神戸学校

神戸学校はフェリシモが主催する「神戸発 生活デザイン学校」です。

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「クールなジャパンって何なのか? ~日本が世界にできること、デザインができること」



<第1部>

太刀川 瑛弼さん:
みなさんお集まりいただいてありがとうございます。ノザイナー(NOSIGNER)代表の太刀川です。本日は、「クールジャパン」とは何なのかというテーマのリクエストをいただいたので、少しお話しさせていただきます。
神戸学校には常連さんも多くいらっしゃるようですが、今日はお客さま同士互いに少し知りあう時間もあってよいと思いませんか? そう思う人?

(会場から挙手)

では、その方向で行きます。

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私のような若輩者が、なぜ「クールジャパン」という大きなテーマで話をするのかも含めて、少しだけ自己紹介をさせてください。
「ノザイナー」の事務所では、いろいろなデザインをしています。例えば「東京防災」のデザインです。昨日、地震がありましたね。神戸は20年前に地震があって、神戸在住・出身の方々は災害に敏感ですが、このデザインを一緒に作った電通クリエイティブディレクターの榊くんも神戸出身で被災者でした。

「和える(aeru)」というプロジェクトも手掛けています。5年ぐらい前に、矢島 里佳ちゃんという、当時、慶應義塾大学の学生だった女性が作りました。この事業で彼女は独立するのですが、創業1年目からロゴや商品などのデザインを全部われわれが担当しています。伝統産業を未来に繋ぐために、ベビー、キッズという、伝統産業にとっては新しい市場を作って広げていこうというプロジェクトです。
公園にソーラーの屋根を置いて、防災拠点かつエネルギー拠点となるものも作っています。当然のことながら、なるべくよいデザインを作りたいのですが、その時にできるだけ社会的にもよいデザインを作りたいというのが僕の理念で、社会に資するプロジェクト以外はなるべくやりたくないという理念でデザインをしてきています。

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クールジャパン推進会議の議長に

クールジャパンは、日本のコンテンツを海外に売って、海外からお金を儲けてくる戦略のためのプロジェクトのなまえです。この言葉が生まれた当時は経済産業省の管轄でしたが、国家ブランディングというか、国が文化外交をしていくときのキーワードになるということで、2015年に内閣の管轄になりました。その時の戦略担当相が、今防衛大臣をされている稲田知美さんでした。彼女はオープンマインドな素敵な方で、当時いろいろな有識者会議を開いて戦略を決めようとしたのですが、各界の大御所が集まると、ポジショントーク的なものに終始してしまって、あまりおもしろくないし、うまく整理ができなかったようです。一言で「クールジャパン」といっても、それが何を表しているのかよくわからないじゃないですか。アニメのことなのか、神社のことなのか。かっこいい日本だったら何でもクールジャパンということになっているわけで、そこで意見がぶつかるわけです。アニメ的なものを盛り上げたい人たちからすると、自分たちの文化は他の人たちにわかってもらえていないという感覚があるし、神社や仏閣が好きな人たちからすると、アニメというとポルノみたいなものもあると批判する。どちらに行っても炎上するという状態でした。
2年前、そんな状況の中で稲田さんに会いました。僕はデザイナーとしていろいろな国の文化行政を知っていたので、「こんなことを考えたらいいんじゃないの?」と助言をさせていただいたら、コンセプトディレクターという、「クールジャパン」を何とか考える会の議長的な役割を担うことになりました。言いたいことを言えない会議に出るのは嫌だから、報酬は断って、推進会議の構想をボランティアで引き受けました。会議にはオリンピック選手、俳優さんなど、各界のいろいろな人が来て、「クールジャパンは、よくわからないけど、わからないながらもわかるようにしよう」と話しあって提言書をまとめました。僕の中では、壮大な夏休みの宿題みたいな感じですかね。そのあと内閣改造になったので、僕がクールジャパンのコンセプトディレクターをやったのは半年ぐらいです。クールジャパンの方向性も内閣が変わるたびに変わっていくのですが、その中で提言書はいまだに評判が非常によいようです。堅い話になるので、今日はこの時に僕がどういうことを考えたかをふわーっとだけ話して、そのあと日本文化とデザインの話をしたいと思います。
みなさんのところにもいろいろな難題が来るように、この時、僕は難題をもらったわけです。問いを受け取っても、解決できないかもしれないじゃないですか。僕はクールジャパンのことをアドバイスするような立場にありませんからね。でもこういう時、コツがあります。僕は日本文化が好きなので日本文化の中にある言葉も好きなのですが、「大欲」という言葉を聞いたことがありますか? 弘法大師空海がよく使った仏教の言葉で、「大我大欲」とも言います。例えば、「売り上げが上がらなくて困った。何とかしなさい」と言われた時、そのまま応えようとすると、「結果が出るか出ないか」というような話になりがちで、難題です。でもそんな時、何のためにやっているのかを整理しなおすと、解決の糸口が見つかることがあります。「それは何のためにやっているのですか?」という問いを立てるのです。大我大欲とは、「欲を大きくしろよ」ということです。自分のところに問いを拡大するということですかね。クールジャパンのことを頼まれたけれども、クールジャパンを生かしてもっとおもしろいことができないか、外貨を獲得したいのはなぜなのか、なぜ日本に共感してもらいたいのか、というような大きめの質問を、禅問答のように自分と相手との間で話し続けるわけです。すると、何のためにやっているのかが明確になります。
クールジャパンの話で言うと、「何のためにやっているのかわからないから、何のためにやっているのかがわかるようになりましょう」というのが最初のミッションでした。結構な時間をかけて話しあったのは、「なぜクールジャパンなどをやる必要があるのか」ということでした。結果として、クールジャパンの上位のミッションを作ろう、なぜやっているかを決めようということで、「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」というメタテーマをクールジャパンのミッションとし、大臣に今後の柱として宣言していただきました。
日本は高齢化問題、エネルギー問題、地震など災害も多くて、たくさんの問題を抱えている国だし、世界で最初に人口減少が始まって、脱近代というような状況を最初に迎える国です。そういう課題先進国なので、日本が経験することを他の国が後追いで経験することが多いのです。日本が自分たちの問題を小さく解決していることを世界に輸出したら、それは産業になる。エネルギーや防災の話も産業になる。産業にしようよ。伝達の話になるから、新しいコンセプトを世の中に広めないといけないね、だからコンテンツ産業を生かせるよね、漫画やアニメが生かせるよね。このように議論が進みました。クールジャパンでやりたいことを実現するために何をやったらよいのか列挙してあるのが、この提言書です。

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「俺はクールだ、カッコいい」と自分で言っている人ほどそのカッコよさが信用ならない人はいないですよね。クールジャパンも同じです。この提言書の中には、クールジャパンという言葉は対外的には使わないほうがいい。外国から見ると、クールという言葉自体が1990年代の香りがするけれども大丈夫か、とか、そもそもの話も書いてあります。カッコよさ、素敵さや美意識が時代とともに変わっていく中で、「俺がクールだ」という言い方は必ずしも的確ではないですよね。ちなみにクールジャパンという言葉は、「クールブリタニア」という、イギリスの文化外交政策に倣った言葉です。「クールブリタニア」は、結構ウィットが効いた言葉で、「ルール・ブリタニア」という言葉があって(18世紀に初演された「Rule Britania〈統べよ、ブリタニア〉」という楽曲の題名で、ブリタニアはイギリスを擬人化した女神。イギリスが世界を支配するであろうと歌っている)、それにかけているのですね。その「クール」だけをとって「クールジャパン」としても、何のウィットもなくて、何の話かわからなくなってしまったのです。「俺、日本、カッコいい」というような、外人からするとダサい言葉になっているのです。外人がよく漢字の入れ墨をしますが、腕に「恰好よい」と書いてあるようなものです。ですから、このプロジェクトには大欲、自分を超えた欲が必要であろうということです。自分の欲とは、外貨を獲得しようということですよね。でも今のコンテンツ産業を発信しても、たかが知れていますから、新しいコンテンツ産業のコンセプトを作るということでやってきました。今は残念ながら内閣改造後、新大臣のもとでこの方向性は少し弱くなり、また「ただの外貨稼ぎ」としてのコンテンツ戦略に戻ってしまっていますが、目先の利益だけではなく、大きなミッションを感じながら政治家の皆さんには働いてほしいものです。

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お客さまの関心は?

ここから先は、みなさんがいったい何に興味があって、みなさんのために僕が何の話をできるのかを、みなさんから受け取って話をしたいと思います。今まで話したように、僕はクールジャパンの提言書を作ったり、デザインで美しいものを作ったり、伝統産業をとりあげたりしてきました。日本文化の脈絡に接続するような話はたくさん調べさせられもしたので、それには応えられるかもしれません。
さて、こんなお兄さんが来たわけですが、みなさんが何に興味があって今日集まったのかということを話していただきたいと思います。立ち上がっていただいてよいですか? あまり普段会うことのない人を周りで見つけて3人組を作って、今から6分ぐらいの間にちょっと話をしていただきたいと思います。話す内容は、1.なまえ、2.普段やっている仕事を短めに、3.僕からどんな話を聞きたいか、ということです。いいですか? では、いきます。用意、スタート!

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(6分経過)

はい、ありがとうございます。では、今話している人が終わったら、ゆっくりこちらに帰ってきてください。「この話が聞けたらおもしろそうだな」というのが出てきたら、3、4人、僕にシェアしてほしいのですが。どなたかいらっしゃいますか?

お客さま(男性):
お近くにいらっしゃった、印刷会社を経営されているTさんとふたりで話をしました。Tさんは、先ほどの大我大欲のような、問いを問い直すというか、デザインに向かう思考法に興味がおありでした。私は太刀川さんの著作を拝見して、例えば「最終的には非常食にできる」はるさめのランプシェードのように、太刀川さんはデザインで課題を解決することを考えておられると思います。社会的な課題からデザインを考えられるのか、またはデザインから社会的課題に向き合うのかに興味があります。太刀川さんの思考の在り方、ものの考え方がどういうものなのかが、Tさんと私に共通した関心でした。

太刀川さん:
ざっくりと、思考法とデザイン哲学的なところとまとめさせていただいてよろしいでしょうね?

お客さま:
はい。

太刀川さん:
これはボリュームがありそうなテーマですね。あと2、3人お願いいたします。

お客さま(女性):
隣の席に座っていた3人で話をしました。デザインをすることで直接的に人にどういうかかわりができるか、また未来に対する展望やどう影響できるのかを、時間軸を超えたものと、対面的なものと両面で聞きたいと思います。そして、先ほどもおっしゃった思考法というか、物事を解決するプロセスやコツを教えていただきたいと思います。

太刀川さん:
デザインと人や歴史への関係性という話ですかね? 思考法というのは、先ほどと同じですね?

お客さま:
そうです。

太刀川さん:
これもまたビッグなテーマですね。がんばります。では、そちらの男性に。

お客さま(男性):
3人で話しました。先生が言われていたクールジャパンですが、これはとても大きくて、日本をデザインする、日本を企画するような話ですね。坂本竜馬が言っていたような、日本を一新して企画し直すような大きなコンセプトですね。
一方、目はよく見えるのだけれども鯖江のメガネを愛用する人がいます。地域振興としてのデザインと、日本を企画するような国家プロジェクトと、ミクロデザインとマクロデザインの切り分けを聞かせていただければと思います。

太刀川さん:
なるほど。それは大変大事なことかもしれませんね、ありがとうございます。それと先ほどのデザイン哲学というか、プロジェクトのプロセスの話は繋がってくるかもしれませんね。では最後に。

お客さま(男性):
僕が話させていただいた方はふたりともイラストレーターをされていて、イラストという目に見えるデザインと、もっと普遍的な言語としてのデザインの違いをお聞きしたいと思います。それから、先ほどクールジャパンのミッションの中で、「課題に対してクリエイティブに解決する」というのがありましたが、それだけ聞いてもあまりイメージしにくいので、具体例などお聞かせいただけたらと思います。

太刀川さん:
「実例ありでこのへんを話せよ」ということですね、了解です。よすぎるご質問をいくつもいただいたので、消化不良にならないといいなと思います。

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デザインの思考プロセス―色即是空、空即是色

まず、考え方、思考プロセスの部分を少し話します。一般的に、デザインの話ですよね。デザインの定義とは何でしょうか? むずかしいですね。自分で定義しようとするまで、僕もむずかしかったです。みなさん、自分の今の職業を定義してみてください、宿題です。「そんなの、わかっているよ」と言うかもしれませんが、「文字を書くということの意義を、本当にわかっていますか?」と言ったら新聞記者の方がドキッとしたり、「食べることは他のいのちを頂いて生きることですよね?」と言うとレストランの人がドキッとしたりします。「本当に何のためにやっているのかな?」と、もぐることは結構大事です。何でもそうですが、もぐったときに、わからなくなるのですよ。僕にとってはデザインがそうでした。デザインがわかりませんでした。デザインができなかったから、デザインをできるようになりたくて、できるようになるためのいろいろなコツを覚えて今に至っています。僕がそうやって10年ぐらいかかって出した、今のところの結論は、「デザインとは形を使ってよい関係をつくること」です。
カッコいいかカッコよくないかというのは、それで人を惹きつけられるのなら、ひとつの関係のあり方ですよね。でも、もしカッコいいつもりで作って、それで人を惹きつけられなかったら、あまりよろしくないですよね。人が惹きつけられるとか、人がそれに関係したくなる状態を作るときに、当たり前ですが、形というのは大変役に立ちます。みなさんは今、椅子とよい関係を結んでいるから、椅子がちょうどよいサイズだから、よい関係でそこに座っているわけですよね。僕もそうです。それは体とここの椅子の形が繋がっているからですよね。マイクの太さも手の太さで決まっています。手で丸を描いたときに、マイクがすっぽりはまるわけです。これは偶然ではなくて、そう計画されているのです。マイクスタンドが70センチの高さなのは、ここに座ると膝が55センチから60センチの高さになるからです。こういうふうに、よい関係と形は、切っても切り離せない関係があります。今、僕は当たり前のことを言っていますよね? 今日は日本文化をちょいちょい入れていく会だと考えているので、「これを別の言葉で言うとこういう言葉になります」という話が出てくるようにしようと思います。
「形を使ってよい関係を作る」のですが、逆に「関係がそのまま形になる」ことがあります。形を作ってそれが関係になるのか、関係がそのまま形になる形を見つけるのか。形を作るのか形を見つけるのか、これは何かを作るとき常に意識していることです。上流に堰があってそこに水があって、その堰を切ったら水が流れるようになっているのは、「本当は流れたかったのでしょう? 流れるべきだったのでしょう?」ということです。そういうものを見つけた時、見つけることができた時には、あまり作らなくても済むのですね。そのままでよいのではないかと思います。「色即是空、空即是色」ですね。この言葉は、「どんなものも儚いから、すべて空に還ってしまうし、それが実はものの正体なのだ」と解釈する人が多いので、禅などでは「だから世の中何もないのさ、空っぽだ」となります。でも漢字に変換される前、インドでこの言葉が言われたときには、この「空」はただのエンプティではなかったらしいのですよ。どちらかというと、「色」は「目に見えるもの」、「空」は「目に見えないもの、その関係性の部分」を言った言葉なのだそうです。例えば、「椅子」は形(「色」)だけれど、「椅子でみなさんが安らいだ」というのは関係性(「空」)の話です。そう見ると、「形はそのまま関係性に、関係性はそのまま形になる」という言葉だという風に読み解けます。このことは、僕にとっていちばん大事なデザインの思想、思考方法、哲学です。要するに、なるべく「つくらない」ことです。つくらないで、そのまま関係性が形になるところを探す。できたりできなかったりしますけれどね。「色」とか「空」とかよりも僕は「即」が大事だと思います。「そのまま」がとても大事なのではないかと思っています。

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これは僕がデザインした照明です。「衛星かぐや」という、月の周りを回っている衛星のデータをそのまま使って照明にしました。月のデータそのままなので、ある意味では、デザインしていないわけです。でもあらゆる夜の照明は、月のコピーと言っても過言ではないかもしれません。僕ら生物が記憶している限りにおいて、夜に光っている最も強い光は月ですから。少なくともあらゆる照明は月もしくは太陽のコピーであると言っても過言ではなくて、その時に、「それをなるべくそのまま作るというだけで充分デザインになるのではないの?」ということを、僕はとても大事にしています。なるべくそのままやる。奇をてらうというよりは、そのままやりすぎた結果、今までにないものができる、馬鹿正直すぎて、今まで見えていなかったようなところに答えがいくときに、「いいな、やる価値があるな」と思います。

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僕は「即」という言葉が好きで、大事にしています。いろいろな形で「即」は使えます。例えば、パッケージデザインで売り上げを上げたいと言われて、前掛け屋さんのパッケージをデザインし直したら、売り上げが10倍に伸びた例があります。これはパッケージをミニチュア前掛けのようにしたものです。パッケージに足がついていて、「デザインしたよ」というものです。要するに、前掛けのパッケージを作るのではなくて、足のミニチュアを作りましょうという話ですね。ある意味、そのままじゃないですか? どう見ても前掛けです。このように軽 く使うこともできます。なるべく率直にするということですかね。

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これとか、わかりやすいかもね。木の角材の溝をそのまま広げて、そこが照明になっている照明器具です。このKINOWAというブランドは、文祥堂という会社と一緒に作っている、環境にやさしい家具のブランドです。「素材をそのままの形でしか使いません」ということをルールにしています。板は板、丸太は丸太、角材は角材です。それで照明を作るとこういうものになっちゃいます。デザインを率直にしていくとデザインが減っていきます。余分な要素を減らすことにもつながります。

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これも、何の変哲もない棚に見えるでしょう? ただの棚だけど、こういう棚は意外と見つかりません。ちなみにこの棚は、ビスがありませんが高さが変えられます。鉄のところに仕掛けがあって、これが浮いているわけです。高さを変えるには、ビスの穴をたくさん開けると簡単で、そういう棚はよく見かけますが、率直にしたいと思うと、何か工夫を考えて見えないように作っていくことが必要になります。
話を戻して、関係がそのまま形になることがとても大事だと思っています。関係をそのまま形にするということは、ノイズがなくなることでもありますね。普通は「そのまま」というわけにはいかず、ものを作っていくと、どうしても付いてしまうものがたくさんあります。ここの部分とここの部分はどうしても別のパーツにしないといけないので、この間に線ができてしまうとか、こういうものがどうしても必要だからと、くっつけることになる。どんどんものがくっついていくと、醜くなって、そしてわかりづらくなっていきます。「作って提供する上で必要だけれども、ユーザーにとっては関係がない」というものをどれだけ減らして率直なものにしていくかというプロセスを、僕はとても大事にしています。

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ものが背負う縁を掘り起こす

関係性の話をしましょう。デザインの定義は「形を使ってよい関係をつくること」と先ほど言いました。関係しなければいけない、関係したいものは、プロジェクトごとに変わっていきます。いろいろなものが寄り集まっているときに、それらは関係性があるから寄り集まっているわけです。例えば、コンビニエンスストアで売られている商品は、コンビニの前を通りかかる人と関わりがあるから売られているわけです。みなさんが着ている服は、みなさんの志向や好きな風合いに従って選び取られていて、みなさんとものの接点がわかりやすい形であるから、みなさんはそれを手に入れるわけです。けれども、みなさんに見えない関係性もあります。その服は一体どこで作られたのだろう、糸はどこから来たのだろう、それを作っている家族はどういう構成でどんなことをやっていたのだろう、それを作った企業はどんなことを考えていたのだろう、歴史はどうだったのだろうなど、こういったことも実は服を選んだみなさんに関係があるのです。でも、関係が見えないような仕組みになっているのですね。
本文化の話で言うと、「縁」ですね。物事にはいろいろな縁があって、昔はそれが繋がっていました。ところが、ものを市場(しじょう)で売るようになって、例えば、「これは1丁目の田中さんが育てたナスだよ」と「1丁目の田中のナス」という商品にすると、田中のナスが人口1億人に供給しなければならなくなったときには大変なことになります。これは田中のナスなのか、中田のナスなのか、鈴木のナスなのか、田中のナスと鈴木のナスはどう違って、いくら違うのか、となります。その時、市場はどうするかというと、縁を切り始めるわけです。田中でも中田でも誰のナスでもいいから、これはナスというものにしよう。ナスということにしたものを、JAなどが一定の基準で、誰が作ってもいいナスとして市場で売ります。こうして縁とものが切られ始めます。日本で市場(いちば)と神社が隣り合っていたのは、もともと縁を背負っているものにお祓いをして、縁をなくして送り届けていたからです。ものには作った人の魂が宿っていると考えていたのです。
こういう風に、市場(しじょう)はものと人の縁を見えなくするためにあります。しかし実は、作った人の魂はものに宿っていて、ものと人の縁もあるし、使う人と作る人の縁はあるのですが、現代の市場ではそれが見えなくなっているのです。

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ものを作るときは、縁の部分に立ち返ることが大事だったりします。「何のためにやっているの? このプロジェクトが何で必要なの?」という問いはそのためです。作った人の想いそのものだったりするのです。プロジェクトを始めるときに、「プロジェクトは何で始まったのですか? 誰がどういう想いで始めたのですか?」と、1回戻って関係性を遡ります。先ほど、「神戸学校をなぜ始めたのですか?」と尋ねたら、「阪神淡路大震災の時に、これから何かをつくっていく希望になるような活動をしたい、これから復興していく気持ちをみなさんが取り戻せるような活動をしたい」という想いから始まったということがわかりました。なぜ始めたかを知るのは、とても大事なことだと僕は思うのです。例えば、このプロジェクトをもっと広げたいとか、このプロジェクトをリプラニングしたいと考えたときに、「そこがコアだったんじゃないの?」と再確認するのです。最初の理念の部分に、揺るがない答えがある場合もあります。最初の理念を現代の形でもう一度問い直すことをプロジェクトでよくやっているような気がします。
327年続いている「山本山」という会社があって、全商品のパッケージを考え直すなど、リプラニングを今やっています。僕がデザインしたものはまだ市場になくて、まだ世の中に出ていませんが、ロゴも変えました。この新しいロゴができたプロセスについて少しお話します。もともと山本山という会社は山本嘉兵衛さんが作った「山本嘉兵衛商店」でした。そこのヒット商品、「山本山」が後に会社名になっていきます。江戸時代のお品書きを見ていくと、「山本嘉兵衛」の字があります。ロゴっぽくてカッコいい字で書かれています。それをもう一度引っ張ってきて、山本山のロゴを江戸時代のお品書きに書いてある字に直しました。今のロゴは現代の書家が書いたのですが、そうではなくて、江戸時代の「山本嘉兵衛商店」の理念にただ戻しただけです。だから僕はもともとあった字をロゴとして使っただけで、自分ではデザインしていないのです。そういうものを掘っていって、最初の理念をなるべく現代の形に変換できるようなデザインに直す。すると、それは彼らが持っているいちばん古いロゴなので、僕がデザインしたかしていないかには関係なく、僕以降、そのロゴを変えることができないはずです。そういうのが大事です。作るか作らないかではなくて、どういう関係であるべきかを考えて作っています。

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ミクロのプロジェクトとマクロのプロジェクト

ミクロとマクロの話をしましょう。小さく始めることは大変大事です。どんな企業でもそうです。たとえどんな大きなことであっても、大きく始めると歪みます。さっき3人組になりましたね。3人だと話しやすいですが、20人でプロジェクト体制を組んで、そこで会議をすると絶望的に話が進まなかったりしませんか? それどころか、もっと上の人の確認を取らなければいけないとなると、プロジェクトの中でさえ決まらなかったことを上に投げて、上がまた別の意見を言ってきて、それをまた20人体制のプロジェクトで揉みなおして、永遠に終わらないループに入ります。そういうループに入っている会社は要注意です。何かを決めるときに、人数が少ないということは結構大事です。同時に話せるのは5人ぐらいなので、何でも5人以下ぐらいで始めることが大事です。小さく始めるから、大き目のビジョンができないかというと、そうではありません。夢はでっかく、チームは小さくということです。
みなさんもご存じの「東京防災」は大きなプロジェクトです。結果的にこれは783万部刷っていて、330ページの本+箱+いろいろなものが750万部まかれて、30万冊ほどが増刷しています。行政刊行物としては歴史上最大級のものらしいと伺っています。パスポートの年間発行部数が年間約300万部です。東京防災はパスポートの10倍ぐらいのページ数とサイズがありますから、単純に言うと、パスポート20年分以上刷ったということです。このようなでっかいプロジェクトが、でっかく始まったのかというと、そうではありません。僕が最初に復興支援のプロジェクトをやったのは、震災の2日後に発表した「OLIVE PROJECT」でした。これは、東日本大震災の後、ウィキペディアみたいな方法を使って、東日本の助けになる情報をみんなで集めていくためのサイトで、ほとんど素人でも作れるようなものです。僕が最初にやったのは、ツイッターで防災情報をつぶやくことでした。震災が起こった当時は本当にひどい状況だったので、デザインで解決できることがほとんどなかったのです。「OLIVE PROJECT」は、自分が非常に無力感を感じる中で、無力感を感じたくないからやっていたプロジェクトだと言っても過言ではなく、ある意味、独りよがりでやっていたプロジェクトですが、いろいろな人に協力を求めたら、「助けたいけれども何にもできない」と考えている人がたくさんいたのですね。そういう無力感を感じている人たちが集まって、「何の役に立つかわからないけれども、ここに情報をあげてみよう、情報をどんどん翻訳してみよう」と、関わってくれる人の規模がだんだん大きくなって、その週の終わりには動いてくれる人が100人ぐらい集まり、結果として4か国語の防災データベースができました。このデータベースがそれなりに被災地にも広がり、復興支援のさなかに現地で配ったりしていると、共感してくれる人が現地でもだんだん増え始めました。最終的に、震災の1ヵ月後ぐらいで、ここ由来のいろいろな情報が、多く見積もって1千万人、少なく見積もって百万人ぐらいには届きました。いろいろな物資が運ばれていく中で、こういう情報の価値はだんだん減っていきます。そこでプロジェクトの方向性を防災に切り替えて、未来に起こる災害のためのデータベースに切り替えて、防災のワークショップをしたり、本を出したりしていました。
それがきっかけで東北と縁ができて、東北のお母さんを助けるプロジェクトを友人たちと一緒に始めて、「OCICA(www.ocica.jp)」というアクセサリーブランドを作ったりしました。今度はそれがきっかけとなって、東北という、産業のあまりないところで何か産業を作れないかということで、「ザ・セカンドエイド THE SECOND AID」という防災キットを作りました。これをやっている時あたりに、僕は並行してクールジャパン提言を作っていました。被災地の復興支援という課題解決を産業でできないか、しかも輸出できないかと考えていたのでこういうものができました。これらは全部小さなプロジェクトなのですね。「ザ・セカンドエイド」も、東北で工業機械の卸売りをしている小さな商社さんがあって、その会社が「自分たちも被災してしまったから、防災キットを広めたいし、知見を生かして防災キットを作りたい。新規事業だけれども一緒にやらないか」と言ってきました。僕は防災キットを作ってくれるパートナーをずっと探していたので、すぐ仲間になることができました。キットは僕らでデザインして、その会社の社長が自分で手売りするところからスタートしました。結果は数万個売れて、今でも売れ続けています。
こんな感じで小さなプロジェクトをずっとやっていたところ、先ほどの「OLIVE PROJECT」の本を東京都が見つけ、電通が受託して作ることになりました。最終的には大変大きなプロジェクトになりましたが、やっていることは最初とそれほど変わっていません。最初にやっていたのは、誰でも使えるウィキペディアの仕組みで、「OLIVE PROJECT」というウェブサイトを作ってみたことです。これは大仰なものに見えていたとしても、めんどうくさいだけで、みなさんでもできることです。むずかしいことは何ひとつやっていません。コードも僕は書いていません。けれども、こうやって続けていることがとても大事なのですね。ビジョンは大きく、チームは小さく始めて、だんだん雪だるまのように大きくしていくことがコツなのではないかと僕は思っています。

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地域振興のプロジェクトでやっているのもこういうことです。昨日は僕の母の実家のある魚津というところにいました。魚津の町づくりで困っている人たちがいます。魚津は蜃気楼が見えたり、国立天然記念物の埋没林があったりするのですが、お客さんが全然いなくて、商店街もシャッター街になっているという、よくある田舎町です。それでも彼らと話す中で、僕がする提案は「夢はでっかく」なのですね。ただ、簡単にできることから小さく始めるしかない。魚津の人は魚に大変こだわりを持っていて、魚津以外のところの魚はまずいと思っています。日本海の富山のいちばんよいところですから当然ですね。ポテンシャルを生かせば、世界中の釣り人が憧れる「釣りの聖地」になってもおかしくないわけです。でも今、魚津に釣りに行く人は、魚津を知っている人だけです。なぜかというと、釣り人としてできる体験が少ないからです。釣り具屋さんもないし、釣ってきた魚をその場で捌いてくれる人もいないし、少なくとも可視化されていない。どこに泊まって、どういう時間が過ごせるかがわからないから、遠方から魚津に釣りに行く人はいない。魚津は魚の津と書くぐらいですから、いかにも魚がおいしそうじゃないですか。沿岸部にある古いビルや倉庫を改装したら、「魚を釣りに行く旅をするのだったら、ここが最高かもね」と思わせるような目的性のある施設が楽にできるわけです。「そういうことをやったらいいじゃん?」という話をしました。自分たちの町やブランドがいかに小さかったとしても、世界中の釣り人の目的地になれるはずです。
すごく小さい範囲でも何かの1番になる、小さい会社や小さい市町村がニッチな範囲で究極の何かになるということを、僕はいつも考えています。マクロとミクロとあって、これはミクロなのですね。チームは小さいし、かけ金も小さいかもしれないけれど、それでできるものすごく小さい範囲においては、大きなビジョンと繋がる何かを、かなり高いクオリティーでつくるべきなのですよ。世界中の話題になり、世界中の釣り人がまんまと魚津に来るようになればよいと、僕は本当に思うのです。そういうことをいつも考えています。僕の話を聞いて、魚津の若い衆が「太刀川さん、すげえ、いい話ありがとう! それ、やってみない?」という話になったり、富山県の職員が「太刀川さん、今、上限1億で、事業者2割負担の補助金あるけど」という話が出たりしながら、「ホントにできるかもね。漁協に聞いてみない? 倉庫余ってるよね」と話をしているうちに、事が本当に前に進むことがあります。目に見えない部分のデザインのほうがはるかに大事です。なぜなら目に見える部分は、目に見えない部分がしっかりできた時には、もうほとんど見えていますよ。図と地(ずとじ)の関係のようなもので、「こういうものだな」と周囲を想像する、その想像している周囲がはっきりすればするほど、何をつくらなければならないかが見えてくるのです。

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<第2部>

お客さまとのQ&A

お客さま:
デザインを考えるときの具体例をいくつか聞きたいです。とはいえ、お話をうかがっていますと、自分たちひとりひとりに課題があると思います。課題は簡単に解決するように見えるのですが、それぞれの生活に向き合った時に、結局できなくなることの方が多いと思います。太刀川さんは課題を持っていらっしゃる方の中に入って解決されていますが、解決のコツなどはありますか?

太刀川さん:
課題解決のプロセスやコツは確かにあります。思想を覚えるよりも、コツを覚えてやっていくなかで、考え方が見えてくるかなと思います。ほかにご質問は?

お客さま:
先生の助言を受けた方々は、その助言を実行すべく努力されると思いますが、どれぐらいの期間をかけられるのでしょうか? 

太刀川さん:
プロセスの話ですね。ほかには?

お客さま:
今気になっていることや、最近注目していることをお聞かせください。また、普段どんなふうに考えて仕事に携われておられるのか、東京オリンピックがありますが、その後に社会課題がさらに増えていく中で、太刀川さんご自身がどのように未来に取り組まれていくのか教えてください。

太刀川さん:
了解です。未来の話ですね。
まずコツとプロセスの話をしていきましょう。コツはまとめるといくつかあります。1.チームの話、2.お客さんつまり相手の話、3.記憶の話、4.強度の話でまとめていきます。まずチームの話ですが、誰がやるかがとても大事です。相手方クライアントがライフミッションとしてそれを絶対やり切りたいと思っているかどうか、プロジェクトが自分事になっている人が相手の中にいるのかどうかを大変気にします。相手が大きな企業かお金があるかなどは関係なく、相手がその人であるかどうかです。デザインは言語のようなもので、形で伝えるものですが、デザインを相手に届けるためには必ず「伝え手」つまり「語り手」がいます。先ほどの「東京防災」は、神戸の震災で被災者の経験をして、「これは絶対にやりたい」という人が電通の中にいたからやれたと思います。「和える-aeru-」の場合は、高校生でテレビチャンピオン大和撫子になるような、日本の伝統産業が本当に好きで、とにかくこれをやっている人がいました。こういうことは、どのプロジェクトにもあって、その人が独立していても、大企業の中にいても、小さい企業の中にいてもよいのですが、「この人でなければできない、この人がしっかりやりたいと思っている」ということが大切です。

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具体例を出しますと、「おやつ TIMES」というプロジェクトがあります。これは関東でしか売っていないお菓子なので知らない人が多いかもしれませんが、JR東日本が作ったお菓子です。田舎のお菓子、大袋に入っているお菓子、おばあちゃんの家にあって洗濯バサミで口が止まっているようなお菓子がありますね。その中でおいしいものを東日本中で探し回り、まあまあのクオリティーでジャッジしました。作っているのは、売り上げ規模1億か2億ぐらいの小さな会社で、県内だけで消費されているお菓子の会社です。他の市場をつかんでいないし、実はシュリンクもしていて、これからどうしようかなと考えている会社で、数はたくさんあります。伝統産業とは言えないかもしれないけれども、地域お菓子です。JR東日本のミッションは、これらを何とか首都圏で売れるようにして、彼らを活性化させることで地域活性をさせることでした。地域が元気になってくれれば鉄道を使ってくれる人も増えるので、オールOKだというのがJR東日本の考えでした。
結局どういうことをやったかというと、お客さん、つまり相手の仮説を立てました。具体的に想像できる人です。お客さんを想像するときに、「自分の知り合いにそういう人がいるな」というのがとても大事です。この時に立てたペルソナの具体的な例は、「JR東日本の電車に乗っていて、20~30代の疲れているOL」です。山手線に乗っていて、疲れて朝ごはんを食べる暇がないので、駅のコンビニで朝ごはんの代わりにお菓子を買っていく女子。肩が凝っている。そういう感じの人、山手線で大勢見かけますね。彼女たちは同時に、チーム本人たちでもあります。JR東日本のバリキャリガールズです。バリキャリレディーズかな。この人たちを想像した時に、まずパッケージが心に刺さらないといけないわけです。その人たちがそういうシチュエーションにおいて、どういうときに手を伸ばすのか、これも具体的に景色が見えていないといけない。ここで想定したのは、山手線に乗るときに持っているのだけれど、品川から新橋に移動するぐらいの間で食べ終わっている感じ。そのまま電通とかに行く感じ。食べきっていなくても、とにかくジッパーで閉じてカバンに入れておく。そんな相手に対して、このおばあちゃんの大袋は絶対に無理ですよね。大袋を電車の中で抱えてポリポリ食べている女子、というのは結構恥ずかしいですよね。なので、小さくしようと。
プロジェクトの概要をもう少し説明しましょう。このプロジェクトを先ほどの地域お菓子のメーカに送って、「味は少し変えるかもしれないけれども、基本的には大袋から詰め替えてください、そしてJR東日本のバスの発着所に送ってください」とお願いします。送ってもらったら、バスの深夜便の貨物コーナーの空いているところにそれを突っこんで、首都圏までただで送り、最初は駅前のキオスクコンビニでテストトライアルをするプロジェクトでした。JR東日本の社内のシナジーを生かしてJR本社が扱う初めてのお菓子で、いろいろな事業をこれで起こせないかと思ったのです。僕はご縁があってこれの総合プロデューサーになったのですが、僕にそれを頼んだ「語り手」が何人かいました。プロジェクトを自分事と考えるメンバーと、それを認める上司に恵まれたのです。「認める上司」は、地域活性に大変熱い40代後半の男性で、その上司に「お前、おもしろいからやってみな」と言われた女性がすごかったのです。彼女は東大を出て高島屋に入るのですが、東大の大学院に戻ろうかなと思っていた時に、実家のある陸前高田が被災して、ご親戚の方がお亡くなりになりました。そういう非常に苦しいことがあって、大学院に行っている場合ではないと岩手県庁に入り、そこで復興支援を頑張りました。その中で、岩手の物産を何とか盛り上げたいと「ぺっこpecco」というプロジェクトを立ち上げて、岩手の物産を小さいサイズに詰め替えて駅などで売るという、今回のストラテジーと同じものをトライアルしました。これが結構うまくいき、認められて彼女はJRに入りました。社会企業家ですね。
秋葉原と上野に「のもの」という地産品のお店があるのですが、そこの事業について彼女と話している時に、同じようなプロジェクトを東京でもやろうということになって、始まりました。ただ、「ぺっこpecco」だと可愛らしい包装に入っているだけで、相手にうまく伝わらないので、そこは少し考えるわけですが、「認める上司」と「自分事のメンバー」というチームに恵まれました。さらに具体的に想像できる相手もわかっていて、景色や状況も具体的にしていきました。
ここから先は、どういう表現にしていくかです。先ほど「伝わらない」と言いました。「伝わらない」、「わからない」、「知らない」というのが、「知っているもの」、「わかるもの」、「伝わるもの」になればよいわけです。コンセプトとして立ち上げたのは、パッケージを雑誌化することでした。

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これがパッケージですが、その世代が読んでいる雑誌っぽくないですか? 記事を読むと、生産者のことや、おいしそうな現地のストーリーが書いてあります。裏をめくると、「この鍾乳洞、めっちゃきれい」など、その周りの地域の情報が書いてあります。さっきのOLが山手線に乗っている時に、小さめの雑誌を読んでいる状況は想像できますね。それをパッケージでやる。それによって、JRは目的地に遡及できるから、上司を説得しやすいのです。「これはね、ただのお菓子じゃないんですよ。われわれにとっては、デスティネーション・キャンペーンなんですよ」と言えます。それだけではなくて、買う人は知らない場所のことがわかり、生産者のことがわかる。しかも雑誌っぽくて可愛いから買う。ここで大事なことは、知っているものを知らない形で届けることです。この場合で言うと、雑誌がパッケージになることは新しいことですが、雑誌そのものは誰でも知っています。その応用、相手の中にある記憶にはどんなものがあって、知っているものがどう応用されると、知っているのに知らないものになるのだろうかと考えます。とても大事なことで、あらゆるものがそうですが、基本的には記憶と経験によって、僕らは「こういう体験がよかった」とか、「こういうものが美しかった」とわかっています。その「知っているもの」を別の形に関係づけるという、関係づけの中で企画が出てくるのです。この場合は「雑誌」でした。
結果的に、これは爆発的に売れました。「ここまで達成すれば黒字だから目標ゴール」と思っていた数字の3倍売れているので、SKU(最小管理単位)が10商品でテストトライアルだったのが、今20商品に増えています。これからどんどん増えます。「のもの」の「おやつ TIMES」のプロジェクトから始まって、「のもの」全体のデザインディレクションも始まっています。これはスモールトライアルですよね。パッケージを刷り、配り、やってみる。100店でトライアルしたら大変うまくいって、500店展開にする。小さなトライがだんだん大きくなっていくときに、同じような方法論で、店舗も考えられます。どういう伝え方だったら、今までの方法よりも情報が伝わりやすく、かつ「素敵だなあ」と思ってもらえるかは似ている話で、そういう素敵に伝わってきた経験や記憶がみなさんの中に蓄積されているはずで、それを思い出すのがとても大事です。でも違う形であることもとても大事です。似ているけれども違う。そういうものをいつも探しています。
その中で、強度の話です。考え方のことをコンセプトと言いますが、コンセプトの部分は、形に表れている部分といかに関係が深いかということです。接続の部分の強度を上げる、できる限り高めるには、いくつかのことが必要です。例えば、「おやつTIMES」は雑誌と言っていますが、「タイムズ」なので一応新聞です。タブロイド版のフリーペーパーのような新聞がテーマになっているデザインです。なまえは「おやつTIMES」になっていますね。よく見ると、こういうところのデザインは、実は文字の書体が新聞明朝だったり、組み方が『ニューヨークタイムズ』と同じだったりします。「TIMES」は、書体にタイムズ・ニュー・ローマン(1932年にイギリスのタイムズ紙が新聞用書体として開発したラテン文字のセリフ体書体)を使っています。タイトルの書体は新聞書体にはしていませんが、「青森チップス」や「福島モモ」のところは書体を変えて、同じ組版のなかで、強度を上げる部分とサブの部分を使い分けています。無意識に、「青森のせんべいなんだ」、「福島のモモなんだ」ということが瞬間にわかるようにしています。こういうディテールを蓄積していくと、ものになっていくのですよ。ディテールの必然性ですね。そのためには、書体について詳しくないといけない、表現について詳しくないといけないなど、技術が必要です。それは誰も気づかないことかもしれません。「『ニューヨークタイムズ』と同じ組み方をしています」と言っても「知るか!」ですよね。ですが、こういうことが無意識に積み重なることによって、「どこか新聞っぽい」という伝わり方をしているなら、それは成功です。
テーマには、「旅感」もあります。ストライプはもともと「のもの」のアイデンティティーがストライプだったからですが、鉄道っぽいトラベルスタンプとストライプで、しかも2色というのは、どこかで見たことがないでしょうか? エアメールとかで? 何となくそれっぽいな、というディテールの蓄積が、新聞+エアメールみたいなところに落ち込んでくれれば、旅先で見ている新聞のようなところに落ち込んでくれれば、僕らが行きたい方向と揃っているわけですね。僕らは旅に出てほしくて、その情報をそこで得てほしくて、だから新聞のように雑誌のように作っていて、しかも旅感も情報感も出てくれないと困ると思って作っているのです。こういう風にデザインは決まっていきます。すべてに理由があります。理由があるけれども、言いません。わかってくれたらいいな、伝わったらいいなと思いますが、無意識の部分に働きかけるのです。無意識は何となく知っていますから、僕らのこだわりの部分が、お客さんの無意識には伝わっていて、「なぜか旅っぽく見えていた。けど、なぜかわからなかった」でよいのです。そういうことをひとつずつ丁寧に作っていきます。

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東京防災がなぜ黄色と黒なのか? それは工事現場が黄色と黒だからですね。都市のエマージェンシーの話です。なぜ「OLIVE 」が赤と白なのか。それは、赤十字が赤と白だからです。緊急避難やレスキューのときに、それがよい色だからです。黄色と黒、赤と白以外に、緊急避難を想起させる色を考えるのは大変むずかしい。赤と白はすでにOLIVE PROJECTでやっていたし、今回、東京という都市の中では、赤白というより黄色と黒の方が、僕らが普通に知っている、よりエマージェンシー感を感じるものです。相手は明確で、全都民です。明確だけれども不明確で、全都民というと子どもからおじいさんまでいますから、文字はすべてユニバーサルデザイン対応です。けれども、そういう大きな文字で作ってしまうとディテール感がでなくてダサくなるので、インデックスの部分などにあえて細かいデザインを入れて、文字の密度があるように見せています。例えば、全ページが黄色、黒、白になっていますが、あまりにも発行部数が多いので、全ページ4色つまりフルカラーで印刷しました。もったいないのですが、そうしないと間に合わなかったのです。だったら、各ページの色が違ってもよかったし、イラストにも色がついていてよかったし、大事なところを別の色にしてもよかったし、雑誌のようにも作れたのです。それをなぜ黄色、黒、白を全体に踏襲しているのかというと、要素を減らすためです。強度を上げるには、余分な要素を減らさなければいけないのです。減らすには技術があって、減らすことを適切にできるデザイナーはうまいデザイナーです。でも単に減らすことだけが目的なのではありません。シンプルだからよくなるのではないのです。シンプルなのに、哲学や考え方で作らなければならない関係性が、高い強度で残っているからよいのです。余分な要素は減らすけれども、大事なところは際立つということです。その技術がデザイナーの技術です。そのためには、デザイナーはそれぞれの分野において、専門性を鍛えておかねばなりません。いつか持ち上げる重い物のために腕立て伏せをしておくような感じですね。いろいろできるからというのは、何の言い訳にもなりません。グラフィックデザイナーにはグラフィックデザインを頼みますから。
まとめると、まずチームはなるべく少ないメンバーで、プロジェクトが自分事になっている人たちと、その人たちの自立性を認める上司や仕組みが保たれていることです。そして、お客さんを具体的に想像すること。そのコツはみなさんの友人かみなさん自身を想像する。その場合、作り手は自分に甘くなるのですね。俺が作ったやつはカッコいいとか可愛いとかになりがちです。がんばってつくったからよいものだと思っても、実際はそうではないので、なるべく具体的に、「自分は買うか?」「俺の友達は買うか?」と冷静に見ることが大事です。状況を想像するということです。景色を想像することはコツかもしれません。僕はデザインを考える時に、話している時もそうですが、目を使っていないのです。人と話している時も、僕は目を合わせたりできないのです。なぜなのかと思ったのですが、多分、景色を想像しようとしているので、脳のその部分が切れているのですね。「この景色でいきたいから、この景色のためにはこのものがないとダメなのだ」と一所懸命考えているのです。景色を具体的に想像するということは、商品がその景色にふさわしいかどうかを考えているということです。それは記憶と結びついています。状況と記憶が結びついていて、その状態でこういうよい感じの伝わり方をしているのは雑誌かも、とか、東京防災だったら漫画かも、とか、そういうことを応用していくのです。東京防災の場合は、漫画やパラパラ漫画、キャラクターなど、あの手この手で伝えていますが、にもかかわらず甘くならない。甘くなると大人には伝わらなくなるので、絶妙に甘くならないところに落とすと、最初からチームで決めていきます。こういうコンセプトのきっかけが見つかった時に、それが最もかっちり接続できる方法を探す。この時に、「具体的にはこういう景色だね」という時に、コンセプトがごく短くまとまっている必要があります。この方向性を中心にすべてを編み上げていく核となるようなものが見つかって、その核が見つかったらそれを裏切らないことです。「工事現場」という核が見つかったら、それを裏切らない。「雑誌」が見つかったら、それを裏切らない。そうじゃないディテールをできる限り排除して、そのディテールで突き詰めていくために、そのディテールでいける方法をあの手この手で探していくということをやれば、最終的に、小さいけれども大変強度のあるものができます。強度のあるものができきると、自動的に世界で話題になりますよ。結構がんばってもそうならないケースもありますけどね。
先ほど、わかってくれたりわかってくれなかったりする、伝わったり伝わらなかったりすると言いました。これは当然、あります。「おやつTIMES」の話をしても、その話がチームにさえどこまで伝わっているかはわからないですよ。これはある種の祈りのようなもので、「こうなりたい」と願って、「ここにふさわしい形を作る」と決めて実行しても、結果それが思うように伝わらないこともあります。それでも、そのメッセージが正しいと思っているなら、ずっと続けるべきだと僕は思います。
失敗した例を言いましょう。マルハニチロさんという会社と「アジアン味」の缶詰をデザインして、まあまあヒット商品になりました。普通の缶詰は上にも横にも文字や写真が入っていますが、横に文字、上に写真と分けるとクリアなデザインになって、デザイン的には成功しました。商品的にもそれなりにヒットしましたから、当時の6種類から今は10種類に増えています。

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でも、この時提案していたことがあって、それができなかった話をします。僕はいろいろなプロジェクトでアジアの起業家のアシストをしています。例えば、「かものはし」というNPOがあります。「かものはし」は、カンボジアの人身売買の被害を解決するための組織なのですが、その被害が大分なくなってきた現在、SUSU(スースー)というブランドを作って、アジアの女性を支援するプロジェクトをしています。イグサとキャンバスの縫製を使ったプロダクトブランドで、こういうカッコいい起業家はアジアにたくさんいます。缶詰の仕事をしていた時、「アジアにはチャンスがある」というようなことをブランドのコピーにして、タイなどアジア中のものや、アジアでがんばっている若者たちをきちんと紹介するメディアを作って、それをブランドキャンペーンにしていかないかという提案をしていました。この時は全くわかってもらえなくて実現しなかったのですが、僕は大変いいプランだと思うのです。アジアのチャンスをコンセプトとするブランドを缶詰で立ち上げたら、ただ社会に良い活動になるだけでなく、ブランドがうまく伝わるはずなんですよね。缶詰は学生が家で飲むときなどによく食べています。タイのカレーなどを食べながら「俺、どうしようかなあ」と自分探しをしている学生たちが、ブランドを手に入れていることによってアジアのカッコいいお兄さんの話などが繋がって、「なんか、カッコいいな」とタイに行ったらいいじゃないですか。本当にそう思うのですよ。そういうメディアは、やるべきだと僕は思うから、彼らがわからないのなら、ほかのところでやればよいと思うのです。提案が通らなくても、思っていたことは僕の中でくすぶり続けますから、どこかでまたやりますよ!
先ほどの「東京防災」も、猶予期間があって、防災キットがようやく出たのは2013年です。2年間ぐらいは「防災キット作ってくれるところはないかな」といろいろなところで吹聴していましたが、見つからなかったのです。そういう時に出会ったのが彼らで、向こうもやりたいし僕もやりたいしで、防災キットは2週間でやりました。僕は若輩者ですが、みなさん、1回や2回うまくいかなくても一喜一憂しないのがよいと思います。
最後は未来の話です。未来はいろいろな軸で語ることができますが、社会がデザインに問うものも変わってくるでしょう。今まで問われていないようなもの、例えば人類が生き残っていくためにどのようなコンセプトに移っていくべきかということを、デザインだけではなくいろいろな会社が今考えています。2050年ぐらいには人口が100億人になって、生物多様性が完全に崩壊すると言われています。エネルギーはどうするのでしょうね。僕が語るまでもなく中国は大気汚染に大変悩まされていますが、そうして葛藤を得たとき人はどうするかと言うと、中国ではクリーンエナジーに対する投資が大変高まっています。とてもよいことだし、なぜ日本でそれができないのかと思います。元気があるかないかという問題はあるかもしれませんが、日本も困っていることがたくさんあるわけで、新しいコンセプトを立て直して産業化していくことは、デザインというよりは、21世紀に普通に事業をやっていくいろいろな人のミッションですよね。詳しいことはコトラーの『コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則』に書いてありますが、僕がやっていることは特殊ではなくて、未来のデザイナーはおそらくみなこういうことを僕以上に考えているでしょう。今できることは、先鞭をつけることだと思っています。いろいろなケーススタディーをやってみることと、今デザインに関わっていない人たちにデザインを使ってもらって、その人たちはそういうことを理解している人たちですから、なるべくこういう方向にもっていくこと。例えば都市一極集中の時代も終わっていくでしょうから、地域に別の可能性がでてくるでしょうが、その時に地域が自分たちの固有性を出せなければ自動的に消滅する場所になってしまいますよね。チャンスがあるのに消滅する場所がどんどん出てくるのは、大変惜しいことだと思います。再エネのプロジェクトも少しずつ始まっていますが、いろいろなところでもったいないと思います。
デザインは有用なツールなので、うまく使ってほしいと思います。「有用ですよ、できることがあるかもしれませんから、一緒にやってみませんか」と、様々な角度に旗を振ってみている状態です。ツールはどんどん進化するので、デザイン自体の手法や方法論も変わっていくでしょうし、今僕が持っているものもどんどん古くなっていくでしょう。自動的にそうなるものです。今は時代の節目で、新しいコンセプトを可視化することが必要な時代ですから、そういうものをどんどん貪欲に学びながら、なるべく小さめにでも具体的に大きなビジョンを持った形で実装していくことが、僕はとても大事だと思っていて、やりたいのです。それをやり続けていく中で、自分がどう変わるのかわからないし、来年何をやっているのかも正直わからないですが、それでよいと思っています。デザインは相手に伝達する力を高めることができるので、滞っているところの流れをいろいろな形で速くしたときに、僕がこっちなんじゃないかと思っている方向に、時代が舵を振ってくれればよいなと願ってやりながら、でもあまり思うとおりにやらせてもらえないなと思いながら、わらわらしながらやっていくのではないかと思います。

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未来をどうかしようと思っても、できないですよね。でも、せめて未来をよい方向に向けようとしている人たちに、たくさん武器を配りたいと思うし、その人たちが願っているビジョンの方が正しいのだときちんと証明したいと思います。ジャック・アタリの『21世紀の歴史』という本には、世界は超民主主義的な、国家を超えた人々の共感によって繋がれる、よい調和を持った世界に向かうのか、あるいは超紛争状態の第3次世界大戦に向かい、文明が崩壊するのかはわからない、両方のシナリオが描けるという話が書いてあります。僕は当然、平和に生きていきたいですから、超民主主義的な志向を持つ人々が自分の本領を発揮して、行きたい未来にちゃんと行けるような形のメッセージをみんながいっぱい出す方がよいだろうと思っているタイプです。みなさんそうだと思います。できる範囲の小さいプロジェクトで、それをやることが、今考えていることです。未来がどちらに行くのかは一言では言えませんが、そういうことを考えながら、日々デザインの入稿に追われています。
本日はありがとうございました。

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Profile

太刀川 瑛弼(たちかわ えいすけ)さん<デザインストラテジスト>

太刀川 瑛弼(たちかわ えいすけ)さん
<デザインストラテジスト>
*プロフィールは、ご講演当時のものです。
NOSIGNER代表。慶應義塾大学大学院SDM特別招聘准教授。ソーシャルデザインイノベーション(未来に良い変化をもたらすデザイン)を目指し、見えないものをデザインすることを理念に総合的なデザイン戦略を手がける。建築・グラフィック・プロダクト等のデザインへの深い見識を活かした手法は世界的に高く評価されており、グッドデザイン賞金賞、アジアデザイン賞大賞(香港)、PENTAWARDSプラチナ賞(食品パッケージ世界最高位/ベルギー)、SDA 最優秀賞、DSA 空間デザイン優秀賞など国内外の主要なデザイン賞にて50以上の受賞を誇る。東日本大震災の40時間後に、災害時に役立つデザインを共有するWIKI『OLIVE』を立ち上げ、災害時のオープンデザインを世界に広めた。その活動が後に東京都が780万部以上を発行した『東京防災』のアートディレクションへ発展する(電通と協働)。また2014年には内閣官房主催「クールジャパンムーブメント推進会議」コンセプトディレクターとして、クールジャパンミッション宣言「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」の策定に貢献した。

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