神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

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「ワインは百薬の長」



<第1部>

まずはフランスのブルゴーニュ
サヴィニの世界へ……

みなさん、こんにちは。今日は私の住むブルゴーニュ、サヴィニ村のお話と、それから実際にワインを飲んでいただきながら新しい試飲の仕方をお試しいただきたいと思います。まずブルゴーニュの世界に飛び込んでいただくために、スライドをご覧いただきます。会場のみなさまの中でブルゴーニュにいらしたことがある方、手をあげてみてください。
(会場:挙手)
結構いらっしゃるんですね。そういった方たちも、まだご覧になられたことがないんじゃないかというワインをつくるシーンや畑の1年の様子を写真で見ていただきます。

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(スライド)
サヴィニの四季の様子をひとつずつ解説しながらご紹介しましょう。

(スライド)
こちらは今日のテーマになるタイトルです。「ワインは百薬の長」というのが、これはサヴィニのお城に入る門に、ローマ時代に掘られた宣伝文句です。
「LES VANS DE SAVIGNY SONT VINS NOURRISSANTS THEOLOGIQUESET MORBIFUG」
詳しい説明はまたのちほどいたします。

(スライド)
サヴィニ村の入り口です。入り口ぎりぎりまでぶどう畑が広がっています。

(スライド)
これがサヴィニの全景です。向こうにお城、教会が見えます。

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冬です。冬はこのように、1年活躍したぶどうの木の葉を落として、それを次の年に向けてこういうふうに剪定を行っています。

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剪定方法はこんな感じです。ざくっと切ってしまいます。

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剪定した枝を畑の中で、このようなドラム缶を半分に切ったようなものの中で燃やします。そして灰は畑に戻していきます。

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この十字架はドメーヌビーズ、うちの家の十字架で、畑に立っています。ここに主人の両親が安らかに眠っていらっしゃいます。

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これも、冬の風景です。ぶどう畑は針金で支えをしていますが、このように天気のいい冬の日はキラキラ輝いています。

(スライド)
剪定し終わったぶどうの木は丸裸。とても小さくなってしまいます。長い方、棒がぽんっと立っている方にだいたい6つくらい芽を残していて、小さい方の枝は2芽残します。この2芽の方が、次の年この長い方の棒になっていくシステムです。

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これは樹齢60歳以上の、長老級のぶどうの木の幹です。

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さきほどの十字架の春の様子です。

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ぶどう畑の中にこのような小さな小屋があります。昔はこの中に農具を納めたり、雹、雷、雨が来た時の避難するような役割も持ち合わせた小屋です。畑の中にポツポツ立っています。カボットと言います。ブルゴーニュのワイン畑の風景の一部です。

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春になりました。さきほど、立っていた枝が寝かされて1列にきれいに並んで行きます。そして畑はこのように草が緑のじゅうたんになります。

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ぶどうの木は冬の間休んでいるのですが、春になると樹液が動き始めて、このように涙を流すようなシーンがあります。この樹液は目薬にもなるくらい目によいと言われています。

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ぶどうの花です。この状態になるのが、だいたい5月末から6月頭。ぶどうの房の形をしています。

(スライド)
ブルゴーニュ名物のかたつむり。

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ぶどうの木は枝が伸びてくると、ツタとツタが絡んでいくという習性があります。私的には愛らしいと思っています。

(スライド)
ぶどう畑の中には、たんぽぽだとか本当にいろいろな草が生えます。毎年、生えてくる草が畑によって違ってきたりします。私は村に住んで14、15年になりますが、毎年生えてくる草が違うというのは、やはり、その年の違い、ヴィンテージというのが、個性で出てきますけれども草もそれを表現してくれるんだなと感じさせられます。

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夏の風景です。
この雲、おもしろいなと思って撮りました。ぶどうの木の畑と同じように整然と並んでいて、なんか一体化しているなと思いました。

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これがピノノワールです。熟してきていていい感じです。2011年のピノノワールです。大粒のものがあったり小粒のものがあったり、いろいろな表情が感じられます。

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こちらは白ワイン用のシャルドネです。これも、かなり熟している状態です。透明感が出てきています。

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こちらは私の住んでいるサヴィニの村の教会です。とてもきれいな教会です。

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このようにぶどうの木は、背丈の低い状態で整然と並んでいます。奥に見えるのがコルトンの丘と言って、グランクリュの素晴らしいワインのできる畑です。

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収穫に入りました。このようにいろいろな方たちが摘みに来てくれます。

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彼も毎年手伝いに来てくれるひとりです。

(スライド)
今年はむずかしい年ではないかと言われていましたが、比較的きれいなぶどうが収穫できてよかったです。

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むずかしそうな顔をしている主人 パトリックです。

(スライド)
収穫の時のランチです。いつもはここでテイスティングをしているのですが、机を並べて30人くらい集まって食事をします。

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食事中です。

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これは日曜日のメニューでした。これはイノシシのテリーヌ。

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こちらはメインのジャンボン・ア・ラ・クレーム。ハムのトマトソースです。人気メニューのひとつです。

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蔵の様子です。

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選果しています。傷んでいるぶどうだとか未熟果実、葉っぱや余分なものを取り除きます。
日本人がふたりいます。フランス人ばかりだと口ばかり動いて手が動かないので、なるべく日本人の方に手伝ってもらっています。

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これが今発酵中の赤ワインです。このようにぶくぶく泡が出てきています。うちのつくりはゼンコウのつくりと言って、粒だけでなく房全体を使っての赤ワインづくりです。

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毎日温度と比重を取って、発酵がどのように進んでいくのかチェックしているところです。

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ピジャージュという作業です。「今でも足で踏んでいるの?」なんてよく言われますが、機械のように故障もなく正確に働いてくれるので、人に限ります。
パンツ一丁でがんばってくれています。発酵が上がってくると温度が上がって30度くらいになるので温かいんですが、発酵はじめくらいは寒くって、ベテラン組はやりたがらないので、最初は若手に任せます。

(スライド)
整然としている蔵の様子。

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仕事が終わりになると、このように和気あいあいと飲みが始まります。毎日ですね。キッチン隊の方でも、もうみんな……。すでに何本か空いていますけど、このような状態が毎日続きます。

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畑にいる時は、シビアな顔をしていますが、1日が終わるとこのようににっこりしてくれるようになりました。

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発酵が終わると今度はしぼりに入ります。まずこのようにフリーラン・ジュースを引き出します。ジュースが全部出終わったら中にある皮、種を出してプレスの機械に入れます。

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全部手作業です。
きれいになるまでやります。

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収穫が終わりました。打ち上げです。ちょっとふざけてますけれど、こんな感じにみんな楽しく仮装したり、賑やかに過ごします。

(スライド)
今年は収穫が夏休みの期間だったこともあって、学生さんがたくさん来てくれました。
うちの息子もカゴを背負ってがんばって収穫してくれました。

(スライド)
打ち上げのシーンです。

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そして、摘んでしぼり終わったワインは地下セラーに行って、小樽に納めます。ここに納めるとひと安心です。約1年間はゆっくりゆっくり熟成させていきます。

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このように蔵に整然と樽は並んでいます。

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秋になりました。「黄金の丘」と言われるだけあってこのように全体が黄色く、そして赤くなり始めます。

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摘み残されたぶどうです。このぶどうも土に帰っていくんですね。鳥の餌になることもありますが……。循環ということを感じることのできるワンシーンです。

(スライド)
で、今日のテーマであるこちらですが、まず「LES VANS DE SAGNY」サヴィニのワインは、「VINS NOURRISSANTS」
栄養満点。
私を見ていただければ分かるかと思いますが……。
「THEOLOGIQUESET」
そして、テロジックというのは、辞書でみると「神様の学問」というふうに書いてあるんですけれども、いわゆる「スピリチュアルな」とか「パワーワイン」とか、そういうような意味合いです。
そして「MORBIFUG」
ヒュージュというのもむずかしいのですが、死を寄せつけない、そんなワインであると書かれています。これを日本語でなんと言うのかなと思って……。そう言えば「酒は百薬の長」ってあるじゃないかと……。だから「ワインは百薬の長」ということで今回のテーマにしました。

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ブルゴーニュのワイン、ドメーヌのお話

ボーヌという、ワインのメッカというんでしょうかね、ブルゴーニュワインの中心の街にオスピスドゥボーヌという病院がありました。今は郊外に移転しているのですが、1970年代まで街の中心にありました。現在は博物館となっていますけれど、昔は村に住んでいるおじいちゃん、おばあちゃんがその病院に行っていました。調子が悪くなると病院に行って処方箋を書いてもらうんだけど、その処方箋に「ビスケット3枚とワイン、毎日摂るように」と書いてあったと……。そういうふうにして栄養をつけなさいということだったそうです。そして、オスピスドゥボーヌで私が出産した時も、キリスト教の祭日にワインが出ました。「あら?飲んでいいの?」という……。赤ちゃんにお乳あげている妊婦さんにも「どうぞどうぞ」という感じで……。すごくブルゴーニュらしい病院だなって思って、そこでまた産もうって思いましたね(笑)。ワインというのが、もともとは栄養豊かな飲み物だったんだろうと思います。
次に、この「テオロジック」。スプリチュアルな飲み物ということなんですが、みなさんご存知のように教会でミサをあげている時にもワインが……。キリストが「パンは私の体である、ワインは私の血である」ということで、やはり何かあるんでしょうね。
そして「MORBIFUG」=「死を寄せつけない」、これはぐっと来ますよね。確かに村の生産者、おじいちゃん、おばあちゃんはとても元気で大いに笑い、大いの食べ、飲んでという感じです。確かに飲み過ぎはよくないんでしょうけど、ある程度飲んで、よく笑って、朗らかになって……というのは、きっと体にいいんだと思います。

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フェリシモ:
ツタがワインの習性として伸びるというお話がありましたが、そのツタは切ってしまわれるそうですね。

ビーズさん:
ブドウの木というのは、さきほど写真でお見せしたように、もともとの習性で放っておくとどんどんツルが伸びていきます。ここに行きたいな……というところにツルが伸びて行きます。でも、ツルを野放しにしておくといい実がつかないんですね。ですから、私たちは、ツルを切ってぶどうにストレスを与えます。すると、ぶどうは「自分はもっとこういうふうになりたいんだ。みんなとコミュニケーションとりたいんだ」と思うんです。そして、ツルを伸ばすことができないなら、果実に自分のしたいことを託そうとするんですね。その実がワインとなります。そのワインを飲んでるみなさんにコミニュケーションしたいなという気持ちをぶどうはボトルの中に込めるんです。ワインを飲む時はみんなで会話をしながら楽しく飲むと思うんですけど、そればぶどうが本来持つべきものをワインの中に託してるんだと思います。

フェリシモ:
畑にはたくさん薬草を生えているというお話を伺いました。ビーズさんは、薬草を見てその畑から語りを感じるとのことですが……。

ビーズさん:
畑に生えている草というのは、何らかのメッセージを与えてくれるんです。私は今生物力学という勉強会に参加しています。月の動きを見たりだとか、その月がどの星座のところにあってその時に、病気にならないように防御剤を巻いたりだとか、ハーブティー、煎じ薬、生薬を散布したりするんですが、そんなふうに生物力学の農法にいろいろなアプローチの方法があります。で、私が参加している勉強会のそのアプローチの方法というのは、草を見るということ。むずかしいことは考えないで、月カレンダーを参考にしながらするのですが、草を見ます。とにかく草をテイスティングしてみる、花の部分、葉っぱの部分、茎の部分、根っこの部分、味わってみて、その味わいによって、草の持つ効力、どんな役目を持っているのか、どんなメッセージを送ろうとしているのかということを自分の体で感じるということをやっています。今私たちはどうしても自分の中にある能力、本能の中にあるものを使わないでいる中で、その草を食べて、どの部分がどう反応したかとかを感じる、そういう勉強をしています。例えば根っこを食べて、なんとなくお腹が反応したかなと感じる。「あ、お腹の辺りが動いた」となると、それは消化に役立つ草であると……。胸の辺が動いたとなると、胸のあたりは外との交感を意味する部分、循環を意味する部位です。あるいは頭の部分が反応する時もあります。

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どんな草が生えているかを畑で見て、例えば胸が反応するような草が生えていたとすると、そこの畑は交感、循環の部分に問題があるんじゃないか、そこに手助けするような薬草が畑に生えているということになります。あと、ぶどう畑も病気になることがあります。本来ならば秋に葉が黄色にならないといけないのに真っ赤になってしまう畑があるんですね。何を意味しているかというと、私たちと一緒。私たちは首を絞められたら顔は赤くなりますよね。それは、いわゆる窒息しているような状態。それがぶどうの木に起きている。ですから刺激を与えてリンパの流れをよくしてあげる、そういったことをしてあげる必要があります。そういう時に生えている草というのは、刺激を与えるような草なんです。
ちょっとむずかしくなってしまいましたが、そういうものを見ながら、畑が訴えかけているものが草に表れてくる、そういうのを無理矢理農薬をまくのでなく、生薬やハーブティーをまく、そういうことを実践しています。

フェリシモ:
それをワインでも感じられるんですよね?

ビーズさん:
最終的にワインになった時に、非常にのびがあるスタイルになりますね。すごくしなやかで……。

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「シモーヌ・ビーズ」のワインについて

フェリシモ:
ブルゴーニュのワインについてたくさんお話いただきましたが、実際に「シモン・ビーズ」でつくられているワインについて教えてください。

ビーズさん:
サヴィニ デ ボーヌのワインというのは非常に栄養満点ですが、うちでつくるワインが何を目指しているのかというと、付け加えるのではなく、余分なところを削ぎ落として行くワインを目指しています。ワインによっては樽で熟成させて、リッチにしてタンニンも熟成期間を長くして更にふくらみを持たせて、というような醸造方法があるのですが、うちの場合はそうではなく、余分なものをなるべく付け加えないで、ぶどう本来のスタイルが出てくるようなつくる方を目指しています。
例えば「新樽の使用比率はどれくらいですか?」なんてよく聞かれます。白ワインに関しては20%くらい使っています。新樽というのは毎年毎年買わなければ古くなって使えなくなってしまうものもあるので、新樽を購入して、まず白に使います。赤に関しては新樽を使うことはありません。新樽を使わずにそのぶどう果実本来の味わいを味わっていただくということになります。フルボディが好きだという人はうちのワインの味は合わないかもしれません。そうじゃないもっとこう下から出てくるぶどうが本来持っている力強さをきっと感じてもらえると思います。

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主人がよく言うのは「僕の自慢は、何も賞状を持っていないことだ。僕が持っているのはせいぜい運転免許証くらいかな」と。「何を言ってるの?」って最初は思いましたが……。彼は、ずっと家業であるワインの勉強をしに行ったことがないんです。ワインの学校で学ぶことは何なのかと言うと、醸造方法、分析方法だとかそういったことを学ぶのですが、彼は何も知らない、そんなことはどうでもいいと……。いちばん大切なのは、本能でつくることなんだと……。すごいなと(笑)
ブルゴーニュのドメーヌというのは、畑をあちこちにぱらぱら持っているのですが、うちの強みは、ほとんどの畑がサヴィニ村の中にある、家から5キロ圏内に畑が全部あることです。来年還暦を迎える主人は、その土地で生まれ育っているので、畑のクセも知り尽くしているわけです。

フェリシモ:
日本にも輸出されていますか?

ビーズさん:
うちのワインは日本にもたくさん輸出しています。サヴィニ村では赤も白もいっぱいつくっています。赤の生産量の方が多いのですが、私が白ワイン好きなので白もつくっています。赤の生産者は力強い凝縮したワインをつくりがちなんですが、白の生産者はミネラル感とか酸味とか……。赤と白は、つくり方がまったく違うんですね、目指しているものも違います。赤と白、両方をつくっているお陰で、赤ワインをつくる時にも白の感覚を持ち合わせられるんです。赤ワインだけど、決してどっしり、がっちり重いワインではないです。白ワインのようなミネラル感だとか酸味を赤にも感じられるようなスタイルになっています。私が好きなワインというのが、縦のラインがきれいに出ているものです。背筋のいい、背骨のしっかり伸びたスタイルのワインを目指しながらつくっています。

フェリシモ:
2011年のワインはどんなワインになりそうですか?

ビーズさん:
2011年は非常にむずかしい年でした。まず春の訪れが早く、4月に夏が来たような感じ。さくらんぼの花もりんごの花も一緒に咲いちゃったというような年でした。ぶどうの花が咲くのは通常6月なのですが、今年は5月半ばに咲きました。開花すると約100日後には収穫が始まります。花が咲いた段階で、今年の収穫は8月半ばになるんだなという覚悟がありました。そして雨がまったく降らない乾燥した春でした。村に流れている川も干からびて……。夏はとても寒く、雨が多かったです。だからなかなかぶどうが熟していかない。で、熟し始めたなと思ったら、今度は雨が多くてぶどうがどんどん傷んでくるような状態。雹にも見舞われて、村によっては多く被ってしまったところもあります。うちの場合は8月後半になったら、天気がよくなって夏が戻ってきた状態になりました。「これならいける」ということでしばらく収穫をのばして……。その間ずっと天気がよくて恵まれたんですが、傷んだぶどうが乾燥して収穫する時にぽろぽろ落っこちてくれるんですね、それが本当に救いでしたね。太陽が出てくれたと同時に風も吹いてくれて。北風はブルゴーニュでは大切な風。冷たい風であると同時にぶどうの傷んだ部分をどんどん乾かしていってくれるんです。収穫の時はみんなTシャツ姿でがんばってくれて、結構いいブドウがとれて、結果オーライという感じです。当初は糖度もあまり上がっていないし、どうかな……という感じだったのですが、樽の中に納めて今数ヵ月経ちますが、だんだんいい感じになって来ているようです。

フェリシモ:
ぶどうの時にすごく手がかかった子ほど、いいワインになったりする、ということも伺いましたが……。

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ビーズさん:
手間がかかったワインというのは生産者にとって、本当にかわいいんですね。
ワインづくりっていうのは、よく子育てに例えられますが、大きな発酵層から出す時のシーンは、出産に似ているようにも思います。今年のように非常にむずかしい年というのは、とにかく手間ひまかけてていねいにていねいにつくりあげていくわけです。そういったワインが、どうやって育っていくのかなと心配になるんですね。で、1年経って、そういった年のワインができあがってびんに入るとそれはそれは心やさしい、ほっとするようなワインに仕上がっているんです。本当に不思議なものです。
逆にグレートイヤーのぶどうは、ワインになってびんに入ってから飲むと「あれ? あんなにおいしかったのにどうしちゃったのかな?」というような感じを受けることが多々あります。
できの悪かった子は、大切に大切に心配され、手間ひまかけられるので、非常に素直ないい子に育つ印象です。もうすべて絶好調でグレートイヤーだと言われているようなヴィンテージには反抗期があるようです。でも、その反抗期も過ぎるとやはり素晴らしい姿が戻ってくる、そんなような感じでとてもおもしろいですね。

フェリシモ:
なんとなく人とワインって似ているのかなって思いました。フランスにはほかにもたくさんのワインの産地がありますが、ブルゴーニュのワインの特徴は?

ビーズさん:
ブルゴーニュワインの最大の魅力とは何だろう?と考えると、先祖代々続いてきたものを自分の子孫に受け渡そうという、繋がりが最大の魅力だと思います。

フェリシモ:
そもそも1年にどれくらいのワインをつくられますか?

ビーズさん:
平均すると約15万本の生産量になります。30%が白ワインで残りが赤ワインです。15種類のワインをつくっています。小さい畑では平均1000本くらいです。

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ビーズ 千砂さんがワイン醸造に携わることになったきっかけは?

フェリシモ:
千砂さんはもともと日本でキャリアウーマンとしてビジネスの世界で活躍されていました。そこからフランスに渡られてワインの醸造に関係するようになったきっかけを教えていただけますか?

ビーズさん:
フランスの銀行に就職して、2年間パリ本店で勤務していました。その時にワインとの出合いがあって……。最初に出合ったワインはボルドー。当時、「予算10000円でおいしいワインを飲ませてください」とお願いしたら、グレートイヤーである82年のワインを飲ませてくださったんです。そのワインを飲んだ時に、びりびりという感じがして……。とってもおいしかったんです。「もっと私の舌が広かったらいいのに」というくらい感動しました。こんなに素晴らしい飲み物がこの世の中にあるんだということで、いろいろワインを飲むようになって、パリの赴任が終わって、東京に戻りました。忙しい毎日を過ごしていたのですが、週に1日だけ会社にお願いして、定時に帰らせてもらい、その時間を利用して習い事を始めることにしました。いろいろ探していた中、ワインの試飲の学校を見つけたんです。そこで試飲するテクニックを学んでいったんです。テイスティングの仕方や表現を学んだんですが「ワインってむずかしいですよね」って通っているみんなが言うんですけど「そういうもんでもないでしょ」と私は思って……。とにかく、おいしいのかおいしくないのか、それがいちばん大切なのでは?と……。みんながおいしいワインと感じるワインは一緒ではないはずです。ワインを飲む時は心をオープンにして「私に合うワインはどれなのかしら?」「これだわ」と。もしそれを見つけたら、それをもとにして、前回コレを飲んだんですけど、これと似たようなタイプをくださいというふうに言うのがいいのかもしれないですね。
その学校に通いながら仕事を続けていて、ある日「フランスの農協なんですが、ワインもおわかりなるしフランス語もできるし、うちでカスタマーサービスをしてくださいませんか?」という話が来たんです。「いい話だな」と思って転職しました。そこで、ワインの生産者さんのアテンドをしたり通訳をしていました。今の主人であるパトリックもお客さまのひとりとしてやってきてご案内したんです。パトリックに「そんなにブルゴーニュワインが好きなら、収穫しにいらっしゃい」と誘われて「じゃあ」と収穫に行きました。そしたら私が収穫されたという(笑)。あとはトントン拍子、こどももすぐできて……。

フェリシモ:
今の生活は豊かですよね。

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ビーズさん:
ブルゴーニュの生活で、私がいちばん気に入っているのは広大な土地でまわりに自然があって、そういった中で生きられること。サヴィニ村ってあまり人がいないんです。人口1500人、静かで何もないんです。雑音が聞こえなくて、情報が氾濫していなくて、そういう中で生活していると、体の中から声が聞こえてくるようなことを感じます。こどもが小さい時は余裕もなかったですが、今は余裕が出て、自分の感覚が研ぎすまされていく感じで生活しているのがうれしいです。

フェリシモ:
たくさんのワインをつくられる中、マダムとしての役割は?

ビーズさん:
みんな「がんばれ、がんばれ」って言うチアリーダー的な役割ですね。従業員が5人いるのですが、その人たち、いちばん盛り上げないといけないのが主人、彼らを一所懸命盛り上げています。主人がいい気分でいると全体の雰囲気がよくなるので……。とにかく家庭がちゃんとしていると主人も安心して仕事ができるので、まずそれを努めています。ドメーヌの潤滑油として活躍しています。あとは、販売、経理など細かいこともしています。いちばん大切なのは全体の気分を盛り上げていくことでしょうか。

フェリシモ:
1年に1回収穫の時、マダムとしての大きな役割があると伺いましたが……。

ビーズさん:
収穫の時期は、毎年50人くらい集まります。50人のうちの3分の2の方が毎年来てくれるような方たち。毎年来てくれる人がいるというのは、ドメーヌの強みです。いかにそういった人たちを確保するか、となると、同じようにぶどうを収穫するならば、お昼ご飯がおいしいところに行きたいというのは人間の心理。収穫の時は努めて、おいしいごはんをつくるようにしています。暑い年は体が冷えるようなメニューを、寒い年は体が暖まる、力が出るような献立にしています。毎年手伝いに来てくれる友だちとメニュー会議をしながら準備をしています。

フェリシモ:
一度ぜひ収穫に伺ってみたいです。

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<第2部>

2007年、2008年、2009年に
同じドメーヌで収穫されたぶどうでつくられたワインをテイスティング

休憩の間に3つの赤ワインを試飲していただきました。2007年、2008年、2009年、この3つのヴィンテージは、すべて同じ畑から生まれたワインです。味わいの違い、感じていただけたと思います。
さて、どれがいちばん好みのワインでしたか? 心に響いたワインを教えてください。

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「2007年がよかったわ」と言う方?
(会場:挙手)
「私はは2008年だわ」という方?
(会場:挙手)
「絶対2009年よ!」という方?
(会場:挙手)

なんかいい感じに別れたみたいですね(笑)。という感じで、ワインというのは、決してこのヴィンテージがいいんだというのがないということはないっていうことをおわかりいただけたかと思います。
それぞれのヴィンテージはどんな年だったのかをご説明しますね。
いちばん若い2009年は、太陽の年。非常にぶどうが熟して実り豊かでなんの問題もなく心配もなくおいしいワインができました、という年でした。さっきちょっと飲んだので流暢にしゃべれるようになってきました(笑)。

(会場:笑)

専門家の間では、これはグレートイヤーだ。評価が5段階あったとしたら、5つ星になるヴィンテージです。ワインに詳しい方は、こういうワインを選びがちですが、果たしてそれが今飲んでおいしいかどうかと言うと、私個人のイメージでは、今飲むと私には強すぎるというのがあるんです。こういういい年と言うのは、非常にエネルギー値の高い年。
大地の恵みをいっぱい受け取ってすごいエネルギーのある年なので、やはりこういったヴィンテージというのは待って、エネルギーが荒々しく動いているのを落ち着くのを待ちたいなというのは私の感想です。ですが、今「2009年がおいしいわ」と言った方は、そういった「ダイナミックなエネルギーでもどんと来い! 私はダイナミックなのよ!」という若々しい方なんじゃないかなと思います。
それから、2008年のワイン。ブルゴーニュのヴィンテージで2006、2007、2008年は非常に手間がかかった年でした。一般的には温暖化だと言われていますが、ブルゴーニュでは温暖化なんてありえないというのが正直なところ。夏、本当に涼しいんでウよね。夏でもセーターがないと肌寒く感じるんです。この3つのヴィンテージはそういう年でした。2006~2008年までずっとむずかしいヴィンテージが続いていたので、2008年はちょっと慣れていたというのがあるんでしょうかね。2008年は比較的余裕で、手間のかかることに対応できたという年でした。収穫が10月にかかりました。非常に遅い時期での収穫です。この年の特徴は、うちのドメーヌが目指すところの縦のラインがきれいに出ているヴィンテージ。上昇力があって、光が射しているようなそんなイメージです。そういう表現の仕方もあるということをおわかりいただければと思います。

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2007年のワインは2011年と同じような感じの年でした。ですから、恐らく2011年のワインは2007年の同じようなキャラクターになるような気がします。通常なら白ワインを収穫してから赤ワインの収穫に移る、南から始まり、北で終わるんですが、2007年は、赤から始まり白をする、一斉に収穫が始まる、そのような感じで、経験則が通用しないヴィンテージで「いったいどうなってるんだ?」とみんなが慌てたヴィンテージでした。本当に腐っていたり、痛んでいたぶどうが多くてどんなふうになっちゃうんだ……というものでした。非常に頭を悩ませ、ていねいにていねいにつくりあげて、どうしよう、これでいいのか?と悩み悩み抜いて愛情を込めてつくった結果がああいうボトルに納まったワインでした。私にとって2007年のワインの特徴というのは、非常にいやし系のヴィンテージ。飲んでいて心が落ち着く、すーっと入っていくようなそんなワインです。

フェリシモ:
たくさんワインを飲むことはあっても、同じドメーヌのワインを3年連続飲むということはないので、ヴィンテージによってこんなにもキャラクターが違うということを今回実感できてよかったと思います。

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お客さまとのQ&A

お客さま:
私はお酒に弱い体質でおいしくワインを飲むことができないのですが、今回2007年の試飲をして初めて赤ワインでもこんなに軽やかで飲みやすいものがあるんだと感動しました。たくさんの量を飲むことのできない人でも飲みやすいワインやワインを料理に使うおすすめの方法があったら教えてください。

ビーズさん:
今までにお酒を苦手とされてきた方はいやし系のヴィンテージがおすすめです。非常に香りが出てきています。苦手とおっしゃる方はタンニンという成分が自分に襲いかかってくるのが苦手と感じてしまうんですね。でも、ワインにはやさしい包み込むようなワインがあることをおわかりいただけたかと思います。いやし系のヴィンテージというのは、ブルゴーニュでは、2000年、2004年、2007年がいやし系です。そこらへんを攻めていただくといいと思います。
料理に使うおすすめの方法は、例えば「このワイン、私の口に合わなかったわ」「これってもう傷んじゃってる?」というようなワインは、料理に使えます。おすすめは、残ったワインは鍋に入れて、コショウ、ハーブだとかと一緒に火にかけてアルコールをとばしておく。で、それを製氷機に入れて凍らしてワインキューブをつくっておくと、カレーをつくるときや煮込み料理をつくるときなどに、キューブを入れるとワイン風味の料理ができ、料理がおいしくなります。

お客さま:
千砂さんがフランスに渡っていちばんよかったと思うことは何ですか?

ビーズさん:
もちろん毎日ワインが飲めることです。おいしいものに囲まれている生活っていいですよね。フランスというより、田舎ですね。今住んでいるのはサビニーレボンヌという人口1500人くらいの小さな村です。びっくりしたのは、車を運転していて、普通運転していて対向車に誰が乗っているとか見ないですよね。だけど、村では運転しながら対向車とあいさつを交わすんですよ(笑)。それから、とにかく村じゅうみんなが知り合いみたいな、それは無機質な都会で生まれ育った中で、みんなファミリーみたいな、そんな生活は、たまに濃すぎる場合もありますが……(苦笑)。でも、そういう生活もいいですよね。

お客さま:
千砂さんのいちばん好きなワインは何ですか?

ビーズさん:
それはうちのワインです。飲み飽きないって言うんでしょうか。女房にするならこんな女みたいな……。決して、美人でもないし、グラマラスでもないけれど、一緒にいて飽きない、安心できるそんなワインがうちのワインです。そんなワインが好きですね。

お客さま:
休日はどのように過ごされていますか?

ビーズさん:
仕事場と家が一緒のところにあるので、家にいると仕事してしまうんですね。 外に出ないと仕事から離れられないという感じです。土曜日はこどものおけいことかの送り迎えとかをしています。日曜日は、主人も私も食べることが好きなので営業と称してレストランに行ったりだとか、私がロマネスク美術が好きなので、教会巡りをしてエネルギーチャージしています。

お客さま:
これからの夢はありますか?

ビーズさん:
日本に住むことです。日本にいると落ち着くので大好きなんですよね。それは、まあむずかしいので、なるべく帰ってこれる機会があるといいなと思いますが……。夢はこどもが成長して、こどもと一緒に夢をかなえていきたいですね。

フェリシモ:
お子さまにもドメーヌを継いでほしいと思っていますか?

ビーズさん:
農家だとそうなりますよね。これだけ、先祖代々続いている土地を手放すなんてできないですし、私がおいしいワインを飲み続けるためには息子につくってもらわなきゃ困るなという感じです(笑)。

フェリシモ:
醸造家としてのセンスはありそうでしょうか?

ビーズさん:
息子は土いじりが好きで、将来野菜をつくりたいって言っています。それって将来あるべき姿の畑かなという気がしないでもないです。と言うのは、今ブルゴーニュのぶどう畑の問題は、単一ぶどう品種で畑にはぶどうしかないんです。ぶどうの中でも、ピノノワールかシャルドネしかないという、それが特徴であるのだけれど、今後もしかしたら問題になるんじゃないかという気がします。例えば、ぶどうに病気が発生した場合、同じぶどうなので病気が蔓延してしまうんですね。非常に脆い状態にある畑なんです。昔は、どうだったかっていうと、畑の真ん中に桃の木があったり、さくらんぼの木があったり、何か違う木が植わっている畑だったんです。今は、ぶどうしかない。なので、息子が「野菜がつくりたい」と言ったとき、畝(うね)と畝の間で、枝豆だってつくれるかもしれない。ほかの植物を植えることで、お互いに病気にならずに助け合う、守り合う、そんな農法で実際にあります。それはぶどう畑でも可能なのかも知れない。実際にできたら素晴らしいと思います。

フェリシモ:
最後にみなさまにメッセージをお願いします。

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ビーズさん:
スライドでご覧いただきましたが、4月に芽が出て6月になると花が咲き、秋になると実って収穫をしします。そんな四季の流れがあります。そして冬が来て葉っぱが落ちて休みます。で、短く剪定をして、次の年、また春が来て、同じことを毎年毎年繰り返すんですね。何があっても芽は出て来るんです。おいしいワインをつくるためには冬の季節が実はいちばん大切です。もちろん収穫期の太陽も大切なんですが、冬の期間、畑を休ませてあげるのがとっても大切なんです。休んでいる時にぶどうの木というのは、土の中で春から秋にかけた期間のものを消化させて、それを翌年のエネルギーにしていくんですね。私たちの人生の中でも、「だめだ、どうしよう」と言っても必ずまた芽が出てきます。
そして、実は「だめだ、どうしよう」という時期がとても大切で、それを消化することによって、次の新しい年が芽生えてくるということを生活しているとわかるようになりました。みなさん、生活していく中で、いろいろあるかも知れません。でも、それを受け入れて消化してください。そうすると必ずまた芽ばえてきます。

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Profile

ビーズ 千砂(びーず ちさ)さん<「シモン・ビーズ」4代目マダム>

ビーズ 千砂(びーず ちさ)さん
<「シモン・ビーズ」4代目マダム>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
東京生まれ。大学卒業後、フランスの商業銀行にて証券業務を担当。転職先のフランスの農業系銀行ではカスタマーサービスを担当。そこで夫、パトリックと出会う。
97年にブルゴーニュのワイン村、サヴィニに赴き、翌年結婚。2人の子供を土地の子として育てつつ、ブ ルゴーニュの老舗ドメーヌ、シモン・ビーズのマダムとしてワイン農家を切盛りする毎日。
「ワインは単なる飲み物ではなく、歴史文化、自然と人との 関わりの賜物」と、ボトル外のワイン世界へ導いてくれる。

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