神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

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「笑顔が咲く庭」



<第1部>

上野 砂由紀さん:
上野ファームを知っている方、いらっしゃいますか? 結構いらっしゃいますね、びっくりしました。まさか神戸でこんなに知っていただいているとは。ありがとうございます。

ご存知ない方もおられると思いますので、上野ファームの紹介をさせていただきます。上野ファームは私の曾々祖父あたりが明治39年(1906年)に宮城県から北海道旭川に移住、入植してつくりました。

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これは当時の様子で、米づくりをしていました。ファームの裏に射的山(しゃてきさん)という、小さな丘のような山がありますが、私たち家族は、入植した当時からこの山の麓で農業を続けています。手前にいるのは祖父と曾祖父です。射的山はめずらしく木がない山で、昔、スキー場があまりなかった時代には、スキーに来る人がたくさんいました。上野ファームの射的山は木を切って畑にしていたので、冬になると村中の子どもたちが山にスキーに来ました。現在は山の木も大きくなっていますが、同じ場所で農業を続けています。上から見ると、古墳みたいにここだけ山がポコッと残っておりまして、周りは鏡のように見える水田です。上野ファームのある旭川は米どころで、「ゆめぴりか」など新しい品種も作っていますが、現在は農場の中に4000坪ほどのガーデンを作って、お客さまに見ていただいています。

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上野ファームの四季

北海道の四季の移ろいにしたがって、上野ファームのガーデンがどう変化していくかをご紹介いたします。冬の雪は3月ぐらいまで残っていますが、雪が5cmぐらいまで解けてきたときに、スノードロップという花が射的山一面に咲いてきます。この花を見ると、北海道にもやっと春が来たなと思います。

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4月下旬になると、エゾエンゴサクという野草が空と同じぐらい青い色で斜面一面に咲き、スイセンも花をつけます。美しくて勢いの良い新緑の時期ですが、それが終わると、今度はチューリップがガーデンで咲きはじめます。5月はまだ花がいっぱいの時期ではないのですが、半月もしないうちに黄色や青のさまざまな花が咲きはじめ、だんだん庭らしい雰囲気が出てきます。旭川で桜が咲くのはゴールデンウイーク明けぐらいです。
上野ファームの大きな特徴は、宿根草(しゅっこんそう)を主に植えていることです。宿根草は一度植えると地上部は枯れても根が生きていて、毎年毎年同じところから出てきます。一年草は一度植えると1年でサイクルを終えてしまうので、毎年植え替えなければならないのですが、上野ファームは9割以上が宿根草ですので、季節によってさまざまな花が入れ替わり立ち替わり咲くようにデザインしています。
ミラーボーダーというなまえの庭では、バラが咲きはじめるのは6月下旬で、7月上旬になると一気に咲いてきます。この時期はバラも宿根草も、さまざまな種類の花が咲いてきますので、たくさんのお客さまが上野ファームのガーデンを見にいらっしゃいます。

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これはマザーズガーデンです。自然風で一見ごちゃごちゃして見えるかもしれませんが、植物たちがのびのびと自由に育つのが上野ファームのスタイルで、あまりかっちりとはつくっていません。自然の雰囲気が好きで、ガーデン全体では2000品種を超える植物を植えています。
秋に近づくと咲く花も変わってきまして、勢いのある時は3日見ないだけで庭が変わってしまいます。北海道は春の雪解けから植物の勢いがすごくて、1週間で植物がみるみるうちに入れ替わります。植物のエネルギーを感じるのが北海道のガーデンだと思います。
9月上旬になると、今年は台風が4つも来たので、花が先に痛んで終わってしまったものがありますが、いまはちょうどシュウメイギクなどキク科の花がたくさん咲いています。10月下旬になると、雪が降ってきます。初雪は例年10月下旬です。ガーデンではバラやダリアがまだまだきれいに咲いているのですが、雪に当たってしまうと一気に花はダメになるので、どんなにきれいでも気候には逆らえないのが北海道のつく庭づくりです。
10月に降りはじめた雪は、12月上旬になるとどんどん積もって根雪(解けない雪)になって、射的山もあっという間に真っ白になります。旭川は盆地ですので、夏は暑くて冬は寒く、寒暖差の激しいところです。夏は30℃ぐらいまで気温が上がって蒸し暑い感じですが、冬はマイナス30℃まで下がる時があります。1月、2月は最も寒い月で、毎日マイナス20℃ぐらいまでは下がります。上野ファームは市内よりも寒くて、旭川市内の天気予報でマイナス25℃と言っていると、上野ファームではマイナス28℃ぐらいです。1月か2月の真昼に、水の入った風船をビニールハウスにぶら下げておくと、夕方にはちょうどよい感じに凍りますので、中の水を出してキャンドルを飾れば、夜にはアイスキャンドルになります。カフェで飾っていますので、ぜひ見にいらして下さい。

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プラス30℃からマイナス30℃までの60度の温度差のある厳しい環境の下で、植物たちは冬も雪の下で生き抜いています。「冬になると休みでいいね」と言われますが、実は冬も庭仕事があります。雪が降りはじめるころまで外で木の剪定や雪囲いの作業をして、根雪になったころには庭のデザインを企画します。冬も頭の中で庭仕事をしている感じです。2月になると種撒きが始まります。こういう感じでほとんど休むことはなく、常に植物の仕事に何かしら関わっているのが私の1年です。
上野ファームは温室のような立派なものはないので、ベランダにビニールを張って、ストーブを焚いて、200種類の植物の種を撒いて芽だし作業をしています。3月になるとビニールを外に張って、雪の中でストーブを少し入れながら、植物の苗をつくったりもしています。
北海道の庭の四季を見ていただきました。非常に短い期間で花たちが咲いているのがわかっていただけたかなと思います。

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ガーデンをつくったきっかけ

先ほど米農家と言っていたのに、なぜ庭をつくっているかということですが、上野ファームに花を植えはじめたのには、きっかけがあります。いまは農家が米を自由に個人販売することがあたりまえになっていますが、昔は米はすべて農協に卸すのがルールだったので、農家の人が、自分のつくった米を食べている人に直接会うことはありませんでした。二十数年前に国の制度が変わって、農家が米を自由に売ってよいことになった時、私の父はいち早く米の個人販売をはじめました。お客さまに契約をしていただいて、毎月月末に上野ファームのお米を届けていたのですが、市内のお客さまは、「わざわざ送ってもらわなくても、近いから取りに行くわ」と言われて、お米をファームまでに買いに来てくださる方が増えてきました。そこに農場と消費者の接点が生まれました。それまで農場の庭は家の者しか出入りしなかったので、古いタイヤが積んであったり殺風景で、きれいにする感覚がなかったのですが、「せっかく農場にきてもらうのだから、いろいろな方に目で楽しんでもらえるものでなければ」と私の両親は考えて、農道の脇にハーブを植えはじめました。田んぼのあぜ道にルピナスを植えて、花を見ながらお客さまもあぜ道を散歩していただいて、「こういうところでおいしいお米をつくっているのだな」と思っていただけたらという想いで花を植えはじめたのが最初です。父は田んぼのあぜ道を人が歩けるように太くして、母がルピナスの種を撒いて育てました。これが上野ファームの庭づくりの原点です。

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目で見ても食べても魅力を感じることがこれからの農業には大事ではないかと思い、お客さまをおもてなしできる環境をつくりたいと、両親は少しずつ庭をつくりはじめました。お米を買いに来られたお客さまが周辺を散歩して花を見ていただけるように、自家用トマトやナスやセロリを植えていた畑にハーブを植え、小さな寄せ植えを置きました。お客さまと交流できる場所として庭づくりがスタートしたのが二十数年前です。
ちょうどそのころ、日本にもガーデニングブームが来ました。いろいろな雑誌で海外の素敵なガーデンが取り上げられて、ガーデニングという言葉が流行語大賞になるぐらい人気のあふれる時代でした。母もイングリッシュガーデンに興味を持ちはじめ、「イギリスの庭はすごくナチュラルで素敵なんだ」と、自分の畑もイングリッシュガーデンのようにしたくて、見よう見まねで試行錯誤しながら花を植えていました。私はまだ高校生だったので、母がいろいろやりはじめたなと思って見ていたのですが、特に花好きだったわけではありません。両親がいろいろなアイデアを出してやりはじめたのが、上野ファームのきっかけです。

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ガーデニング留学を経て上野ファームができるまで

私は農家の6代目で長女なのですが、農家を継ぐ勇気がなかったので、札幌に出てアパレル会社に就職し、服の販売をしていました。両親はお客さまとの接点を模索しながら、庭づくりを進めていました。20代前半の私は、仕事以外に何か違うことをやってみたい、外国にも一度行ってみたいと思っていました。何かしたいけれどもどうしよう、と考えているときに、たまたま通勤の地下鉄の中吊り広告に、いろいろな海外プログラムの広告がぶら下がっていました。その広告のひとつに「イギリスでガーデン研修」というのがありました。母が熱狂しているイギリスのガーデンとはどのようなものか見てみたいという興味がありましたし、語学学校で、ただ語学を学ぶよりもスキルが身につけられる研修はよいかもしれないとも思いました。花は全く触ったことがなかったし、英語ができたわけでもないのですが、「行ってみたい!」と広告に惹かれて、すぐ説明会に行って申し込みました。ちょうど2000年のミレニアムブームで、私も2000年に何かやってみたいという若さもありまして、何も知らないままイギリスに行きました。

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イギリスではホームステイをさせてもらいながら、庭仕事をひたすら手伝う研修でした。学校に行ったわけではないのですが、そこで出会った人たちや本物のイングリッシュガーデンは、とても衝撃的でした。写真は、その時のヘッドガードナーのフィリップとアーサーで、こういう無骨なおじさんたちと、英語も花のなまえもわからないまま、庭の世界に飛び込んで、ひたすら草取りなどをしていました。素人にいきなり重要な仕事を任せるわけはないので、「今日はここの花がらを取りな」、「今日はここの草をずっと取ってな」と言われながら、9ヵ月ほどそこで研修させてもらいました。たった9ヵ月では仕事の基礎の「き」ぐらいまでしかできませんでしたが、自分にとっては宝物のような時間でした。当時私はマリーゴールドやサルビアを並べただけの花壇を農家でよく見かけていたので、庭とはそのようなものだと思っていました。何も知らなかったからこそイングリッシュガーデンに出会った衝撃は大きく、自然風に見えるけれども深い世界で、意匠が凝らされていたり、歴史があったり、経験すればするほど、見れば見るほど、その魅力にとりつかれて帰国しました。
帰国した2001年に、うちの農場に本格的な庭をつくって、もっとお客さまと交流できるガーデンを思い切ってつくってみようという話になりました。「思ったらとりあえずやってみよう」という両親なので、何が起こるかわからないのですが、「まず、やってみるべ」と、両親がある程度の土地を準備して待っており、私が帰国した春から家族で壮大な庭づくりが始まりました。900坪ぐらいを一気に整備して、父が米ぬかや牛糞を用意して待っていました。現在はガーデンに集中していますが、当時はもちろん農家もやっているので、農作業の合間に庭をつくり、収穫が終わると庭をつくりました。お客さまとの新しい出会いが生まれるのではないかとがんばっていましたが、私も実家に帰ったからには農家も手伝わなければなりません。ちょうど私が帰ってきた年に父が屋根の雪下ろしで両足骨折して田植え機に乗れなくなりました。私は前年に田植え機の操作を少し習っていて、もともと免許は持っていたので、その年からずっと田植えは私の仕事になりました。田植えなどの農作業をしながら、その合間合間に庭の整備をして素人ながらの知恵を家族で出し合いながらやってきました。

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トラクターはあるので、いくらでも土を起こすことはできるのですが、植えるのは大変でした。イングリッシュガーデンにすごくあこがれていたので、旭川にイギリスのような庭をつくったらみんな驚くに違いないと夢を膨らませて花を植えました。丸い円を描いて円形状の花壇をつくり、そこにバラを植えたのが、現在のガーデンになっています。ミラーボーダーといって、左右対称につくっているガーデンがあるのですが、ホームステイをしていたところで大変美しい左右対称のガーデンを見て、それが目に焼きついていてつくったものです。
イングリッシュガーデンでは、春から秋までいろいろな花が途切れなく咲くのですね。素晴らしい花壇、ガーデンで、そんな庭を自分なりのアイデアでできたらよいなというのでつくったのが、ここです。

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十数年前につくりはじめたのですが、水田地帯なので園芸店に行ってもベゴニアしか売っていなくて、欲しい苗がなかなか手に入りませんでした。いまはインターネットが進んでいるので世界中の花を手に入れられますが、当時はイギリスで見てきたようなめずらしい花はどこで手に入れればよいのかわからなかったのです。まだまだ勉強不足で、一年草か宿根草かもわからなかったし、誰かが教えてくれるわけでもなかったので、自分でやりながら覚えていきました。「これはきっとすごいぞ」と思って植えるのですが、翌年になると半分ぐらい枯れてしまう、冬の寒さに耐えられない植物もたくさん植えていました。花の図鑑や園芸書をいろいろ見ても、関東中心の情報しか載っていないので、耐寒性が全くわからず、旭川で育つかどうかはわかりません。雑誌で見たとおりの花を植えてみても、翌年見事に消えてなくなっているのを数年間繰りかえしました。たくさんの花をダメにしてきたと思いますが、めげずにがんばって、それがいまのようなガーデンに変わっていきました。だんだん庭らしい雰囲気が出てきましたが、さらに改良を加えて、現在は植物の量を考え深みを与えて、自然風な雰囲気を保ちながら立体感のあるガーデンをつくっています。
上野ファームは決してお金があったからできたわけではないのです。苗も自分たちで種を買ってつくりました。芝生も張芝は高いので、芝の種を大量に買ってきて自分たちの手で撒いて除草してつくりました。木もあったらいいなと思っていましたが、1本2~3万円と高価で、それを何十本も植えたら大変な金額になってしまいます。そんな時、父が「森林組合で白樺の木を100円で売ってくれるらしいぞ」と聞きつけてきて、早速買いに行きました。200本ほど植えても細くて写真ではわからないぐらいの大きさでしたが、「そのうち大きくなるべ」と苗木を植えました。最初は本当に庭になるのかなと思いましたが、「お金をかけずにやる」という上野家のモットーにしたがい試行錯誤して、16年経った現在はこのようなガーデンになっています。

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白樺は成長が大変速い木で、1年に1mぐらい伸びます。はじめしょぼしょぼで隣の家が見えたぐらいですが、いまは素敵な白樺の木立になっています。
「石の上にも三年」ではないですが、植物はすぐに結果が出せなくて、1年後、2年後、木なら10年後のヴィジョンを持ちながら根気よくやっていくのが大変です。いろいろなものを手づくりしながら家族でやってきたので、農繁期が終わってちょっとひと段落すると、来年のためにこういうものをつくってみようよと、いろいろなものに挑戦してきました。おしゃれな石積みやレンガの塀にあこがれて、同じようなものを庭につくりたかったのですが、造園屋さんに頼んだら200万円はかかります。そんな時、父がまた近くの畑で大量に石が積んであるところを見つけまして、「持って行くのならただでやると言ってるから、俺、ちょっと行ってもらってくるわ」と、ダンプ4台分の石をただでもらってきたのです。もらってきた石は、こういう組みあわせがいいかなと素人ながら頭の中で考えて、私と母とで10日間かけてモルタルを塗り、重い石だと10kg、20kgあるので、指を何回も潰しながら石積みをつくりました。この煉瓦塀も手づくりです。近くの農協が倉庫を壊すらしいと聞いて、また軽トラで煉瓦をもらいに行ったのですが、その煉瓦は買えば高価なアンティークレンガでした。それをセメントなどを剥がしながら積んでいくのです。ノウハウがあったわけではなくて、とりあえずセメントがあれば煉瓦をくっつけていけるという感覚で、いろいろな本を見たりして、「こんな形がいいんじゃない?」と積んでいきました。
「雑誌に丸い窓があったよ、カッコいいね」、「どうする、丸い窓?」と言っていると、母が漬物樽を持ってきて、それで枠を取って、セメントが乾いたらそっと抜く方法で丸い窓もつくりました。造園屋さんが見たらびっくりするでしょうが、これは大変うまくいきました。
こうして毎年毎年少しずつ庭の雰囲気を良くしたり、植物を増やしたりしました。庭づくりをはじめた2001年当時から、庭を公開してお客さまに見ていただくよう徐々に情報発信していったのですが、水田地帯に庭をつくったからといって、急に人が押し寄せてくるわけではありません。良い庭をつくっても、最初はどうやって人に来てもらえばよいかわからなかったのです。お金があれば「上野ファーム オープン!」と大きな広告を出せたでしょうが、そんなことはできなかったので、まずはお米のお客さまに農場便りを出して、「上野ファームにガーデンができました。米を買わないお客さまも、ぜひ気軽に遊びに来てください」ということで、数十人のお客さまから始まりました。
庭を公開してお客さまに見てもらうことをオープンガーデンと言いますが、日本でもそれがちょうど2001年に立ち上がりました。北海道では、庭を集めて公開してネットワークで繋ぐ「ブレインズ」という会があって、私は新聞で募集しているのを見て2001年に初めて参加しました。オープンガーデンで上野ファームに来てくれたお客さまは30人ぐらいでしたが、それまでは軽トラのおじさんしか来なかった場所に、30人もの人が花を見に来てくれて、「花を見にこの前ふたりぐらい来てたよ」、「さっき2、3人のグループで花を見に来てくれたよ」とすごくうれしかったのを覚えています。何よりも驚いたのは口コミの力です。おいしいものもそうですが、ひとりの方が来て、「あそこ、おもしろかったから行ってみようよ」、「親戚に花好きの人がいるから今度連れてくるわ」と、花好きの方がまた花好きの方を呼んでくれて、口コミで徐々に徐々に上野ファームの庭を訪れる方が増えてきました。最初の年は30人ぐらいでしたが、翌年は300人、その翌年には1000人のお客さまが来られて、現在は年に8万人ぐらいのお客さま上野ファームのガーデンを訪れます。いろいろな人の力で広がっていき、途中からはメディアの力も出てくるのですが、花が持つ力、引力はすごいなあと思います。
めずらしい花を植えると、お客さまも「この花、どこに売っているの?」、「一株分けて」、「種、ちょうだい」とかいろいろなことを言ってくれるようになりました。私もお客さまから花の情報をいただいて、「あ、そうか、みんなこういう花が欲しいのだな」とわかったことがありました。苗を探すのに私も大変苦労したので、園芸店に売っていない苗をうちで扱えば、もっといろいろな人に来てもらえるんじゃないかなと、もともと野菜の苗をつくっていた小さいハウスで花の苗の直売所をはじめ、売り上げで翌年の苗を買いました。2004年のオープン時には、八百屋さんのようにポケットにお金を入れて、お客さまが買いに来たら飛んで行って苗を売るアナログな苗屋さんでした。そのうち、大分前に牛のいなくなった牛小屋に自分でペンキを塗り、コンクリを打って、こびりついた牛のウンコなども剥がしてきれいにして、苗屋さんをやりました。「花だけではなくて、グッズとか、お洒落な小物とか買えたらいいよね」と言う人もいまして、最初は「みんないろいろ言うなあ」と思っていたのですが、もともと私は雑貨のバイヤーとして仕入れをしており、自分も雑貨屋さんをやりたかったのもあって、「こうして人が来てくれるいまなら雑貨屋さんをやれるかもしれない」と思って、ガーデングッズや家の中でも楽しめるお洒落でラブリーな雑貨を仕入れるようになりました。日本人は花より団子というか、「喉が渇くから自動販売機を置きなさい」と言われると、「そうか、自動販売機か。でも100円で売ってもあまり儲からないな。それだったら、飲み物を飲めるコーナーをつくったらどうかな」と、もともと米の倉庫で掘っ立て小屋だったところをリノベーションして、カフェをつくりました。農家はじいちゃんの隠居小屋など、古いものを壊さないで残しておくことが多いのです。
花を植えたことがきっかけで、いろいろなお客さまと出会い、何もなかった農場がいろいろな人に来てもらえる農場になってきました。農場に花を見に来たお客さまに米も売ろうとしたのですが、花を見にきて米を10kgも買って行く人はそうそういないわけですよね。花好きと米好きは違うことがわかった瞬間でした。いまは米よりもガーデンの方に力を入れていますが、お米を売るために花をつくってお客さまに見に来てもらって、農場を好きになってもらうというのが上野ファームの原点です。

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ガーデンづくりの3つのポイント

今日は庭に興味がある方もいらっしゃるので、上野ファーム流の素敵なガーデンのつくり方のワンポイントなども少しお話ししたいと思います。庭はデザインで成り立っているので、ただやみくもに植物を植えたり、好きな花だけを植えるのではなくて、いろいろと考えて植えています。デザインと言っても大事なことは見えないことが多く、たとえば色を組みあわせるのは大変簡単ですが、実はいろいろな情報を組みあわせていかないと、継続的に見られる良いガーデンはなかなかつくれないのです。自分なりに最も大事にしているのは、開花期を知ることです。宿根草の場合、植えっぱなしで季節によって咲く花がありますので、そういう植物を扱う場合は、開花期を知るのが大切です。ふたつ目は、草丈を知ることです。一株でどれぐらい大きくなるのか、2年後、3年後という長い目で見ていかなければなりません。3つ目は、「庭はひとつの舞台、植物は役者」ということです。どう演出するかは、ガーデナー次第です。
まず、開花期を知るということですが、チューリップは春に咲き、オミナエシは秋に咲くなど、植物にはそれぞれ開花期があります。自分の好きな花がいつからいつまで咲いているか、いちばんきれいに咲くときはいつかが全部わかっていて植えることが大事です。

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これは先ほどお話ししたミラーボーダーで、左右対称に植物を植えています。春はこの隙間にたくさんのチューリップを植えています。5月は花がなかなか咲かない時期ですが、その間球根が中継ぎをしてくれるように設計しています。植物はすごく勢いがありまして、半月もしないうちに同じ場所がこういうふうになっていきます。

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北海道では冬に地上部がすべて枯れてしまいますが、雪が解けると、わっとあふれるように植物が出てくるのが特徴です。半月もしないうちに同じ場所がガラッと変わってしまいますが、植え替えをしたわけではなくて、地面の中に植わっていた植物が大きくなってきたところです。また10日もすると、花が咲いて少し雰囲気が変わります。この時大事なのは、全部の花が一度に咲くようにしてはダメだということです。5月から10月までずっときれいに見せ続けるには、いろいろな開花期の花を集めていかなければなりません。植物が季節になると咲き替わり、ガーデンの風景が自動的に移っていくように開花期をデザインします。そうすると、植えっぱなしの植物が四季折々に入れ代わり立ち代わり咲いて来るので、季節の色が表現できます。6月だけきれいに咲かせようと思えば簡単で、6月に咲く花ばかりを集めれば6月は見事なガーデンができますが、実際花は長くて1ヵ月、短いものは10日しか咲きません。開花期をいかに組みあわせるかが大変むずかしいところです。
自分も最初からそれがわかっていたわけではなくて、何度も何十回も失敗して、「わあ、こんなになっちゃった、全然だめだった」というのを毎年経験しながら、「じゃあ、来年はこういうふうに変えよう」とやってきました。昔は6月、みんなに来てほしいと切に思っていました。ところが8月になると、6月に咲いていた花がすべて終わってしまいました。花が終わった後はきたなくて、穴だらけになってしまいました。6月の花を集中して植えるのではなく、夏の後半に咲く花をもっと植えなければダメなのだなと思いました。「もう花ないね」、「せっかく来たのにあまりきれいじゃなかったね」という、見に来られたお客さまの会話が草取りしながら聞こえるとさみしい気分になりましたが、それはやはり自分の力不足、デザイン不足だなと考えて、めげずにがんばりました。同じ場所ですが、現在は9月にも花がきれいにバランスよく、ずっと咲き続けています。
ですので、開花期を知るのはデザインの上で大変重要です。みなさん、花を買うときは「この花、きれい!」と花の色で買うことが多く、開花期を気にすることはあまりないと思いますが、開花期をいかに知るかは大切です。同じ時期に同じ花を植えると、そこに固まって穴ができてしまうので、植える場所を考えます。ジギタリスを植えると、6月に花が咲いた後ぽっこり穴が開きますが、手前に7月の花が咲いて来ると、後ろは見えないので穴は見えません。8月になってクロコスミアが咲くと、7月の花が終わっても大変きれいに見えます。最後はアスターなど常緑のものを手前に植えておくと、常に緑がきれいに見えます。このように、デザインを考えると常に花が咲いているガーデンをつくることができます。
次に、植えたい植物がどれぐらいの草丈になるのかを知るのも非常に大切です。最初ポットで植える時は小さい苗木で買ってくるわけですが、これが2年後どれぐらい大きくなるか、どれぐらいの高さになるかをある程度把握して植えると、植物が集合写真のように重ねあわせられます。前の人はしゃがんで、後ろの人は中腰というふうにすると、みんなの顔が見えますね。植物も同じで、高さがわかると、このようにスクリーンのようなガーデンをつくることができます。もし高さを知らないで前後を入れ替えて植えてしまうと、後ろの花が全く見えなくなってしまいます。草丈など植物の最終形を知るのも大変重要な要素です。わざと草丈をそろえないで、植物が噴水みたいに噴出しているようなデザインにしたいと思えば、そういう草丈のものをドカンと植えると、こういうワイルドな雰囲気を出すこともできます。草丈を操れるとさまざまな表現が可能になります。

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3つ目のポイントは、自分が勝手に考えていることですが、ガーデンはひとつの舞台ということですね。植物は日本の園芸種だけでも何万種類もあります。ひとつひとつの植物にそれぞれ個性があって、キャラクターがあって、役者だと私は考えています。それを集合させて演出するのがガーデナーやデザイナーの役割です。花を知らない人も、いろいろな植物を見てみると雰囲気はわかると思うのですね。モサモサとしていたり、ツンツンととがって見えたり、フワフワしているな、丸い顔がいっぱいだな、とか、花を知らなくても、花の持っている個性はわかります。色などの話ではなくて、それぞれの役者の個性があって、いかにいろいろな役者を入れてストーリーをつくるかが、庭でも大事です。
写真は上野ファームの一部ですが、煉瓦の素敵なアーチ(農協の煉瓦なので「農協アーチ」と呼んでいます)があって、ネペタ(キャットミント)が植えられていて、両サイドは淡い感じの雰囲気で、これはこれで静かで素敵なイメージではあるのですが、役者が足りないのですね。おもしろくないドラマみたいな感じで。ここに個性派の役者を少し入れるだけで、同じ場所でも雰囲気が変わります。

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少し紫の濃いサルビアと個性的な丸い頭のアリウムという、たったふたりの役者を入れただけなのですが、ストーリー展開ができてきます。これが役者を揃えるという考えです。
みなさんそれぞれ役者を持っていると思いますが、どんなシーンにも主役が必要です。主役がいないドラマ、主役のいない舞台はないですよね。

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フロックスがきれいに咲いているとそれはそれで素敵なのですが、やはり一輪だけでも主役級のものを入れると、ストーリーが生まれてきます。エキストラの中に吉永小百合さんがひとり立つだけですごく素敵な映画になるのと同じですね。でも主役だけでもダメで、庭もいろいろな役者が必要です。どの花が主役でどの花が脇役かは、庭をつくる人がそれぞれ考えることだと思います。キャスティングは演出家の仕事ですので、好きな役者を連れてくればよいのですね。女優顔は派手な顔の人なので、私の中ではバラやダリアなど、「この人、ひとりいるだけで凛として引き立つわね」というのが主役級の花です。誰もが「これは主役にしたい」という花があると思うので、それを庭に入れて、どんな脇役で自分のストーリーとして庭をつくるかです。自分だけがわかる楽しい感覚はすごく大事です。花の色を合わせたりして、華やかな花園やバラ園をつくるのももちろん大事ですが、そうではなくて、植物は本当にいろいろな選択肢があるので、自分だけが拾ってきた役者のようなものが実は主役になれると思うのです。私さえ「この人がいい」と思っていればよいのです。ボタンなど日本的な凛とした艶やかさ、和の雰囲気がある花がありますね。ディーン・フジオカさんのような人がいると素敵じゃないですか。「私のディーンさまはこれね」みたいに。でも、ディーン・フジオカさんが100人いるドラマは全然おもしろくないと思うのです。
アリウム・ヘアーという花などは、満開でも「えっ、これ何?」と思いますが、こういうおもしろい脇役がいるから、ドラマがおもしろかったなと思うわけです。主役だけでなくて、自分なりに「この人がいるから絶対おもしろい」という配役がありますね。そういう配役を自分の庭に映し込むことが大事です。庭はストーリーを描く作業と同じです。単純に好きな花や色を合わせるのではなくて、自分のストーリーをいかにオリジナリティーあふれる形で表現するかが大変大事なことだと思います。
最初に庭をつくる時はこんな感じだと思います。花を植える時って、一年草だったら最初から花が付いた状態で植えられるのですが、宿根草は最初は葉っぱの状態の小さい苗で植えることが多いです。結果が出せるのは、1年後だったり2年後だったりするので、自分の頭の中で想像してそれがどういう風景になるかを妄想しつづけるしかありません。結果が見えるのは咲いてからです。フラワーアレンジだと、きれいな花を束にして目の前で素敵なものができるのでわかりやすいのですが、庭は年数がかかります。庭が育つ楽しみを知るのはひとつの醍醐味かなと思います。植えたらどんなガーデンになるかはなかなか見えないと思いますが、私の頭の中では3Dになっています。2Dの図でも頭の中でCADにあげて、どんなふうに重なるかを想像します。秋に植えたものが翌年にはどういうガーデンになるのか。背の高いものも欲しいし、黄色い海の中に青いゼラニウムを浮かべてもみたい。いろいろな植物を無造作に植えてある雰囲気がありますが、実際には植物が戯れるように咲いた時にどうなるかを頭の中で考えてつくっていきます。

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写真は、ルリ玉アザミですね。フロックスやモナルダも植えています。テクスチャーが大事ですが、丸いものや柔らかいもの、点と線でも表現できます。役者をいろいろ揃えていけば、自分だけしか表現できない庭をつくり続けていくことができます。それが庭づくりのおもしろいところです。植えた時は、良くわからない、どうなっちゃうのという感じですが、翌年になると想像どおりだったなと思う時もあり、全然イメージと違ったなと思う時もあります。蓋を開けてみるまでわかりません。花火をつくる人が「打ち上げてみるまで、どんなふうに開くかわからない」というのと同じです。その繰りかえしがガーデナーの仕事です。数年かけて絵を描き続けるのと同じなので、根気も要りますし、途中で修正することもたくさんあります。何年も何年もかけてつくっていくことで、自分なりのガーデンが見えてくる、それが庭づくりのおもしろいところだなと考えています。

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庭づくりで気づかされたこと

こうして庭と向き合って、いろいろな植物を組みあわせてきましたが、庭をつくる上で大変大事なことに気づかされました。最初はイギリスに行って本物を見てきたこともあって、イギリスの庭をそのまま旭川につくりたいと思っていました。若い時は「イングリッシュガーデンを旭川につくったら大人気になるぞ」と思っていたのですが、2、3年もつくっていくと、どんなにつくってもイギリスの庭には追いつけないし、イギリスでしか感じられない何かがあると思うようになりました。自分がつくっている庭を安易にイングリッシュガーデンと呼んでしまってよいのかなという迷いが出てきました。もちろん、イギリスと北海道の気候は似ているところがありますが、イギリスは北海道のように雪が降ってマイナス30℃になることはないので、北海道では育たない植物もあります。イギリスは200年の歴史のあるガーデンもありますし、そのようなものを1、2年で真似しようとしても真似できないのはあたりまえです。自分なりの庭づくりについて少し足踏みしていた時期がありました。もしイギリスに行かなければ、ただのまねでイングリッシュガーデンだと思っていたと思うのですが、その場の空気でイギリスの庭を見てしまうと、やはり本物には追いつけない何かが自分の庭にはあると感じました。
そんな時にヒントをくれたのが、北海道外から来るお客さまの声でした。北海道は関東や関西よりも冷涼な気候です。夏は暑いですが、夕方になるとさーっと涼しくなって、寒暖差が大きかったり、梅雨がなかったり、猛暑が続かなかったりするので、本州とは気候がかなり違います。その違いから、私があたりまえだと思っていることをみなさんに質問されました。「なんでルピナスがこんなに大きくなるのですか?」と聞かれたのです、ルピナスは田んぼのあぜ道に植えていたもので、北海道では放っておけばその大きさになります。手間はかからないし、誰でも育てられる植物だと思っていたのですが、道外から来た人が「これ、本当にルピナスですか?」と聞いてくるので、「ルピナスですよ。何か違いますか?」というと、「大きさが全然違います」と大変驚かれるのです。こんなあたりまえの花になぜそんなに驚くのかと思いました。北海道のルピナスは一粒の種でこんなに大きくなるのですね。一株でも翌年には大きくなって、花もいっぱい咲いて、毎年越冬するので、毎年毎年このルピナスが同じ場所に咲くのです。本州のルピナスは花壇に植えているのも小さいですし、鉢植えで咲いたものを花壇に植えることが多いと思いますが、夏を超すのが大変むずかしい植物なのですね。高温多湿が大嫌いなので、どんなにあこがれて植えても本州では夏の間に腐ってしまうのです。私はそれを知らなかったので、こんなに簡単に育てられる植物をなぜめずらしがられるのか不思議だったのです。お客さまからいろいろな話を聞いていくうちに、北海道だからこそ育つ花があるのだなと気づくようになりました。それからは皆さんと立ち話の情報交換で、「北海道はこんなところが違うよね」と聞く度に、ほかにもそれまで全然知らなかったことがたくさんあることに気づきました。

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私は生まれも育ちも北海道なので、道外の庭づくりについて全く知らなかったのですが、道外のいろいろなところからお客さまが来られるようになって、「あ、そうか、北海道の庭と本州の庭はこんなに違うのだな」ということがよくわかるようになりました。北海道では雪が蓋をしているので、雪が解けてから花が一斉に咲きます。雪が解けてから競走馬が一斉にスタートするようなのが北海道の庭です。梅も桜も一緒に咲きます。バラもアジサイも一緒に咲きます。関西だと、バラが終わって、アジサイが咲いて、と開花期はなかなか重ならないと思いますが、北海道は短い夏の間にいろいろな花が咲くので、開花期を重ねることができます。デルフィニウムをわっと一斉に咲かせたり、ルピナスを毎年咲かせたり、みんなが絶対に夏咲かせられない花を何も考えずに咲かせられるのは、実は特殊だったのだ、北国でしか表現できないものがあるという大事なことに気づかされました。先ほど何気なく白樺を植えたと言いましたが、本州の方は平野部で白樺を見ると、「わあ、白樺!」と、白樺だけで喜んでくれるのですね。「こんなのどこにでもあるのに」と北海道の人は思うのですが、関西では標高の高い山に行かないとむずかしいかなと思います。北海道では何も考えずに普通の庭に白樺があったり、その辺の林に白樺が生えていますが、あたりまえの風景に実は価値があったのだなと気づかされました。白樺とチューリップの風景のように、北でしかできないデザインがあったのだなと思うようになりました。「花の色がすごく濃いですね」とよく言われるのですが、それも特別濃くする肥料を使ったりしているわけでもなくて、北海道は陽射しがある程度弱いので、花の色が抜けにくく、いつまでもきれいな鮮やかさが保てるのです。ラベンダーが大変きれいなのも、昼と夜の寒暖差があるので、花の色が締まるのですね。これも重要なことです。バラの専門家は、「北海道のバラは花弁が多いね」と言うのですよ。これも温度の関係で、蕾がゆっくり大きくなると、蕾の期間が長いので、中で花びらの枚数が増えるそうです。関西だと一気に暑くなってバッと咲くので、花びらが少なくなります。同じ品種でも北と南のバラは表情が違うようです。それも比べなければわからないですね。
それまで私は「北海道は冬も長くて不利だな、本州は暖かいからいろいろな花が育って羨ましいな」とあこがれて思っていたのですが、逆に北海道だからこそ知らず知らずに表現できる素晴らしい庭づくりがあったのだと教えていただきました。それまでイングリッシュガーデンにこだわっていたのですが、背伸びして「これはイングリッシュガーデンだ」と言うのではなくて、北海道ならではの植物が北海道の気候風土にあわせて勝手につくれてしまうガーデン、その庭こそ、北海道ガーデンだったのだなと気づかされました。イギリスはイギリスの庭だからイングリッシュガーデンと言うのであって、北海道は北海道の庭だから北海道ガーデンと言えば、自分ならではのオリジナルの庭ができるのではないかと思うようになりました。現在は北海道ガーデンという言葉を広げていきたいなと思って庭づくりをしています。

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庭から繋がり広がる世界

北海道には魅力のある野山の花たちがたくさんあるので、それらを取り入れることによって北海道でしか表現できない庭づくりができると思いますし、神戸では神戸ならではの気候で育つ植物がありますので、それを自分の庭に活かすことができます。その土地ならではの庭が全国各地にあるのだなと思います。こちらの庭を北海道に持っていくと全然うまくいかないと思いますし、お互い、土地に合う庭づくりをしていくしかないと思います。私自身は庭だけではなくて、北海道の農村風景は庭みたいにきれいだとみなさんおっしゃってくださいますので、北海道の農業が作る畑の美しさ、ジャガイモの花や蕎麦の花も北海道ガーデンかなと思ってやっています。
決して北海道の庭だけが特殊なのではなくて、みなさんそれぞれの地域で作っている庭がほかの地域では真似のできない庭づくりだったりするのですね。その土地ならではの庭づくりに気づいて、その土地のオリジナルの庭づくりができるのではないかと思います。私自身は、庭は単純に趣味でやるとか、花だけを見せる場所ではなくて、庭をきっかけに農場がいろいろな人の繋がる場所になればという想いがありました。庭のおかげでいろいろな人が集まってくれたので、今度はその人々にいろいろな情報を発信するなど、いろいろなことを庭でやっていきたいという想いもあります。それで、こういった音楽会を庭でやったり、フラダンスやよさこいをガーデンにやって来られた人々に楽しんでいただいたりしています。庭は時にはステージのような役割もするので、いろいろなジャンルのことに挑戦しています。花を見に来られる方は音楽も好きな方が多く、花以外にも何か活動があると、「おもしろかったよ、また来るね」と言っていただけるので、庭をひとつのステージとして年に1、2回、ガーデンイベントを開いています。ずっと無料でやってきたガーデンだったので、見にきて応援してくださる方に音楽で感謝を表現したり、ウエディングをやってみたいというお客さまがいたら、「じゃあ、庭でやってみましょう」とやってみることもあります。自分はお茶をやっていませんが、外でお茶を楽しむというのを雑誌で読んで、自分の庭でお茶会をやってみたいと思っていたら、お客さまにお茶の先生がおられて相談したところ、「ぜひ、おもしろいからやってみましょうよ」と生徒さんをたくさん連れて来てくださって、一般のお客さまと一緒に野点を楽しんで、植物を見ながら抹茶を飲むイベントを何度かやりました。いま、コミュニティーガーデンという言葉がありますが、庭はいろいろなことに繋げていける場所なので、単純に花好きだけを繋いだり、花だけを見る場所ではなくて、いろいろな可能性を考えていけるのではないかと思います。
週末マルシェというカッコいいなまえの催しは、毎週週末、近郊農家のおばちゃんたちが自分たちの野菜を持ってきて、テントの下で野菜を売っているだけなのですが、これもまた人気があります。みんなで料理方法を話して、「私が作ったんだから、まずいわけないでしょう!」とかファンが増えてにぎやかにやっています。地元の企業さんとコラボレーションして、収穫祭や食のイベントなどもガーデンでやったことがあります。
自分自身は、農家の庭がいろいろなものに繋げていけると初めから思っていたわけではありません。「こんなことできたらいいな、こんなことやったらおもしろいんじゃないかな」という想いを庭に込めながら庭づくりをやってきた結果です。良い結果が出たりお客さまに喜んでいただいたりした瞬間は、やはり「農場に庭があって良かったな」と思うようになりました。これからも新しい可能性が庭から広がっていくのではないかとも思います。

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植物の持つ力

単純に趣味だけの世界ではなくて、花や植物が持つ力はいろいろなものに転換していけると私は考えています。いま、食育、木育、花育という言葉がありますが、「花好き少女でもなかったのに、なぜこんなに自然に庭づくりができるのかな」と考えたときに、子どものころに野山を走りまわって、常に植物を身近に感じていたことに思いあたりました。木に登ったり、そろそろキイチゴが赤くなっているかなと見にいったり、小さいころに植物や自然がありました。子どもながらにわかっていたことがたくさんあったと思います。今の時代には、特に子どもの五感を刺激する方法を考えることが大事なのではないかと思います。花育と言っても、花の育て方を教えるのではなくて、庭や自然から子どもが勝手に感じ取るのが、大人になってから大事な要素になっていくのではないかと思います。学校で教えられて、種を撒けば芽が出るとわかるのではなくて、「きれいだな、虫がいる、この花くさいね」と、大人には感じられないものを子どもはたくさん感じます。教えるのではなくて、花のある空間に子どもを連れていったり、自然の中に連れていったりするだけで、何か良い刺激があるのではないかと思います。
写真の「くるみなの庭」は去年、隣町の当麻町に作った小さな公園です。最初は当麻町の町長に「うちの町にもガーデンをつくりたい」と言われたのですが、新たにガーデンを作っても人がすぐ来るわけでもないですし、子どもたちの教育にも積極的な町だったので、花育というテーマで、普通の公園では感じられないような公園を作ったらどうかと提案しました。特別な遊具はないのですが、花をはじめいろいろなものがあって、木にふれたり、花にふれたり、子どもたちの心を育てることをテーマにした公園のプランを提案させていただきました。いろいろな企業と一緒に作った公園ですが、エキサイティングな遊具が特別なくても、虫を捕まえたり、走り回ったり、子どもは自分なりに遊びを見つけています。私もどうすれば植物と触れ合える仕掛けができるかなとデザインを考えました。「草の迷路」は、ただの草原ですが、草の迷路を抜けるような形で子どもたちに楽しんでもらいます。単純なものですが、見え隠れするような草の中を子どもたちが自由に走り回っています。いまの親が急に「あんた、自然の中に行っといで、森に行っといで」ということにはならないので、単純でもきっかけを作るのがガーデンの大事な役割かなと思います。花を自由にもぎとってよい場所も作っています。、いま公園の花壇は「絶対ちぎっちゃダメ」というルールがあたりまえですが、昔、私はその辺の花をちぎってままごとに使ったり、色水を作ったりした記憶があります。いまの子どもたちはそういう経験がないように思うので、あえてエリアを区切ってままごとに使える花や香りのする花を植えて、「好きな花をちぎって遊んでいいよ」と、子どもが勝手に遊べるようにしています。
新しい可能性としては、去年(2015年5月30日~10月4日)、上川町の大雪森のガーデンで「北海道ガーデンショー2015大雪」というアートイベントをやりました。ふだんはガーデンなのですが、花と一体になれるアート、いろいろなアイデアを全国から募集して、そのアイデアを採用して町で創る、花とアートを融合させた新しい試みです。宴をテーマとして森の中にいろいろな庭をアーティストに表現してもらって、北海道の庭をもっともっとこれから盛り上げていこうということでやりました。庭でおもてなしして日常ではできない体験をしてもらおう、庭をきっかけに、いろいろなものに繋げて楽しんでいただこう、環境全てを庭から発信して楽しんでもらおうと、北海道のガーデンはがんばってさまざまなチャレンジを模索しています。

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北海道ガーデン街道

庭で繋がった仲間が、庭を観光資源にしようと、6年前に「北海道ガーデン街道」を立ち上げました。もう北海道ガーデン街道へ行った方、おられますか? 結構いらっしゃいますね、ありがとうございます。旭川から十勝まで8つのガーデンが集中しているルートなのですが、上川町には大雪森のガーデン、旭川には上野ファーム、富良野にはドラマの舞台になった風のガーデン、清水町には十勝千年の森、今年台風の被害が大きかったのですが、がんばって再開しているガーデンなので、ぜひ行っていただきたいと思います。幕別町には豆屋さんがやっている十勝ヒルズ、帯広には美しい樹木を主体にした真鍋庭園。同じ帯広には庭のパイオニアのおばあちゃんが60歳からつくりはじめた紫竹ガーデン、中札内村には六花亭さんがやっている六花の森があります。六花亭の包装紙に描かれている野草を育てている森です。このような個性豊かなガーデンが連携して北海道のガーデンを観光として盛り上げようとしているのが、北海道ガーデン街道です。
十勝から旭川はさまざまな農作物が取れる地域です。十勝は畑作地域、富良野、旭川は稲作地域なので、食べられるご当地グルメも変わってきます。観光において何よりも大事なのが宿泊してもらうことです。8つのガーデンを回るには1泊ではむずかしいので、北海道のいろいろな地域に2泊、3泊と泊まっていただいて、お金を落としてもらって、いろいろな地域が盛りあがればいいなという想いもあって、ガーデン街道を繋げています。ガーデンだけを繋げるのではなくて、各地域のホテルさんにもいろいろなお声がけをさせていただいてガーデンランチを作ってもらったり、ガーデンルームも企画しています。庭好きの人が寝る間際までガーデンを感じられるような部屋も作ってもらっています。さまざまな業種が地域一丸となって作るのがこれからの北海道なのかなと思っているので、今いろいろな企業さんと連携して北海道の庭をどんどん盛り上げようとがんばっているところです。

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笑顔の咲く庭

最後に、植物の力についてですが、私自身本当に何もわからないところから植物を育てて、植物に教えられて来たことがたくさんあります。失敗もたくさんあって、すごい数の花を枯らせましたが、失敗が次の経験に生かされていまの私があるのかなと思っています。素晴らしいのは、花があるところには必ず笑顔があることです。花を見て急に具合が悪くなる人はめったにいないくて、奥さんに連れてこられたお父さんも、最初むすっとしていたのに、庭を歩いているうちに「こんなのも意外ときれいだな」と言って笑顔になっていくのですね。花は人を笑顔にする力があります。植物は人を感動させる特殊な力があります。
写真は、4月24日の風のガーデンです。何もなさそうで「ここガーデンなの?」とみなさん思われるでしょうが、土の中に2万株の植物が植えられています。これが2ヵ月後には花でいっぱいになります。植物のすごい力ですし、そのエネルギーを目の当たりにすると大変心が動かされます。花は本当に人を元気にする力があるので、病気で心が弱っている人にも力を与えてくれます。花は喋りませんが、見ているだけで気持ちが明るくなったり、「いいわね」と思ってもらえると思います。花を育てている方も会場にたくさんおられると思いますが、咲いた花を見るだけではなくて、育てる過程も大変おもしろく、学びや育てる楽しさも植物にしかない力だと思います。庭で花が咲いたときには必ず笑顔の花も咲くのだなと思っています。これからも笑顔が咲く庭を農場で作っていって都市と農村の交流点としてさまざまな活動をやっていけたらいいなと思っています。

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心の庭を育てよう

庭づくりをしていく中でうまくいかないこともあり、お客さまが来ないなどいろいろな問題もたくさんありましたが、そんな時に自分の心に残る言葉に出会いました。イギリスの女性作家の言葉で、「君の心の庭に忍耐を植えよう。その草は苦くとも実は甘い」という一文です。心が弱っているときにたまたま見たのですが、心に響きました。庭を作っていく中で、人の心にも庭のようなものがあるのだと思っています。それは踏み出す勇気だったり、忍耐だったり、努力だったり、いろいろなものを心に植えつけながら自分なりの庭づくりをしていくのだと思います。
庭などをやらない人の心の中にも、庭づくりのようなものがきっとあると思っています。人生そのものものが庭と似ていると思います。栄養を与えないと花が育たないのと一緒で、自分の心の中にいろいろなものを植えつけながら生きていくのは大事です。花は植えなければ咲かないし、種も撒かなければ咲きません。夢もそうです。夢の元になるものを植えなければ、絶対に夢を咲かせることもできません。どんなに大変でもまず植えること、一株でも植えて、それを咲かせる。それが大事だと思います。もちろん、植えた花が100%育つと保障されているわけではありません。植物の世界もそうで、植えた苗が来年絶対に花を咲かせることはありません。突然枯れることもありますし、虫に食われたり根腐れしたりします。でもそれにめげていたら、庭は一生作れません。やはり植えて、育ててが大事だと思います。私も心が折れそうになることをたくさん経験してきましたが、常に勇気や努力やいろいろな人の心を自分の心の庭に注入しながら、植物に背中を押されて庭づくりをしてきたのではないかと思います。植えるものは何でもよいと思います。きれいな花だけを植えなくても、自分が良いと思うものを植えればよいので、それも夢と一緒ですね。必ずしもみんなと同じ夢を持つ必要はなくて、自分が「これがいい」と思えばそれを植えればよいので、庭づくりは自分の夢や人生を育てていくことと連動しているなと思います。ぜひみなさまも素敵な庭づくりをしていただけたらと思います。今日はありがとうござました。

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<第2部>

お客さまとのQ&A

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お客さま:
上野ファームでは宿根草が多いそうですが、ストーリーは毎シーズンで変わるのでしょうか。また、お客さまからのリクエストで作ったガーデンやその他の工夫などはありますか。

上野さん:
上野ファームでは9割が宿根草ですが、細かく言うと二年草もありまして、一年草ももちろん、好きなものは扱っています。宿根草は、植えっぱなしで毎年出てくるので、組みあわせは毎年同じになるのですが、場所によってテーマを変えています。ワイルドガーデンや、草も入れてナチュラリスティックにしている自然風ガーデンエリアなど、9つぐらいのエリアに分けて、それぞれ自分なりのテーマを作って、お客さまに華やかな空間を楽しんでもらいたいと、色や形を工夫しています。ストーリーは毎回変わっていくわけではないのですが、何年も庭をつくっていると、ソファーのクッションやカーテンがきたなくなってきたら色を変えたくなるのと同じように、たまに模様替えしたくなるのですね。少し違う風景を作りたい時や、新しいアイデアが閃いた時には、思い切って宿根草を全部抜きます。抜いて別の場所に移動して、一度リセットして、新しい組みあわせを調整することもあります。毎年何ヵ所かは植え替えをしていますね。植物は必ずそこに居ろと言っても、増えていって動いていくので、常に修正したり、場所によってストーリーを変えていったりします。
お客さまからのリクエストで作ることは少ないです。自分のガーデンは自分の感覚で作ることが多くて、逆に、こんなふうに作ってお客さまを驚かせようと、ガーデンにアスパラを入れたりします。アスパラは花が咲くとふわふわとなってとてもきれいですので、そういうサプライズもガーデンに取り入れたいと思っています。

フェリシモ:
先日上野ファームにおうかがいしたときに、一部植え替えをしているのを見ましたが、いまいちばん新しい花は何ですか。

上野さん:
ピンク系、白系、赤系など色別に作っているガーデンがあるのですが、忙しくて何年も手を入れられなかったけれどもやり直したい場所が一ヵ所あって、ピンク系と赤系のエリアを思いきって植え替えています。

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お客さま:
最近はイノシシやアライグマが出て、畑を荒らされて困っています。上野ファームに行くと鶏がいましたが、球根を食べてしまうことはないのでしょうか。

上野さん:
北海道はサルもイノシシもいませんが、エゾシカが畑などに大きな被害を与えます。ガーデンもエゾシカでやられることが多いですが、上野ファームは幸い周りが水田地帯なので、エゾシカが渡ってくることはあまりなくて被害もありません。大雪森のガーデンと風のガーデンも私が庭をつくっているのですが、シカがすごいので、お客さまがおられなくなったら、電柵で囲ってシカが入らないようにしています。
上野ファームではウサギや鶏を放し飼いにしていますが、鶏が悪さすることはあまりありません。逆に幼虫やミミズを見つけて食べてくれます。ウサギを放し飼いで飼っていた時は、植物を食べられましたが、たくさんある中で少し食べるだけなので大きな被害はありませんでした。風のガーデンではバラを全部食べられたこともあります。

お客さま:
上野さんのご家族の絆を感じました。家訓などはあるのでしょうか。

上野さん:
いつも仲良しとか、スクラムを組んでいるとかの家族ではないのです。「俺、ここにこれを置くぞ」とか、勝手にみんな好きなことをやっていて、一緒にする作業もありますが、相談するよりは、やりたいことを家族それぞれがやっています。母はマザーズガーデンというエリアを作っていて、自分の好きなものを植えています。それぞれの好みや植え方も違うので、私と母が共同でデザインを考えることはありません。父は庭を特にはやらないのですが、農業と兼業で石材業をやっていた時代がありまして、勝手に地蔵をガーデンに持ってきたり、「やめてくれ」と言っても「俺は絶対これを置きたいのだ」と言って、山の上に置いたりしています。射的山の上にある縁結びの地蔵や、その後ろにある孤高の木の看板も父が勝手に置いたものです。チームワークがありそうでないのですが、家族だからそれぞれ自分なりのアイデアを出し合ってやっています。妹はカフェなど手伝っています。デザインの仕事をやっていたので、チラシを作ったりもしています。みんなそれぞれの特技を活かしてやっている感じです。父よりも母の方が力があるので、力仕事は母がやっています。そんな家族です。

お客さま:
前職の経験や生まれ育った環境で生かせたことはありますか?

上野さん:
植物を組みあわせていくのは服を組みあわせていくのと同じ考えなのですね。デパートなどのショーウィンドウでは、春なら春カラーの服などを合わせていますが、アパレルをやっていた経験から、服からヒントが来ることは多いです。色合わせはガーデンの本を見てアイデアが浮かぶよりは、インテリアショップに入ってカラーコーディネートを見て、「あの花の色とあの花の色に似ているから、この組みあわせはガーデンでできる」とか思っています。差し色で赤を入れるとか、服の組みあわせを考えるとか、アパレル時代の経験は生きていると思います。高校の時は3年間ラーメン屋でバイトをしていまして、素早く動くということはそこで教えられました。いろいろなアルバイトを経験しましたが、いま考えると、すべて庭に生きていると思います。ホテルの荷物持ちのバイトも接客の勉強になりました。

フェリシモ:
上野さんのガーデンのイラストは独学ですか?

上野さん:
そうですね、独学です。大学は文化人類学でしたから花とは無縁でした。専門的な勉強はしたことがありませんが、自分なりに考えたり、本を見て「こう考えたらわかりやすいのだな」と独学でやっていたりすることが多いです。

お客さま:
9月初旬に上野ガーデンにおじゃましました。荒れ放題の我が家の庭も少しきれいにしようと思って種を買って帰ったのですが、いざはじめようとすると何から手をつければよいのかわかりません。庭づくりを何からはじめればよいのか具体的なアドバイスをお願いします。

上野さん:
草だらけになったり、花が生い茂っていたりすると、「もうやりたくない」となってしまうので、一度すべて抜いてみるというのも大事です。まっさらな部屋に家具を置くのは簡単ですが、ゴミ屋敷に素敵な部屋を作れと言われてもむずかしいですね。株を抜いたら乾かさないように土をつけて取っておいて、何もない状態を一部でもよいので作ってみます。それから好きな花を買って来たり種を撒いたり、取っておいた株を戻したりします。力仕事が大変だったら、デザインは自分でして、造園屋さんに土を入れてもらったりもできます。
草取りもタイミングが大事です。草の種ができてから取っても何の意味もないですから、春先に種がつく前に一網打尽に取ってしまって、それを何度かやることが大事です。草が大きくなってから取ると、今度は種が落ちるのですよ。畑を起こして草の種を撒くことになるので、草取りの呪縛からは永遠に逃れられなくなります。草に種がついてから草取りをすると本当に危険です。種が完熟していると、少し揺らすだけで種がぼろぼろ落ちるので、種からすると、「起こしてくれてありがとう」という感じになって、また来年生えてきます。根気よく春先に2~3年取り続けると、大分雑草が少なくなります。草はいつも取り続けるのではなくて、タイミングが大事です。春先の葉っぱがわーっと茂ってくる前に草取りをがんばりましょう。

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お客さま:
これまで植えた花の中で、大成功だったとか大好きな植物を教えてください。また、失敗したとか、もうチャレンジしたくないという花はありますか。

上野さん:
好きな花にエキナセアがあります。いろいろな種類があって、八重咲から一重のもの、大きいものから膝丈ぐらい小さなものまであるし、作るのも楽で、長く咲いてくれますし花も鮮やかです。群植すると大変きれいな花です。初心者でも簡単に育てられます。グラスという、ふわふわした雑草のような草とエキナセアを合わせると、とても雰囲気が良くなります。最近はグラスと植物の組みあわせに凝っていて、草原の中に花が咲いているようなイメージがブームなのですね。
昨年、アンジェリカを植えると3mぐらいに大きくなって、みんなを驚かせました。植物で驚かせたいと思っていたので、「やった!」と思いました。みなさん、そこで写真を撮っておられました。アンジェリカは7月から8月ぐらいに花が咲きます。カメムシがたくさん来ましたが、想像よりもきれいな花でした。
失敗したことはたくさんあります。10年ぐらい前に知識不足で、とんでもない植物をたくさん植えていました。増えすぎてどうしようもない植物がありますよね。ミントもそうで、安易にミントを植えるとミント畑になってしまいます。たった一株植えたのに、3年後には10倍ぐらいになっている花があって、「ここに植えなければよかった」と思う花がいまでもあります。石鹸の原料になるソープワート(シャボン草)は、花はとてもきれいなのですが増えやすくて、抜くのに3日かかりました。根が1cmでも残ると再生して出てきてしまうので、本当にきれいに取らないとダメなのです。昔の自分に戻って、「ここに植えるな!」と言いたいですね。とても良い花ですが、場所を考えて植えるのが大事ですね。

お客さま:
チューリップは球根を毎年植えないときれいに咲きませんが、どうされていますか。

上野さん:
そうですね、上野ファームでもチューリップは毎年追加して植えています。球根を掘りあげても、よほど土が肥えたところに植えて球根を太らせない限り、また花が咲くことはないですね。葉っぱしか出てこなかったり、花が小さかったり、2~3年でダメになります。よくある赤や黄色のチューリップは毎年出てきたりしますが、最近の高いチューリップは出てこないですね。上野ファームはいろいろな花を見てもらいたいので、割り切って毎年植え替えしています。色のテーマを変えたいときは、すべて抜いてしまって、また新しいのを植えます。チューリップは翌年必ず咲いてくれるので、気軽に変えられる春の風景です。「今年のテーマカラーは黄色にしよう、来年はピンクと紫にしよう」とか考えて楽しめるのが球根の世界かなと思うので、少しぜいたくをしようと思って投資してみてください。

お客さま:
家で花を植えているのですが、虫がきて丸裸にされることがあります。広大なガーデンで、虫や病気にどのように対処されていますか。

上野さん:
虫は花を食べたかったり蜜を吸いたかったりするので、花がある限り来るものですね。うちも「来るな!」と思っているのですが、来ます。気にしないで食べられているところもあるのですが、集中して食べられる花もあるので、そのようなところでは殺虫することもあります。完全無農薬にはしていないので、病気になりやすいものは殺菌して使うこともあります。薬が嫌な場合は、手で潰していくしか、植物によっては蠅撮りリボンのように虫をくっつけるものを使ったりします。虫を臭いでおびき寄せて捕まえる道具もありますが、すべての虫に通用するわけでもないですね。特にどんな虫にお困りですか?

お客さま:
カメムシや小さいアブラムシがよく来ます。ひとつひとつ潰すのも大変です。

上野さん:
本当に無農薬でやろうと思えば、手で潰すしかないのですよ。アブラムシは牛乳を薄めてかけたりとか、農薬ではないいろいろな方法がありますが、絶対に農薬を使わないガーデンの場合は、虫を根気よく手で潰していくしかありません。フランスのガーデンで経験したのですが、朝一番の仕事はナメクジを取ることでした。フランスのナメクジは大きくて、朝露で植物が濡れているときにギボウシなどの葉っぱを食べるのですね。200匹ぐらいいるのを手でひとつひとつ取って塩水に浸けていました。北海道にナメクジはいないのでびっくりしましたが、庭の奥さんに言われて、朝、全部手で取っていました。
1匹の幼虫でも1日で葉っぱを全部食べてしまう場合もありますので、ある程度手間を省いて薬を使いたい場合は、根元に置いておくだけで害虫が来なくなる顆粒もあるので、事前予防でそれを撒いておく方法もあります。

お客さま:
バラを植えているのですが、病気がたくさん出て、薬代が高くつきます。肥料も専用のものを買うと値段が高いのですが、安い値段で土づくりなどする方法を教えて下さい。

上野さん:
バラは土づくりが大切ですね。地力がないと病気になりやすくなります。化学肥料ばかりだと栄養素が偏って土があまり良くならなかったりするので、有機質の馬糞がバラには特によいです。上野ファームも宿根草は1回植えるとあとから根元に堆肥を入れることができないので、最初に腐葉土や馬糞、最近では鶏糞やバーク堆肥を混ぜたものを土によく鋤き込んで、それから植物を植えるようにしています。バラの肥料が高いのは、業界の戦略でもあるのですよ。可愛い子どもにはお金をかけたいのと同じで、みなさんバラにはお金を使うのですね。バラの肥料は、パッケージに惑わされて買ったりすると、300円ぐらい高かったりしますが、ほかのものと成分は同じです。バラにはバラの肥料を使わなければならないわけではなくて、もともと有機質の馬糞や腐葉土を土によく混ぜて地力をアップすれば、実は肥料をそれほど使わなくても、良いバラを咲かせることができます。一度、植える時に堆肥、牛糞よりも馬糞が向いているので、馬糞を腐葉土とよく合わせて地力を上げてみてください。バラは木なので、土を1mか、せめて80cmぐらい深めに掘って、堆肥だけでもダメになってしまうので、土と堆肥をよく混ぜて植えつけてあげると、かなり良いバラになると思います。頑張ってください。

フェリシモ:
最後に、自分のお庭とお仕事を、ご自身の手で切り開いてこられた上野さんから、一生をかけてやり遂げたい夢についてお聞かせ願いたいと思います。

上野さん:
庭づくりは一生をかけても完璧なものをつくれないと思っています。10年ぐらいやっていますが、満足のいく庭をつくれたことがまだなくて、こっちがよくなれば翌年こっちがダメになっていることがあります。建物と違って植物は動くデザインなので、どんなにその年きれいに咲いても次の年になると乱れてしまって、「あれ、去年あんなにきれいだったのに、ここ変になっちゃったな」というのがよくあります。常に手を入れていかないと美しいガーデンはできないので、自分が本当に素晴らしいと思えるガーデンとは何かを、本当に一生をかけて探り続けるものだと思っています。それが夢ですね。生涯かけて庭づくりをして、自分なりのガーデンを模索していきたいなと思います。まだまだチャレンジしたことがない植物はたくさんあります。野草もそうですが、もっといろいろな植物を知って、育ててみたいと思っています。また、先ほど庭だけではなくていろいろなものに繋げたいというお話をさせていただきましたが、庭からいろいろなものに繋がる可能性も、庭づくりを楽しみながら探していきたいと思います。

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Profile

上野 砂由紀(うえの さゆき)さん<ガーデナー>

上野 砂由紀(うえの さゆき)さん
<ガーデナー>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
北海道旭川市生まれ。イギリスでのガーデン研修を経験後、農場の魅力づくりのため上野ファームで家族とともに庭づくりに着手。2004年、ガーデン雑誌『BISES(ビズ)』誌上で行われた「ビズ・ガーデン大賞」にて大賞・グランプリを獲得。2008年秋に放映された倉本聰脚本のドラマ「風のガーデン」の舞台となる庭をデザイン・制作し話題となる。北海道の気候風土で育つ植物がつくりだす庭を「北海道ガーデン」と考え、北国に合わせた庭づくりと魅力発信に奮闘中。著書に『上野さんの庭しごと』(エフジー武蔵)、 『北の大地の夢見るガーデン』(集英社)、『上野砂由紀のガーデン花図鑑』(芸文社)などがある。また、雑誌『BISES』(芸文社)、『園芸ガイド』(主婦の友社)でも連載中。 十勝~富良野~大雪の8つの庭園を結ぶ「北海道ガーデン街道」協議会 副会長。

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