 言えませんよね? 4日たつと忘れるようになってるんです。だから、怒られても3日耐えれば大丈夫なんです。
(会場:笑)
4日目でも怒っていたら、それ本当に怒っています(笑)。ところが、「おもしろい」とか「好き」って思うと、自己報酬神経群で「やってみたい」という気持ちが生まれてくるんです。これは、感情から気持ちに変わる。理解することによって感情が気持ちに変わってくるんです。みなさんが「おもしろい」とか「こうしてみたい」と思った瞬間に、頭の中に素晴らしい気持ちが生まれるしくみになっています。「おもしろくない」って言うだけの場合は、感情だけで終わってるんです。達成したいという気持ちが生まれると、そこから考えるしくみが生まれてきます。それについて考えると、そこに心がはぐくまれてきます。心というのは考えることで生まれてくる現象なんです。で、記憶力がいいっていうことは、どれだけおもしろく興味を持ったかということが引き金になって起こるひとつの現象なわけです。嫌いな先生の顔なんてほとんど覚えていないですよね? それは負の感情なので、4日たつと忘れてるんです。だから、いかに「好き」になるかってことが、人間の感情から気持ち、気持ちから考えとか記憶を生み出していく、そういうしくみになっています。その手順が大事なんです。

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「感情・判断・気持ち・考え・記憶を同時に生み出すダイナミック センターコア」

これまで脳の機能というのは、脳の言語中枢とか視覚中枢とか脳の表面の話をずっとしていました。大事なのはもっと深い場所にある機能。我々は調べる方法を持っていなかったんですね。動物実験では脳の深い所を調べることはできますけど、人間の脳みそをあけてみるわけにいきませんので、実験できないんです。多くの人は動物実験をやってその結果から「脳はこうなっている」って言っています。動物の神経核は非常に数が少ないんです。人間は動物の4倍くらい。考え、記憶、感情のしくみは、動物と人間は違います。だからいくら動物実験をやってもむずかしいと思います。人間は実験できないので、何十万人の患者さんの壊れた脳の現象からつきとめた話をしたいと思います。
脳っていうのは、A10神経群とか前頭前野などをひとつにまとめてダイナミック センターコアという概念にしています。

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「人間の脳は何を生み出してきたか?」

脳に神経細胞っていくつあるか知ってます? 150億あるんです。150億1個1個の神経細胞がみんな自分が生きたいとか、まわりの細胞と仲間になって機能したりとか、情報を知りたいという機能を持っています。この「知る」「仲間になる」「生きる」というのが、「本能」。みなさんが頭がよくなりたいと思うのは、「知りたい」という本能があるから。そういうふうに、細胞1個1個がなっているわけ。ひとつの細胞から本能が生まれているので、「仲間になる」から「社会、ビジネス」が生まれ、「生きる」から「家族、家庭」が生まれ、「知る」から「教育、学校」が生まれてるわけ。そうすると、「仲間になる」「生きる」というところから「宗教」が生まれ、「仲間になる」「知る」というところから「文化」、「生きる」「知る」というところから「科学」が生まれるんです。こうやってみると人間の社会システムは、脳が機能しているしくみに従ってできあがっているというふうに言えるわけです。ここで大事なことは「人間の本能は生きるために大切な脳の機能」になります。本能を持っていないと生きられません。本能というのは実際はたった三つじゃなくて3層になってるんです。1番目は細胞から出てくる本能。赤ちゃんが最初に生まれて好きになるのは誰ですか? お母さんですよね? 赤ちゃんの目が見えるようになって、表情が出てくるのは3ヵ月。3ヵ月たつとお母さんを好きになることから人間の考える回路が生まれたときに、最初に好きになるところで、「これは危ない」とか「おなかが減った」とか、扁桃核が機能するので、赤ちゃんはおなかがすくと生きていけないので、泣くわけです。その泣き声を聞きわけながらお母さんは、判断して、意志疎通をはかるわけです。そのときに、赤ちゃんは自分を守りたいという本能が生まれます。そうすると、2番目に、考えるときに筋が通っていないといやなので、一貫性という本能が生まれます。こうやって次々に組織由来の本能が生まれて来るんです。この自分を守りたいという本能と仲間でありたいという本能が合わないときがあります。

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ここでもうひとつ、考えるしくみが動き出して3番目の本能が、ダイナミック センターコア、要するに核が集まって機能する脳のしくみのところに本能が生まれてきます。ここは、違いを認めともに生きることをしくみにすることによって、人間には愛っていう現象が生まれ、それによって我々は違いを認めてともに生きる、よって脳の機能のバランスが取れるようになってるわけです。違いを認めて、その人たちも満足するように考えることが脳のしくみになっています。
「ともにしあわせになるしあわせ」というのは、人間の本能を言ってるわけですから、それは当たり前のことで、これがわからない人はやっぱり頭がおかしいんです。本能がおかしいわけです。そういうしくみになってるんです。そのことを我々はよく理解していくと、人間というのはあっという間にすごい力を発揮するようになっています。するかどうかは、みなさんの努力です。これだけ教えたんですから大丈夫ですよね? 3日たったら忘れましたって言わないでくださいね。
本能っていうのは、人間の本能なので、鍛えられるんです。本能のままに生きてる、なんていうのは、動物と同じ。人間というのは本能をひとつの基盤としてものを考えたり行動したりしているので、実際は本能は3つあり、細胞由来と組織由来とその間のバランスを取る3つのしくみによって機能するようになっている。機能するって僕が言っているのは、このしくみっていうのはすごい力を発揮する人と、それに逆らうとことごとく発揮できない現象が起こってきます。緊張してだめだったとか、失敗したとか……。この法則を破ったことによって、起こってくる現象です。みなさんは頭がよくなりたいと言いながら、学校や塾で勉強してます。でも思ったようにはなりませんよね。その大きな理由は、脳が考えるしくみにおいて何を求めているかを知らないからなんです。やっていることと脳がマッチングしないため、やってもやっても頭がよくならないということが起こってきます。相手を知らないと正確に機能を発揮することができないんです。

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今日は以下のようなお話をしようと思います。

本日の課題
1.人に感動を与えるよい頭を持った子を育てる
2.脳には間違うしくみがある
3.男の脳と女の脳
4.目的を達成する人とできない人の違い
5.勝負に強い人と弱い人の脳はここで決まる
6.北京オリンピック競泳選手に教えた勝負脳

「人に感動を与えるよい頭を持った子を育てる」

みなさんが知りたい「頭のよい子が育つよい習慣」をお教えします。みなさん「脳トレしないさい」とか「勉強しなさい」とか言ってませんか? そうではなくて、よい習慣を身につける。すると、ものすごいことをやっていても本人はものすごいことをやっていると思わなくなるんですよ。そんなこととてもできないと思っていても、本人は当たり前だと思っているようになります。人間の脳は、そういうふうにして力を発揮するためによい習慣を身につける。悪い習慣は絶対身につけないっていうのが非常に大切なんです。よい習慣は何かっていうと、ここ(A10神経群)で感情が生まれる。例えば、先生をとにかく好きになるようにこどもに教育してあげてみてください。いつも怒られている科目は先生にほめてもらうようにお願いしてください。こどもは、先生を好きになった途端にすごい力を発揮することになります。2番目には、人の話を感動して聞く習慣を身につけること。何を聞いても「知ってる」「おもしろくない」では、すぐぼけてくることになりますね。3番目、人間の考えはこうぐるぐるまわって鍛えられることになっているので、繰り返し考えることが大事なんです。失敗を失敗だと思わず、繰り返しがんばることがステップアップになるんです。(中略)繰り返し考える、で、このときに大事なのは素直な性格を磨くこと。で、何事にも興味を持つ習慣を身につける。たった5つじゃないですか。これだけで、こどもの能力はあっというまに伸びていきます。

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そうすると、自己報酬神経群というのが働いて、「自分からヤッテやる!」という概念が生まれてくるんです。何事も自分からやるっていういい質問をしてあげないといけないんです。言われたとおりにばかりやってる子は、「自分から!」という概念が生まれてこないので、考える力が弱くなってくるんです。いま、世の中で弊害が起きているのは、マニュアル人間。それは確かに効率がいいんです。でも、マニュアルどおりやってる人は、「自分から考える」というのが生まれてこないんです。考える能力が落っこちてってしまうんです。
自分からヤッテやるという概念を育つようにいい質問をしてあげること、決して叱ってはだめです。叱っては嫌いになります。そうやって、仲間を大切にして、ともに生きるっていう感情を育てると、こどもはどんどん能力を発揮するしくみになっています。

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「相手の脳に気持ち、考え、心が伝わる人」

どうなるかって言うと、脳のこの赤い所でダイナミック センターコアの同期発火を起こすんです。「気持ちを込めて話す相手に興味を持つ、相手を好きになる、相手を尊敬する」この4つです。で、そうなると考えが伝わってきます。どれひとつ外してもだめだと思います。この同期発火というのはおもしろいんです。

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「人間の考えるしくみは、お母さんからかわいがられ、お母さんを好きになることから形成される」

お母さん、お父さんを好きになる、先生を好きになる、何事にも興味を持つ習慣、話は感動して聞く習慣、おもしろい、好きになる習慣を身につけ、前向きな明るい素直な性格。これで、オッケーだと思います。例え、いま成績が悪くても、大人になったら必ず光ってきますから。この間いい質問を受けたんです。「先生若いときはダメな男でも、将来光る男の見分け方を教えてください」って。いい質問ですよね。思わず「君、それただで聞くんですか?」って言ったんです。
(会場:笑)
答えは、損得抜きに、必ず全力投球する人。その人は必ず光ってきます。僕は、北島 康介選手を見ていてつくづくそう思いました。彼は、素直なんです。どういう方とでも対話できます。ところが、5メーター先のプールの台にのっかった瞬間に人間が変わるんです。素直に集中するんです。練習が練習じゃないんです。もう全力投球なんです。だから土壇場ですごい力を発揮するんです。その質問した人は頭がよくて、「そういう男はいません」って言うんですよ。だから「育てるのは君じゃないの」って……。男は明るさは女性には勝てませんけど、損得抜きに物事をやり遂げる力を持っています。これは男の強み、男はバカなんですね。それが、すごい才能を発揮するしくみになってます。光る男の見分け方、教えましたので、間違えないようにしてくださいね。

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「才能を発揮する脳のしくみ」
人間の脳はどこを使って才能を発揮しているのかって言うと、第1段階は「空間認知中枢」という、正確にものを見る水平目線。みなさんは、自分の目は正確だと思っていますよね。でも実際は正確ではありません。なぜかと言うと、多くの方は右利きなので、ちょっと体が傾いています。ということは、脳の中で補正しなきゃなんないんです。才能がある人はどういうふうに違うかというと、立ってても座ってても運動していてもその姿が美しいんです。もうぴしっとしています。
その次に、第2段階、A10神経群、好きになる、興味を持つ。第3段階は前頭前野で正確な判断をして、第4段階で自己報酬神経群で、勝負が決まります。「自分からヤッテやる!」という神経が働いて、第5段階、繰条体・海馬・リンビックで繰り返し考える習慣と記憶……、こういうしくみになっています。自分の気持ちや考えを鍛え、いい性格をつくり、それを磨くことによって、何事にも手を抜かない習慣を鍛えていくと、必ず将来すごい光るような仕事をする頭になっていくことになっているんです。

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「超一流選手に見られる共通の水平目線」

超一流選手は、目が傾かないんです。僕の知っている限りでは、水平目線でいちばんすぐれているのは王 貞治さん。構えているときも、目線だけは水平、傾かないんです。イチロー選手がすごいのは、バッティングフォームで目線を水平に戻してからバッターボックスに入るようにしているんです。ところが、不思議なことにWBCのときだけ、傾いたんですよ。「あれ、傾いてる」って僕は思わず言ったわけ。イチロー選手は天才バッターだと思っていたので、そのしくみを体感的に理解していると思っていたんです。だからすぐ戻ると思ってたんです。でも、戻らない……。不思議なことに最後の日だけ元に戻ってたんです。なぜ、戻ったかっていうと、イチロー選手らしい逸話をつくっていて……。「ただいまからイチロー選手、バッターボックスに入ります。何球目かでこういうふうになってこういうフォームで構えます」って自分で解説することによって言語の空間認知能を使って元に戻してるんですよ。空間認知能っていうのは、視覚中枢のほかに言葉のところからも空間認知能の細胞が言語中枢にあります。要するに空間認知能というのは、それくらい影響するんです。イチロー選手でも、目線が傾くと打てなくなるんですね、やっぱり。あのすごい才能を持った方でさえも、打てない。そのことを最初に知ったのは、もう引退なさったアメリカのバスケットボールのマイケル ジョーダンという選手。彼のバスケットは、すごい飛び上がって、そこからもう1回飛び上がってシュートするような人なんです。普通は投げた瞬間に「入る」ってわかるのが空間認知能なんですけど、彼はドリブル中にもう「入る」って言いだすんです。見るとね、もう目線が全然傾かない、飛び上がっても傾かないんです。すごい正確な空間認知能を持ってる才能のある選手なんです。そこで、僕は気がついたんです。空間認知能っていうのは目線なんだって……。
(中略)
あるとき、競泳チームの上野 広治監督から「競泳チームがピンチなんです。先生の勝負脳を教えてください」って言われました。最初に上野監督に言われて行ったんだけれど、僕の話を誰も聞いてないだろうと思ったわけ。なぜかって言うと、競泳の代表選手というのは、自分たちは日本一の選手なわけですから、僕が理論を並べたてても聞いてるわけがないんですよ。聞いたフリしてるだけで……。
で、最初に僕は言いました。「みなさんは日本一のスイマーとおっしゃっているけど、みなさんの泳ぎがなってない」って。爆弾発言したんです。怒るかなと思いました。ひとつに腕のふり、肩甲骨の話と、もうひとつはイルカの水中波乗りターンの話をしたんです。「みなさん、イルカってしっぽ、どうやって跳ねているか知ってます? イルカの尾びれは水を上にはねるだけなんですよ。」そんな話をしてその日は、帰りました。次の日に監督から「先生の話で持ちきりになっているので、もう1回来てくれ」って言われたんです。こっちとしては「やった!」という感じでした。頭の話をしたんじゃないんです、技術面で勝負脳をかけたんです。そこから頭の話をしました。それで、お互いが同期発火したんです。

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「脳には間違うしくみがある」

例えば、フィギアスケートのジャンプのときに、ジャンプできて「やった!」と思ったときに、コーチから「笑顔で滑れ」って言われた途端に転ぶんです。脳っていうのは、新しい情報にすぐ反応します。みなさん、2階に上がってると「何しに行ったのか、わからなくなることありますよね?
(会場:笑)
いくら考えてもわからない、不思議なことに下りてくるとわかるんです。途中で違ったことを考えるからそうなるんです。脳はそうやって新しいもの新しい情報に瞬時に反応していくんです。

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「目標を達成できる人、できない人」

「自分から考え、行動する」、それは、すごい才能なんです。「否定語を使わない」「できない」「無理」とか言わない。で、「達成の仕方にこだわる」で、「様子を見ながらこつこつしない」こつこつっていうのは自分を守っています、一気にやってください。決められた期間を一気に一気に一気にってやってると、普通の人では無理だと思うことも駆け上がっていけます。こつこつ様子を見ながらやっている人は、そんなことはできません。損得抜きに全力投球でやることが、シンプルなやり方ということです。

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「勝負に強い人と弱い人の脳はここで決まる」

勝負に強い脳はどこで決まるかというと、「自分からヤッテやる!」という自己報酬神経群。どういうふうに決まるかというと、「残り10メートルでゴール」と意識すると、「自分からヤッテやる!」という神経群が「もうゴールだ」という意識になります。ということは、その先の心技体の力が止まることになるわけです。「残り5分で勝てる!」と思っても脳は、機能を止めるので、そこでただの選手になってしまいます。で、逆転負けをくらいます。みなさん思いますよね。「リードしてる、あと2分」そう思った瞬間ダメになります。サッカーでも、ゴールって思って蹴ると、脳はただの選手になります。脳の中で「ゴール」を意識した瞬間に、体がダメになってるんです。サッカー選手は、誰が蹴っても入るような所からでも、ひどい蹴り方をしてたりして、なんかおかしいんじゃないかって思ったり……。ゴールと思って蹴ってるとそうなるんです。前の監督のジーコさんがいいことを言ってました。「あれは、ゴールと思って蹴ると入らない。ゴールを通り抜けるバーだと思って蹴ったら入る」って。みんなそれを聞いて「同じことじゃないの?」って思ったんですが、ジーコさんは体感的にそれをわかってらっしゃるんです。自分の経験から、おっしゃってるんです。僕の言っているA10神経群が、ゴールと思ったらダメなんです、ゴールを通るバーだと思うと、ゴールのどこを通そうかっていうふうに脳が働くことになるので、ものすごく正確な動きが生まれるのに、ゴールだと思ってしまうことがダメなんです。水泳選手にもそういう話をしました。で、ゴールを意識をしないで泳いでみようってやってみたら、世界新記録が次々と生まれてきたんです。
(中略)

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だから、途中で「ゴールだ」「終わった」って意識しちゃいけないんです。勝ち負けに勝負をかけるのではなくて、勝ち方に勝負をかけないとだめなんです。達成の仕方に勝負をかけるんです。すごい人っていうのは、勝っても勝ってもまだ「勝った」って言わないんです。

「北京オリンピック競泳選手が力を発揮した勝負脳」

成功する人には勝負脳の法則があります。人間の脳というのはどうにでも対応できる力を持ってるので、一番は目的よりも目標に集中することなんです。勝ち方に勝負するので、脳はすごい力を発揮します。勝ち負けにこだわると「負けるかもしれない」っていう否定語が入ってくる、脳はそれについて守ろうっていう考え方が生まれてくるので力が発揮できません。勝ち方にこだわる。で、問題を明確にして達成方法を考え、最後まで一気に駆け上がることなんです。
競泳選手のアメリカ合宿で「否定的な言葉を使わない」「一気にかけ上がる」「極限の手を抜かない」は合言葉になりました。そうしたら、上野監督から「先生、すごい記録がバンバン伸びだしました」って言ってこられたんです。「こんなにやりやすいナショナルチームの合宿は生まれて初めて。みんないつも文句ばかり言うのに」っておっしゃってたんです。

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「本番で実力以上の力を発揮できない理由」

「明るい前向きの性格」「否定語を含まない考え」「いつでも全力投球」ということが、脳のストッパーをはずすんです。だから、いざとなったとき、すごい力を発揮するんです。才能を磨くことになるんです。長時間根性を入れて練習することではありません。それはなんの足しにもなりません。試合もコーチも嫌いになるだけです。だから、力を発揮できません。守りがち、気持ちが攻めない、全力投球していない、これはだめなんですね。勝てない。

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「心は進化するか?」

彗星のごとく、記録を伸ばす方法があるんです。これを北島選手たちにも教えたんですね。「本能を克服する勝負脳」。これは、損得抜きの素直な性格はすごい力を発揮します。で、ライバルは自分を高めるツールだと考えなさい。ライバルを敵と思ってはいけないんです。敵ってなると守らなきゃいけない、打ちのめさなきゃいけないっていうふうになると、人間の脳っていうのは、違いを求めてともに生きるっていうしくみに反するわけですね。それをどう生かすかって言ったら、勝ち方に勝負をかけるんです。だから、ハンセンは絶対敵って思っちゃいけないんです。そういうアドバイスをしたんですね。で、チームのためにコーチ、監督を好きになる。だからみんなに「コーチは選手にとって神さまがつかわした人なんです。技術、知識、脳の力をフルに発揮して、日本人がすごいってことをみんなに見せよう」っていうのを合言葉にしてたんです。コーチたちも感動して「やってやる!」ってすごかったですよ。

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「最後の切り札。彗星のごとく記録を伸ばす!」

平井 伯昌コーチから「先生、オリンピックで彗星のごとく記録を伸ばす子がいるのはどうしてなんですか?」って聞かれたんです。いい質問ですよね。ここで、命がけでがんばります。考えてはだめ、考えなくてもだめ、無心の集中力なんです。そして、興奮したらすぐ横に抑制作用が働く脳があって、リズムにのったらどうかと思ったわけ。そのリズムは1秒間に4~8サイクルのシータリズムって言うリズムだったので、この幅の中にどこか、答えがあるっていう……。過去の岩崎 恭子ちゃん、カール ルイスのリズムっていうのは4拍子プラスシンコペーションというリズム、これは気持ちがのってくると加速してくるんです。で、このしくみを使うとこの先に、感情中枢が入ってますので、どうなるかって言うと、「超気持ちいい」ってなる。これが北島選手が思わず口にした言葉なんです。この言葉はすごく科学的なんです、本人は思ったことだとおしゃったんです。メダルを獲ったから気持ちいいんではないんですね。思わず出た言葉なんです。今回、このしくみを全部教えたあとだったので、何を言うかなと思ったら「なんも言えない」って言ったんですよね。そしたら、アナウンサーの方が間違って目が潤んでいたので感動して「なんも言えない」って思ったらしいんです。よく聞いてください。北島選手はすべてわかって思いどおりにいって、「なんも言えない」って言ったんです。僕もうれしくてうれしくてスキップしてたら、「先生どうしたんですか?」って言われちゃって……。
(会場:笑)
要するに、人間の能力っていうのはそうやって、力を発揮するしくみがあります。

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<第2部>

お客さまとのQ&A

お客さま:
男の脳と女の脳の違いを知りたいです。

林さん:
すみません。第1部でこの話、時間がなくなって飛び越してしまいました。男と女は、まず目から違うんですね。女性の目っていうのは、ものを見たときに網膜っていうのが、3層になっていて分析がちゃんとできるんです。だから、近くのものは非常に正確に見えます。男の網膜というのは非常に薄くて、全体像はよく見えています。だから、目の前のことがよくわからなくて、目の前にお醤油があるのに「お醤油がない」と言いだすわけ。経験してますよね?「何で見えないの?」って、見えないんです。その代わり全体像は見えています。女性の髪型が変わってもわからないんですよ。全体像を変えていかないとだめなんですよ。勝負脳を間違ってますよ。女の人は「どうしてわかんないの?」って怒ってますよね? 男の方は見えないんです。男の方に忠告しておきますと、女性はすごくよく見えてて、「わかるわけないだろ」と思ったことすべてお見通しです。要するに、網膜のしくみが違ってるんです。その次に男の脳っていうのは、空間認知脳っていう形、色だけではなく、ものの流れとか道理とかを含めて空間認知していますので、非常にロジカルにものを考えるしくみになっているんです。これに対して女性の脳は、空間認知の細胞がそこにあるのではなくて、言語中枢にあるんです。だから女性はしゃべることによって、アイデアが出てくるんです。(略)仕組み的には男性は女性に勝てません。なぜかと言うと、ロジカルに行っても、「でも私、それ嫌い」って言われて……(苦笑)。これは、女性の強みだと思います。

お客さま:
脳の老化を遅らせることはできますか?

林さん:
答えはイエス。可能です。人間の脳は、新しいことを考えると新しい神経シナプスができます。シナプス形成によって新しい神経伝達の伝動路が出来てくるので、脳はどんどん若返ってきます。脳は新しいものを生み出すときに新しい回路が生まれるんです。ということは新しいものを作っている職人の方、例えば絵描きさんとか。絵描きさんは90歳になってもボケません。新しい回路をどんどんつくりながら作品を作っているから。同じものをワンパターンにやってると衰えてくるんです。だから、新しいものを生み出す、趣味を持つということがいいんじゃないかと思います。

お客さま:
叱らないことが相手の能力を伸ばすことだというお話があったと思うのですが、自分の身近な上司や親が叱ったり怒りっぽい人だった場合に、それに対してめげずに、自分の能力を発揮するためにはどうすればいいでしょうか?

林さん:
堪え忍ぶことです。
(会場:笑)
どんな変な上司でも好きになったら、その部門で才能を発揮します。上司はどんな変な部下が入ってきても、その部下を好きになったら、上司はその部門で力を発揮します。だから、どんな変な上司でも、いいところを見つけて、堪え忍ぶこと。で、俺の力で変えてやろう! と。そういう考え方でやってくと変わってきます。そのときに、損得抜きにその人のことを思って、対応していくという……。何のためにその部署にいるか、原点に立ち返って、勝負脳をかけていけば上司も変わってきますよ。暗い上司であれば、明るい話をすれば変わってきますよ。

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フェリシモ:
ご講演の中で、脳は本来違いを認めてともに生きることを求めているのだということをお話いただきました。現代の社会では、なかなか自分と違う考えや自分を持つ人を認める寛容さに欠けているように思います。他者との違いを認められない結果、自分自身に自信が持てなかったり、他者に寛容でいられないがゆえに起こる犯罪や事件があるように思います。脳神経外科医としての立場から、違いを認めてともに生きるということ、そのために私たちが日々の生活の中で大切にすべきことは何だと思われますか?

林さん:
何でそういうふうになったかっていうと、「成果、成果」ってやってるうちに、勝ち残るというアメリカの概念が日本に導入されたことなんですね。この話はいまから8年くらい前に、某ビッグカンパニーの副社長からいい質問を受けたんですね。最初の質問が「日本人は問題が起きても、わかっててもすぐ動かない。アメリカの人は分析、解析してすぐ動く。同じ人間なのにどうしてそんな行動の違いが起こるのですか? を説明してください」って。答えは、すごく簡単なんです。それは、我々日本人は米、穀物系の人間なのでまわりのことを考えながら行動、判断する習慣になってる、自分だけ勝手にわーわーやると生きていけない社会になってしまうのです。アメリカの社会は肉食系の戦いの中で生きているので、すぐ対応しないと食べられて生きていけない。だから、その肉食系の食べ物のなかで、原始的な思考の違いがあるので、そうなってる。その副社長が言ったのが、「多くの場合は、アメリカのやり方が正しいと思うけど、日本のやり方はいいこともある」って。「すごい人だな」って思ったんです。そのときに「日本人はアメリカのまねをして勝ち負け、勝ち負けの成果主義を導入するとやがて崩壊しますよ」って言われたんです、8年前に。で、日本はそんなことなるわけないと思ってやってたら、前の首相が“構造改革”って話し始めてきて、「あれ、言われたことそのままだ」って、思ってたらそのとおりになってきました。だから、みんな同期発火したっていうか、数の多い方に間違ったしくみをとっていて我々は知らないうちにはまってることが、こういう問題を引き起こしているんです。今度は鳩山首相が出てきて“友愛”っておっしゃっているのは、まさしく違いを認めてともに生きるという原点をおっしゃっているので、やっといい指導者が出てきたな、やっとアメリカでも過去はいけないって言う大統領が出てきて、やっと元に戻す人たちが指導者になったと……。僕自身は、そういう意味で心から喜んでいます。
みなさんにお伝えしたいのは、そのしくみは本来はそっちが正しいんです。世の中の指導的立場にいる人たちが、違ったことをやってしまったことで、それが普通になってしまった。人間っていうのは、数が多い方に統一、一貫されるので、間違うしくみが脳にあるってことも知っていてほしいですね。だから、どう対応するかじゃなくて、変えることも大事なんです。「それは、いけないことなんだ」と。
教育においても、「成果、成果」っていうのではなくて、人間は素晴らしい面を持っているので、もっと才能を発揮するためには、好きになり、お互いの違いを認めて、みんながワクワクやってくってことで、すごい才能を発揮するんです。だから、勝負においても勝ち負けなんですけど、そのときでさえも、達成の仕方、勝ち方に勝負をかけていくと、ものすごい力を発揮するんです。ということを、今日はみなさんにお伝えしたかったんですね。だから、自分の脳って、すごいんですよ。そのことをみんないつも「だめ、だめ、だめ」って言われているので、「だめなのかな」ってみんな思ってしまうことが問題で、ほんとはすごいんです。僕が今日お話しさせていただいて、みなさんの熱気で、部屋の温度が4~5度上がったと思いますよ。途中から、暑くなってきましたよね。同期発火してるんですよ。人間の脳っていうのは、いざとなったらすごいんです。

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Profile

林 成之(はやし なりゆき)さん<医学博士・脳神経外科医>

林 成之(はやし なりゆき)さん
<医学博士・脳神経外科医>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
1939年、富山県水橋生まれ。日本大学医学部、同大学院医学研究科博士課程修了後、マイアミ大学医学部脳神経外科、同大学外傷センターに留学。1993年、日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター部長に就任。日本大学医学部教授、マイアミ大学脳神経外科生涯臨床教授を経て、2006年より、日本大学総合科学研究科教授。事故などによって脳に損傷を受けた数多くの人々の治療と社会復帰をさせ「『ゴッドハンド』を持つ男」と呼ばれる自身の確立した「脳低温療法」は世界的な評価を受けている。脳卒中で倒れたオシム監督の主治医を務め、また、北京オリンピックでは日本代表水泳チームの脳科学的戦略指導に参加し、北島 康介選手を金メダルへと導いた。
著書に「勝負脳の鍛え方」(講談社)、「望みをかなえる脳」(サンマーク社)、「ビジネス<勝負脳>(KKベストセラーズ)などがある。

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