神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

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「人をしあわせにするためにできること~神戸への贈りもの」



<第1部>

最初に会社のことをお話します。
放送作家のほかに、
ひょんなことから、バーやビストロも経営しています。

まず、僕の会社のことをお話したいと思います。僕は、28年前、18歳のときから、ラジオとかテレビの番組の現場に携わり、ずっと放送作家という仕事をやってきました。8年ぐらい前から、だんだん放送作家以外の仕事が来るようになってきました。それも本当に偶然舞い込んで来ることが多いんです。
例えば、さきほど「バーを経営」とご紹介いただきましたけれど、それは僕がやりたくてやったのではないんですね。実は、僕がよく行っているバーがあったんですね。そこが東京の都心からちょっと離れた、車でないと行けないような所にあったんです。そのバーが、飲酒運転の取り締まりがきびしくなったころから、経営が傾き始めて……。「その場所ではやっていられない、都心に来きたい。なんかどっかいい所ないですかね」ってバーのオーナーが僕に相談に来たので「もしうちの事務所の近くに来たら、毎日僕がそこに通って売り上げに貢献しますよ」と言ったんです。そしたら彼が「そしたら探します」って……。2ヵ月後ぐらいに「見つけました。小山さんの会社の近くなんで、いつでも来れますよ」って。見に行ったら、ラブホテルの真ん前にある、うどん屋の居抜きみたいな所だったので「ここはやめた方がいいですよ。僕が不動産屋に聞いてみますよ」っていうことになりました。それで、不動産屋さんに聞いたら「自動車修理工場が潰れたんですけど、そこはどうですかね」と。見に行ったら、東京タワーの真下、見上げると東京タワーがバーンと見える場所で、もう「これだ!」っとピンと来て、そのバーのオーナーに「すごいいい物件見つけました」と連絡したんです。そこが家賃30万円だったんです。そしたらバーのオーナーが「10万までしか払えない」と。「でも絶対これはやった方がいいですよ。お金貸してあげるから」って言ったら「お金がちょっと……。小山さん、オーナーやってくれませんか」と言われ、それでオーナーをやることになりました。自動車修理工場の跡地ですから、ガラガラガラってシャッターを開けるんですね。そうするとストーンと抜けてる空間で……。すごくいいバーです。僕はそこが東京タワーの下にあるんで、「タワーの下」で『タワシタ』って名前を付けたかったんです。で、やっぱりこういうのは看板のデザインが大切だから誰かいい人に頼もうと思いまして、長友 啓典さんにお願いしました。「今度『タワシタ』っていうバーをつくりますんで、ロゴを書いてください」ってお願いしたら「ええよ」って……。でも、「『タワシタ』はよくないなぁ。ロゴがつくりにくいなぁ。『Z(ゼット)』で始まる店がええなぁ。『ゾロ』にしようか。よし『ゾロ』だ」とか言われて……。
で、『ゾロ』を開いたんですね。まったくメディアに出してないんですけど、クチコミだけでいろいろなおもしろい人が来ています。バーというより、文化の集まる拠点みたいなサロンですね。
(中略)

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その後、今度(ゾロの)ビルの上階が空いたんです。で、大家さんが来て「なんかやってくれませんか」って……。そこに、友人が「ビストロをやりたいんだ」という話を持ってきたんです。で、また「お金が足りないんで、小山さん一緒にやりませんか」って言われて「あぁ、やります。店の名前は『タワシタ』で……」と。

(会場:笑)

で、また長友さんのところへ行きまして。「長友さん、今度『ゾロ』の2階にビストロをつくることになりました。看板をまたお願いできませんか」と頼んだところ「ええよ。名前は?」って言われたんで「『タワシタ』です」

(会場:笑)

って言ったら「『A(エー)』で始まるのがええなぁ」って言われちゃいまして。「いや、今回はもう、『タワシタ』以外はもう受けつけません」と言って『タワシタ』をつくりました。店は完全に紹介制なんですけど、今日のみなさんに限りご案内いたしますので、行きたい方は、僕のところに来てください。こっそり電話番号をお教えします。
ちなみに『ゾロ』も『タワシタ』も、始まって5、6年経ちますけれど、最初のお金は出したものの、まだ一銭ももらったことがないんです。行ったときにワインの持ち込み代はタダにしてもらえるっていう特典がありまして。でも売上げがどんなにあっても僕に配当が回ってくることもなく、もう趣味としてやっているのに近いんですけれども。

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人は知らず知らずのうちに
最良の人生を選択しながら生きている。
自分が選んだものがきっと
最後にいちばんいいゴール。

という感じで、僕の人生は本当に行き当たりばったり人生。目先のものをどうクリアしていくか、あるいは目先にある分岐点をどこがいちばんいいかを選びながら生きてきているという、そういう感じがあります。僕の親父は僕以上に楽天家なのですが、そんな親父に言われたのは「人は知らず知らずのうちに最良の人生を選択しながら生きている」ということ。人生というのは常に枝分かれ、いろいろな瞬間に枝分かれていろいろな人生が流れて行くけれども、自分が選んだものがきっと最後にいちばんいいゴールにたどり着くようになっている。例えば目の前では失敗しても、あるいは目の前では「大変なことになったな」と思っても、振り返ったときに「そこでああだったからいまがあるんだな」とか「もしあそこで成功していたら、いまもうこの世にいないんじゃないか」とか、いつもそういうことを考えていると、目の前の失敗であるとか、何か不幸に出会ったときも積極的な思いでそれを捉えながら生きてきました。

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大学4年のときに交通事故に遭ったんです。友人が買ったばかりの車を借りて走ってたら、正面衝突、車がペチャンコになったんです。僕はケガをしなくて、信号無視をして飛び出してきた相手の人がケガをしました。そのときに僕は「よかった。もしここで、この人が僕の前に現れて僕を遮らなかったら、僕はこの先誰かを轢いていたかもしれない。きっとここでぶつかることが最良だったんだ」と思ったらすごく楽になりまして……。で、車を貸してくれた友だちに電話して、すごくウキウキと「ぶつかったんだよね。車もペチャンコになってるんだけど」って言ったらえらく怒られました(苦笑)。

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「オレンジ・アンド・パートナーズ」の社訓は
「SURPRISE&HAPPINESS」
最初のサプライズは受付がパン屋さん!

本業は、放送作家の仕事と脚本家という書く仕事。そして、7、8年前、仕事の幅が広がってきたとき、世の中をハッピーにするための会社をつくろうということになりました。会社は「オレンジ・アンド・パートナーズ」という名前です。そして「SURPRISE&HAPPINESS」というのがうちの会社の社訓。うちの会社は仕事を受けるときは「その仕事は新しいかどうか」、「その仕事は自分たちにとって楽しいかどうか」、「その仕事は誰をしあわせにするのか」、その3つを考えた上でやろう、これにそぐわないのはやめよう、すごく儲かる話であってもやめよう、というように考えています。
従業員は20人くらい、本当に小さな会社です。うちの会社を説明すると「変わってるね」と言われるのが受付。僕にはひとつの夢がありました。それは何かといいますと「会社をつくったら、受付を持ちたい。受付嬢を置きたい」ということ。

(会場:笑)

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最近、どこもコストカット。会社に行っても、受付に電話が1台と内線番号を書いた紙があるだけ。すごく合理的なんですけど、なんかワクワクしない……。だから、うちにはお客さんがワクワクできるような受付を置きたい。できれば美人がうれしい。ただ人件費が高い。

(会場:笑)

受付をどうしたらいいか。そこで考えたのはこういう受付なんです。

(映像:パン屋に女性店員が立つ画像)
パン屋にしました。彼女は受付採用で入ってきたんですけど、入社したら「店長」と呼ばれていました。

(会場:笑)

「オレンジの売店」という名前のパン屋さんです。僕が好きな東京駅の前にある「みんなのぱんや」さんから仕入れをして、焼きたてが毎朝9時に届けられ、販売しています。お客さまが「小山さんと打ち合わせに来たんです」と言うと、横のカウンターをパッと上に開けまして、

(映像:パン屋のショーウインドーの奥に扉がある)
奥にある扉が開くんですね。この奥がオフィスになっています。

(会場:笑)

何がしたかったかというと、受付嬢の給料は、パンの売上げの利益。社員の彼女が自分でパンを売って給料を賄う、これがひとつ。それと、いつでも社員割引でパンが買える。これはすごくしあわせなこと。しかも自分の好きなお店から仕入れているパンですから。で、コーヒーも社販で120円とかで飲めるんですね。うちの会社周辺が飲食店が少なくてランチ難民がすごく多かったんです。このパン屋さんをつくったときに、まわりの会社の人にすごく喜ばれました。ここにもし、普通の会社をつくっても誰も喜ばなかったでしょうしが、パン屋さんをつくったことによってまわりの会社の人をちょっとしあわせにできたようです。

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そして、これはやってみてわかったんですけど、我々はいろいろなアイデアを考えたりプランニングをここでしているんですが、普通だったら外の人との接点ってまったくないんですけど、パン屋さんにお客さまが出入りしていることによって、外の雰囲気と言うか、世間の感覚がわかるんです。例えば「暑いときは、パンというのは意外と売れないんだな」とか「給料日が近くなると売上げが落ちるな」とか、そういうのがわかるんですね。あともうひとつは、うちのオフィスをお仕事のお客さまが訪ねてきたとき「どうぞ」と言って、さも隠れ家に入っていくかのような……。本棚の開けると裏が秘密基地になっているような、そういう、やや特別感を持って入っていただけるワクワク感、サプライズ感をつくり出すことができる。そういうことで、こういうのをつくりました。
ただ、デメリットもあるんです。たまに関係のない人がオフィスに入ってきてしまう。イートインコーナーが奥にあると思って、パンを買いに来たお客さまが入ってきて、オフィスで食べてたりするんです。1年半ほど前、経済評論家の勝間 和代さんがオフィスでパンを食べていまして……。みんなは僕のお客さまだろうと思っていたらしいんです。で、僕は誰かが勝間さんを呼んだんだと思ってたんです。それで、おかしいなってなって、聞いたら誰も「知らない」と言うんです。思い切って勝間さんに尋ねたら「イートインコーナーだと思って食べていた」と……。そういうこともありました。

(会場:笑)

たまに関係のない人が社内に入ってくるというセキュリティの甘さというか、そういうことはありますけど、まあ、そういうおもしろい会社です。

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会議より、仕事より
大切なのはサプライズ!?

うちでは、2週間に1回「オレンジサロン」というのをやっていまして、社員が集まって雑談をしています。これを「会議」と名づけてしまうと、みんいろいろな案件を考えたりとかそういうふうなるんで、そうではなく、毎回お茶会のように亭主を決め、亭主になった人は予算5000円を与えられ、その5000円を持って、サロンを楽しくするための物を買ったり準備したりしなくてはならないんです。例えばうちのある独身男は、豚汁をつくって、ご飯炊いて、豚汁とおにぎりで社員をもてなし、食べながらみんなで毎回あるひとつのテーマを話し合ったり雑談しあったり……。そういうことをしています。
(中略)
もうひとつうちの会社で必ずやるのは「サプライズ」。「誕生日サプライズ」を必ずお祝いするんです。ある社員の誕生日に、他の社員がグルになって、何かその人が喜ぶことをする。毎回サプライズ部長と言うのが任命されます。で、1人1000円以内の参加費で実行できるサプライズをする、みたいなそういうルールがあって……。これまで本当にいろいろなサプライズをやりました。結婚している主婦の社員がいると、内緒でだんなさんのところへ言って、だんなさんを酔っ払わせて、だんなさんから本音を聞き出し、最後に「愛してるよ」って言わせるビデオを撮るとか。あとは、実家が島根の社員の場合は、実家へ行って、彼の昔のこども部屋に入って、彼がどんな本を読んでいたかチェックをし、エッチな本を隠してないかを検査したり、いろいろなことをやって最後にお母さん手づくりの料理をいただいてビデオを撮って帰ってくるみたいな……。それを見せたときに、「それって僕が食べるべきなんじゃないですか」って言われて。

(会場:笑)

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そんなふうに常に社員同士でサプライズし合うんです。本人がいないときでないと、なかなかサプライズの打ち合わせできませんから、会議の合間、本人がいないときに「サプライズの話をしよう」って言ってたら、すごくまじめな社員が「それより大切な案件があるんです」とか言ったんです。そしたら、うちの副社長に「バカヤロー! お前、サプライズをなんだと思ってるんだ。自分がやってもらったときのあのしあわせな気持ちを忘れたのか?」って(笑)。普通に考えると、まじめな社員の方が正しいんですけど、うちの会社では、まずサプライズ第一。どうやってあいつを泣かすか、感動させるか、って言うのを考える。それが日々の仕事へのフィードバックに繋がっています。
「サプライズビデオ」をよくつくっているので、見ていただければと思います。去年いっぱいで辞めた僕のマネージャーみたいな社員がいました。その子は「ぱんこ」というあだ名。なんで「ぱんこ」かと言うと、入社面接のときに「君を入社させると僕にどんないいことがある?」って聞いたら、「私は将来パン屋さんになりたいんで、採用してもらったら毎日おいしいパンを焼きます」と言ったので、「よし!採用!」と言って採用したんですけど、最初につくってきたのが、全然おいしくないきんぴらごぼうパンというパンだったんです。

(会場:笑)

それで「もうパンはつくらなくていいから」となって、でも「ぱんこ」というあだ名だけは残りました。そのぱんこが出産のために退社するということになったので「ぱんこのためにサプライズしよう」と考えてビデオをつくりました。言うなら彼女が主人公のテレビ番組。『情熱大陸』っていう番組がありますよね。毎日放送の人に頼んで「僕の情熱大陸をつくりたい」と言うウソの出演交渉をし「じゃあ、とりあえず『情熱大陸』がどういう番組か見てもらうためにDVDを送りますんで」って送られてくる。そのDVDをみんなで「見てみようか」って見ると、自分が主人公の『情熱大陸』ができあがっている……。そういうサプライズです。

(映像)
~マネージャーのぱんこさんが主役の『情熱大陸』が流れる。CMもナレーションも情熱大陸と全く同じでかなり精巧なつくり。
<内容>
・ ぱんこさんのインタビュー。(本人はサプライズ用の映像だとは知らない)
・ 薫堂さんと他の社員の方々が、ぱんこさんのサプライズのために車で街の至るところのはんこ屋さんを周り、はんこ屋の看板の「は」の横に「○」を当てて「ぱんこ」にした写真を集めている映像。
・ 薫堂さんがアカデミー賞の受賞をアメリカの友人宅で待ち、受賞の電話がかかってきたときに抱き合って喜び合う映像。

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これをやって以来、うちの全社員ははんこ屋さんの看板を見かけるとすごくしあわせな気分になるんですよ。四つ葉のクローバーを見つけずとも、はんこ屋の看板を見つけるだけで「あった!」「ここにあった!」「ここを忘れていた!」「これはいい大きさだ!」とか、そういうふうに思えるようになりました。これは、本当に何でもない風景ですよね。誰もが見ている、同じように見ているけれど、ちょっとだけ視点を変えたり、ちょっとだけ見る眼鏡に違うコンセプトを持たせると日常がしあわせに見えてくる。あるいは日常の中に本当に四つ葉のクローバーを見つけることができる。これは、僕がいろいろなことをするときに参考になるというか、発想の仕方としていいなぁと思っていることです。
(中略)
何が楽しいかって、想像するのが楽しいんですよね。人をしあわせにするのはすごくむずかしいことですし、すぐに結果が出ることでもないので、この人がこれをやったらどんなふうに考えるだろうか、っていう想像をしています。自己満足かもしれませんけど、僕はそこから始めるだけでもいいと思うんです。

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池波 正太郎さんのエピソードに倣って
小さなしあわせ&喜びの連鎖を……

僕の好きな話に、作家池波 正太郎さんのエピソードがあります。池波さんはタクシーに乗るたびに必ず100円のチップを運転手さんに渡していたそうでうす。なぜかというと……。どんな運転手さんもチップをもらって不快になる人はいない。やっぱりうれしいですよね、しあわせな気分になる。自分が降りた後、その運転手さんは次のお客さんを乗せる。そのときチップをもらった余韻がまだ残っているから、次のお客さんを気分よく迎えられる。そうすると次のお客さんは「あ、なんか今日は気分のいい運転手さんのタクシーに乗ったな」と思って、気持ちよく車を降りて自分の外出先に行く。そうするとその人が気持ちよくなるんで、次の人と接して次の人もハッピーになる。小さなしあわせ、喜びが連鎖していくんです。
もしかしたら全然喜ばない人もいるかもしれないですし、すぐに途切れることもあるかもしれません。でも、僕はすごく素敵なことだと思うんです。池波さんの、そのエピソードを知ってから、僕もタクシーに乗ったら必ずチップをあげようと思いました。タクシーの運転手さんで、愛想の悪い人いますよね。そういう人のときこそ「この人を降りるまでに、ニッコリと『ありがとうございます』と言わせよう」って燃えるんです。そうするとその人に触れて不快な思いをする人が、次はしあわせな思いになれるかもしれない。ですから、そういう腹立つ人に会ったときに、喜びを感じるようなモチベーション、持っていると、すごく得するんじゃないかなって思います。
(中略)

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いま、山形市の東北芸術工科大学の企画構想学科の学科長を務めています。そこは日本で唯一の僕が話しているようなアイデアを教える学科です。毎年学生が50人ほど入学してくるんですけど、その学生たちに、全員の名前を書いた名刺を最初にプレゼントします。それは、1人100枚ずつ、1番から100番までナンバリングできるようになった名刺。それを学生たちに「4年間でこの100枚を配りなさい。4年で100枚ということは1年間で25枚。月に約2枚。自分の人生の分岐点で記憶に残るような人と出会ったら配りなさい。月に2枚ずつ配っていけば4年間で100人の人と関係を持つことができ、それが絶対自分のプラスになるからそういう暮らし方をして、そういう人と出会うようにがんばりなさい」と言って名刺を渡しました。みんなすごく喜んでくれて「俺、先生としてかっこいいなぁ。きっとみんな1番は小山先生に」って持ってくるのかなあと思ったら、5人くらいしか持って来なくて……(苦笑)。「きっと卒業のときに、100番を渡されて、泣きながら別れるのかなあ」とか想像してたら、5番ぐらいを持ってきた学生がいたり……(苦笑)
「4枚は誰に配ったんだよ」とか聞いたりすることもあるんですが。

(会場:笑)

でもその名刺を渡して、それぞれが配ってくれる。名刺もちょっとした使い方で違う価値をそこに持てるのではないかなと思います。

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薫堂さんのワークショップ
「いちばん身近な人に、手紙を書きましょう」

ワークショップをしたいと思うんですけど、どういうのやりましょうか。手紙を書くっていいなって思うんですよね。誰に書くかが問題なんですが……。いちばん近い人、ご主人だったり、普段絶対に出さない人、そういう人に改めて1行だけでもいいと思うんです。ひとことだけの手紙、言い方を変えると「紙ツイッター」。ツイッターでつぶやくように1行だけ書いてみましょう。
僕の友人で、酔っ払うと手紙を書くという癖のある人がいるんです。常に絵はがきと万年筆と住所録を持ち歩いていて、どこかでお酒を飲んで酔っ払うと絵はがきを書くんです。その人から手紙が届くとすごくワクワクします。見ると、意味不明のことが書いてあることもあるんです。「歳はとるものじゃない。捨てるものだ」とか「チャックは偉大なる発明だ。でも挟むと痛いんだ」とか書いてあって。「きっと酔ってトイレに行った帰りに書いたんだな」とかそういうのが想像できるんですけど……。
発表したい方がいたら勇気を持って手を挙げてください。「私はこの人にこんな手紙を書きました」って共有することでまたここにいる人たちがハッピーな気分になる。発表してくださった方には、僕の原稿用紙に何かを書いたものを差し上げます。

お客さま:
実は夫婦で連れ立ってやってきました。

小山さん:
じゃあ隣にいる奥さまに? せっかくですから前でやったらどうですかね。

(会場:拍手)

お客さま:
「独立してから迷惑をかけ、困惑させ、波風しか立ててないけれど、あなたがいるからがんばれます。ありがとう」

(会場:拍手)

小山さん:
素晴らしいですよね。じゃあ、奥さまから返した方がいいですね。

お客さま:
私からは「悔しい、うらやましい、腹が立つ。でもありがとう」

(会場:拍手)

小山さん:
じゃあ僕からこれを差し上げます。「夜が明ける前の闇がいちばん暗い」

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(会場:拍手)

小山さん:
これは感動的で次の方むずかしくなりましたね。

お客さま:
お母さんに。「私のテンションが上がる言葉。『今日の晩御飯焼きうどんやで』」

(会場:拍手)

小山さん:
じゃあ、「一食入魂」。

お客さま:
「ちっさい私だけど、おっきいパパの心の支えになれるように」。最近ガンになってしまった父に贈りたいです。

小山さん:
これがいいかな。「人生は簡単じゃない。だからおもしろい」

(会場:拍手)

小山さん:
(司会者の方に向かって)「ここで僕が……」とか言わないんですか?

フェリシモ:
一応書かせていただきました。「変な男にひっかかるな。お前は一生僕たちのものだ」。我が家で飼ってる犬に書かせていただきました。

小山さん:
犬に? これでみなさん(手を)挙げやすくなりましたね。

(会場:笑)

お客さま:
来年からこの会社で働かせてもらうんですけれど……。

小山さん:
いい会社に入りましたね。社長(に向けて)ですか? 誰に宛てた?

お客さま:
犬です。

(会場:笑)

小山さん:
大丈夫ですかね。みんな犬にしか書かないっていうのは会社としてどうなんですかね。

お客さま:
「ありがとう。もう15年ぐらい経つんかなぁ。自転車のカゴにスーパーの袋敷いて二人乗りしたな。公園に行ってはベンチで三角関係になってしもてごめんなさい。いろいろ聞いとったんやろ。でもそんなお前も90歳近いおじいちゃん、こらかも仲よくしよな。シュン」

小山さん:
はい。じゃあ「何でもない日がいちばん偉い」

お客さま:
「酔っ払ってかけてくるお父さんの電話嫌いじゃないよ」。お父さんがいつも酔っ払うたびに電話をかけてくるんですけど、ちょっと面倒くさいなとか思うんですけど、やさしくて大好きです。

小山さん:
素晴らしいです。じゃあこれ、「座辺師友」という僕の好きな言葉です。

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お客さま:
主人に。「○○(ご主人のお名前)に出会えてよかったね。明日はあなたの誕生日、はんこ屋を探して歩きましょう」

小山さん:
じゃあ「手を繋ぐように握手しようよ」を……。

お客さま:
就職が決まらず越年しそうな大学4年生の息子へ。「ラッキーだ。そんじょそこらの氷河期じゃない。超氷河期に出くわした。歴史に残るぞ。犬好きになるな。マンモス好きになれ」

小山さん:
素晴らしいですね。これぜひ息子さんに。「がんばらないけどあきらめない」

(会場:拍手)

せっかく書いたんで渡してくださいね。きっとびっくりすると思うんですよ。でももらったら、うれしいと思うんですよね。そしたら絶対おもしろいハプニングが起こるか、ちょっとしたハッピーが起こると思います。

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小山さんが
「人をしあわせにすることを」を
通していまいちばん実現したいこと

フェリシモ:
小山さんは人をしあわせにすることをとても大切にしておられると感じました。小山さんが、人をしあわせにすることを通して何か実現したいものがあれば教えていただけますか。

小山さん:
僕がいまいちばんやりたいのは、観光です。観光をコンセプトにして地域が元気になるような仕掛けをつくりたいと思っています。僕、熊本県出身なので、その縁もあり、熊本の観光のアドバイザーをしています。
観光というのは観光業の人にとっては大切だけど、でも本当に大切なのは人を呼ぶことよりも、自分たちがまずしあわせだと感じることの方が先じゃないかなと思います。観光というコンセプトが立ったときに、普通は「うちはこんなにいいとこがありますよ」って宣伝するじゃないですか。でも宣伝しながらあんまりそれを感じていなかったり、実際そうじゃないと思っている人が多いような気がします。だから、まず自分たちが本当に「いいな」と思うものを見つけることだと思います。

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神戸って「なんかかっこいいな」というイメージ。震災はありましたけど、でも震災があったからみなさんが手を繋げると言うか。ぎゅっと一致団結できているという感じもあります。やっぱり、ほかのところから見たときにその地のよさに気づくもの。旅に行ったら楽しいですよね。でも、それぞれの人は旅先に住んでいるわけで、立場が変わったらここもいい旅先、魅力的な地で……。でもそこに住んでいることによって全部が当たり前になっていて、よさが見えないってことがあると思うんです。僕はいろいろなところの観光キャンペーンを通して、その地その地に暮らしているよさを見つけさせたいなと思っています。そして、全国を巻き込んだキャンペーンをしたい、それが僕のいまいちばんの目標です。

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<第2部>

お客さまとのQ&A

お客さま:
お名前は本名ですか。素敵なお名前ですね。

小山さん:
はい、本名です。名前は親父がつけました。男の子が生まれたら、祖母と母の名前を取ろうと考えていたらしいんですね。祖母が「よしこ」、母が「たかこ」で、「よしたか」という名前をつけたかったらしいんです。で、いろいろ字を探して「薫堂」になりました。当時は戸籍にふりがなを振らなくてよかったらしくて「くんどう」と呼ぶ人もいるし「よしたか」と呼ぶ人もいて……。保育園に入るときに「どっちか決めてくれ」と保育園に言われて、親父に「『よしたか』と『くんどう』どっちにする?」って聞かれて、僕が「『くんどう』がいい」って言って、決まりました。

お客さま:
講演を聞かせていただいて、とてもしあわせな気分なんですが、この気持ちを一時的ではなく続けていく秘訣があれば教えてください。

小山さん:
努力しようとは思わない方がいいと思うんです。努力する、しない以前の、それを当たり前だと思うようなことがいいと思うんです。
ひとつコツをあげるとするなら、誰かひとりのためにやろうと考えることがいいんじゃないですかね。ひとりだけをハッピーにしようと思うことから始める。みんなにハッピーを与えなきゃとか思うとむずかしいと思うんです。
あと僕は「しあわせの閾値」というものがあると考えています。みなさんご存知ですか、閾値というのは、人間の感覚の感じるラインのことを言うらしいんです。例えばにおい。ニンニクラーメン食べてない人は、ニンニクラーメン食べた人が来ると「くさい」と思うじゃないですか。でもニンニクラーメン食べている人は、それがわからない。それは、嗅覚の閾値と言うのがあるとすると、ニンニクのにおいがバーンと来ると、上がるんです。より強烈なにおいをかがないとくさいと思わなくなる。閾値が上がるらしいんですよ。
それと同じで、僕はしあわせの閾値というものもあると信じています。僕はこどものころ、ゴーカート大好きだったんです。親父と一緒に遊園地に行ったときに、親父がものすごくつまらなさそうにゴーカートを運転していたんで「こんなに楽しい乗り物で、何でこんなにつまらなさそうな顔をするのか理解できない」っていうようなことをこどもながらに言ったんですよね。そしたらうちの親父は「お前、俺たちがここまでどうやって来たか知ってるか。車に乗ってきたんだぞ。ゴーカートよりも早い、好きなところを走れる車に乗ってここまで来たんだ」って言ったんです。そのときに「そっか、大人ってのは車に乗ってしまうからゴーカートがおもしろくないんだな」って思ったんですけど……。つまり仕事で乗る車も、ゴーカートに乗ってると思えば、閾値をこどもの時代まで下げれば、絶対楽しいはずなんですよね。「しあわせは探すものではなくて気づくものである」という言葉もありますけど、僕は閾値を下げることによって、身の回りにあるもの、しあわせに気づくこと、それが日々「しあわせだなあ」と思う秘訣かなあと思っています。

お客さま:
今日のお話のすべての発想の源っていうか、それがひとりの人から出てるとは思われないくらい幅の広い仕事と、内容のあることをされているように思います。そのあたりのことを少しお伺いさせていただけますか。

小山さん:
照れくさい言葉で言うと「思いやり」っていうのがひとつ。もっとわかりやすい言葉にすると「感情移入」。僕、妄想癖がすごいんですよ。本当にいろいろな妄想癖があります。特に物に感情移入することがあります。例えば、このおしぼりの気持ちになって考えるわけです。おしぼりがここにいて、僕が使わずに帰ったら彼はきっと「えっ。俺、おしぼりのためにここに来たのに1回も使われないまんま。俺の立場どうなんの?」ってなるかなと思うと使ってあげなきゃなとか……。そうやって日々感情移入をして、妄想するんです。そうするといろいろな発想が浮かんだり、幅の広い仕事ができるような気がします。
あとは、誰とどんな出会いをするかっていうのが人生においては大切。僕がいつも心がけていることは「神様にフェイントをかけよう」ということ。いつも神様が自分を見ていて「こいつはこういう動きをするだろうな」っていうときに、あえて別の動きをすることによって、新しい出会いがあり、それが違う人生に繋がって行くのかなと思っています。そういうことは、積極的にやっています。例えば、降りる必要のない駅で急に降りてみたり……。あと、僕の趣味は「迷子になること」。迷子になったときに「人生で、この道は二度と通らないな」と思うと、迷子になったことがすごくいとおしい。そう思った途端に、歩いていることに価値があるように思えるんですね。ですから、迷子になるのは、人生を楽しくしたりするおまじないみたい。自分の中に、感情移入パターンと、神様にフェイントをかけるパターン、そういうのをいくつか持っている、それが秘訣です。

フェリシモ:
ありがとうございました。最後に、本日は、講演をお聞きくださったお客さまから小山さんに、サプライズで贈りものをご用意いたしました。小山さんへのメッセージを1冊にまとめましたので、また読んでください。

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サンタクロースの衣装を着た神戸学校スタッフが、クリスマスソングで登場。小山さんに何層にも入れ子になったフェリシモのプリズムボックスに入ったお客さまからのメッセージアルバムを贈呈しました。

小山さん:
どうもありがとうございます。うれしいです、本当に。

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Profile

小山 薫堂(こやま くんどう)さん<放送作家・脚本家>

小山 薫堂(こやま くんどう)さん
<放送作家・脚本家>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
1964年熊本県生まれ。日本大学芸術学部放送学科在籍中より放送作家として活動、「11PM」にてデビュー。その後「カノッサの屈辱」「料理の鉄人」「東京ワンダーホテル」「ニューデザインパラダイス」など斬新な番組を数多く企画。2003年、「トリセツ」で国際エミー賞を受賞。テレビ番組の企画構成を手掛ける一方で、ライフスタイル誌のエッセイ連載や小説・絵本などの執筆、ラジオパーソナリティー、レストランプロデュース、日光金谷ホテル顧問、東北芸術工科大学デザイン工学部企画構想学科長など活動は多岐にわたる。初めての映画脚本『おくりびと』(2008年公開)で、第81回米アカデミー賞外国語部門賞、第60回読売文学賞戯曲・シナリオ部門賞などを受賞。国内外で高い評価を受けた。2007年より首都高速の事故を減らすプロジェクト「東京スマートドライバー」の発起人を務める。著書に小説『フィルム』(講談社)、絵本翻訳『まってる。』(千倉書房)、『もったいない主義』(幻冬舎新書)、『一食入魂』(ぴあ)、『恋する日本語』(幻冬舎文庫)、『人生食堂100軒』(プレジデント社)、『社会を動かす企画術』(中公新書クラレ)など多数。
2010年10月に日仏合作となる新作絵本『いのちのかぞえかた』(千倉書房)を発売。

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