神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

  • 結城 昌子さん(アートディレクター・エッセイスト)
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「名画はあそんでくれる」



<第1部>

こんにちは。まずは、自己紹介をさせていただきたいと思います。私は、主にアートとこどもたちを繋ぐ活動を中心に、3つの名画のコミュニケーションの形を続けています。ひとつは、こどものためのアートの絵本というのをずっとつくってきました。

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『ゴッホの絵本 うずまきぐるぐる』(小学館)という絵本なんですけど、ゴッホの絵のうずまきでゴッホの心の力をこどもたちに伝えたいなって思ってつくった本です。ほかに『マティスの絵本 泊まってみたいな』とか、絵本という形をとって活動してきました。これをきっかけに、小さいお子さんたちと一緒にワークショップとか朝日小学生新聞で15年に渡ってこどもたちと一緒につくる連載ページをさせていただいているのがひとつです。もうひとつは、ヨーロッパが多いんですけど、描かれた土地を歩いて旅のエッセイをアートを絡めて書いたりしています。

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もうひとつは『原寸美術館・画家の手もとに迫る』(小学館)という本を出したんですが、名画を画家が実際に描いた大きさで味わおうという本をつくったりして、主に書籍を中心に名画とのコミュニケーションというのをずっと考えてきました。
今日は、「名画はあそんでくれる」というテーマで、みなさんに楽しんでいただければと思います。

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「名画っていうのは、いい友だちのようなものだ」

「名画って何なんだ」っていうことをお話させていただきます。小さいお子さんたちにはいつも「名画っていうのは、いい友だちのようなものだ」と私は言っています。私のように、しょっちゅうめげたりしている人間にとっては特にそうなのですが、本当にいい絵っていうのは、人を励ます力、慰める力を持っています。これは、私が経験的にずっと感じてきたこと。もうどうしようもなく落ち込んでいるときでも、いい絵を1枚見ることで、ぱって世界が変わったり、ハラハラっとほどけていったり、勇気がわいてきたり……という経験をたくさんしてきました。「たかが1枚の絵だ」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、本当にいい友だちがときとして絶大な力をくれるように、いい絵1枚がすごく力をくれることを、私はいつも感じてきて、だからこそ、一所懸命みんなに「いい絵を見ようよ、楽しくみようよ」って語り続けてきてるんです。じゃあ、いい友だちとはどうやって出会えばいいか。いい友だちと出会うときって、その人のことあんまり知らないで出会うじゃないですか。なんとなくこの子といると楽しいなとか、なんとなくフィーリングが合うなとか、なんかわかんないけど居心地がいいな、とかそうやって出会っていくうちに、だんだんとその子のことがわかっていく……。

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名画ともそんな出会いをしてもいいんじゃないかなって、私は思っています。むずかしい話はとりあえずおいといて、まずは出会おうじゃないか。友だちともそうだけど、出会ってからその友だちの背景を知って「3人兄弟の末っ子なんだ。だから甘えん坊なんだな」とか「お父さんがそんなお仕事をされてるんだ」とか、あとでだんだん情報が増えていくというように、名画も、最初っから「これはルネッサンスの絵です」って勉強していく入り方ももちろんあるんですけど、私は歴史から入っていっちゃったら、見落としてしまうような、友だち付き合いのように名画と出会っていただけたら、別の世界が広がるんじゃないかなといつも思っています。
ぜひ今日はいい友だちと出会って帰ってほしいなと思います。大切なのは、誰かが「この絵はすごいんだ」と言われたから「なるほど。すごいな」と思うのではなくて、自分の目でそのすごさを発見する。友だちのよさを、自分でみつけるのはとっても大事だと思うんです。今日は、そのきっかけになる時間をご一緒いただけたらうれしいと思います。

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レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』にラクガキ!?

いまから世界でいちばん有名な絵をお配りします。レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』、名画の中の名画、見飽きてる絵かもしれないですね。(中略)今日はそこにちょっとだけラクガキをしてみたいと思います。この絵が「謎のほほえみ」と呼ばれているのはご存知ですよね。この絵の謎を簡単に言いますね。まずいちばん大きい謎っていうのは、モデルが特定できなかったということ。モデルが特定できないということは、この女の人の年齢がわからないということです。(中略)もうひとつの謎は、笑ってるんだけど、寂しいのか困っているのかうれしいのか悲しいのか、あいまい。感情が特定できないのもひとつの謎です。このころほかの画家たちが描いている絵、例えば、フィリッポ・リッピというイタリアの画家が描いたマリアさまとイエスさまの絵ですが、マリアさまのヘアスタイル、くねくねと編み込んでアクセサリーがいっぱい。こういう絵が主流だったんですね。

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でも、『モナ・リザ』は髪の毛も編み込んでいない、ノーアクセサリー。というところもひとつの謎と言われています。そして、これは喪服じゃないかっていう説もあって、だとしたら、もしかしたらレオナルド・ダ・ヴィンチが小さいときに別れてしまったお母さんへの思いなんじゃないかっていう説もあります。もちろん、レオナルド・ダ・ヴィンチの自画像だっていう説もいまだに根強くあります。そういう謎がもりもりといまだにあって、これはレオナルド・ダ・ヴィンチが後世にかけた謎なんじゃないかっていう話です。もうひとつこの絵は、レオナルド・ダ・ヴィンチが死ぬまで持っていたんですね。肖像画だったら肖像の依頼主に渡すのが普通なのに、なぜ最後まで持っていたのか?と、いっぱい謎がある絵です。そんな謎だらけのこの絵に、何か楽しいことをしましょう。例えば、この『モナ・リザ』、眉毛がないんですね。それで……。
(結城さん:『モナ・リザ』の絵に眉毛を描き込む)
ほら、眉毛を描くだけで「おぉっ」って変わるじゃないですか。あら、今日はブスになっちゃった(笑)。『モナ・リザ』って、ちょっと手を加えるだけでガラリと変わるんです。例えば前髪描いただけで、ばーんと若くなります。男にも変身できるし、高貴な貴婦人にもなれる。本当にどんなことをしても素晴らしい傑作ができるおもしろい絵で、これはもはや人類共通のイメージとして、レオナルド・ダ・ヴィンチが残してくれた宝物なので、今日は思いっきりラクガキをしてやってください。

(お客さま:実践、その後、みなさんの落書きされた『モナ・リザ』をみなさんと共有)

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(1枚目の『モナ・リザ』)
なんか結構あなどれないですよね。アクセサリーとか帽子とかでガラリと変わるんですよ。意外とモナ・リザって男顔なんですよ。世紀の美女も台無しっていう絵も多いですね(笑)、これレオナルド・ダ・ヴィンチが見たら真っ青ですね。おもしろそうなものをいくつか見せていただきたいと思います。いいじゃないですか。なかなかみんなおもしろい。

(2枚目の『モナ・リザ』)
おもしろいですよね。酔っ払って煙草ふかして不良ですよね。でもなかなか魅力的。

(3枚目の『モナ・リザ』)
いろっぽくて、気のせいかちょっと太ったかなー。

(4枚目の『モナ・リザ』)
なんかかわいいですよね。シュールな感じになりました。

(5枚目の『モナ・リザ』)
分かんないけど、描いてたらこうなっちゃった……。

(6枚目の『モナ・リザ』)
今日のみなさんは、シンプルだけど発想がおもしろいですね。

(7枚目の『モナ・リザ』)
お人形さんみたい!

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(8枚目の『モナ・リザ』)
得体の知れない『モナ・リザ』ですね。

きりがないので、このへんにさせていただきます。ありがとうございました。実はこんな遊びをしたのは、ほかでもなく『モナ・リザ』という作品に触発されて、後世のアーティストたちがたくさん『モナ・リザ』を引用したり編用したり、繋いできてるんですね。みなさんは、そのアーティストと同じことをしたんです。ちなみに、現代アーティストたちが『モナ・リザ』にどんなふうに挑戦したかっていうのは、こういう本の中に出ています。

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こういうアーティストがたくさんいます。有名なところでは、マルセル・デュシャンが髭を描いて、パロディみたいなことをしたり。

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これは日本の森村 泰昌さんですね。自分が『モナ・リザ』に変身しています。世界のアーティストたちは、何度も何度も『モナ・リザ』に挑戦してきました。そして、今日はこどもたちの描いた『モナ・リザ』も持ってきました。

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私が朝日小学生新聞でずっと連載しているコーナーなんですが、なかなかおもしろいでしょ。ほら、かわいいでしょう。『モナ・リザ』をネコにしちゃったこどももいるんですね。これスフィンクスになっちゃったんですね。急に若返ったり、サンタさんになったり……。小学生もがんばるなって、いつも感動して見ています。

こうやって『モナ・リザ』に挑戦してもらってわかったと思うんですけど「あ、やってみようか」って思ったでしょ。これ、本当にこの絵がつまんない絵だと「やってみよう」ってなかなか思わないんですよ。こどもたちにこれだけの絵を描かせるっていうのは『モナ・リザ』の力っていうのがすごくあって、やっぱりいい絵には触発する力があるんですね。だから無意識のうちに触発されて、私たちは黒い絵の具を絵にのせてみようって気になるっていうのが実はよくあることなんです。

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いい絵に出会うためにはどうすればいいの?
「友だちになってもいいな」って思う絵を1枚みつけよう!

それでは、もうひとつ。いい絵に力があるってことはわかったとして、いい絵と出会うためはじゃあどうすればいいの?と思う方もいらっしゃると思うんですが、いい絵と出会うためには、やはり自分の友だちをちゃんと見つけることができるっていうことだと思います。(中略)海外の美術館に行って絵を見たりするじゃないですか。私の友だちなんて「ルーブル行って『モナ・リザ』見て来たよ」って言うんです。「やっぱりああやって静けさの中にふっくら座ってる姿ってステキだよね」って私が言うと「え? あの絵って座ってるの? 立ってるのかと思ってた」っていうくらい実は見てないんですよね。「『モナ・リザ』見たよ」「オルセー美術館に行ってモネを見て来たよ、マネを見て来たよ、ゴッホ、ルノワールを見たよ」ってみんな言うんですけど、実は1枚ずつの絵を意外と見ないで通り過ぎてきたりするってことが多いんです。画集でもパラパラパラってめくって全部見た気になってるけど、実は1個1個見てないんです。そういうときに、よく見ないで友だちになろうってったって、そうはいかないっていうことで、私がいつもみんなに言ってるのは、まず今日、画集をめくったときに、友だちになってもいいなって思う絵を1枚みつけようとします。言いかえれば、例えば「ルーブル美術館の中から今日は1枚持って帰っていいって言われたら、どの絵もらって帰るかな?」って思って、1枚の絵を見つけながら歩いていくと、意外と別にみなくてもいいやって思う絵もたくさんあります。でもこの絵だけは、今日はこの絵もらって帰ろうって思うような絵を1枚見つけることができたら、その絵をたっぷり見てくる。ほかの絵はきっと友だちになってくれないか、ふさわしくないか、縁がなかったと、あっさりあきらめて、その代わり、1枚だけでも一生付き合えるって思う友だちをみつけて帰ってきてください。それが、私は絵とのいい出会いの形だと思っています。たくさん見る必要はないんです。自分にとってどの絵がいいかっていうことだけはわかった方がいい。

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1枚の絵と友だちになると、うまい具合に友だちの友だちはまた友だち、みたいに、どんどん増えていきます。で、いっぱい増えていったときに、あとではっと気づくんです。もしみなさんが名画のコレクターとして、絵を見にいったときに「この絵好き」「この絵好き」ってコレクションしていくでしょ。そうすると結構、自分の好みがわかるんですよね。あとで並べてみると「私って、色がきれいな絵が好きなんだな」とか「なぜか裸婦ばっかり選んでる」とか「風景が好きなんだ。風景でも精密じゃない風景が好きなんだ」とか、自分の好みが見えてきます。そういうのが見えてきたらしめたもので、私にはこんなにたくさんいい友だちがいるんだって思って仲よく付き合っていってあげたらいいと思います。友だち名画のコレクターになってもらいたいっていうのが私のふたつめの提案。いろいろなところに行って「あ、友だちになれるな」というような絵があったら、1枚ずつでも集めてきてそれをマイコレクションにしていくようなあそびをずっと続けたら楽しいんじゃないかって思います。

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コレクターになったあとの楽しみ方。
自分だけの分類にワークショップでチャレンジ!

今日はコレクターになった先の話をしたいと思います。いまから、小さな画像を1枚ずつ配ります。『モナ・リザ』も入っています。(中略)ざっくり言えば印象派前の絵ばかりです。「もしあなたにこれだけの絵がコレクションとして与えられたら、どういうふうに分類して、例えば、my美術館に飾りますか?」という、むずかしい話をしたいと思います。

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例えばこの5枚、これは印象派の絵です。この5枚をmy美術館に展示した人は、平凡です。美術史というのは、歴史でのちの人たちが整理したものです。世界の名画ばかり、これだけのコレクションが手に入ったとしたら、どういうふうに分類しましょうか。みなさんもちょっと分類してみてください。年代も画家のなまえもわからないものを分類するとしたら、まずはみんなどうするかっていうとほとんど連想ゲームですよね。「私の好きな赤色がいっぱい使ってある絵」とか「なんとなく女の人の足がかっこいい絵」とか、なんかそうやって分類していってくれたらうれしいです。ちょっとあそんでください。

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(お客さま:実践)

では、みなさんがどんなふうに分類したかを聞いてみたいと思います。青緑で分けた方がいますね。人物と風景に分けた方もたくさんいますね。時間のかかるあそびなので、みなさんお家に帰ってからも続けていただきたいと思います。なんでこんなことをやるのかとお思いになると思うのですが、答えは簡単なんです。こういうことをやるとみんな一所懸命絵を見るんです。この見るっていう行為はとっても大切なことなんですね。実際にこうしている時間こそが名画と親しんでいる時間なんですね。小さくて残念なんですが、こうやって親しんでいる時間はきっとみんな心のどこかでちょっとだけ楽しかったと思うんですね。今日選んだ絵は、本当に傑作と言われている絵ばかりなんですが、いい絵を見てると絵の方から語りかけてくれるんですね。語りかけてくれるのを聞きながら、これじゃない、あれじゃないってやってる間に実はいろいろなものを受け取っている、すごく恵まれた時間なんじゃないかなって思って、こういうことをやってみました。こうやっている間に、みんな気になる絵があったんじゃないでしょうか。それが、今日みんなが友だちになった絵です。気になった絵を聞いてみたいと思います。

(画像:オディロン・ルドン『花』)
この絵。この絵と友だちになれそうだと思った方いますか? ルドンの描いた「花」です。これ、パステル画なんですが、よさはこの熱を帯びたような色。なかなか出ないんですよ。怪しげな輝きをしている名もない花。

(画像:ドミニク・アングル『オダリスク』 )
じゃあ、この絵を選んだ人、いますか? アングル。どこが好きですか?

お客さま:
色味が好きです。

そのとおり。いいですね。アングルは、新古典主義の画家なんですが、このオリエンタルな色っていうのはアングルの特徴です。このターコイズブルーっていうのは東方趣味っていって、そのころ流行ったオリエンタルイズムっていう色として特徴のひとつです。ほかにもアングルの特徴として陶器のような肌とか、いいところがいっぱいあります。

(画像:ピーテル・ブリューゲル『雪中の狩人』)
ブリューゲル。どこが好き?

お客さま:
生活が描かれている、雄大な風景が好きです。

実はこの絵、拡大するとすごいんですよ。こんなに険しい山からのどかな……。オランダの風景ですね。こんなにきれいなんですね。それで、ここを見てもらいたいんですが、こどもに教えてもらったんですけど、ここらへんでカーリングしてるんですよ。こんな所誰も見てやしないと思うじゃないですか。オペラグラスとか持っていって見ると、どんなに細かく描いているかがよくわかるんですよ。1枚の絵の中に、いろいろな世界があるじゃないですか。この人、川を歩いてるってことは川が凍ってるんだなっていうことまでわかる、
1枚の絵の中にいろいろな世界。繊細な絵、傑作ですよね。

(画像:ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 『ウルビーノのヴィーナス』)
ティツィアーノです。

お客さま:
本来ならば隠したいぷっくりとしたお腹を堂々と出して、自由でいいなと思いました。

一節には、ルネッサンスの後のベネチア派の代表画家のティツアーノの作品です。実は一説には寝室に飾ってある枕絵だったという説があります。ちょっと色っぽい、あらわな感じです。

(画像:アンリ・ルソー 『眠るジプシー女』)
はい。これは? アンリ ルソーです。

お客さま:
青のグラデーションと人と動物のストーリーがこれからあるんじゃないかなという感じで好きです。

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本当に1枚の絵で物語ができそうですよね。ナイーブ派、素朴派の代表作家です。この画家がいなかったら、西洋絵画ってなんて窮屈だったんだろうっていうくらい、この人がいたお陰で、西洋名画がふっくらしたっていう作家です。

(画像:エドヴァルド・ムンク 『叫び』)
ご存知、ムンクの「叫び」。どこが好きですか?

お客さま:
キモカワイイところです。

実存の恐怖を訴えた絵が、「キモカワイイ」と言われるのかと思ったら、ムンクもびっくりだと思いますが、それでもこの絵の力ってすごい。「キモカワイイ」って私も思います。この辺の赤い色も強烈ですね。

(画像:サンドロ・ボッティチェリ 『ヴィーナスの誕生』)
ボッティチェリの『ビーナスの誕生』。この絵を選んだ人は?

お客さま:
開放感がある感じと、絵の中心に全部が向かっている感じはいいなと思いました。

その通りですよね。これはイタリアの名画中の名画。花の神さまや時の神さまがヴィーナスが生まれたのをお祝いしている絵です。

(画像:ジョルジュ・スーラ 『グランド・ジャット島の日曜の午後』)
この絵は?

お客さま:
1枚の絵の中にたくさんの人がいて、それぞれが凛とした表情で、それぞれの時間を楽しんでいる感じが好きです。

点描画のスーラ『グランド・ジャット島の日曜の午後』という絵。この絵は当時の風俗をよく表しているということで、日曜の午後にはこの場所にたくさんの人が集まって思い思いの姿をしているっていうことをスーラは描いたんです。これスーラは全部点描で描いていて、それまではパレットの中で絵の具を混ぜていたんですが、この点描というのは原色をそのまま点で置いていって離れて見ると目の中で色が混ざり合うっていう、そのときの色彩理論をスーラが徹底研究してこれを描いたんです。スーラって2年かかって点描でこの絵を描いてるんですね。31歳で亡くなったんですね。20歳から描き出して、11年の間の2年間でこの絵を描いたんです。っていうくらいすごい絵です。

(画像:ミケランジェロ・ブオナローティ 『リビアの巫女』)
ミケランジェロ。

お客さま:
色合いがきれいなのと、迫力があっていいなと思いました。

(画像:フィンセント・ファン・ゴッホ 『夜のカフェテラス』)
ゴッホ。いますね。

お客さま:
静けさの中にお店の明かりが希望が持てるというか……。音楽が聞こえてきそう。

なるほど。ゴッホの人生の中では、いちばんしあわせだったかもしれない時代の絵なのでそういう印象があるのかもしれないですね。ゴッホはこの絵を描いた2年後に自殺してしまうんですが……。一時期アルルに行って、しあわせ絶頂のころに、この絵を描きました。こんなにまぶしい夜を描いたヨーロッパ絵画は本当に少なくて、貴重な絵です。

(画像:グスタフ・クリムト 『接吻』)
最後、クリムトです。

お客さま:
愛にあふれている感じがします。

今日は、みなさんは1枚友だちを見つけてくださったと思います。その友だちを大事にしてこれからもひとつひとつ絵を見るときにコレクションしていってほしいと思います。今日、お持ちいただく絵には題名も作家名も書いていません。なので、もし気になる絵があったら、インターネットでも本屋さんでも図書館でも必ず見つかる有名な絵ばかりなので、友だちの背景を少しずつ知って友だち付き合いを始めていただければうれしいです。
なんでこんなことをやったかと言うと、さきほどお見せしたものに戻るんですが、私が作ったこの絵本『ゴッホの絵本 うずまきぐるぐる』(小学館)、おかげさまでたくさんのこどもたちに読んでもらってるんですけど、この本、あとで思うと「あっ、私、ゴッホの絵をうずまきがあるかないかで分類して、そこに注目して、この本をつくったんだ」ということに気がついたんですね。実は、この本をつくるきっかけは「こどもための名画の本をつくらないか」っていうお話があって、そのとき、最初に私がゴッホの絵を見たときのことを思い出していたんですね。

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いちばん最初に見たとき、この絵が強烈で、うずまきがぐるぐる回ってて、なんか気持ちが悪い絵で、怖くて夜も眠れなくなっちゃった思い出があるんですね。それで、トイレに行くのも怖くなって、妹を起こしてトイレに付いて行ってもらったりするくらい、夜になっても枕元でうずまきがぐるぐるぐるぐる回って、絵ってこんなに嫌なものかと嫌いだったんですね。ところが、怖いもの見たさで何回も見ているうちに「あれ? こんなところにもうずまきがある」って「ここにもある」って思っているうちに、気がついたら、すごく好きになってたんですね。それで、一気に、私の個人的な体験からこの絵本が生まれてんです。そういう見方は、美術史の先生から見たら違うかも知れないですが、本当にいい絵というのはたくさんの見方があります。逆に言うと、ひとつの見方しかできない絵っていうのは、痩せた絵なんですね。傑作っていう絵は驚くほどいろいろな見方を許してくれる、その豊かさこそが傑作の所以なんだなってことに気づいて、こういう本を出しました。こうやって絵って分類したり、組み合わせてみたり、比較してみたりすると、思わぬ発見があります。それをみなさんが自分の目で見つけてくれたら素晴らしいと思います。「名画とはどういうものか」。私は「名画はあそんでくれる」と言っているので、遊びで絵を描くことはステキだと思ってるんですけど、でも遊びっていうのは所詮手慰みなので、見てもらわなくてもいいんですね。ところが、世界に残ってきた絵というのは、誰かに見てもらいたいという力がものすごくあるんですね。もちろん、画家だって真剣です。見てもらう人がひとりでも多い方がいいわけですから。いい絵は、みんな絵の方が「私を見て、私を好きになって」と言いながら、私たちの目の前にあるってこと。つまり、本当にいい絵は見てもらうことを求めているんです。だから私たちは名画からのラブコールをいつも受けているんだと思って、1枚1枚の絵と接してもらえたら私たちが「あなたは嫌い」「あなたは好きよ」ということだってあるんだなってことがわかると思います。そういう私たち人類の血の中には、太古の昔から絵を描く人と絵を見る人がいました。そういうDNAが私たちの中にいまも脈々と流れているんだなと最近つくづく思います。

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結城 昌子さん流
いい絵、悪い絵の見分け方は……?

最後に、こどもたちからよく受ける質問をひとつ。「先生、いい絵と悪い絵ってどうやったらわかるんですか?」っていう質問がよくあります。その質問にはいつも悩まされてきました。でも逃げるわけにはいかないと思って、自分で一所懸命考えて、あるとき「はっ!」とわかったのを答えにしていつも言っています。まず「この絵好きかなー」って思った絵があったら、トイレに貼る。これがいちばん。1日何回もトイレに行くでしょ。それで、頭を空っぽにして、ぼーっとその絵を見る、それを1ヵ月くらい貼っておくんですね。そうすると、不思議なことに絵の方からどんどん話かけてくれます。で、何気なく見ていると「こんな所にこんなものが描いてある!」とか「この人は女の人じゃなくて、影を描きたいんだな」とか「こだわっているのは色なんだな」とか、絵がどんどん新しい情報をくれます。

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で、1ヵ月経っても飽きなかった絵は、必ず傑作です。例えばピカソでも、傑作は飽きないんですけど、1週間くらいで飽きちゃう絵もあるんですよ(笑)。いわゆる天才と言われている画家の作品の中にも駄作はあります。というのが、私がこどもたちに伝えたいい絵の見分け方です。これは別に泰西名画に関わらずそうです。写真でも、街でふっと見かけた無名の絵でも、気に入ったらぜひハガキでもちらしでもなんでもいいから、トイレに貼って1ヵ月、ぼーっと見てください。きっと違うことが体験できると思います。まずは、今日の自分の選んだ1枚の絵を目に着くところに貼っておいてください。きっとたくさん話しかけてくれると思います。

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<第2部>

お客さまとのQ&A

お客さま:
なぜ、最初にゴッホのぐるぐるの絵を選んだのですか?

結城さん:
さきほどお話したように私にとって、ゴッホの絵との出会いが原体験だったからです。結局、私はゴッホの絵と親しんでおとなになって、その後にゴッホが自殺してしまったとか、宣教師になろうと思ってキリスト教の仕事をしていたということを知ったんです。それはそれで感動したんですけど、でもやっぱり私にとっては、いつまでたってもぐるぐるのおじさんだったっていう印象が強かったので、そういう見方をしてみてもいいのかなと思ってやってみました。

お客さま:
複製画についてどう思われますか? また、絵をパソコンで見るのと、実際に見るのとでは違いますか? デジタル化が進み、ペーパーレスがうたわれるようになり、さらにインターネットの発達から現物を見ることはほぼなくなっていくと思います。もしも現物でしか体験できないことがあるのなら、絵の上辺の情報ばかりが伝わっていくのではないでしょうか?

結城さん:
それは、これからの私たちにとってすごく大事な話ですよね。結論から言います。私は、本物だからと言って見ることができなくなってしまうくらいなら、レプリカでもいいから見たい、というのが本音です。例えば、日本の国宝級の絵というのは、全部露出すると退色してしまうというので、ほとんど見せてくれないんですね。尾形光琳の「紅白梅図」なんかでも、梅の季節にしか見せない、狩野永徳の大徳寺の屏風絵に至っては、よっぽどのことがない限り誰にも見せない、みたいな……(笑)。それは、退色してお宝がなくなってしまうことへの恐れなんですが、そう言って見れなくなっちゃったらどうする? って思って……。狩野永徳っていうのは、信長の庇護元に狩野派をつくったそうなんですけど、信長が焼き討ちにあったときに、信長と一緒に焼けちゃったので残ってる絵がすごく少ないんですね。大徳寺に実にいい襖絵があるんですけど、開けると光が入っちゃって襖が退色しちゃってどうしようもないっていうんで、雨戸を閉めきってるんです。四季花鳥図でいい雰囲気で描かれているんですけど、それが誰にも見られなくなっちゃっているのは、もすごく残念だなって思って……。「本物はどこかに保存しておいて、レプリカでもいからそれと同じものをその場所にしつらえて、お見せできることには意味があるのかなあ」と住職さんが悩んでいらしたんですが、どう思います。やっぱり見れなくなっちゃうんだったら見たいじゃないですか。っていうのが私の結論です。
いつも思っているのは、画集で見るっていうのは、わりと意外と驚くほど感動を損なうことなく見ることができます。私としては複製でも、複製技術が発達した昨今なら、複製画もありなのかなって思ったりしています。
絵画っていうのは、美術館でも画集でも反射光で見ているんですね。でも、モニターを通すと、それは透過光になっちゃう。私個人は、モニター、ブラウン管はちょっとぺラッって言う感じが残念だなって思います。ただ実物を見たときにいいのは、筆の盛り上がりとか、ゴッホなんて特にそういうことがあるんですけど、色と色の間に、黄色を目立たせるためにちょっとだけ青があったりとか、そういうのって本物に中にある情報量っていうのはすごいものがあるので、それをもってして本物にはオーラがあるって言うんですけど、そういうもんかなって気はしています。でも、見ないよりは見た方がいいし、できれば反射光で見てもらいたいし、複製画には可能性があると思います。

お客さま:
どこに行けば名画に出会えます?

結城さん:
私はそんなに出かける機会がなかったので、画集から入りました。でも、どこからでもいいんじゃないんですか? 要はたくさん見ることだと思います。たくさん見ることによって、違いが見えてくるし、目が上がってくる。人生が必ず、ちょっぴり豊かになります。例えば、1日図書館に行って「今日は絵を探すぞday」をつくってもいいかも。でも、私はコレクションしてほしい。ノートに、自分の気に入った絵を一生かけてコレクションしてって……。私の友だちにいるんですよ、コレクションしている人が……。その人に絵を見せるじゃないですか。そうしたら「実は、これは僕の絵なんだ。でも僕が持ってると管理がむずかしいし、自分の家には絵を飾るスペースがないから、とりあえずいまはルーブル美術館に預けてあるんだ」とかね(笑)って。「だからときどきは見に行ってあげないとね」なんて言って、世界の美術館を訪ね歩いている友だちがいます。そうすると、ときどき会いに行けるじゃない、友だちに。そういう出会いをつくってください。

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お客さま:
お話しを伺って、ぜひこどもと絵を見に行きたいと思いました。7歳と4歳の息子にスムーズに美術館に連れていくアドバイスをお願いします。

結城さん:
本当にむずかしいですよね。まず企画展だと人が多くて、それがストレスだと思うんですね。私だったら、常設展に行きますね。実は印象派の巨匠のモネの『睡蓮』は、日本で公開している絵だけで50点以上があるんですね。意外と知られていないんです。例えば、私がおすすめの美術館は、ちょっと古いものが見たければ上野の西洋美術館の常設展、印象派前後のいい絵を見たければ東京駅前のブリヂストン美術館、あと箱根のポーラ美術館もそろっています。比較的すいているのが倉敷の大原美術館、広島のひろしま美術館あたり。そういうところにこどもたちを連れて行くのがいいんじゃないかって思います。

お客さま:
ミレーの『落ち穂拾い』を小さいときから何度も見ていたのですが、おとなになってからオルセー美術館に見に行って、がっかりしたんです。というのは、複製画の方が大きくて、本物が小さかったんですね。次回、また見に行きたいと思っているんですけれど、どんな気持ちで行けば、新たに楽しめるでしょうか。

結城さん:
『落ち穂拾い』をもう1回見に行ったときの楽しみ方。私もこの絵、好きなんです。ミレーはバルビゾン派の画家なんですけど、自ら畑を耕したその手でこの絵を描いたっていうのは感動的なんですけど……。この絵、不思議なんです。これね、光源がふたつあるんですよ。こっち側に光が当たってるんですよ。だから、太陽はこっち側にある、にも関わらず影はこっちにある……。それがまずひとつおもしろいところ。そして、落ち穂拾いってどういうことかご存知ですか? お金持ちの人たちが、全部刈り取っちゃったときに貧しい人へのほどこしのために少しだけ落ち穂をわざと残してあるんですね。その落ち穂を貧しい人たちは拾って、ほどこしを受けるっていう話なんです。すごく意味が深いですよね。この絵の後ろの方なんですけど、その辺がお金持ちの人が刈り取っているというところに光が当たっているんですね。それで手前の人たちっていうのは、光の当たっていない世界の中で落ち穂を拾っているという、そういうのをこの光だけで見て来ると実に楽しい絵なんですよ。全体のイメージでがっかりなさってしまったのであれば、ディテールを見てはどうでしょうか? また違った楽しさがあると思います。

フェリシモ:
最後に、アートを楽しむことについてメッセージをお願いします。

結城さん:
名画を鑑賞するっていうのは、入りやすいんです。何か道具がいるわけじゃないし、ちょっとの時間でポンッて違う世界に連れて行ってくれる。1冊の画集はどこでもドアみたいなもんだよって言ってるんですけど、ちょっといやなことがあったら1冊画集を持ってきて、ほんの5分でいいから見ているとぐっとおもしろくなってきて、気がつくといやなことを忘れてるっていうことが実体験としてあります。だから、いやなことがありそうなときは、1冊お気に入りの画集を手元に置いて、帰ってきたらコーヒーでも淹れて、画集を見ながら過ごしましょう。そうやって仲よくなってくれたらうれしいなと思います。

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Profile

結城 昌子(ゆうき まさこ)さん<アートディレクター・エッセイスト>

結城 昌子(ゆうき まさこ)さん
<アートディレクター・エッセイスト>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
武蔵野美術大学卒業。アートディレクター、エッセイスト。世界各地の美術館や名画にまつわる土地を訪ね歩きながら、名画との楽しいコミュニケーションを提案する書籍を多数、企画執筆。朝日小学生新聞では「遊んでアーティスト」という人気コーナーを趣向を変えながら15年続けている。おもな著書に『ゴッホの絵本・うずまきぐるぐる』にはじまる子どものための名画の絵本『小学館あーとぶっくシリーズ・全13巻』、『ひらめき美術館・全3館』や名画の秘密を原寸大画面で楽しむ『原寸美術館・画家の手もとに迫る』などがある。小学館児童出版文化賞、サンケイ児童出版文化賞フジテレビ賞受賞。花王メリット、日本香堂など各種絵画コンクールの審査員もつとめている。2010年 青少年文化の発展に貢献した人に贈られる「第50回久留島武彦文化賞」を受賞。

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