神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

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「ようこそ ようこそ はじまりのデザイン」



<第1部>

服部さん:
今日はよろしくお願いします。僕はさまざまなレクチャー、講演会をしていますが、来ていただいた方に何を持って帰ってもらおうかといつも考えています。おしゃべりがそんなに得意ではないのですが、僕が話す言葉の中の、ちらっとした言葉のキーワードを持って帰っていただいて改めて考える時間をつくっていただけたらなと思っています。考える時間って日常を過ごしていると、日常のスピードにアクセクしちゃうから、なかなか改めてつくるのがすごくむずかしいと思うんです。考える時間というのを決めた瞬間に日常とは違う時間がやってくるわけですよ。そこから日常を新しく更新していくために、「あれってこうやったよね」ということを考えると次の瞬間、新しい日常がやってくるというようなもんやと思うんですね。日常と非日常をデザインやアートをやっている時によく考えるんですけど、日常と非日常ってみなさん考えたりしますか?

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日常っていう時間って、勝手に流れて行くことが多いと思うんですよ。じゃ、非日常って? 日常って勝手に過ぎていくから気づかないけど、単なる時間でしかないんですが、非日常をぽこっと入れた瞬間に、新しい日常が更新されていくっていうのが本当の日常だと思うんですね。そうは言いつつもみんな非日常をチョイスしてる時っていうのがあるはずで、例えば「明日デートだからこんな服を着てみよう」とかいうのを選択するという時間も実は非日常の時間だと思うんですね。例えば映画を見るっていうのも非日常の時間だったり。日常の更新をよりよく、豊かに持つと言うのは多分非日常を緩やかに差し込みながら、生活をしていくってことだと思うんですよね。
よく例えて言うのは、背中を丸めた男の子が映画を観に行きました。その映画を観た時に、その中のヒーローが勇気を与えてくれて、丸めていた背中の、背筋が伸びて肩で風を切るような……。その映画の役割って、非日常をぱんっと用意された瞬間に、背中を丸めて見ていた暗い世界が映画を観た瞬間明るく見えてくるという、同じ世界のはずなのに違う世界を見させてくれるというのが非日常。例えば映画だったり、洋服も、みんなチョイスしながら生きていってると思うんですけど、そのチョイスの仕方みたいなことを改めて考えることができたりすると、自分にフィットする道具の選択にたどり着いたりとか、自分がこうやったらもっと向上するとかみたいなこともわかれば、新しい日常が作り出せるみたいなことを考えてるんですよ。

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「graf」の活動をご紹介します。

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スライドをご覧ください。この「ようこそ ようこそ」。このタイトルの理由は、我々15年間、グラフとしてやってきているのですが、自分たちのやっている行為自体が、どういうものかなと改めて考えた時に、カフェ、ショップなど場を運営するということをやってたりもするんですけど、これは来ていただくことによって体感、経験してもらう場所づくりみたいなことを考えて、やり始めたんですけれども……。言葉のとおり、「ようこそ ようこそ」というのは、「どうぞ、どうぞいらっしゃい」と受け入れることからすべてが始まるんちゃうかなと。否定からではなくすべてのことを受け入れた状態からデザインってスタートするのではないかなというので、タイトルをつけさせてもらいました。
1920年くらいに民芸を運動としてやられていた時代があったんですけれど、ご存知ですか? 少し説明すると、デザイナー柳 宗理さんのお父さん柳 宗悦さんと陶芸家浜田 庄司さん、彫刻家の河井 寛次郎さんが1920年代にみんな集まって、西洋文化がたくさん入ってくる日本の時代の中で、もう少し今までの自分たちの生活を改めて見直してみようというのが民芸運動です。というのが、西洋の機能的だったり、デコラティブなデコレーションのものがたくさん入って来たり、華々しい、きらびやかなものが入って来たりしている中で、もっと私たちの手づくりで暮らしていた生活を見直そうっていう社会に対するアンチテーゼとして生まれて来た活動隊だったわけですよ。その中で、木版画家の芹沢 銈介さん、彼も民芸運動に参加されていて、彼が「ようこそ ようこそ」という言葉を木版にしてのれんをつくっていたんです。「ようこそ ようこそ」という言葉自体は、芹沢さんが考えた言葉ではなく、もともと浄土真宗の教えを伝えてまわる人たちがいたわけなんですけれども、その人たちの中のひとりが「ようこそ ようこそ」という言葉を「ありがとう ありがとう」という言葉に置き換えて、素晴らしい言葉だというので、それを柳 宗理さんが見つけて、芹沢さんに書かせたという……長い話ですね(笑)。それで、すごく気になっていて、今回もこのタイトルを付けました。

(スライド)
20年前、5名の仲間と立ち上げた集団です。バブル崩壊後で、私も震災を経験し、神戸大学で自分たちの生き方みたいなことを考えていた時でした。それまでのモノづくりは、ピラミッドの構造で、メーカーさんがいて生産者がいてユーザーがいるというような、大量生産、大量消費という仕組みの中でモノづくりが行なわれていたのですが、バブルが崩壊しました。その時にその仕組み自体も崩壊したと思うんです。縦型の仕組みだと思うんですが、これが崩壊しました。だったら僕らが行きていく中で自分たちで、新しい仕組みを生み出すとすると、どんな仕組みになるんだろうかっていうんで、横型の仕組みづくりができないだろうかというので、6人が集まったのが最初です。

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(スライド)
現在のグラフの姿です。現在26、7人で、大阪中之島でやっています。

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当初、立ち上げたのがこのメンバー。左から、大工、僕、家具職人、プロダクトデザイナー、シェフ、映像作家で立ち上げました。その当時、集団でモノづくりをするとなると、 グラフィックデザイナーの集団とか建築家の集団とか、1個のカテゴリーの中で集まった集団というのはすごく多かったんですが、我々は多種多様な人材が集まって集団で仕事をしていくということを選びました。
僕はこの時「少年探偵団」というのを合い言葉にしていたんですが、みんなで仕事づくりをしていくならば少年探偵団のようなそれぞれが生きる仕組みみたいなものをつくってできないかということに賛同してくれたメンバーが、5人集まりこういうユニットをやっています。それぞれのスキルが生きる集団づくりをコンセプトに立ち上がったんです。立ち上げた時6人でなかなか食えなかったので、最初2年半くらい食べられませんでした。ただシェフがいたので、そんな中でも1日200円でどうやって料理するかを考えてくれたおかげで生き延びたことが、今になって思い返されます。

(スライド)
イギリスで発売されている雑誌「wallpaper」です。ちょうど食えなかった2年半に、彼らとの出会いがありました。今では世界で有名なライフスタイル誌をつくった人たちです。彼らが編集しているのは、ライフスタイル。インテリア、プロダクト、グラフィック、建築のデザイン、料理、ファッション、政治、さまざまな暮らしに関わることを1冊にまとめた雑誌です。僕らがひーひー言ってた時に、グラフにやって来て、ドアを開けた瞬間に彼らは「ワーオ、アメージング」って言いました。僕らがこんなスタイルで大阪でやっていることに驚き、僕の27歳という年齢にも驚いていました。彼らが紹介してくれたのがきっかけで全国誌やさまざまな世界の人たちに、僕らの活動を理解してもらって、そこから1日200円から300円になったという感じです。僕らは作品だけでなく、仕事のやり方みたいなものを注目され、また次の号で「わたしたちの生活を変えてくれる10人のクリエイター」の中に選ばれました。これがクリエイターだけでなく、地質学者、医学博士、デザイナー、建築家、我々のような働き方のおもしろい人たちということで選ばれました。

(スライド)
仕事は、店舗の設計とか店舗だけじゃなく、これは美術館のビジュアルアイデンティティと言いまして、建物に来てもらうために、どんなツールを用意しておけば遠くの人たちに足を運んでもらえるかということでグラフィックのデザインやさまざまなものをつくらせていただいています。

フェリシモ:
幅広いお仕事を手がけられている印象を受けました。グラフのリアルな職場の雰囲気をお伺いできますか。

服部さん:
グラフは僕が代表を務めていますが、それぞれのスキルが生きるようなことを考えていて、グラフでいちばん哲学的なことをしゃべるスタッフがいるので呼びました。

フェリシモ:
グラフの小坂さんにご登場いただきます。

小坂さん:
よろしくお願いします。僕は企画と広報を担当しています。グラフが掲げている年間活動テーマを映像化した、2011年の年間活動テーマ「リレーションズ」を見てください。歌ってくれているのが「the teachers(ザ・ティーチャーズ)」の方々。2007年、活動が始まって10周年にグラフのためにつくってくれた曲です。

服部さん:
映像とか編集、音楽をつくってくれたメンバーも実は仲間で、やっています。さきほどコミュニティみたいな話がありましたが、それぞれの特異性を持った人たちが、集まって何かできるか。特異性を持っているがゆえに共同で何ができるかを考えた時に、目的をみんなで共有できればさまざまな動きをしてタイヤが回り出す、そんなことを常に考えながらやっています。

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小坂さん:
今、服部が説明したようにいろいろな27名が働いています。内装設計のデザインとグラフィックデザインをやる部署、家具を製造する工場のスタッフ、その家具を販売するショップのスタッフと、ショップの横に併設されたキッチンで食事をつくるスタッフ、僕のようにデザインをしないけれど企画をするスタッフなど、それぞれチームが混在しています。ひとつ言えるのは何かモノづくりをそれそれのアプローチからいろいろ仕事にしていて、表現する仲間たちなんですが、聞くところによると、複数のデザインをする人たちがひとつの会社の中で働いている状況がめずらしいそうで、この本が出版されたこともあるんですが、そういうところから東京の設計事務所の方が連絡をくれて、その方とお話していて気づいたのが、グラフィックのような平面のデザインをしているその横で内装など、立体のデザインをする人がいる、その下には、人に伝えるスタッフがいるという、デザイナーが人と繋がる場所っていうのが一緒にあるってところが、うちの会社の特徴です。あと、お客さんに対する不思議なホスピタリティというか接客というのかわかんないんですけど、あまりデザイン会社らしくない雰囲気をつくっているところはあるんじゃないかなと思います。

フェリシモ:
いろいろなことができる人が集まっている集団だと思うのですが、クリエイティビティにあふれた人が集まるグラフだからこその「グラフあるある」みたいなことはありますか?

服部さん:
そもそもグラフには営業ってポジションの人たちがいないんですよ。「こんなプロジェクトあります、誰かやりまか?」って言うと、「僕やります」「僕やります」ってスタッフが手を挙げて、プロジェクトが行なわれたりとか、または僕らがスタッフのキャスティングを考えたりするんです。その実績だけで仕事がまわっている状態で、営業がいないってどういうことですか?ってよく言われるんですけど、そんな感じなんです。

フェリシモ:
向こうから仕事がどんどん?

服部さん:
いや、当然食えない2年半がありましたから(笑)。つくるっていうところから伝える、そして一緒に考えるということが、問題を持って来てくださる人たちと一緒にチームとして、逆にクライアントというのではなくそれ自体がコミュニティという考え方で仕事をしたいなって思ってるわけです。なので、仕事いただいたからというような上下関係ではなくて、一緒のチームでその問題を解決していこうというふうにやっていけてるのがおもしろいところかなと思います。

フェリシモ:
クライアントさんも少年探偵団の1員として?

服部さん:
そういうことです。

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「graf」のモノづくりについて。
「隙間をつくる」とは……。

フェリシモ:
それでは、グラフさんが大切にしているモノづくりについてお伺いしたいと思います。さきほど「隙間をつくる」という言葉がありましたが、それってどういうことですか?

服部さん:
「隙間をつくる」ということを結構考えています。100%モノづくりをする、100%完成させるっていうのが、デザイン、形だったりする目標になってしまうわけです。完成させないことをデザインするってことを考える。100%できあがったモノってすごく使いやすくて完成しているから、触った瞬間からだんだん輝きが失われて行くことが多いと思うんです。輝きがあるモノはそうなのかもしれない、ただ逆に使えば使うほど輝きを増していくモノってきっとあると思うんですよ。例えば、木の製品とか。触っていればいるほど、だんだん輝きを生み出していく……、実はそこにすごいヒントがあるんちゃうかなと思っていて、人が使っているモノって長持ちしているモノってやっぱり自分の経験とかさまざまな色がついていったりするじゃないですか? で、長く使われるものをつくりたいと思った時に、例えば80%ぐらいで完成させることができたとすると、あとの20%を使う人が埋めてくれるんじゃないかって思ったことがあったんですよ。その20%を埋めてくれることによって、その人自身のモノになっていくと……。そうした時に長く使えるものに、モノは生まれ変わるんじゃないかな。ということは、中途半端に完成させないではなくて、20%の隙間をどのようにデザインするか、ってことが完成の目標になるというふうに考えてるんですね。そこからもし次、使っている人たちと対話を始めたいと思った時に、80%の完成度でお渡しした、で、「こんなふうに使えるようになったですよ」と使っているモノを持ってきてくれた時に自分が想像している100%を超えて120%使いこなしてくれている人もいるわけですよ。そうした瞬間に100%を越えた20%の部分が僕らに対しての次のオーダーになってくるとか、次のミッションになってくる。あれがこんなふうに使いこなされたんだったら、次に20%を埋めるために新しいものを生み出さなきゃなっていう対話が始まっていくというのが「隙間をデザインする」という考え方です。

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フェリシモ:
具体的な事例はありますか?

服部さん:
僕、ドラえもんの空き地を目指しているんですよね。ドラえもんの空き地を、みなさんも思い出してほしいんですけど、ジャイアンが立っていた土管が3本、スネ夫の隠れていた木があって、ドラム缶が1個置かれてたんですよ。何もない空き地だったんですけど、何かある空き地だったんです。土管があったからジャイアンはヒーローになれたし、木があったからかくれんぼができたし、のび太としずかちゃんは恋に落ちることもできた、あれが何もない空き地だったら、きっと何も起こらなかったんじゃないかな。最低限の用意によって、そこから生まれることが始まればいいなと思っていたので、そういう言い方をしています。
例えば、グラフの空間も、さきほどの80%の完成度の近いところで運営しています。機能的には事足りていないんですが何かが想像できる空間、で、ないのであればつくってみようというような空間づくりを目指しています。
例えば住宅を設計していても、そういうことがあります。「こういう暮らしをしてるんですよ」というお客さんがいた時に、その暮らしからもう1歩ステップアップするために暮らしをつくるために必要な要素をプラスしてあげたりとか、デザインすることを考えています。オーダーどおりにことが進まないので困っているお客さんも多いかもしれません。

小坂さん:
こういう服部の話を形に落とし込んでいるのがうちのデザイナースタッフです。本当にこういうことをしゃべってるんですよ。具体的なことを言うんじゃなくて、今のような話をするので、今みなさん「わかったような気がする……」と、もんもんとした線を引いて考えているのがうちのデザイナーなので、具体的な仕事って言ったら、全体に及んでいるわけですが、線を引くところの考え方みたいなことをインストールしているのが服部の役割です。今の仕事で言ったら、中川政七商店さんであるとか……。空間のつくり方とかその配置、変わった店舗のつくりとか導線の導き方は、そういうところの話から導かれたんだろうなという気はします。

服部さん:
そのお店も、暮らしの道具を販売していきたいという話だったんで、お店自体の設計も道具になるような店づくりをしたらどうだっていう話をして、スタートしています。それで、働くスタッフの人たちが使いこなしやすい道具を使いにくく最初につくって、そこから育っていくというようなことになっていると……。

小坂さん:
僕からしたらそういう企画が通るのが不思議なんです。どういうプレゼンをしたのかが気になります。

服部さん:
そうなんです。まあ、不便な道具をつくるのはなかなかむずかしいけれど、ただ隙間をつくるとか隙間を残すということを考えていくと、必ずそこにコミュニケーションが起こってくる、で今の世の中を考えると機能的につくられすぎて、有無も言わさないくらいスムーズに進行してしまうわけですよ。で、スムーズに進行するということは、その先にあるものの目的が間違っていれば、到達した瞬間に終わってしまうんです。でも目的自体をみんなで考えて成長していけるような空間であれば、新しい目的がどんどん更新されていくような気がするんです。そのようなつくり方じゃないとコミュニケーションが生まれにくいっていうふうに思っています。後半でコミュニティのお話もしたいと思っているんですが、コミュニティ自身にも隙間が重要なんじゃないかなって思っています。

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「graf」が目指すデザインについて。

(スライド)
これは「モロゾフグラン」。ブランディングディレクションをさせていただきました。こういうブランドをつくるときも、さきほどのようなチームワークでデザインを始めます。これに関わったのはグラフィックデザイナー、プロダクトデザイナー、空間設計のデザイナー、インテリアコーディネーターとシェフなんです。で、シェフはお菓子のレシピをデザインする、プロダクトデザイナーは形をデザインするということをやりながら、2年くらいこのプランディングをやらせていただきました。そこからやっと形になり、形になってから今もずっと継続しているグラフの仕事のやり方が全部影響しているブランドなんです。これを見ていただくと、グラフのさまざまなことがわかっていただけると思います。

(スライド)
デザインだけでなくアートの領域でも仕事をしています。これは、自分たちがつくっている商品の1、8倍サイズのものをデザインしました。これは美術館に収蔵されていたりします。これは行政の方たちに「会議用のいすとテーブルをデザインしてくれ」という依頼を受けたんです。「でも、僕たちがいすとテーブルのデザインをしたってしょうがないじゃないですか?」と言うと「じゃあ、何が必要なんですか?」って、「じゃあ、むずかしい会議がおもしろくなるいすとテーブルをデザインさせてください」って言ったら「それおもしろそうですね」と言ってくださって、で、つくったんです。これ、見たとおり1、8倍なんです。でかいんです。よく大人でもこどもでも、足ぶらぶらするとこども心に返ったりするじゃないですか? それをそのまま利用できないかなと思ってつくったんですよ。むずかしい会議をこのテーブルといすでやってみたのがこの映像です。

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(スライド)
行政が出てくるようなむずかしい議題をあげながら、公開会議としてやってみたんですけど、見事におもしろくなりました。これ、某行政の団体に使っていただいていたり、美術館に収蔵されたりしています。デザインということだけじゃなくアートの世界でもクリエイティブということを考えた時に、さまざまな動きがあると思うんですがそういうところでも活動しています。

フェリシモ:
最近は地域の再生プロジェクトもされているとのことですが?

(スライド)
服部さん:
地域の再生というとすごく大げさなんですが、実は畑を5年前にくらいに始めました。自分たちでカフェを運営しているので、当然口にするものを自分たちでつくってみたいという欲求で、始めたんです。畑をやり出すと、さまざまな人たちに出会うわけです。例えば土をつくっている人たちが「そんな土じゃ、いい野菜は育たないよ」と教えてくれて、種をまこうとしたら「その種は時期じゃないよ」と教えてくれたり……。畑をやりながら学ぶことがすごく多かったんです。学ぶことと同時にそこに関わってくる人たちがどんどん増えてきて、最近の若い農家の人たちと出会うことが多くなってきたんです。最近の農家の事情はどうなっているのかというと、農協に商品を提供するというのが、お父さん世代の仕組みだったわけです。言ってみたら畑は生産工場みたいなものなんですけど、今の若い世代の人たちは、顔の見える範囲の人たちに野菜づくりをしたいと思っていて、ただ流通の仕組み自体が、農協頼りになっていたのを変えないと……。だったら、野菜つくりをしてる人たちと、消費者たちが接点を持てる環境づくりをしてあげたらいいんじゃないかなということで始めたのが「ファンタスティックマーケット」というマルシェの仕組みです。これは、さまざまな地域の第1次産業者と2次産業者の人たちが「ファンタスティックマーケット」に来て、ユーザーと出会うために自分たちの商品のパッケージつくりから、販売までをやっている。このマルシェがあるおかげで接点が生まれて、お客さまたちとずっと長くつきあうにはどうしたらいいのか?ということで、商品だけ出荷して送るんじゃなく、農業自体も体験してもらったら、もっと理解してもらえて、理解が深くなれば、つきあいも深くなるんじゃないかなと自らワークショップを始めたり……ということが始まりました。接点をつくるというところから持続するという仕組みまでもがこのスキルで、生まれていきました。

(スライド)
これは香港のブレイクデザイナーの人たちが起こしたプロジェクトです。これはコミュニティの話と21世紀のデザインについてもすごく新しい動きをしている人たちなんですね。どういうことかと言うと、デザインが解決しなきゃいけないことっていうのが、どんどん変化しています。例えば今の彼らのように、グラフィックデザイナーが、ああいうふうに洗剤をつくるということをしているわけです。彼らは本来はパッケージをデザインすることが仕事になっているわけですが、彼らがやったおもしろいことというのが、自分たちがやっているデザインが地域にとってどれだけ役立んやろうかということで、まず自分たちの事務所の周辺を調査したんですね。どんな調査をしたかというと、地域で働いているおばちゃんたちにインタビューをして、「僕ら地域の調査をしてるんやけど、何か困っていることないの?」って聞いたら、「私らこの地域にいるけどパートとかアルバイトとかなくて困ってるねん」という話をたくさん聞いたんですって。その時に彼らは、仕事づくりからデザインしないといけないんだってことを考えたんです。そもそもデザインってモノづくりからデザインをするっていうことがきっかけだったりとか、モノが生まれてから、それが販売されるまでをデザインするということが、多かったわけです。だけど21世紀のデザインは、モノの生まれる以降ではなく、モノの生まれるまでをどのようにデザインし、それから生まれた以降をどうやって伝えるかだと思うんですね。あまりにも今まで、例えばこのペットボトルが生まれて来て、生まれてきたらユーザーに伝わるまでデザインをどのようにするかっていうこととか、広告をどのようにするか、どのようなところで販売するかだったんですよ。
だけど、実はこれが生まれるまでにどういう人たちが関わっているか、っていうことを考えなければいけない。でここに関わっている人たちが、実は、たくさんいるんだけど、この人たちがちゃんと生活になっていないってことがあるわけじゃないですか。ここを正していかなきゃいけないということと、実は生まれてきたモノの前後にいる消費者と生産者をちゃんとサイクルがまわるように生産者すらも消費者にならなきゃいけない、生産者が消費者になる仕組みみたいなものもデザインの中に加えなければいけないのが21世紀のデザインだと思うんです。彼らがやったのは地域の調査から始めて、アルバイト、パートがないというおばちゃんたちに対して「じゃあ、みんなで石けんをつくりましょう」、ペットボトルを回収、廃油の回収、で、それをパッケージにして石けんをつくって販売するところまでを自分たちでやっていくということが彼らのデザインです。でも彼らがやったのは、パッケージのデザインだけ。だけどパッケージのデザインに含まれるデザインというのが、仕事づくりであるっていうことが彼らの素晴らしい動きなんです。21世紀のデザインって、今言ったように形をデザインするというよりは、その周辺に何があるのか、その周辺にどういうふうな流通があるのか、人やさまざまなモノを考えなければいけないわけなんですけど、まず問題は何なのかということを考えながら、それを発見していくという作業が必要だということが映像から見てとれると思います。

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21世紀のデザイン、21世紀のコミュニティを考えると……。昔のコミュニティがどんなものだったかを考えると、ひとつの価値観を持ったコミュニティがたくさんあったわけですよ。地域の老人たちが集まるコミュニティ、ここで話される話題は例えば健康について老後いついて。今1個の価値観で集まるコミュニティというのはほぼ少ないと言っていいと思うんですよ。なぜかというと、あらゆる地域、あらゆる問題というのは、インターネットや情報のおかげで、さまざまな価値観が可視化されるようになったわけです、可視化されるってことは、そこにフィットする人たちがさまざまをチョイスしていくと……。価値観がひとつに固まっているのではなく、例えばABCDEという価値観があったとすると、AとBは共有できるけど、CとD は共有できないとなると、ほかのコミュニティに人は繋がっていくと……。なのでたくさんのコミュニティに存在しながら生きていくというのが現在のコミュニティの有り様だと思います。なので、価値観がひとつではなく、たくさんの価値観の中のどれかをシェアしているから誰かと繋がるっていうような形が現在のコミュニティの在り方だと思います。例えばそのコミュニケーションをどのように円滑にしていくか考えたとすると、デザインは一通りではなくて、さまざまなものを組み合わせたりとか、形を作るところからデザインをするっていうこととか、例えばデザインを考える以前に、考えることを考えるということとか、学びをもう一度学び直すみたいなことを考えないといけないんじゃないかなと思います。

フェリシモ:
コミュニティを形成するのは、とてもむずかしいことかなと思うのですが、苦労するところとかありますか?

服部さん:
コミュニティを形成するというよりかは、潜在的にどういう人たちがいるだろうかということをその現場の中で調査していくという作業をやるわけなんですけれども、そうすると「意外と地域の中で繋がっていなかった」とか、「隣村なのにそんな人がいた」という情報すらも届いていないということがあったりするわけですよ。なのでコミュニティを形成するという話で言うと、我々コミュニティ外からコミュニティを見た時に、繋ぎ役として存在するっていうのが素直な在り方なんちゃうかなと思っていて、「実はこんなことをやりたいと思ってるんですよ」という人がいたとすると、全体を見た時に、「同じような考えを持っている人が隣村にいましたよ」と伝えただけでお互いが繋がって、その繋がったということがきっかけで新しいプロジェクトが生まれたり、コミュニティにが生まれていくってことはよくある話だと思います。隣近所がなかなかよくわからないというのが今の時代だと思うんですが、それを繋ぐ役として第三者がどういう役割を果たしていくのかが今後21世紀のコミュニティに対して重要じゃないかなと思っています。というのが、これは普通のことなんですが、新しい目線を持った人がそこに入ってくれるということがすごく重要なんです。自分たちで問題解決するのではなくて、自分たちがどんな問題を持っているか自体を見つけ出すために他の人たちも呼んでくるというのが、そのコミュニティにとってすごく大事なことなんじゃないかと思います。で、最初に「ようこそ ようこそ」みたいなことを言いましたが、受け入れるところからすべてのことを起こしてみると、見えてなかったものが見えてくるんじゃないかと思うんです。コミュニティって、想像すると閉鎖的な集団だと思いがちなんです。

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両手で手を繋いで輪をつくると円になるのがコミュニティ。昔はそうだったんですけど、ここが緩やかになっていて、1個のコンセプトで繋がっていたとすると、守らなければならない意識なのですごく閉鎖的に自分たちの理解できることだけを持っていくということになってしまう。しかし現在ではたくさんの情報があるので、両手で繋がるというよりかは、外側の意見も吸収できるように片手で繋がっているのが現在のコミュニティのような気がするんです。例えば、両手で肩を組むのではなく片手で円陣を組んでいるような感じ。スポーツする前に円陣を組んで意識を高めたりすると思うんですが、片手で繋がって、外側から同じ価値を持ったような人たちがいれば中に繋げてあげるととか、取り組みやすい状況をつくるとか、閉鎖的にコミュニティがつくられているのではなくて、外に向かっているコミュニティの形が今、多いんじゃないかと思います。

フェリシモ:
グラフがこれから築き上げていきたいと思っている社会とはいったいどのようなものですか?

服部さん:
体験とか体感するということが、3.11以降も、神戸の震災以降もそうだったと感じるんですけど、外側の刺激を閉じて閉じて、自分の正しい情報だけを選択するということをやらざるをえない時代になってしまったと思うんです。そこをもう少し解放できるような動きができたらいいなと思うんです。どういうことかと言うと、我々が次に前進しなければいけない先っていうのは、やっぱり未来は見えないけれど、体験してこそ次のステップが踏めていけると思うんですよ。ということは少しずつでも、外に開いて刺激を受けながら、新しい判断していきゃなきゃいけないと……。なので踏み出さなきゃいけないわけなんですけれど、踏み出すということは、まずは体感すること、感じることから始まっていくと思うんですよね。例えば、こう(司会者の腕を叩く)叩いた瞬間に刺激を受けるじゃないですか。

フェリシモ:
はい。

服部さん:
自分の輪郭っていうのは、自分ではなかなか見えていない。叩かれた瞬間に、自分の輪郭がどこにあるかを意識する。叩かれた瞬間に、「わたしにはここに皮膚があったんや」とか、叩かれて領域を知るわけなんですよね。領域を知るってことは、まず表に出るとか、ステップを踏まないと、その風当たりにも当たらないし、皮膚にも感じない、感じることが始まり出すと、自分が次にどういう行動を起こせばいいのかが見えてくるはずなので、感じるということをまずアクティブに動き出すんじゃないかなと思っています。で、グラフの話をすると、体感できる場をもっとつくっていきたいと思っているのと、体感してもらいやすいプログラムをどうやってデザインしていくかということを考えています。例えば情報で頭でっかちになっていくのではなくて、インターネットで見た世界であれその場に訪れて、においをかいで、そのにおいを記憶するということとか、そのにおいを感じた時から、思考が始まって、自分の思いを言葉に変えることができると思います。ネットでの情報で何かを発言するのはやり過ぎたんじゃないかなって思います。もっと現地に行って体験するということから、自分の言葉で話すということができるようになれば、もっとおもしろい世界が生まれてくるんじゃないかと思います。未来をつくるための楽しくする選択が正しくできるんじゃないかと思います。間違ってもいいと思うんですけど、とにかく体感するということをつくり続けれたらいいなと思っています。

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<第2部>

デザインをやっている立場からもう少しデザインのことをお話したいと思います。
学生たちと「デザインって?」という話をする時にいちばん最初にやることなんです。デザインって時代とともにどんどん役割が変化していきました。例えば、戦後日本が何もなくなってしまった時代に、機能するデザイン、例えば不便な時代を便利に変えるってことをデザインが役割になった時代であります。その次に便利な時代から仕事に生まれ変わっていく時代もあります。例えば不便なものから便利なものが生まれ、便利なところから豊かなところへって言った時に、デザインの役割がビジネスに変わっていった時代でもあります。バブル崩壊後21世紀のデザインってなんやろって話もさきほどしましたが……。
では、僕の手を見て考えてください。これくらいの丸いものがあります。表面を見ると赤い。かじるとシャキシャキ、中はちょっと白い。絵に書くと、葉っぱとへたがついています。最近ではコンピュータのロゴマークになっていたり、日本では青森が原産だったりします。僕のこれについてのいちばんの思い出は、風邪をひいた時に母親がすりつぶして食べさせてくれたという経験があります。さて、これ、何でしょう?せーの!

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会場:りんご

服部さん:
よかった(笑)。これスモモっていう人もいるんですけど。リンゴなんです。僕はひと言も「りんご」とは言っていないんですけれども、こいつに関する細かな情報を少しずつお伝えすると、味覚までもが想像できたと思うんですね。赤くて丸くてこれぐらいの形って言った瞬間にリンゴをパッと想像できたとするとそのデザインは、シンプルでいけてるデザインだと思うんです。これが説明がどんどん増えて、母親にすりつぶしてもらったってところまで行ってもリンゴと気づかないデザインは、わかりにくいデザイン、無意味なデザインかもしれないです。例えば21世紀まで仕事にデザインが貢献してきた、ということを考えた時に、中身はリンゴなんですが、機能は一緒。表面をピンクにしたり黄色に変えるということで、それをさまざまな商品に変えるということが、デザインの役割になっていたわけなんですけれど、21世紀のデザインってじゃあ、なんなのかって考えた時には、多分3.11以降、全員が考えなければいけないことになっていると思うんですね。正しい者を選択したいと言う時には、多分赤くてヘタがついていて甘くておいしい、そして誰がつくったのか知ってみたい、ということが指針になっていると思います。ということは、デザインは表面を変える話ではなくて、この赤いリンゴは誰がつくっているかっていうことを伝えたりとか、どのようにつくられたかってことも、正しいデザインの伝え方のひとつになっていると思います。役割としては形を、さきほどの形をデザインするということを言っていた時代から周辺のことを伝えるということを言っていましたけれども、リンゴに例えてお話したこのデザインを伝えるプロセスというのが、このように変化してきてるっていうことをみんなに理解してもらえたら……。リンゴのお話でした。

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お客さまとのQ&A

お客さま:
デザインで行き詰まったことはありますか? そう言う時はどういった非日常的なことで、対処するのでしょうか。またアイデアを生み出す方法は、インタビュー以外ではどんな方法がありますか。

服部さん:
それを教えてしまうとみんながデザイナーになってしまうかも知れません(笑)。僕は考えることが趣味なんです。答えの出ない考えをたくさん頭の中にばらまいているという状態なんです。電車の中、車の中、食べている時も、友だちと話をしている時、遊んだりしている時も、常にぽろぽろと考えているのが趣味なんです。ふとした瞬間にその考えが、星座のようにピピピピピっと繋がった瞬間にデザイン、アイデアが生まれるっていうことをこどものころからやってきています。どんなところで、デザインを生み出すかっていうところに関しては、まず考えのストックが星のように頭の中にあって、オーダーをいただいた瞬間に「これってこと?」というふうに、思考がスタートするんです。考えのストックを繋げる作業によって、新しいデザイン、アイデアを生み出すってことをやっています。どんな時にどんなことをしていればデザインが生み出されるかというと、かわいい人とゆっくりお茶を飲みながら会話をしている時とか、楽しいおじさんとお酒を飲んでいる時とか、わりと、考えがまとまらない時は飲みに行ったりします。毎日のように飲んでいたりもします(笑)。さきほども言っていたように、パンッと叩かれた瞬間に自分の輪郭がはっきりするという話をしましたが、外に飛び出ないと考えがまとまらないということは相当よくある話です。なので表に立つとか、一歩前に出ることができれば、常に考えていることが、刺激を受けて、繋がり、アイデアになるということをやっていると……。それが、飲みに行く、デートをする、買い物に行く、映画に行く、作品を鑑賞するということも同じように作業としてやっています。なので、アイデアのまとまらない時は、外に出るということはよくやっているので、もしデザインできなかったりすると、いったん外に出てみて、考え直すということをやってみてはどうでしょう?

お客さま:
創世記に比べてスタッフ間の気持ちの共有がむずかしいと思いますが、気をつけていることはありますか?

服部さん:
僕たちはさきほど映像でも見ていただいたビルで運営しています。スタッフが40数名いたころは、やっぱりコミュニケーションがなかなかとれないということがあったので、さきほどの「リレーションズ」という年間テーマを決めて、毎年みんなで、ビジョンを共有するというのをやっていました。今年はこんなテーマでいこうぜ、みたいなことを共有しながらやっていたんですけど、それでも、家族のようにコミュニケーションをとれる状況をつくらなければっていうのもあって、ビルの大きなところから小さなところに引っ越しをしたんですよ。その瞬間にダボダボの服から体にフィットした服のように、場所が生まれ変わって、動きやすくなったんです。そうすると、意識感の共有を言葉にしなくても、背中を見ていればわかる状態になっていったんです。
常にコミュニケーションを取ることは意識的にやっているんですけれども、それでも人のことを気にしてみたり、人に意識的に言葉をかけてみたりということをやってみてもなかなかコミュニケーションがとれないということで始め出したのが、みんなで月に1回会食をすること。ごはんを食べたら、常の話と違う話ができるようになり、最近では普通にごはんをみんなで食べることから素直なコミュ二ケーションがとれるようになりました。まさにその時間が考え以上のことを考えられるような時間になっていて、すごく有効に使っています。これはスタッフが始めてくれたことなんですけど、最近ではクライアントの方とまず仕事をする前に、ピクニックをやってみようということを始めたんですよ。これがまたおもしろくて……。仕事をやり出すっていう前にピクニックから始めてみると、まず大前提でどんなキャラクターがいるかというのが、ピクニックをきっかけに見えてくるんです。これ、おもしろいんです。やっぱり段取りがいい方はお弁当をつくってきたりするんですよ、気の利いた人はスイーツを持って来たり、そうするとそれぞれのキャラクターが見えてきて、じゃあ、こういうことはこの人に頼めばいいんだなっていうのが、座組、キャスティングを書かなくても、おのずと見えてくるんです。そのコミュニケーションを促進するために食べるという行為をしています。

お客さま:
僕は携わっている業界が工業的なところです。今日1日お話の中で、「80%のモノをわざとつくります」というお話がありました、とてもおもしろいなと思いました。工業的なデザインにおいては、基本的には100%のものを求められていると思うんです。でも、できないから、かつ売っていかないといけないから、90%でも95%の状態でも出していかれるんだと思ってるんです。意識的には80%にしていないと思うんです。果たしてそれは許されているから?それとも、そういうところでは、結果的に80%になっているのか、教えてください。

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服部さん:
80%というのは形のことも当然あったりするのですが、気の使い方もあるような気がしていて100%の気の使い方で完成された時に100%というのはどういう人たちに対しての100%なのかっていうのはあるんじゃないかなって思います。例えば全マーケットに対して100%答えるというのは相当むずかしいと思うのですが、全マーケットに対して100%で完成させるということ自体がすでにナンセンスだと思うんです。それは工業製品に限ったことではなく、むしろ「こういうことに困っている人がいるから、その人たちのためにつくろうと思うと機能も限定されるだろうし、ただスペシャリティのためだけにつくるというのもナンセンスだと思うんです。ただ、言っている80%というのは、例に挙げて言っただけで、20%の隙間をどうやってデザインするかということだと思うんですよ。隙間があるもの自体が長くもつものになっていくんじゃないかと思っていて、100%というのは、こと細かくていねいにそれに対応したものなんじゃないかなと思っていて、多分それには答えることはできないと思っています。ただ、隙間をつくることによってそのもの自体が、どれだけの成長を遂げていけるかということを夢見ることはできると思うんですね。答えになっていますか? ただ、ものの完成度っていうことでいうと、おっしゃるように95%で仕方なしに出さないといけないという状況が蔓延していると思います。コスト、技術的な問題も含めて当然あると思います。それを人がどういう目的によって目指されるべきなのかを考えると90%でも、80%でも隙間を用意することによってその目的を達成するのであれば、それでも問題ないと思います。ただみんなバカじゃないので100%を目指したいと思っていると思いますよ。100%を目指すんですが、それが誰のためにあるのかってことを間違えてはいけないだろうと思います。

お客さま:
クライアントさんからニーズを引き出す、聞き出すコツをお持ちでしたら教えてください。

服部さん:
おもしろい話があって、住宅設計の案件の時に、僕ら独自でつくっている「Q&A」を出したりするんです。「できるだけ早く回答してください」って言って、「朝起きてコーヒー飲みますか?」、「紅茶ですか?」、「新聞読みますか?」っていうような質問をしていきます。コーヒーを飲む人からはどんなことが読みとれるかというと、あまり朝ゆっくり過ごす余裕のない人は、だいたいコーヒーに○をつけていました。「朝新聞を読みます」という人は、それはリビングで読んでいるのか、ダイニングで読んでいるのかによって朝の過ごし方が違うってことが見えてきます。そして、質問の最後に、「晩ご飯を食べたあとに、スイーツを食べますか?」と聞きます。「食べます」という人は、ダイニングでご飯を食べて、リビングに移ってテレビを見ながら、甘いものを食べて、寝るっていうケースが多い、ということがわかると、ダイニングでご飯を食べることは重要ではなくむしろ、リビングでコミュニケーションをとることが重要ということが見えてくる。その人の時間の使い方をどう読み取るかを考えて設計を始めると、リビング、ダイニング、キッチンという間取りのサイズが見えて来たり、行動のパターンが見えてきたりということがあるんですよ。なんら関係のない質問に見えて、実は時間を知るための質問なんです。なので、企業に対しても、どんな時間経過で今に至ったかということをまず聞くということをしています。

お客さま:
グラフさんくらいになると東京進出もあり得ると思うのですが、大阪であえてしているのですか? 大阪のよさや拠点を大阪に構える理由を教えてください。

服部さん:
グラフの話で言うと、僕が今モノづくりをする環境としてどうなのかということをまず捉えています。たまたま大阪に生まれたということも当然あるんですが、まず大阪が第2都市であるということがすごく魅力的ではあります。世界中を見ても、第2都市というのは生産と消費のバランスがとれているんです。大阪はどうなっているかというと、人柄的にうまいかまずいか安いか高いかでしか判断しないですよね(笑)。僕らがポンッと生み出した瞬間に「高いやんけ」って言われる、その瞬間に安くする方法を考えなきゃいけない、「まずいやんけ」と言われたらうまくする方法を考えなきゃ行けない。その身近なところで身近な問題を、問題を投げかけてくれる人たちが多いっていうのはいいなと思っています。これが東京だと、消費者のバランスの方がすごく高いわけです。90数%が消費者、で、そういうふうになった時に、作り手は誰の意見を聞けるのかってことを考えると身近なバランスで存在している方が、すごくリアリティがあると思ってて、僕は大阪に魅力を感じています。環境としてはやりやすいと思っています。モノが生まれるまで、どんな人たちが関わっているかを考えると、このバランスの中に重要なヒントがあるんじゃないかと思っています。関西は、目覚ましくヒントがある場所だと思っています。

神戸の阪神淡路大震災から始まった神戸学校が、今もまだ続いているということと、これをやっていきたいと思っているフェリシモさん、ならびに神戸の方たちを本当に尊敬しています。そんな舞台に呼んでいただいて感謝しています。3.11以降の話で、さまざまな心をぎゅっと固く閉ざさなきゃいけない時代になっていますが、でも、少しずつアクションを起こせば、何かが変わるんじゃないかということは、この会を見ていてもすごくヒントになっているなと思っています。参加してくださることもひとつのアクションだと思います。一歩前に出るのは簡単なことかも知れないということを改めてみなさんも感じられたんじゃないかと思います。さきほど毛穴を開いて感じること、みたいなことを言いましたが、そろそろ新しい未来を構造しないといけない時代になっていると思います。グラフも、やってみて失敗していることもたくさんあります。だけどアクションを起こしたがゆえに、まず理解できた。で、次の選択に関してはこういう判断をすればいいんじゃないかということを体感しながら理解してきたんです。それには一歩踏み出して、その外の世界で、その空気と触れ合ってみるということで、新しいアクションと新しい未来が見えてくるんじゃないと思います。「わたしはこんな人です」ということを手を挙げて言うことはひとつのアクションに成り代わるんじゃないかなと思います。なので、みなさん、さまざまな人にメッセージを伝えてみてください。

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Profile

服部 滋樹(はっとり しげき)さん<graf代表>

服部 滋樹(はっとり しげき)さん
<graf代表>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
1970 年生まれ、大阪府出身。graf 代表、クリエイティブディレクター、デザイナー。美大で彫刻を学んだ後、インテリアショップ、デザイン会社勤務を経て、1998年にインテリアショップで出会った友人たちとgraf を立ち上げる。建築、インテリアなどに関わるデザインや、ブランディングディレクションなどを手掛け、近年では地域再生などの社会活動にもその能力を発揮している。京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科教授。

grafについて
大阪を拠点に家具の製造・販売、グラフィックデザイン、スペースデザイン、プロダクトデザイン、アートから食、イベントの企画運営に至るまで「暮らしのための構造」をキーワードに、暮らしにまつわるさまざまな要素をものづくりから考え実践するクリエイティブユニット。decorative mode no.3なるユニット名で1993年から活動を始め、1998年4月、大阪の南堀江にショールーム“graf”をオープン。2000年11月に大阪の中之島へ移転し、ショップ、ショールーム、カフェ、企画フロア、デザインオフィスが一体となったgraf bld.を運営。2012年11月、自社家具工場を改装したgraf studioへと拠点を移し、デザインワーク、ショップ、キッチンから生まれるさまざまなアイデアを実験的に試みながら、異業種が集まる環境と特性を生かした新たな活動領域を開拓している。

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